カスハラの社内相談窓口とは?役割と全体像
カスハラの社内相談窓口とは、顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)の被害を、従業員が相談できるよう企業内に設ける窓口のことです。後述する法律上の措置義務のうち「相談体制の整備」の中核を担うもので、カスハラ対策の要となります。
カスハラと相談窓口の基本(カスハラの3要素)
まず、カスハラの定義を押さえましょう。厚生労働省の指針では、職場におけるカスハラを次の3つの要素をすべて満たすものとしています。
- 顧客・取引先など事業に関係する者が行う言動であること
- 社会通念上相当な範囲を超えた言動であること
- その言動によって従業員の就業環境が害されること
相談窓口は、こうしたカスハラの被害を受けた従業員を支える場です。通常のクレームとカスハラの線引きは、後述の対応フローの章で詳しく解説します。
カスハラの定義や企業が行うべき対策の基礎は「カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?基礎知識や4つの対策方法を解説」もあわせてご確認ください。
社内相談窓口が担う役割
社内相談窓口は、単に「相談を受けるだけ」の場ではありません。次のような複数の役割を担う、対応と予防のハブです。
被害の早期把握(現場で抱え込ませない)
被害を受けた従業員の心身のケア
事実確認と現場対応の起点
再発防止やマニュアル改善への活用
※参考:厚生労働省「職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」(PDF)
社内窓口・外部窓口・公的窓口の違い(全体像)
カスハラの相談先には、大きく3つの種類があります。それぞれ役割が異なります。本記事は、企業が設ける「社内窓口」の設置・運用を主軸に、外部・公的窓口との使い分けも扱います。
| 種類 | 設置・運営 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 社内窓口 | 企業が自社内に設置 | 初期把握・現場対応・従業員ケアの起点 |
| 外部窓口 | 専門機関に委託 | 第三者対応による公平性・専門性・負担軽減 |
| 公的窓口 | 自治体・国が設置 | 従業員・企業が無料で使える相談・情報提供 |
なぜカスハラの社内相談窓口が必要なのか
社内相談窓口を設置すべき理由は、「義務化」「離職・安全配慮義務のリスク」「炎上防止」の3つの観点から整理できます。
2025年改正で相談体制の整備が義務化(2026年10月1日から)
最も大きな理由が、法改正です。2025年改正の労働施策総合推進法により、カスハラ対策(相談体制の整備を含む)が2026年10月1日から全企業の措置義務となります。
相談窓口の設置は、この措置義務の柱の一つです。対象は中小企業を含む事業主です。企業規模にかかわらず、2026年10月1日までに相談体制の整備などを進める必要があります。
※参考:厚生労働省「10月1日から、カスタマーハラスメント対策が義務化されます」(PDF)
義務化で何が変わるか、企業が今すぐ取り組むべきことは「カスハラ対策の義務化で何が変わる?企業が取り組むべき対処法を解説」で解説しています。
従業員の離職・疲弊と安全配慮義務のリスク
カスハラを放置すると、対応を迫られる現場の従業員が疲弊し、離職につながります。さらに、企業には労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があるため、カスハラによって従業員の心身の安全が脅かされている状況を放置すると、安全配慮義務違反を問われるおそれがあります。
※参考:労働契約法 第五条
相談窓口は、被害を早期に把握し、組織として従業員を守る仕組みとして、こうしたリスクを下げる役割を果たします。人手不足の時代に、現場を守れない企業から人材が離れていくことは、経営上の大きな損失です。
早期把握で炎上・企業イメージ毀損を防ぐ
カスハラ対応を現場任せにすると、対応のばらつきから事態がこじれ、SNS炎上や企業イメージの毀損につながるおそれがあります。
相談窓口で情報を集約し、組織として一貫した対応をとることで、こうしたリスクを抑えられます。個人の判断に委ねず、会社として統一的に対応する体制が重要です。
被害を受けた従業員のこころのケアに|カウンセリングサービス「KATAruru(カタルル)」
相談回数は無制限。電話・オンライン・アバターから選べる法人向けメンタルヘルス相談窓口です。社内では言いづらい相談や、カスハラ被害後のこころのケアを第三者として支えます。
カスハラ社内相談窓口の設置方法【ステップ】
ここからは、相談窓口を「どう作るか」を解説します。次の4ステップで段階的に進めましょう。
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1.担当者・体制を決める | 適任者を選定(既存のハラスメント窓口と一元化も可) |
| 2.マニュアル・フローを整備 | 受付〜対応〜記録〜フォローの手順を標準化 |
| 3.相談しやすい環境を用意 | プライバシー確保・複数チャネル・匿名相談の検討 |
| 4.全従業員へ周知 | 目的・利用方法・秘密保持を繰り返し周知 |
ステップ1.担当者・体制を決める(既存のハラスメント窓口と一元化も可)
まず、機密を守ることができ、即座に適切な判断ができる担当者を選定します。危機管理の観点から、信頼でき冷静に対応できる人を選ぶことが大切です。
なお、カスハラ専用の窓口を新設する必要は必ずしもありません。既存のパワハラ・セクハラ等のハラスメント相談窓口と一元化して運用することも認められており、立ち上げのハードルを下げられます。
ステップ2.相談対応マニュアル・フローを整備する
担当者によって対応がぶれないよう、相談受付から事実確認・現場対応・記録・フォローまでの手順をマニュアル化します。
マニュアルには、相談の記録様式や、カスハラ該当性を判断する基準を含めておくと、現場が迷いません。厚生労働省や自治体が公表しているカスハラ対策マニュアルのひな形を参考に、自社の実情に合わせて整備するとよいでしょう。
※参考:厚生労働省「『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』等を作成しました!」
初動対応のコツやNG行動は「カスタマーハラスメントの対応マニュアル|初動対応のコツとNG行動」で具体的に解説しています。
ステップ3.相談しやすい環境(プライバシー確保・複数チャネル)を用意する
相談窓口は、設けるだけでなく「使いやすさ」が重要です。プライバシーが確保できる相談スペースや、電話・メール・専用フォームなど複数の相談チャネルを用意し、相談のハードルを下げます。
誰に相談しているか分からないように配慮する、匿名での相談を受け付けるかを検討するなど、心理的に相談しやすい工夫も有効です。
ステップ4.全従業員へ周知する
窓口を設けても、知られていなければ使われません。設置の目的・利用方法・秘密が守られることを、全従業員に繰り返し周知します。
研修、社内イントラ、掲示など複数の手段で繰り返し伝えることが、実効性の鍵です。「困ったら相談していい」という安心感を、日頃から醸成しておきましょう。
相談を受けてからの対応フロー
相談を受けた後の流れも、あらかじめ標準化しておきます。
「受付・ヒアリング」→「事実確認・該当性判断」→「現場対応・従業員フォロー」→「(悪質な場合)外部連携」という流れが基本です。
相談受付とヒアリング(傾聴・記録)
まずは相談者の話をじっくり傾聴します。「あなたの対応が悪かったのでは」と相談者を責めないことが、二次被害を防ぐうえで重要です。
そのうえで、いつ・誰が・どのような言動を行ったかを、できるだけ正確に記録します。秘密保持を徹底し、相談者が安心して話せる雰囲気をつくりましょう。
事実確認とカスハラ該当性の判断
記録をもとに事実確認を行い、前述の3要素に照らして、カスハラに該当するか、それとも通常のクレームかを客観的に判断します。
ポイントは、要求の「内容」と、その「手段・態様」の双方を確認し、社会通念上許容される範囲を超えているかを総合的に判断することです。正当なクレームとカスハラを見分ける判断基準を、窓口と現場で共有しておくことが大切です。
※参考:厚生労働省「職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」(PDF)
現場対応・従業員フォローと再発防止
カスハラと判断されたら、組織として統一的に顧客対応を行うとともに産業医面談やカウンセリングなど通じて、被害を受けた従業員の心身をケアします。顧客への対応だけでなく、従業員への継続的なフォローが欠かせません。
あわせて、対応基準の更新やマニュアルの見直しなど、再発防止策を講じます。一件の対応を、組織の学びとして次に生かす視点が重要です。
悪質な場合の外部連携(弁護士・警察)
不当要求や脅迫など、犯罪に該当し得る言動や緊急性の高いケースでは、弁護士への相談や警察への通報を含め、外部機関と連携します。「どこからを外部連携に切り替えるか」というエスカレーション基準を、あらかじめ決めておくことが大切です。判断に迷って対応が遅れると、従業員の安全が脅かされかねません。
被害を受けた従業員のこころのケアに|カウンセリングサービス「KATAruru(カタルル)」
相談回数に制限はありません。電話・オンライン・アバターから選べる法人向けメンタルヘルス相談窓口です。社内では言いづらい相談や、カスハラ被害後のこころのケアを第三者として支えます。
社内相談窓口を有効活用するためのポイント
窓口を「形だけ」で終わらせないために、運用上のポイントを3つ押さえましょう。プライバシー保護、事例の蓄積活用、担当者支援です。
プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
相談者・関係者のプライバシーを保護することと、相談を理由とする不利益な取扱いを行わないことを明確に定め、従業員に周知します。これは措置義務の「併せて講ずべき措置」にも対応します。
「相談したら自分が不利になるのでは」という不安があると、被害は表面化しません。安心して相談できることが、窓口が機能する前提条件です。
相談事例の蓄積とマニュアル・対応基準への反映
寄せられた相談事例を蓄積・分析し、対応マニュアルやカスハラ該当性の判断基準を継続的に改善していきます。
個人を特定できない形式に加工した事例を社内共有することで、現場の判断を支える「資産」になります。事例が増えるほど対応の精度と一貫性を高められるよう、PDCAを回しましょう。
担当者の負担軽減と教育(ロールプレイング等)
カスハラ相談の対応は、担当者にとっても精神的な負担が大きいものです。担当者一人に負担が集中しない体制を整え、ロールプレイング等の研修で対応力を高めることが望ましいでしょう。
複数名での対応体制や、外部委託の併用で負担を分散する選択肢もあります。次章では、その外部窓口との使い分けを見ていきます。
研修の進め方や実践的なポイントは「カスハラ対応のための研修導入|現場で役立つポイントと進め方」で解説しています。
社内窓口と外部相談窓口の使い分け
社内窓口だけでなく、外部の専門機関に委託する選択肢もあります。メリット、タイプと選び方、そして併用という現実解を整理します。
外部委託のメリット(公平性・安心感・負担軽減)
外部窓口には、第三者が対応することによる公正性があります。また、相談内容の社内共有範囲を限定できるため、従業員が安心して相談しやすいという特長があります。さらに、関連業務を外部に任せることで担当者の負担軽減にもつながるでしょう。
特に、社内の人間には言いづらい相談や、より専門的なメンタルケアが必要なケースで、外部窓口の強みが活きます。
外部窓口の費用・タイプと選び方
外部窓口には、相談受付を中心とするタイプから、メンタルケア、さらに調査・指導まで担うタイプまで幅があります。
選ぶ際は、対応範囲・費用・専門性を比較し、自社のニーズに合うかを見極めます。たとえば「受付だけ任せたい」のか、「カウンセリングまで任せたい」のか、「調査・対応まで任せたい」のかによって、適したサービスは変わります。
社内+外部の併用が効果的
実務的には、どちらか一方ではなく社内+外部の併用が効果的です。社内窓口で初期把握と現場対応を行い、専門性や公平性が必要な部分を外部に委託する——この組み合わせが、実効性とコストのバランスに優れます。
自社で担う範囲と外部に任せる範囲を整理することが、無理なく続く体制づくりにつながります。
従業員が利用できる公的・外部の相談先
社内・外部の窓口に加えて、従業員や企業が利用できる公的な相談先もあります。「どこに相談すればよいか」を従業員に案内できるよう、代表的な窓口を押さえておきましょう。
東京都カスタマーハラスメント総合相談窓口など自治体窓口
東京都は、令和7年(2025年)4月の防止条例施行に合わせ、カスタマーハラスメント総合相談窓口を設けています。さらに同年6月6日からは、労務管理やメンタルケア、消費者保護等に詳しい専門相談員による相談対応も開始されました。事業者・就業者・顧客を対象に、電話や相談フォームで相談を受け付けています。
なお、この窓口はカスハラ防止対策に関する一般的な考え方を示すもので、個別事案の法的判断や相手方との交渉は行いません。神奈川県など他の自治体でも企業・労働者向けの相談先が整備されつつあるため、最新の情報を確認しておくとよいでしょう。
厚労省「あかるい職場応援団」等の公的窓口
国の公的リソースとしては、厚生労働省の「あかるい職場応援団」があります。ハラスメント全般について、相談窓口の案内や対策情報が提供されています。
また、全国の労働局や労働基準監督署内などに設けられた「総合労働相談コーナー」では、職場のトラブルについて無料で相談できます。こうした無料で使える公的相談先も、従業員に案内できるようにしておきましょう。
※参考:厚生労働省「あかるい職場応援団」
緊急・悪質時は警察への通報も選択肢
暴力・脅迫・長時間の拘束など、違法・緊急のケースでは、ためらわず警察へ通報することも重要な選択肢です。
何よりも優先されるべきは、従業員の安全です。「お客様だから」と我慢させるのではなく、危険な状況では速やかに警察へ通報・相談する方針を、 あらかじめ社内で共有しておきましょう。
カスハラ相談窓口の設置・運用を支援するパートナーの活用
ここまで見てきたように、カスハラ相談窓口の設置・運用に必要な業務は、マニュアル整備・担当者教育・調査対応・法的判断など、多岐にわたります。これらをすべて自社だけで担うのは、負担が大きいのが実情でしょう。そこで専門パートナーと連携することで、相談窓口の設置・運用の実効性を高めやすくなります。たとえば、外部相談窓口(EAP=従業員支援プログラム)、カスハラ対応研修、顧問弁護士による法的サポート、マニュアル整備の支援、相談窓口の代行など、目的に応じた選択肢があります。
2026年10月の義務化に向けて「何から手をつければよいか分からない」という段階であれば、まずはこうした相談先があることを知っておくだけでも、着手しやすくなります。自社のリソースと照らし合わせ、必要な部分から力を借りることを検討してみてください。
社内ルール作りと現場で使える対策の全体像は「カスハラを防止するには?社内のルール作りと現場で使える対策を解説」も参考になります。
まとめ|義務化に向けて、実効性のある相談窓口を早めに整える
カスハラの社内相談窓口は、2026年10月の義務化に向けて整備すべき対策の柱です。設置ステップ・対応フロー・運用のポイントを押さえ、外部・公的窓口と使い分けることで、従業員を守る実効性のある体制になります。最後に、本記事の要点を整理します。
- 定義・3要素:社内相談窓口は、従業員がカスハラ被害を相談できる窓口。カスハラへの該当性は3要素に基づいて判断
- 必要性・義務化:2026年10月から相談体制の整備が全企業の措置義務に
- 設置ステップ:担当者→マニュアル→相談しやすい環境→全社周知
- 対応フロー:受付・傾聴→事実確認・該当性判断→現場対応・従業員フォロー→外部連携
- 有効活用:プライバシー保護/事例の蓄積活用/担当者の負担軽減・教育
- 社内外の使い分け:社内窓口と外部窓口を必要に応じて併用。公的窓口も周知し、緊急・悪質な場合は警察への相談・通報を検討
義務化までの準備期間は長くありません。この機会に、自社の相談体制の整備へ早めに着手しましょう。