マイナンバー超繁忙期を目前に、なぜ「交付・更新業務の委託」を決断できたのか? 前例なきBPO活用で乗り越えた小平市の窓口改革

小平市

業種
地方自治体
導入部署・部門
市民課

課題・背景

小平市ではマイナポイント等の施策に伴い、カードの交付申請や電子証明書の更新業務が急増。連日の夜間・休日対応により現場の疲弊は限界に達し、さらに正規職員が入れ替わりの激しい会計年度任用職員の教育に忙殺される「教育コストのジレンマ」が、本来注力すべき企画業務へのリソース確保を困難にしていた。

取り組み内容

当時は全国的にも前例の少なかった、高度な本人確認と個人情報を扱う「交付業務」など対面業務の核心部まで委託範囲をいち早く拡大。特設ブースの設置と申請書の自動印字システム導入による徹底した動線設計に加え、現場リーダーへの一次判断の委譲により、プロセスの刷新と安定運営を両立させた。

成果

現場での一次完結率が向上し、職員へのエスカレーションは劇的に減少。本来の使命である予算策定や新規施策の立案に専念できる体制を実現した。待ち時間の短縮や職場環境の劇的な改善は市民サービスの質向上へと直結しており、現在は他自治体からの視察を受ける先進事例となっている。

Before

・デスクに処理待ちのファイルが「壁」のように積み上がり、休日返上の勤務が常態化していた限界の現場。
・絶え間ない質問対応と会計年度任用職員への教育に忙殺され、正規職員が本来の企画・予算業務に注力できない構造。
・複数の申請書を記入しなければならない市民の負担、申請の急増、職員の代休取得に伴う盤石でない運営の体制。

After

・適切な休暇取得と健全な労務環境の実現により、現場に本来の活気が醸成。
・職員へのエスカレーションが最適化され、政策立案や重要判断に専念することが可能に。
・自動印字システムによるスムーズな受付体制と、繁忙期でも揺るがない強固かつ柔軟な運営体制。

目次

    小平市 市民課さま

    窓口の混乱とデスクに山積する「書類の壁」を解消。BPOとの共創が導いた行政DXの最適解

    「当時のことは、もう思い出したくもない」。小平市市民課の片嶌邦博様と駒木友香様は、かつてのマイナンバーカード窓口の状況を、冗談交じりの表情でそう振り返ります。申請の急増、デスクに山積するファイル、阻まれる休暇。行政DXが加速する中で、現場が直面していたのは「人」と「仕組み」の限界でした。

    小平市様では、この課題に対し、マイナンバーカード交付業務の委託化にいち早く取り組みました。当時は高度な個人情報を扱う業務の委託化について全国的にも前例が少なく、「本当に委託できるのか」という声もある中、業務設計や運用ルールの整備を重ねて安定した運営体制を構築。現在では他自治体から見学を受けるなど、先進事例として注目を集めています。

    単なる事務代行を超え、共に現場を支える「伴走パートナー」としてパーソルビジネスプロセスデザインを選定し、繁忙期への柔軟な対応や職員負荷の軽減、継続的な業務改善をいかに実現したのか。改革を主導したお二人に、その変革の軌跡を伺いました。


    ファイルが「壁」に見えた繁忙期。安定した休日確保すら困難だった極限の運営体制

    - まずは、皆様の所属部署と現在のマイナンバー業務の体制について詳しく教えてください。

    片嶌様:市民課の窓口担当として、マイナンバーカード制度の運用全般を統括しています。交付や住所変更、電子証明書の更新といった日々の手続きはもちろん、予算管理や国への実績報告、新しい施策の設計など、業務は多岐にわたります。私は今、市民課7年目になるのですが、この数年間の変化の激しさは想像以上のものでした。

    駒木様:私は今6年目になります。一般的に役所は3〜4年ほどでジョブローテーションがありますが、マイナンバー業務は専門知識が必要なため、私たちは現状この部署で長く担当し続けています。現在の体制は、マイナンバーを主担当とする正規職員が私を含めて3名。これに加えて、会計年度任用職員の方が25名。総勢30名近い体制で日々の業務にあたっています。


    小平市 市民課
    片嶌 邦博さま

    小平市 市民課 片嶌 邦博さまのインタビュー写真

    - マイナンバー業務は、この数年で劇的にボリュームが増えました。当時の現場はどのような状況だったのでしょうか。

    駒木様:特にマイナポイント事業があった時期は、非常に厳しい状況でした。カードが欲しいという申請が爆発的に増え、さらに電子証明書の5年ごとの更新時期も重なり、大きな波が次から次へと押し寄せる状況でした。

    片嶌様:私が配属された当初は、さらにコロナ禍の給付金対応も重なっていました。国が「公金受取口座を登録すれば給付がスムーズになります」と大々的に広報した影響もあり、窓口は常に混雑していたんです。当時は今ほど会計年度任用職員も多くなく、処理待ちのファイルがデスクの周りにずらっと並んで、文字通り「壁」のようになっていましたね。

    - その状況で、職員の方々の働き方はどうなっていたのでしょうか。

    片嶌様:平日は週に2回、夜8時までの夜間交付を行っていました。また、小平市にはもともと土曜午前に一部窓口を開ける「土曜窓口」という制度があるのですが、当時はその時間帯も、会計年度任用職員が不在の時期があり、正規職員だけでマイナンバー対応を担わざるを得ませんでした。さらにこれらとは別に、マイナンバー専用の日曜臨時交付を月に1回設定し、もう一回の日曜日は申請サポートのために市内のあちこちへ出向くといった過密なスケジュールでした。

    駒木様:土曜日の午前に出勤すると平日に代休を取ることになりますが、そうなると平日の人数がさらに減ってしまい、残った職員の負担がさらに増えるという悪循環でした。結局、平日の夜間や休日も対応しなければならず、休みも満足に取れないような時期が続いていました。定時を過ぎて会計年度任用職員の方々が帰られた後も、残された膨大な事務処理やダブルチェックを夜遅くまでかけて終わらせる毎日で、当時は現場全体が非常に疲弊していました。


    小平市 市民課
    駒木 友香さま

    小平市 市民課 駒木 友香さまのインタビュー写真

    きっかけは「痒いところに手が届く」補完。対面業務まで踏み込んだ委託の決断

    - そのような状況から、外部パートナーへの委託範囲を広げる決断をされました。きっかけは何だったのでしょうか。

    片嶌様:実は、最初からこれほど大規模な委託を考えていたわけではありませんでした。当時は「委託化なんて難しいだろう、自分たちでやるしかない」と考えていた部分もありました。転機は、ある日の残業中の会話です。現在もパートナーである御社の担当者から、「制度改正によって交付・更新業務も外部委託できるようになりましたが、委託の範囲をさらに広げてみてはいかがでしょうか」と声をかけていただいたんです。その時は即答で「いや、いいです。自分たちでやりますから」とお答えした記憶があります(笑)。

    でも、その後の残業中に、一人で考えてみたんです。「自分たちが特に負担に感じている時間外や、終業間際の業務だけでも外部委託に切り替えることで、この厳しい現状を変えられるのではないか。夜間や休日だけでも手伝ってもらえないだろうか」と。そこから、全部を自分たちで抱え込むのではなく、「痒いところに手が届く」ような補完的な委託ならメリットがあるのではないか、と思い直しました。

    - 自治体業務の中でも、特に交付や更新といった「対面業務」まで委託範囲を広げるのは、大きな決断だったと思います。

    片嶌様:かつては「市の職員しかできない」というルールがありましたが、制度変更により委託が可能になりました。その時に私たちが直面していたのが、深刻な「教育コスト」の問題です。

    駒木様:ジョブローテーションにより正規職員の入れ替わりがある中で、新しく入った会計年度任用職員の方に、人数の限られた正規職員がつきっきりで実務をいちから教える負担は想像以上に重いものでした。繁忙期の波に合わせて人を増やせば増やすほど、教える側の私たちの実務時間が削られ、さらに忙しくなるという構造的な課題がありました。

    片嶌様:パーソルさんなら、すでに窓口の一部で実績もあり、現場のリーダーが委託スタッフの教育やマネジメントまで一括して引き受けてくれる。それならば、交付や更新といった核心的な業務までお任せして、職員はもっと大きな枠組みの運営や予算管理、イレギュラー案件の判断に集中すべきだと確信しました。半年ほどかけて、どこまでを外部に任せ、どこからを職員が判断するかという境界線を精査し、議論を重ねて今の形に辿り着きました。

    対面業務まで踏み込んだ委託の決断

    特設8ブースと自動印字システム。市民を待たせない、迷わせない導線設計

    - 運用を刷新するにあたり、ハード面でも工夫をされました。

    片嶌様:市民課内の待合スペースの一部を使い、8ブースの特設会場を設置しました。既存の窓口端末だけでは処理しきれない更新件数が予測されていたため、市民の方をお待たせしないためにも必要な改修でした。

    駒木様:当時は全国的にも高度な個人情報を扱う交付業務の委託化について前例が少なかったため、本当に安全に運用できるのかという懸念もありました。また、庁内の場所の確保や調整には苦労した部分もありましたが、記載台があったスペースを活用することで解決できました。単にブースを増やすだけでなく、「番号札を引いてから、いかにスムーズに交付まで辿り着けるか」という動線設計にはこだわりましたね。

    - 具体的には、どのような仕組みを導入されたのでしょうか。

    片嶌様:最もこだわったのは、申請書の「自動印字システム」の導入です。以前は、市民の方がご自身で複数の書類を手書きで記入していただく必要がありました。これを、受付と同時に必要な情報が印字された状態で出てくるように変更したのです。

    駒木様:以前は、何ヶ所も住所や氏名を手書きしなければならない複雑な書類が多く、市民の方にとっても大きな負担でした。それが自動印字によって、「ここにサインを1箇所いただくだけで結構です」という状態でお渡しできるようになりました。記載台で迷ったり、記入ミスで書き直しが発生したりすることも待ち時間増加の大きな原因になっていましたが、そうしたプロセス自体を削減できるようになったんです。それまでは手続き完了までに20〜30分かかっていたのが、導入後には10分程度まで短縮されました。

    片嶌様:現場に時間的な余裕が生まれたことで、端末操作に不慣れなご高齢の方などに対しても、これまで以上に丁寧で安心感のある応対を提供できるようになりました。この一連のフローは運用開始前にシミュレーションを重ね、現場のリーダーとも細部まで議論して作り上げたものです。

    - 現場での「立ち止まる」というルールも、このプロセスで生まれたのでしょうか。

    片嶌様:はい。マイナンバーはミスが許されない情報を扱います。ですから、「操作に迷ったり、少しでも不安があったりしたときは、たとえ市民の方をお待たせすることになっても、その場で作業を止めてリーダーや職員に確認する」というルールを徹底しました。

    駒木様:御社のリーダーさんたちが、このルールをスタッフ一人ひとりに浸透させてくれました。操作手順だけでなく、「なぜこの確認が必要なのか」という背景まで共有してくれたことで、正確性を維持しながらスピードを上げることができたんです。委託化前よりも、規律ある運営ができていると感じています。

    市民を待たせない、迷わせない導線設計

    職員の「往復時間」が消えた。リーダーが守る、現場の規律と安心

    - 委託範囲の拡大後、職員の皆様の働き方にはどのような変化がありましたか。

    駒木様:自分のデスクと窓口を往復する時間が大幅に減りました。以前は、操作方法の質問などで数分おきに窓口に呼ばれていました。窓口に行って画面を見ないとわからないことが多いので、その場で一緒についていって、対応して自分の席に戻ると、また別の会計年度任用職員から呼ばれる。この繰り返しの時間が、一日の業務の多くを占めていたんです。

    今は御社のリーダーさんが一旦そこに入ってくれて、リーダーで回答できることはその場で解決して、本当に判断が必要なことだけ職員が対応する、という流れになりました。職員のところに来るのは本当に入り組んだ例外案件だけになり、一日の業務効率は驚くほど上がりました。

    - 職員様へのエスカレーションが最適化されたわけですね。

    駒木様:そうですね。自分の作業を中断されることがなくなったので、予算管理や新しい制度への対応など、職員が本来やるべき業務にリソースを割けるようになりました。以前は、自分の業務がなかなか進まずもどかしさを感じることもありましたが、今は着実に実務を完結できています。

    それにより、職場全体の雰囲気も良くなりましたね。適切な休暇取得と労務環境が整ったことで、一人ひとりが心に余裕を持って市民の方に向き合えるようになりました。お互いに建設的なフィードバックを送り合えるようになり、この変化が市民サービスの品質向上に直結しているのだと実感しています。

    - 小平市様にとって、今回のプロジェクトはどのような意味を持っていますか。

    片嶌様:単なる委託先ではなく、同じ現場を守る「伴走パートナー」を得たことが最大の成果です。私たちが運用の指針を考え、それを外部パートナー側がプロの視点でオペレーションに落とし込む。この役割分担が、職員と市民の双方がメリットを享受できる解決策になりました。

    駒木様:当時は手探りでしたが、現在では他自治体から見学を受けるなど、先進事例として注目していただけるまでになりました。これからも新しい制度が始まりますが、この協力体制があれば乗り越えられるという安心感があります。市民の皆様の利便性を追求しながら、職員も専門性を活かして働ける。そんな窓口の形を、これからも追求し続けていきたいです。


    小平市 市民課の皆さま

    担当者コメント

    パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社 BPO事業本部 BPO第2統括部 第4公共サービス部 第4公共運用1課 プロジェクトリーダー 久保 望

    パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
    BPO事業本部 BPO第2統括部
    第4公共サービス部 第4公共運用1課
    プロジェクトリーダー 久保 望

    小平市様とのマイナンバー交付事務の委託化では、ノウハウ不足による戸惑いや不安がある中でのスタートとなりましたが、片嶌様をはじめ多くの関係者の皆様のご協力に支えられ、無事に立ち上げを実現することができました。
    委託開始後はスタッフ育成や繁忙期対応に苦労する場面もありましたが、正職員様の業務負担軽減を目的に、会計年度任用職員様と継続的に協議を重ねながら運用改善を推進しました。その結果、ミスの起こりにくい体制を構築でき、管理者が交代した現在も安定した運用を継続できています。
    これは関係者の皆様との連携と信頼関係の成果であり、自身にとっても大きな経験となりました。

    パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社 BPO事業本部 BPO第2統括部 第4公共サービス部 第4公共運用1課 プロジェクトリーダー 川﨑 美和

    パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
    BPO事業本部 BPO第2統括部
    第4公共サービス部 第4公共運用1課
    プロジェクトリーダー 川﨑 美和

    今回の委託業務では、自身の窓口対応経験を活かして業務に取り組みました。主に新たに従事するスタッフの研修・育成を担当し、業務内容や運用方法についてPLと細かなすり合わせを行いながら対応しました。また、職員様へ確認した内容をスタッフへ周知する際は、誤った認識や情報を伝えないよう内容を十分に理解し、正確な情報共有を徹底しました。法改正に伴う運用変更にも、その都度PLと連携を取りながら適切に対応し、職員様にご迷惑をおかけしないよう慎重かつ丁寧な業務遂行を心掛けました。