職員3名で月3,500世帯を支援。子育て「空白の半年」を埋める挑戦
核家族化が進み、頼れる親族が近くにいない子育て家庭が増加する中、「子どもを生み育てやすいまち」を目指し、妊娠期から就学前までの切れ目のない支援「世田谷版ネウボラ」を推進する世田谷区。しかし、生後5か月から1歳の誕生日を迎えるまでの間、行政や地域との接点が手薄になる「空白の半年間」が存在していました。この課題を解決すべく同区は、毎月約3,500世帯を訪問する大規模な子育て見守り事業「せたがや0→1子育てエール」を始動。予約受付から訪問、ギフト提供、コールセンター対応まで一気通貫で支えるパートナーとしてパーソルビジネスプロセスデザインを選定しました。区の理念に寄り添い、地域と家庭をつなぐ伴走支援の裏側に迫ります。
妊娠期から就学前までをつなぐ。行政の支援が届きにくい「空白の半年」への危機感
- 妊娠期から就学前までのご家庭を切れ目なく支える「世田谷版ネウボラ」構想について、全体的な目的と、その中での課題感をお聞かせください。
子ども家庭課 井関様:世田谷区では、妊娠や出産、子育てに不安を感じたときに、日々の暮らしの身近なところで地域の人々や支援につながりながら、安心して子育てができる環境づくりを目指しています。
ただ、近年は家族構成や地域との関わり方が大きく変化しています。日常的に子どもをみてもらえるご親族やご友人が近くにいない家庭が非常に多くなっているのです。特にコロナ禍以降は、さらに人とのつながりが持ちにくいまま出産・子育てを迎える家庭も少なくありません。
行政としても多様な支援事業を展開してはいるものの、そうした支援の存在を知らなかったり、利用したことがなかったりする家庭も一定数存在しています。相談することでもないと思って抱え込んでしまう方も含め、支援を必要としているにもかかわらず、行政や地域のつながりに届かないまま孤立してしまうことを、いかに防いでいくかが大きな課題でした。
- その「切れ目のない支援」を実現する上で、最も難しさを実感されていたのはどのような点でしょうか。
井関様:支援の狭間、つまり行政とのつながりがどうしても薄くなってしまう期間が生じてしまうことへの危機感がありました。
世田谷区では、妊娠期には「妊娠期面接や妊娠8か月時面談(妊娠8か月時アンケート)」があり、出産後には「赤ちゃん訪問(乳児期家庭訪問)」、3〜4か月頃には「3~4か月児健康診査」があります。そして1歳を迎える頃には「バースデーサポート事業」が存在しています。しかし、その間の生後5か月から11か月までの約半年間は、行政からご家庭へアプローチする機会が手薄になってしまう「空白期間」となっていたのです。
特に0歳児を育てる時期は不安が大きく、孤立しやすい時期でもあります。この支援の狭間をできる限り空白にしないことが、区としての重要な使命だと考えていました。
月3,500世帯への安定訪問。信頼を生む「エリア担当制」と一気通貫の運用力
- その「空白の半年間」を埋めるための施策として、ファミリー・アテンダント事業(せたがや0→1子育てエール)を立ち上げられました。パートナーとしてパーソルビジネスプロセスデザインを選定された経緯を教えてください。
子ども家庭課 花井様:東京都のリーディング事業として示されたものを契機に、私たちが課題と感じていた「生後5か月から11か月のご家庭へのアプローチ」を実現できると確信し、立ち上げに踏み切りました。
しかし、世田谷区の人口規模を考えると、対象となるご家庭は毎月約3,500世帯に上ります。非常に大規模な訪問事業となるため、単に訪問するだけでなく、予約システムの構築から、訪問員の採用・育成・管理、ギフト提供、そして区民からの問い合わせに対応するコールセンターまで、これらを一体的に安定運用できるパートナーが不可欠でした。
数ある事業者の中からパーソルビジネスプロセスデザインさんを選定した理由は、その「事業の実現性」と「見守り支援の質への理解」です。予約受付からギフト提供、区民対応までを一体的に運用できる信頼感に加え、例えば「区民が普段使い慣れているLINEを予約システムに活用しましょう」という提案や、訪問時のアンケート設計など、利用者の利便性を高める実務面での具体的な提案を数多くいただけたことが決め手になりました。
- 大規模な訪問事業の立ち上げにあたり、庁内での議論やプレッシャーはどのようなものでしたか。
花井様:「本当にこれだけの規模を実施できるのか」という厳しい声はありました。訪問してギフトを提供するという新規事業は、区としても前例がない試みです。「本当に毎月3,500世帯を対象にした訪問体制や支援員の確保ができるのか」「直接ご自宅に伺う支援員さんの質は担保できるのか」など、実現可能性に関する議論は多岐にわたりました。
当時は担当者も私を含めて3名でしたので、プレッシャーは非常に大きかったです。訪問が計画通りに回るかという運営面の不安はもちろんですが、何より「この事業が本当に区民にとって価値のあるものになるのか」という重圧がありました。私たちが目指しているのは、単に訪問してギフトを渡して終わりではなく、その先にある地域や専門機関への「つながり」を生み出すことです。その理念が現場で本当に体現できるのか、不安を抱えながらのスタートでした。
- 運用設計としてご提案した「エリア担当制」について、どのように評価されていますか。
花井様:この「エリア担当制」は、いただいた提案の中でも特に魅力的で、事業の質を根本から支える重要な仕組みだと感じています。
世田谷区は広く、交通の便が必ずしも良い地域ばかりではありません。だからこそ、支援員が特定の地域を担当し、その地域のおでかけひろばや児童館などの地域資源に詳しくなっていただくことは、区民の皆様へ適切な情報を提供する上で大きなメリットになります。
また、同じ支援員が継続してご家庭を訪問できる体制は、信頼関係を築く上で最も重要です。支援員が欠員した場合や天候の事情など不測の事態においても、代理訪問を含めて継続的に訪問を維持できるバックアップ体制を構築していただいている点は、非常に心強く感じています。
単なる作業代行ではない。区の目指す価値に寄り添うパートナーシップ
- 「エリア担当制」で同じ支援員が継続訪問することで、現場ではどのような変化が起きていますか。
花井様:信頼関係の構築が、いかに重要かを日々実感しています。
例えば、初回の訪問や2回目の訪問では「特に悩みはないです」とおっしゃっていたご家庭が、訪問を重ねるうちに「実はパートナーとの関係で悩んでいて」と深い悩みを打ち明けてくださるケースがいくつもありました。これは、同じ支援員が継続して訪問し、ご家庭との間に確かな信頼関係が芽生えたからこそ引き出せた声だと感じています。
また、「信頼する支援員さんからの紹介なら、地域子育て支援コーディネーターや保健師さんに相談してみようかな」と、区民の方が次のステップへ踏み出すきっかけにもなっています。「継続的な訪問のおかげで、家庭外の人に話を聞いてもらうことへの抵抗感がなくなりました」というお声を聞いた時は、ご家庭の心を少しずつ動かすことができていると実感し、本当に嬉しく思いました。
- 事業を通じて、地域との心理的な距離にも変化はありましたか。
花井様:はい、私たち行政職員自身の意識や、地域との距離感も大きく変わりました。
これまでは事業を企画・運営する立場として、ご家庭や地域の支援者の方々と直接お会いし、深く対話する機会はそれほど多くありませんでした。しかしこのせたがや0→1子育てエールを通じて、保健師やケースワーカー、地域の支援者と連携を図る機会が格段に増えました。
保健師からも、「これまでアプローチできなかったご家庭、特に転入してきて接点がなかったご家庭と新たに繋がることができた」という喜びの声が多く届いています。おでかけひろばや児童館の職員からも、「訪問時の紹介をきっかけに、イベントやひろばに遊びに来てくれる親子が増えた」という報告を受けています。「地域に見守ってくれている人がいると感じた」という区民の皆様の生の声に触れ、事業の先にあるご家庭の姿を身近に感じられるようになったのは、大きな変化です。
- 限られた人員体制の中で、パーソルビジネスプロセスデザインというパートナーの存在意義をどう感じておられますか。
花井様:包括的な運用支援をいただいていなければ、これほど大規模な事業を立ち上げ、運営し続けることは到底不可能でした。
しかし、私たちの目的は単なる「業務の切り出し」ではありません。限られた予算と人員の中で、いかにして「子育て家庭の孤立を防ぎ、地域につなぐ」という本来の目的を最大化するか。行政の視点だけではどうしても壁にぶつかり、煮詰まってしまう局面があります。
そうした時、パーソルビジネスプロセスデザインさんは他事業での豊富な実績と、多角的な外部の視点から様々な提案を投げかけてくれます。毎週の定例会を通じて課題を可視化し、一緒にトライ&エラーを繰り返しながら改善策を練り上げていく。区と同じ方向を向き、事業の価値を高めようと伴走してくれるパートナーの存在は、本当に心強いです。
横断的な連携が生む相乗効果。切れ目ない支援で「子どもを生み育てやすいまち」へ
- せたがや0→1子育てエールの他に、パーソルビジネスプロセスデザインは健康推進課の「せたがや子育て利用券」業務も支援しています。こちらでの効果はいかがでしょうか。
健康推進課 原田様:せたがや子育て利用券は、ネウボラ面接(妊娠期面接・産後面接)を受けた妊産婦の方を対象に配付し、地域の多彩な産前・産後ケアサービスを利用していただくためのものです。以前はサービス提供事業者の情報を冊子で管理していましたが、現在はパーソルビジネスプロセスデザインさんの支援を受け、Webシステムによる管理へ移行しています。
従来は、事業者の新規登録申請の受付をはじめ、事故に備えた保険証書や資格の確認などを紙やExcelで管理しており、手入力や確認作業に多くの時間と労力を要していました。それがパーソルビジネスプロセスデザインさんによるシステム化と手厚い運用支援により、事業者がWeb上で直接情報の入力や必要書類のアップロードを行い、職員は内容の最終確認を行うだけで手続きが完了する仕組みへと改善されました。また、月平均50件程度寄せられる事業者等からの問い合わせについてもコールセンターで一次対応をしていただける点も助かっています。
こうした支援により、区職員は、今年度から開始した「5歳児健康診査の実施」や「都内共通の産婦健康診査・1か月児健康診査の受診票の導入」など、産婦や乳幼児の健康の保持・増進に直結する業務へ注力することができています。
- 異なる課が主管するせたがや0→1子育てエールとせたがや子育て利用券事業ですが、これらが連携することでどのような相乗効果が生まれていますか。
花井様:相乗効果は非常に強く実感しています。せたがや0→1子育てエールの訪問時、支援員が「せたがや子育て利用券はもう使われましたか」とお声がけをしています。せたがや子育て利用券は子どもが2歳になるまで使えるのですが、期間が長いため使い忘れてしまう方もいらっしゃいます。訪問時の声がけが、忘れずに利用していただくための大きなきっかけになっているのです。
原田様:せたがや子育て利用券の利用者数は年々増加しており、令和5年度の7,950人から令和6年度は8,354人へと推移しています。サービスの普及・定着はもちろんですが、ファミリー・アテンダント事業による訪問時の直接的な声がけも、この増加の一助になっていると考えています。
子ども家庭課 永田様:バースデーサポート事業との連携も大きな成果を上げています。せたがや0→1子育てエールの最後の訪問となる11か月目に、「来月は1歳のバースデーサポートのアンケートがありますよ」と案内をしていただくことで、もともと高かったバースデーサポートのアンケート回答率が90%を超えてさらに上昇しました。回答率が上がったことで、未回答者の方へ送る勧奨通知の発送業務なども減り、大きな効果が得られています。
妊娠期のせたがや子育て利用券配付から始まり、5〜11か月のせたがや0→1子育てエールの訪問、そして1歳のバースデーサポート事業へと、点と点だった事業がシームレスに線としてつながり、区が目標としていた「切れ目のない支援」がまさに実現しつつあると感じています。
- 最後に、今後の展望とパーソルビジネスプロセスデザインへの期待をお聞かせください。
井関様:せたがや0→1子育てエールでは毎月約2,500~3,000件の訪問を行っており、現場の支援員がキャッチした区民の方々の悩みや生の声という、膨大なデータが蓄積されつつあります。区には様々な子育て支援事業が存在しますが、今後はこうした現場のデータを分析・活用し、横断的な施策の改善へと繋げていきたいと考えています。そのためのデータ活用や仕組みづくりにおいても、さらなる提案を期待しています。
原田様:せたがや子育て利用券事業においても、サービス提供事業者が申請しやすいシステム画面への改修や、区民の方が利用したいサービスを見つけやすい検索サイトの構築など、さらなる利便性向上を目指しています。行政の力だけでは形にするのが難しいアイデアも多々ありますので、今後もフラットな議論を通じて、区民とサービス提供事業者双方にとって最適な仕組みをパーソルビジネスプロセスデザインさんと共に創り上げていきたいです。
担当者コメント
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
BPO事業本部
第5公共サービス部
第5公共運用2課
ユニット長 尾形 俊
世田谷区の子育て支援事業において、複数の事業に携わる機会をいただいておりますことを大変うれしく感じております。
私たちがこの事業を通じて最も強く実感しているのは、「人と人」、そして「家庭と地域」がつながることの大切さです。
今後も事業を通じて出会うすべての方々に寄り添いながら、現場の声やデータを活かし、さらなる支援の充実と明るい地域社会の発展に貢献してまいります。
世田谷区と地域の皆さまの未来を支えるパートナーとして、これからも全力で取り組んでまいります。
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
BPO事業本部
第5公共サービス部
第5公共運用2課
プロジェクトリーダー 加藤 耀太
世田谷区の子育て支援事業に携わることができ、多くの子育て家庭を支える取り組みの一翼を担えていることを大変うれしく思います。
子育てを取り巻く環境やニーズが変化する中で、行政サービスには正確性だけでなく、利便性や継続的な改善も求められています。
私たちは、現場の運営を支えるだけでなく、業務プロセスやサービス品質の向上にも力を注ぎ、区職員の皆さまとともにより良い仕組みづくりを進めています。
日々の積み重ねを大切にしながら、子育て家庭にとって安心できる支援環境の実現に取り組んでいます。
これからも世田谷区様と連携し、子育て支援事業のさらなる発展と区民サービスの向上に貢献してまいります。
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
BPO事業本部
第5公共サービス部
第5公共運用2課
プロジェクトリーダー 中尾 恵理子
5~11か月のお子さまを育てるご家庭は、抱えるお悩みが多岐にわたります。私たちはまず丁寧に傾聴し、それぞれのご家庭に寄り添いながら、最適な支援先や相談窓口へとつないでいます。
世田谷区には、おでかけひろば・児童館・地域子育て支援コーディネーター・離乳食講習会など、幅広い子育て支援事業があります。困りごとを抱える区民の皆さまはもちろん、情報が得にくい外国籍の方にも、適切な支援につながったことで「助かった」「安心した」といった喜びの声を多くいただいており、私たちの大きなやりがいになっています。
これからも、世田谷区の子育て支援の一助となれるよう、心を込めて取り組んでまいります。