カスハラ対策において重要な3つのポイント
カスハラ対策の結論として、企業が押さえるべき打ち手は大きく4つに整理できます。
とはいえ、現場の対応強化やマニュアル整備から着手すると、「何を最優先で守るのか」「誰が判断し、どこまで踏み込むのか」が曖昧なまま進み、運用が属人化したり、ルールが形だけになったりしがちです。
そこで本章では、実効性を左右する「土台」として、意思決定の軸を3つに絞って整理します。軸は以下の3点です。
- 従業員の安全確保と事業継続(守る対象)
- 社内体制とルールの整備(運用設計)
- 内製と外部支援の判断(境界線引き)
ここを先に固めておくと、その後に出てくる具体策も一本の線でつながり、稟議や現場運用に落とし込みやすくなります。
なお、結論の「4つの対策方法」(組織全体での対応/専用マニュアルやフローの作成/証拠を残す/行政や専門家の活用)を先に確認したい方は、「企業が講じるべきカスタマーハラスメント(カスハラ)の4つの対策方法」の章をご覧ください。
ポイント(1)従業員の安全確保と事業継続
カスハラ対策の第一目的は、従業員の心身を守ることです。
UAゼンセンの調査(2024年1月18日〜3月18日、回答3万3,133件)では、直近2年以内に迷惑行為の被害に遭った人は46.8%でした。
被害後の影響としては、「嫌な思いや不快感が続いた」50.5%、「腹立たしい思いが続いた」15.1%が上位で、「寝不足が続いた」1.2%、「心療内科などに行った」0.8%という回答もあります。
参考:UAゼンセン「カスタマーハラスメント対策 アンケート調査結果 」
企業側の影響も数字に出ています。東京商工リサーチの企業調査(2024年8月1日〜13日、回答5,748社)では、直近1年でカスハラを受けたことがある企業は19.1%でした。
そのうち、従業員の「休職が発生」4.3%、「退職が発生」5.3%、「休職と退職が発生」3.8%で、合計13.5%の企業で休職・退職が起きています。
一方で、同調査では「特に対策は講じていない」が71.5%でした。
判断基準がない職場では、現場の担当者が抱え込みやすくなります。まずは「現場を守る」をKPIに置き、従業員を守る前提で投資判断を進めましょう。
参考:東京商工リサーチ TSRデータインサイト「企業のカスハラ対策に遅れ、未対策が7割超 「カスハラ被害」で従業員の「休職・退職」 13.5%の企業で発生」
ポイント(2)社内体制とルールの整備
カスハラ対応でいちばん深刻なのは、現場の担当者が孤立しやすいことです。
基準が曖昧だと「自分の対応が悪かったのでは」「断ったら会社に迷惑がかかる」と迷い、理不尽な要求にも耐え続けてしまいます。
こうした判断の揺らぎは事態を悪化させ、メンタルヘルスにも影響します。
東京都のカスタマー・ハラスメント防止条例とガイドラインでも、基本方針の策定、相談体制の整備、対応マニュアルの作成が求められています。
たとえば、どの言動で対応を打ち切るかという「レッドカード基準」や、上司・警察・弁護士へいつつなぐかのエスカレーションフローを明確にすること。
属人化をなくし、誰が対応しても組織として毅然と動ける仕組みが、現場の安心につながります。
まずはチェックリストで不足を洗い出し、埋める順番を決めると運用が安定します。
参考:東京都「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」
ポイント(3)内製と外部支援の判断
すべてを社内だけで抱え込む必要はありません。悪質で反復するものや犯罪性が疑われるケースは、外部と連携したほうが早く、安全に収束しやすいからです。
たとえば脅迫や暴力、不退去が疑われるなら警察連携が現実的な選択肢になりますし、法的な警告や交渉は弁護士の知見が頼りになります。
精神的な負担が大きい場合は、産業医など専門家の力を借りるのも有効です。
「外部に出す=負け」ではありません。むしろ悪質案件ほど、外部連携は従業員の保護に直結します。
日常的なクレームや初期対応は内製で回しつつ、どの段階で警察・弁護士・専門家に渡すのかの線引きを事前に決めておけば、初動が遅れません。
自社で抱えず、適切なタイミングでプロにバトンタッチできる体制こそ、解決を早め、二次被害を防ぐ鍵になります。
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
「カスタマーハラスメント」とは、顧客や消費者からの度を超えた、または悪質なクレーム・要求のことです。
略称で「カスハラ」と呼ばれることもあります。
こちらの動画ではカスタマーハラスメントについて詳しく解説しています。
厚生労働省はカスタマーハラスメント(カスハラ)を以下のように、整理しています。つまり、要求自体が正しくても、伝え方や手段が不相当であればカスハラになり得ます。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの
対象は対面に限らず、電話やSNSなども含み得る点が重要です。また、一般消費者とのやり取り(BtoC)だけでなく、企業間取引(BtoB)の取引先からの不当な要求も含まれます。
保護の対象となる「就業者」には、正規雇用者に加え、パート・アルバイト、派遣社員なども含まれています。
カスタマーハラスメントは次に紹介する通り、さまざまな類型がありますが、どれも「顧客や消費者の立場を利用して過度・不当な要求を行う」点で共通しています。
カスタマーハラスメントの例
カスタマーハラスメントには複数のパターンがあります。
以下いずれかの特徴に当てはまった場合は、カスタマーハラスメントと判断してよいでしょう。
| 優位的地位の乱用 (顧客や消費者として優遇を求める言動) |
・「俺は客だ」「お客様は神様だぞ!」「お金を払っているのだからやって当然」「対応次第では今後を考える」などの発言 ・不買運動やネット炎上をちらつかせて値引きやサービスを要求する ・企業や店舗側の人間が質問した際に「客の話が信用できないのか」などの言いがかりで質問を遮断する |
|---|---|
| 不当・過剰・法外な要求社会通念上相当の範囲を超える対応の強要・コンプライアンス違反の強要 | ・対価的に相当な範囲を超えた要求 ・特別の利益や便宜の供与を求める要求 ・法令違反の内容への対応要求 ・暴行・傷害・強要・恐喝・脅迫・不退去・器物破損・威力・偽計業務妨害・名誉棄損などの刑法違反 ・一方的な主張の繰り返し |
| 職務妨害行為 (就業環境または業務推進阻害行為) |
・長時間にわたる担当者の拘束 ・その場で解決できない事象への即時対応要求 ・正当性のない担当者の交代要求 ・虚偽の申し立て ・就業時間後の拘束 ・他業務実施の妨害 ・義務なき文書の提出要求 ・大声を出す・暴れるなどの施設の平穏を害する言動 ・同一・類似案件への執拗な対応(回答)要求や電話 ・業務上必要な機器などを奪う・破壊する行為 ・従業員の警告を無視する |
| 担当者の尊厳を傷つける行為 (人格否定・意思決定権の侵害) |
・暴言・誹謗中傷 ・個人的な責任追及(賠償・補償要求) ・個人情報のさらしなどをちらつかせること ・無許可での撮影や録音 ・土下座や人格・尊厳を傷つける行為の強要(セクハラ・性的自由の侵害を含む) ・SNSなどによる連絡・返信要求・強要 ・職場・通勤経路・自宅での待ち伏せをはじめとした恐怖を与える行為 ・必要以上の連絡先・個人情報などの開示要求 ・そのほか嫌がらせ行為 |
カスタマーハラスメントとクレームの違い
カスタマーハラスメントと混同されるものに、「クレーム」があります。
カスタマーハラスメントとクレームを同じものとしてとらえる方も多いですが、このふたつはまったく違うものです。
クレームは商品の向上・改善を目的とします。
商品やサービスに対する『要求』や、『依頼』の形をとって伝えられる行為です。
クレームは品質向上のための有益なフィードバックであり、適切な対応を行うことで顧客価値と企業価値の双方を高める契機となります。
一方、カスタマーハラスメントは『嫌がらせ』を目的としています。
先ほどの通り、カスタマーハラスメントには種類がありますが、どれも理不尽な嫌がらせや悪質ないじめです。
したがって、カスタマーハラスメントにおいては、要求を受け入れれば受け入れるほど事態が深刻化しやすいため、適切な対応が不可欠です。
このように、カスタマーハラスメントとクレームはまったく違うものです。
一見区別がつかないように感じる言動でも、これらの違いを押さえておけば判断できるかと思います。
クレームは正しく受け止め、カスタマーハラスメントは被害を最小限に抑える処理を心がけましょう。
カスハラと判断する際の基準
厚生労働省のマニュアルおよび法律専門家の見解に基づくと、カスハラの判断は「顧客等の要求内容に妥当性はあるか」と「要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲か」という2つの軸で行われます。
また、マニュアルに記載の以下観点も大切です。
業種や業態、企業文化などの違いから、カスタマーハラスメントの判断基準は企業ごとに違いが出てくる可能性があることから、各社であらかじめカスタマーハラスメントの判断基準を明確にした上で、企業内の考え方、対応方針を統一して現場と共有しておくことが重要と考えられます。
参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
以下にマトリクスの一例を作成してみました。
このように整理しておくことで、現場は「謝るべきこと(ミス)」と「拒否すべきこと(暴言)」を切り分けて考えられるようになります。
「ミスをしたから何を言われても仕方ない」という思い込みを払拭し、「ミスは謝るが、人格否定は許されない」という基準を徹底しましょう。
【判断マトリクスの例】
| 要求内容の妥当性 | 手段・態様の相当性 | 判断区分 | 対応方針 |
|---|---|---|---|
| あり(企業に過失) | 相当(冷静) | 正当なクレーム | 誠心誠意謝罪し、事実確認の上で規定に基づいた対応を行う。企業の改善機会とする。 |
| なし(過失なし) | 相当(冷静) | 過剰な要求 | 丁重かつ毅然と断る。「規定により対応いたしかねます」と伝える。 |
| あり(企業に過失) | 不相当(暴言等) | カスハラ(グレー) | ミスについては謝罪するが、暴言や態度は是正を求める。「その言い方はおやめください」と警告する。 |
| なし(過失なし) | 不相当(暴言等) | 悪質なカスハラ | 即時に対応を打ち切る。退去を求める。従わない場合は警察へ通報する。 |
カスタマーハラスメント(カスハラ)が増加した背景
近年、カスタマーハラスメントが増加し、ニュースでも取り上げられるようになりました。
これには、複数の原因が関係しています。ここでは、3つの原因を挙げて解説していきましょう。
【カスタマーハラスメントが増加した原因】
(1)ストレスの多い社会
現代は昔に比べて、ストレスとなる要因が多いといわれています。
ストレスを強く感じている人のなかには、ストレス発散を目的としてカスタマーハラスメントを行う人がいます。
(2) 企業ごとに異なるサービス
企業ごとに違うサービスや、過剰にサービスをし過ぎてしまうこともカスタマーハラスメントを増やす原因のひとつです。
同じ商品やサービスを取り扱っている企業や店舗でも、それぞれ価格やサービス内容に違いがあります。
このサービスの違いは、競合他社との差別化を図り、より多くの顧客に選んでもらうために行われていることです。
サービスごとの違いは、サービスの手厚さも例外ではありません。
サービスの違いは、企業や店舗が競合他社に差をつけるために行っていることですから、当たり前といえば当たり前のものです。
しかし、商品やサービスを利用する顧客の中には、サービスに対して独自の基準を設けている人もいます。
これらの人は、自分の設けた基準から外れたサービスを認めません。
結果、悪質な要望を押しつけるカスタマーハラスメントとなるわけです。
(3) SNSの発達
また、SNSの発達によりネットを介した匿名での嫌がらせができるようになったのも、カスタマーハラスメントを増加させる原因であるといわれています。
個人を特定されない状態でハラスメントができることから、SNSを使った嫌がらせや脅迫が横行するようになりました。
カスタマーハラスメントは、社会の移り変わりや技術の進歩など、さまざまな要因により引き起こされているといえるでしょう。
カスタマーハラスメント(カスハラ)が企業に及ぼす悪影響
それでは、増加傾向にあるカスタマーハラスメントによって、企業や店舗にはどのような悪影響があるのか挙げてみます。
【カスタマーハラスメントにより発生する悪影響】
- ・従業員の離職
- ・イメージダウンや業績悪化
- ・安全配慮義務違反
これらは、放置すれば企業や店舗に大きな被害をもたらす行為です。それでは、カスタマーハラスメントで発生する悪影響について1つずつ解説していきます。
従業員の離職
カスタマーハラスメントのターゲットは、従業員であることが多いです。
これらの対処には大きなストレスがかかるため、従業員が離職するリスクが発生します。
被害が続けば、ターゲットになった従業員だけでなく、ほかの従業員にも影響が出ることになるでしょう。
カスタマーハラスメントの被害が続く職場で働きたいと思う人は、ほとんどいないからです。
結果、従業員が企業や店舗に定着しない状況が作られてしまうのです。
そうして、ベテランの従業員が定着せず、業務に不慣れな従業員のみで対応する状況は、さらなるクレームや業績悪化の原因のひとつにもなりかねません。カスタマーハラスメントによる従業員の離職は、企業や店舗にとって頭の痛い問題といえるでしょう。
企業のイメージダウンや業績悪化
前章でも解説しましたが、カスタマーハラスメントに当たる行為の中には、ネットやSNSの書きこみを使ったものがあります。
企業に対するウソの悪評や、誹謗中傷によるハラスメントは毎年数多く確認されています。
たとえウソやいわれのない誹謗中傷でも、企業や店舗のイメージダウンにつながってしまうことには変わりありません。
イメージが著しくダウンすれば、業績悪化を招く可能性もあるのです。
また、カスタマーハラスメントの中には、ほかの顧客への迷惑行為もあります。
そうなると顧客の減少にも繋がってしまい、売上も当然ながら下がってしまうことになるのです。
安全配慮義務違反による損害賠償請求
「安全配慮義務」とは、「企業が労働者に対して安全と健康を確保しつつ、就業するために必要な配慮をする義務」のことです。
この中には、カスタマーハラスメントに遭遇した従業員を守ることも含まれています。
つまり、カスタマーハラスメントを放置することは安全配慮義務の違反に当たる行為なのです。
カスタマーハラスメントへの対処が不十分だと、ターゲットになった従業員から安全配慮義務違反の損害賠償請求をされる可能性があります。
これを防ぐためにも、普段からカスタマーハラスメントに注意し、対策を怠らないようにしましょう。
目に見えない経済的損失
数字には出にくいものの、カスハラが生む「見えないコスト」も軽視できません。
たとえば、「会社は守ってくれない」という不信感が広がれば士気が落ち、エンゲージメント低下を通じて生産性にも影響します。
現場の火消しに追われて管理職の負担が増えれば、本来のマネジメントや戦略立案が後回しになります。
さらに、失敗やクレームを恐れて新しい提案や改善が出にくくなり、事なかれ主義が組織に根づいていきます。
稟議で説明しやすい項目としては、次の3点です。
士気低下
エンゲージメントが下がり、生産性が落ちる
管理職の負担増
トラブル対応が増え、マネジメントが後回しになる
改善停滞
挑戦が萎縮し、事なかれ主義が広がる
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策に関する法令・条例・指針
行政もこの問題を重く見ており、法規制や指針整備の動きが加速しています。企業のコンプライアンス担当者が押さえるべき枠組みは、主に次の3つです。
まず、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」です。パワハラ防止法の指針ではカスハラ対策は「望ましい取り組み」とされており、このマニュアルは社内ルールや運用設計のベースとして活用されています。
参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
次に、東京都の「カスタマー・ハラスメント防止条例」(2025年4月1日施行)です。事業者には、カスハラ防止措置の実施、被害者の安全確保、加害者への中止の申し入れが求められます。
あわせて、基本方針の明文化、相談窓口の設置、対応マニュアルの整備など、体制づくりも求められています。
2025年6月に改正法が公布され、すべての事業主に対してカスハラ防止措置を講じることが義務化されることになりました。これにより、企業の対策は「努力」から「義務」へと変わります
参考:政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介」
なお、悪質なカスハラは刑法等に該当する可能性があります。該当する場合は直ちに警察への通報が必要です。
例としては、土下座や詫び状作成を強いる「強要」、危害を告げる「脅迫」、金品を要求する「恐喝」、大声や暴力で業務を妨害する「威力業務妨害」、退去要請後も居座る「不退去」などが挙げられます。
※本章は一般情報であり、個別案件は専門家への相談が推奨されます。
企業が講じるべきカスタマーハラスメント(カスハラ)の4つの対策方法
カスタマーハラスメントは、業種や企業・店舗を選ばず、どこでも発生する可能性のあるものです。
そのため、発生したらすぐに対策しなくてはなりません。
カスタマーハラスメントに有効な対策としては、以下の方法があります。
【カスタマーハラスメントに有効な4つの対策】
- 企業や部署全体で対処する
- 専用の対策マニュアルやフローの作成
- 証拠を残す
- いざというときは行政や専門家の力を借りる
それぞれの内容について、次の項目で順番に解説していきます。
対策(1)組織全体での対応
カスタマーハラスメントが発生した際に、従業員が一人だけで対応すると悪化してしまう可能性が高くなります。
ですから、カスタマーハラスメントが発生した場合には、複数人で対応するか、上司や上長と一緒に対応しましょう。そうすることで、ある程度はけん制することができるはずです。
また、企業や店舗側の対策としては、相談窓口の開設も有効です。
カスタマーハラスメントが発生した際に、内部的な相談窓口があれば、いつでも相談や指示を受けられることになります。そうして従業員が安心して対応できる体制を整えれば、離職による悪影響も防げるでしょう。
カスタマーハラスメントへの対処として、企業や店舗全体で取り組む体制を作っていきましょう。
カスハラ対策の鉄則は、「個人」ではなく「組織」で受け止めることです。担当者が1人で抱え込むと、心身の負担が一気に増えるだけでなく、相手の勢いに押されて不用意な約束をしてしまうリスクも高まります。
実務では、次の3点を徹底するだけでも効果があります。
原則は2名対応(対話役と記録役を分ける)
こじれそうなら早めに上席へ交代(エスカレーション)
「理不尽な要求には応じない」「従業員を守る」というトップ方針を社内外に明確に掲示する
組織としての姿勢が見えるだけで、相手のトーンが落ち着くケースも少なくありません。
対策(2)専用の対策マニュアルやフローの作成
カスタマーハラスメント専用の『対策マニュアル』や『フローの作成』も有効な手段です。
マニュアルやフローがあれば、ハラスメントが発生しても落ち着いて対処できます。
カスタマーハラスメントは企業や店舗側が冷静に対処すれば、被害を最小限に抑えられるものです。
マニュアルやフローを作成して、従業員に定期的に読みこんでもらうとよいでしょう。
また、マニュアルやフローを用いて対策研修を行っておくのも有効です。
現場が迷わないためには、方針だけでなく「どう動くか」を落とし込んだ手順書(プレイブック)が欠かせません。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」でも、事前準備と発生時対応の枠組み、そして自社で判断基準や手順を明確にして共有する重要性が示されています。
盛り込む要素は、次の3つです。
判断基準の明文化(レッドカード基準)
「大声を出し、制止しても止まらない」「対応が膠着して30分を超える」など、現場で切り替えるラインを決めておきます。
トークスクリプト(定型句)
例えば「ご意見は承りましたが、規定によりこれ以上の対応はできません」「続く場合は警察へ連絡します」など、毅然と伝える言い回しを用意します。
フローチャート
注意→上長/責任者へエスカレーション→対応打ち切り・退去要請→警察相談/通報までを一枚で見える化し、誰に報告するかも併記します。
対策(3)証拠を残す
カスタマーハラスメントの中には、「言った・言わない」の水掛け論に持ち込むものや、注意や案内を「聞かされていなかった」と文句をつけるやり方で嫌がらせをするケースがあります。
これを防ぐには、商品やサービスを提供する際に証拠を残すことが有効です。
具体的な例としては、以下の方法があげられます。
【商品やサービス提供・問い合わせの証拠を残す方法】
- ・商品の取扱説明書やサービス契約時の契約書に、トラブル防止のための取り決めを明記する
- ・問い合わせ窓口のあいさつや、自動音声案内の初めに音声の録音をする旨を伝える
- ・企業のオフィスや店舗入り口に、商品・サービス・オフィスや店舗利用に関する取り決めを明記したポスターを貼っておく
取り決めの明記や証拠を残す作業を行っていることを伝えるだけでも、カスタマーハラスメントを予防できます。
また、取り決めの明記は、一般のお客様に対する案内としても有効です。
積極的に活用しましょう。
加えて、後の交渉や相談でいちばん頼りになるのは「記録」です。
「言った・言わない」を避けるためにも、次の3点は早めに整えておきましょう。
音声
通話録音、対面はボイスレコーダー
映像
防犯カメラ、必要に応じてウェアラブルなど
対応記録
日時/場所/相手/内容を、主観ではなく事実(5W1H)で時系列に残す
録音・録画を行っている旨を最初に伝えるだけでも抑止になり、万一こじれた場合の法的措置や警察への相談でも説明が格段にしやすくなります。
対策(4)いざというときは行政や専門家の力を借りる
カスタマーハラスメントの行為の中には、犯罪行為なども含まれています。
あまりにも悪質な行為の場合は、企業や店舗だけで対応してはなりません。
警察や弁護士の力を借りましょう。
カスタマーハラスメントの中には、企業や店舗の注意だけでは防げないケースもあります。
自分たちだけで対応しきれないような悪質なカスタマーハラスメントに遭遇した場合には、迷わず専門家に通報・相談してください。
悪質な事案は、社内だけで抱え込まないのが安全です。
東京都では「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(令和7年4月1日施行)に合わせ、電話やWebで相談できる総合窓口も案内されています。
目安としては、暴力・脅迫・不退去など犯罪が疑われる場合は警察へ、内容証明の送付や交渉、SNS等の誹謗中傷への対応(発信者情報開示の検討を含む)は弁護士に任せるとスムーズです。
あわせて、自治体の相談窓口や業界のガイドラインも活用し、「どの段階で外部につなぐか」を平時から決めておくと、現場が迷いません。
なお、東京都以外でも頼れる窓口はあります。全国共通で使いやすいのが、厚生労働省の「総合労働相談コーナー」です。
各都道府県の労働局や労基署内に設置され、ハラスメントを含む職場トラブル全般を無料で相談できます。
加えて、自治体独自の相談・支援を用意している地域もあります。
たとえば神奈川県は、カスハラ対策情報の中で「受けたとき(相談窓口)」を案内しています。
参考:神奈川県「企業や労働者におけるカスタマーハラスメント対策」
大阪府では「大阪府介護事業者・従事者向けカスタマーハラスメント相談窓口」を設置し、弁護士による法律相談も提供しています。
自社の自治体に同様の窓口がないか確認しましょう。
参考:大阪府「「大阪府介護事業者・従事者向けカスタマーハラスメント相談窓口」を設置します!」
内製と外部委託の判断基準
カスハラ対策をすべて社内で抱え込む必要はありません。コストと専門性のバランスを見ながら、どこを内製し、どこを外部に任せるかを決めることが大切です。判断軸は「頻度×悪質性×法的難易度×現場負荷」で整理できます。
| 比較項目 | 内製(自社対応) | 外部委託(専門家・BPO) |
|---|---|---|
| 対象となる業務 | ・日常的なクレーム対応 ・初期の事実確認と謝罪 ・社内マニュアル作成 ・従業員への声がけ |
・悪質クレーマーへの法的警告 ・電話受付の一次対応(コールセンターBPO) ・専門的なハラスメント研修 ・深刻なメンタル不調者のカウンセリング |
| メリット | ・コスト抑制・顧客の声(VOC)を直接改善に活かせる ・現場の即応性 |
・従業員をストレスから隔離できる ・法的知見に基づいたミスのない対応 ・第三者視点での冷静な解決 |
| 判断の基準 | ・会話が成立する ・要求内容が業務範囲内 ・現場マネージャーで収束可能 |
・犯罪性が疑われる(脅迫・暴力) ・執拗な攻撃で業務に支障が出る ・従業員の安全確保が困難 |
特に、従業員への精神的負荷が高すぎる場合は、「電話一次対応」などを専門のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)企業に委託し、従業員を守るという選択肢も有効です。
また、マニュアル作成においても、弁護士監修を入れることで、法的整合性の取れたより強固なルールを作ることができます。
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の導入に向けた5つのステップ
これから本格的にカスハラ対策を導入する企業のために、実施すべき手順を5つのステップで整理しました。
ステップ(1)方針と体制(トップの決断)
まずは基本方針を明文化し、社内に周知します。
人事・総務・法務・現場を含む横断チームを立ち上げ、緊急時の連絡ルート(弁護士・警察など)も事前に確認しておきます。
ステップ(2)フロー整備(ルールの具体化)
社内の過去事例を棚卸しし、自社の判断基準と対応打ち切り基準を決めます。
その基準に沿って、マニュアル・スクリプト・帳票まで一式を用意します。
ステップ(3)教育と周知(意識の統一)
研修を実施し、ロールプレイで現場に定着させます。
あわせて相談窓口の存在を周知し、Webサイトや店頭掲示で対外的にも姿勢を示して抑止力を高めます。
ステップ(4)記録と振り返り(運用の開始)
小さな事案でも報告しやすい運用にし、対応記録やデータを適切に保管します。
発生後は対応を振り返り、次の判断に生かします。
ステップ(5)改善と外部連携(PDCAを回す)
マニュアルは定期的に更新し続けます。被害に遭った従業員のメンタルケア体制も整えます。
法改正や指針の動向も確認しながら、必要に応じて弁護士など外部の知見も取り入れます。
無料でできる現状診断チェック(10項目)
自社のカスハラ対策の進捗状況を、以下のリストで確認してみましょう。チェックがつかない項目は、直ちに取り組むべきリスク要因です。
| No. | チェック項目 | 解説・リスク |
|---|---|---|
| 1 | 過去1年以内に社内で起きたカスハラの件数・内容を把握しているか | 実態把握なしに対策は打てません。被害が潜在化している可能性があります。 |
| 2 | 「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を策定・公表しているか | 会社としての「姿勢」がないと、現場は判断に迷い、客に押し切られます。 |
| 3 | 正当なクレームとカスハラを区別する明確な「判断基準」があるか | 線引きが曖昧だと、現場担当者の個人判断に依存し、トラブルが拡大します。 |
| 4 | カスハラ対応マニュアルやトークスクリプト(台本)が整備されているか | 具体的な「言い方」の武器がないと、従業員は反論できずサンドバッグ状態になります。 |
| 5 | 従業員向けのカスハラ対応研修(ロールプレイング等)を実施しているか | マニュアルを渡すだけでは不十分です。「とっさの対応」ができる訓練が必要です。 |
| 6 | 電話の自動録音や防犯カメラなど、証拠を残す設備・運用があるか | 「言った・言わない」の水掛け論は企業にとって不利です。客観的証拠が必須です。 |
| 7 | 従業員が気軽に相談できる「相談窓口」が設置・周知されているか | 孤立させない仕組みがないと、離職やメンタル不調に直結します。 |
| 8 | 対応困難な場合の「エスカレーションフロー(上司への報告手順)」があるか | 誰にバトンタッチすればいいか不明確だと、担当者が一人で抱え込みます。 |
| 9 | 悪質な事案における「警察・弁護士」との連携ルートが確立されているか | いざという時の緊急連絡先が決まっていないと、初動が遅れ被害が拡大します。 |
| 10 | 被害を受けた従業員への「メンタルケア体制(産業医連携等)」があるか | 事後のケアがないと、安全配慮義務違反を問われるリスクが高まります。 |
まとめ
現状診断チェックの結果はいかがでしたか?
チェックがつかない項目が多くても悲観する必要はありません。
まだ「従業員を守るためにできること」が残っている、ということでもあります。
未整備が見えた「今」が、対策を進める最適なタイミングです。
カスハラ対策は「あれば良い」取り組みではなく、事業継続に関わる経営課題です。
2025年の東京都条例施行も、日本社会全体が「カスハラを許さない」方向へ大きく舵を切ったことを示しています。
企業がこの流れに対応し、従業員を守る体制を固めることは、人材流出と法的リスクを防ぎ、顧客サービスの質を守り高めるための最も確実な投資です。
従業員が不安を抱えたままでは安定したサービスは成り立ちません。
安心して働ける環境があってこそ、顧客へのホスピタリティが生まれます。
パーソルビジネスプロセスデザインでは、カスタマーハラスメントに対応するための基本方針の策定やマニュアルの作成、従業員向けの研修などのサービスを提供しています。
また、カスタマーハラスメントが発生した際に「内部的な相談窓口を設けたい」という場合にもご相談ください。
カスタマーハラスメントについて対策を講じたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。