コールセンターにおけるカスハラの実態
改正労働施策総合推進法上のカスハラとは、職場において行われる顧客等の言動であり、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、その結果として労働者の就業環境が害されるものです。
商品やサービスへの正当な意見や苦情が、直ちにカスハラになるわけではありません。要求内容の妥当性に加え、暴言、脅迫、執拗な繰り返し、長時間拘束といった手段や態様を踏まえて判断します。
実態(1)カスハラの発生状況
UAゼンセンが2024年1月から3月に実施した調査では、回答者33,133人のうち直近2年以内にカスハラ被害を経験した人は46.8%でした。主な行為は「暴言」39.8%、「威嚇・脅迫」14.7%、「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」13.8%です。なお、この調査はサービス業に従事するUAゼンセン所属組合員が対象で、コールセンターに限定したものではありません。
発生傾向は、業種や問い合わせ内容、受付時間によって異なります。そのため、一般的な傾向だけで判断せず、自社の通話記録から発生件数、対応時間、要求内容、管理者への交代状況を把握することが重要です。
※参考:UAゼンセン「第3回カスタマーハラスメントアンケート調査結果(2024年度実施)」
実態(2)職種別カスハラ経験率の比較データ
パーソル総合研究所が2024年に行った調査では、顧客折衝のあるサービス職の20.8%が、過去3年以内にカスハラを経験していました。
職種別では、コールセンター業務と関係の深い「顧客サービス・サポート」が30.7%となっています。
| 職種 | 過去3年以内の経験率 |
|---|---|
| 福祉系専門職員 | 34.5% |
| 顧客サービス・サポート | 30.7% |
| 受付・秘書 | 30.0% |
| 医療系専門職員 | 28.9% |
※参考:パーソル総合研究所「カスタマーハラスメントに関する定量調査」
実態(3)カスハラが企業経営に与える影響
カスハラによる対応時間の長期化は、人件費の増加や、ほかの顧客への対応遅延を招きます。休職・離職が発生した場合は、代替要員の採用や教育も必要になります。
パーソル総合研究所の調査では、1年以内にカスハラ被害を受けた人は、被害を受けていない人より転職意向が1.8倍から1.9倍高く、年間離職率の平均も1.3倍でした。カスハラ対策は、人材確保とサービス品質の維持という点でも重要です。
コールセンターで起こるカスハラ事例の詳細分析
コールセンターで起こるカスハラ事例一覧
コールセンターで起こる主なカスハラ事例を、4種類に整理します。
| 種類 | 代表的な事例 | 対応上の注意点 |
|---|---|---|
| 暴言・怒声 | 人格や能力を否定する、怒鳴り続ける | 発言を記録し、言動をやめるよう伝える |
| 長時間拘束 | 同じ質問や要求を繰り返し、電話を切らない | 管理者への交代や通話終了の基準を設ける |
| 執拗・理不尽な要求 | 規約外の返金や特別扱いを求め続ける | 対応可能な範囲を明確に説明する |
| 脅迫・威嚇 | 個人情報の特定や危害、会社への訪問を示唆する | 通常対応から切り離し、警察や弁護士への相談を検討する |
厚生労働省の指針でも、人格を否定する言動、同じ質問を執拗に繰り返す行為、電話による長時間拘束などが、社会通念上許容される範囲を超える言動の例として示されています。
※参考:政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介」
該当性は、要求の妥当性や言動の態様、企業側の対応状況を踏まえて個別に判断します。
(1)暴言・怒声によるカスハラ事例
電話業務で起こる代表的なカスハラの一つが、暴言や罵声です。代表的な発言には、「役に立たない」「能力がない」といった人格や能力を否定する言葉や、問い合わせとは関係のない家族・容姿への侮辱などがあります。
ただし、声が大きいことや口調が厳しいことだけで、直ちにカスハラと判断するのは適切ではありません。発言内容、反復性、要求の妥当性、オペレーターの就業環境に与える影響を踏まえて判断します。
(2)長時間拘束による業務妨害事例
長時間拘束とは、必要な説明を終えた後も同じ質問や要求を繰り返し、長時間にわたってオペレーターの対応を拘束する行為です。厚生労働省の指針でも、同様の質問を執拗に繰り返す言動や、長時間の電話で従業員を拘束する言動が例示されています。
長時間拘束が続くと、ほかの顧客への対応が遅れ、コールセンター全体の業務効率に影響する可能性があります。対応するオペレーターの休憩や業務交代にも支障が生じるため、管理者への交代や通話終了の基準を定めておくことが重要です。
(3)執拗で理不尽な要求事例
執拗で理不尽な要求も、コールセンターで起こる代表的なカスハラ事例です。
例えば、すでに終了したキャンペーン価格での契約を求めたり、規約上対応できないサービス変更を何度も要求したりするケースがあります。「ほかの会社では対応してくれた」「今回だけ特別に対応してほしい」といった主張を繰り返すケースもあります。
オペレーターは対応可能な範囲と対応できない理由を説明し、それでも要求が続く場合は管理者へ引き継ぎます。顧客満足度を優先するあまり、規約外の対応を約束しないことが重要です。
(4)脅迫・威嚇行為の深刻事例
脅迫や威嚇行為には、特に慎重な対応が必要です。「名前や住所を調べる」「会社に乗り込む」「危害を加える」など、従業員や企業の安全を脅かす発言が該当します。SNSや口コミサイトへの投稿をほのめかして不当な要求を通そうとする場合も、要求内容と発言の態様を確認します。
こうした発言は、オペレーターに強い不安や心理的負担を与え、業務の継続に影響する可能性があります。個人情報の特定、会社への訪問、危害を加えることを示唆する発言があった場合は、通常の苦情対応から切り離し、通話内容を保存したうえで、法務部門、警察、弁護士などへの相談を検討します。
コールセンターでカスハラが発生する背景要因
コールセンターでカスハラが発生する背景には、電話という非対面型コミュニケーションの特性と、企業の運用上の課題があります。
要因(1)コールセンター特有の構造的リスク要因
電話では、相手の表情や状況を確認できません。そのため、説明の意図が伝わりにくく、顧客とオペレーターの認識にずれが生じることがあります。
カスハラにつながりやすい運用上の要因は、次のように整理できます。
| 要因 | 顧客対応への影響 |
|---|---|
| 長い待ち時間 | 問い合わせ開始時点で不満が強くなる |
| 繰り返しの転送 | 同じ説明を何度も求められる |
| 対応履歴の共有不足 | 顧客が「話を聞いてもらえない」と感じる |
| オペレーターの権限不足 | その場で判断できず、対応が長引く |
| 部署ごとの回答の違い | 企業への不信感が強まる |
顧客の言動だけを見るのではなく、待ち時間、転送回数、FAQ、権限設計など、自社側の業務プロセスも確認する必要があります。
要因(2)カスハラを行う顧客側の心理状態
問い合わせのきっかけには、商品やサービスへの正当な不満が含まれている場合があります。しかし、不満に理由があっても、暴言、人格否定、脅迫まで許容されるわけではありません。
また、強い言葉を使えば特別扱いを受けられると考え、同じ要求を繰り返す顧客もいます。企業が担当者ごとに異なる対応をすると、要求がさらにエスカレートする可能性があります。
そのため、顧客の事情を確認しながらも、対応できる範囲を組織として統一することが重要です。
要因(3)社会環境やコミュニケーション手段の変化
SNSや口コミサイトは、顧客の意見を商品・サービスの改善に生かせる一方、不当な要求を通すための圧力として利用される場合があります。
投稿を示唆されたことだけを理由に例外対応を行うのではなく、通常の意見表明なのか、脅迫や威圧を伴う要求なのかを切り分けます。
カスハラ被害が従業員と組織に与える深刻な影響
カスハラの影響は、対応したオペレーターだけでなく、人材確保やサービス品質にも及びます。
| 影響を受ける対象 | 主な影響 |
|---|---|
| オペレーター | 不安、集中力低下、出勤意欲の低下 |
| 管理者 | 交代対応、事実確認、事後フォローの増加 |
| 組織 | 欠勤、休職、離職、採用・教育費の増加 |
| 顧客サービス | 待ち時間の増加、応対品質の低下 |
影響(1)従業員への精神的・身体的健康被害
カスハラを経験した従業員には、不安、気分の落ち込み、集中力の低下、動悸などの反応が現れることがあります。
電話の着信音に強い不安を感じる、顧客対応を避けたくなるなど、業務に影響が出る場合は、休養や業務交代、産業医との面談、専門相談窓口の案内などを検討します。
不調をオペレーター個人の対応力の問題として扱わず、組織として支援することが重要です。
影響(2)離職率上昇による人材確保の困難化
パーソル総合研究所の調査では、カスハラ被害者の38.0%が「仕事を辞めたいと思った」、45.4%が「出勤が憂うつになった」と回答しています。
また、会社が被害を認知していたものの何も対応しなかったケースは36.3%でした。被害を相談した人の25.5%は、社内でセカンドハラスメントを経験しています。
相談を受けた管理者が速やかに事実を確認し、被害者に責任を負わせず支援することが、離職防止と会社への信頼維持につながります。
影響(3)サービス品質への悪影響
長時間拘束や管理者への交代が増えると、ほかの顧客の待ち時間が長くなります。
また、対応方法が担当者ごとに異なると、回答の不一致が新たなトラブルを生む可能性があります。発生件数だけでなく、対応時間、通話終了件数、同じ顧客による再発、従業員の欠勤・離職なども確認し、運用を改善する必要があります。
コールセンターで実施すべきカスハラ対策
コールセンターのカスハラ対策では、予防、発生時の対応、従業員への事後ケアを一体的に整備します。
2026年10月1日施行の改正労働施策総合推進法と厚生労働省指針では、カスタマーハラスメントを防止するため、方針の明確化、相談体制の整備、発生後の迅速な対応、従業員への配慮などを事業主が講ずべき措置として定めています。
※参考:あかるい職場応援団「改正労働施策総合推進法等特設ページ」
企業に求められる対応は、次の4つに整理できます。
| 対策 | 実施内容 |
|---|---|
| 方針・ルール | 基本方針、判断基準、通話終了基準を定める |
| 対応体制 | 相談窓口や管理者への交代手順を整備する |
| 従業員支援 | 被害確認、休養、業務交代、専門窓口への案内を行う |
| 改善活動 | 通話記録を分析し、マニュアルや研修を見直す |
対策(1)基本方針とマニュアルの策定
基本方針では、正当な意見や要望には適切に対応する一方、従業員の尊厳や安全を害する言動には毅然と対応する姿勢を示します。
マニュアルには、カスハラの判断基準だけでなく、実際の対応に必要な項目を盛り込みます。
| 項目 | 定める内容 |
|---|---|
| 初期対応 | 顧客の要望と事実関係の確認方法 |
| 警告 | 暴言や威圧的な言動をやめるよう伝える基準 |
| 管理者への交代 | 交代する条件と連絡方法 |
| 通話終了 | 警告後も言動が続いた場合の終了手順 |
| 記録 | 発言、要求、警告、対応結果の保存方法 |
| 緊急対応 | 脅迫時の法務、警察、弁護士との連携 |
| 従業員支援 | 休養、業務交代、相談窓口の利用 |
| 再発防止 | 事例共有、研修、マニュアルの見直し |
相談者のプライバシーを保護し、相談したことを理由に不利益な取り扱いをしないことも、従業員に周知します。
対策(2)カスハラ発生時の対応フローを整備する
カスハラ発生時の対応をオペレーター個人の判断に任せると、通話の長期化や不適切な約束につながります。
対応フローは、次のように段階化すると運用しやすくなります。
| 段階 | 対応 |
|---|---|
| 1. 確認 | 顧客の要望と事実関係を整理する |
| 2. 説明 | 対応できる内容と、対応できない理由を伝える |
| 3. 注意 | 暴言や威圧的な言動をやめるよう求める |
| 4. 交代 | 改善しない場合は管理者へ引き継ぐ |
| 5. 警告 | 継続する場合は通話を終了する可能性を伝える |
| 6. 終了 | 社内基準に基づき通話を終了する |
| 7. 記録・支援 | 対応内容を記録し、オペレーターをフォローする |
脅迫や危害の示唆、個人情報を調べるという発言があった場合は、通常フローから切り離し、法務部門、警察、弁護士への相談を含む対応へ移行します。
対策(3)研修プログラムによる従業員教育
研修では、カスハラの知識だけでなく、現場で使える判断と対応を身につける必要があります。
オペレーターには、正当なクレームとの違い、警告の伝え方、管理者への交代、通話終了、記録方法を教育します。管理者には、事実確認、従業員への支援、悪質事案への判断、法務部門などとの連携を教育します。
暴言、長時間拘束、過剰要求、脅迫を想定したロールプレイングを実施すると、マニュアルを実際の対応に結びつけやすくなります。
対策(4)システムを活用した技術的対策
通話録音は、顧客への抑止だけでなく、事実確認や対応品質の検証にも活用できます。
IVR(自動音声応答システム)で録音していることや、暴言・脅迫が続く場合には対応を終了する可能性があることを事前に案内する方法もあります。音声認識や音声解析を利用し、特定の発言や声量の変化を管理者へ通知する仕組みも考えられます。
ただし、システムの導入だけでは十分ではありません。録音データや応対履歴から、発生件数、通話時間、管理者への交代状況、同じ顧客による再発を分析し、マニュアルや研修の改善につなげることが重要です。
コールセンターのカスタマーハラスメント対策ならパーソルビジネスプロセスデザインへ
コールセンターで発生するカスハラには、暴言や長時間拘束、過剰な要求、脅迫などさまざまなケースがあります。オペレーター個人の判断に任せず、判断基準や対応フローを明確にし、研修や相談体制、発生後のケアまで組織として整備することが重要です。
パーソルビジネスプロセスデザインのカスタマーハラスメント対策サービスでは、社内の実態調査をもとに、貴社におけるカスハラの定義づけや基本方針の策定を支援します。さらに、事業や現場の状況に即した実用的なマニュアルの作成、従業員向けの教育・研修にも対応しています。
また、従業員向けの一次相談窓口の代行、被害を受けた従業員への配慮・ケア、発生事例を今後の対応に生かすためのナレッジ蓄積など、必要な支援を組み合わせてご利用いただけます。
「カスハラの判断基準や対応フローを明確にしたい」「実際の事例を踏まえたマニュアルや研修を整備したい」「被害を受けた従業員の相談・ケア体制を構築したい」といった課題をお持ちの場合は、ぜひパーソルビジネスプロセスデザインへご相談ください。