差し戻しとは
差し戻しとは、ワークフロー上で承認者や決裁者が申請内容の不備や誤りを理由に、申請者へ申請を戻す処理のことです。主な目的は、申請内容の修正や追記を求めるためであり、申請者は指摘を受けた箇所を修正したうえで再度申請を行います。
経費精算や人事手続き、契約関連など、あらゆる社内申請で発生する可能性があり、特に申請・承認業務の中では頻繁に見られます。
差し戻しが発生する場面
差し戻しは、稟議書や契約書、経費申請、住所変更など、さまざまな社内申請・承認フローで発生する課題です。添付書類や記載内容に誤りがある場合に、承認者は内容の確認を保留し、差し戻しを実施します。
修正後も内容が不十分である場合、再度差し戻されることもあり、これが繰り返されると承認プロセス全体が遅延してしまいます。最終的な意思決定の停滞を招く原因となるため、初回申請時に正確に記入することが必要です。
却下や取り消しとの違い
差し戻しは、申請内容の不備を修正すれば同じ申請を再提出できる点で、却下とは異なります。却下は、承認者が申請自体を認めない処理であり、再度申請を行う場合は新規で手続きをやり直す必要があります。
一方、取り消しは申請者自身が自らの判断で申請を撤回する行為であり、承認者側の判断は関与しません。
差し戻しが起こる主な5つの原因
差し戻しは、単なる入力ミスや確認漏れだけでなく、次のような社内体制や仕組みの問題から発生することもあります。
- 申請内容の不備や記入漏れ
- 添付書類の不足や誤り
- 古いフォーマットや異なる申請書の使用
- 承認ルート・申請経路の誤り
- ルールやマニュアルがわかりにくい
ここでは、差し戻しが起こる5つの主な原因を解説します。
申請内容の不備や記入漏れ
申請内容に必要な情報が記載されていない場合、差し戻しが発生するケースが多く見られます。金額や日付、担当者名といった基本的な入力ミスが原因になることもあるでしょう。
また、申請内容が曖昧で意図が読み取れない場合も修正が必要です。特に手入力が多い申請では、計算ミスや表記ゆれといった事務的なミスが発生しやすくなります。
入力支援機能や自動計算機能がない環境では、こうしたヒューマンエラーが頻発しやすいため注意が必要です。
添付書類の不足や誤り
領収書や契約書など、必要な添付書類が不足している場合は差し戻しの対象です。添付書類が誤っている、もしくは内容が不明瞭で確認できない場合も承認者から修正を求められます。
さらに、電子帳簿保存法への対応が不完全で、データ形式に不備があるケースも差し戻しが発生する原因です。同一の領収書を複数回使用していると、不正防止の観点から差し戻しや確認依頼が行われることもあります。
古いフォーマットや異なる申請書の使用
古いバージョンの申請書を使用していることも、最新ルールに準拠していないことによる差し戻しの原因です。また、別の目的の申請書フォーマットを流用した場合も、内容の整合性が取れず戻される可能性があります。
フォーマットの一元管理ができていない組織では、複数のテンプレートが混在しやすく、誤使用が頻発します。正しいテンプレートの利用は申請業務の基本であり、共有不足がトラブルの温床になるため注意が必要です。
承認ルート・申請経路の誤り
承認ルートが社内規定と異なる場合、差し戻しとなる場合が多いです。回付先の選定ミスによって、本来確認が必要な部署や担当者を経由していないことが原因となる場合もあります。
職務権限規程に沿った正しいルートを選定しなければ、業務上のリスクを引き起こす恐れがあります。申請内容ごとに承認経路が異なるため、それぞれのルールを正確に理解しておくことが重要です。
ルールやマニュアルがわかりにくい
マニュアルの説明不足や表記ゆれが原因で、誤った理解のまま申請を行うケースがあります。また、社内ルールが実態と合っておらず、現場運用と乖離している場合にも差し戻しが発生しやすくなります。
古い手順書を参照して誤った手続きを行うことや、複雑なルールにより属人的な判断に頼ることも問題です。さらに、問い合わせ窓口が整備されていない場合、疑問を解消できずに誤った申請を提出してしまうリスクがあります。
差し戻しを防ぐ3つの方法
差し戻しを防ぐためには、単に申請者の注意力に頼るのではなく、仕組みそのものを見直すことが重要です。
- 申請書フォーマットやマニュアルの見直し
- 申請者向けの問い合わせ窓口やサポート体制の設置
- アウトソーシングの活用
ここでは、差し戻しを最小限に抑えるための3つの方法を紹介します。
申請書フォーマットやマニュアルの見直し
差し戻しの多くは、申請内容の不備や添付書類の不足が原因です。
古いフォーマットや用途に合わない申請書を使用していると、申請者が正確に入力できず、誤記や記入漏れが起こりやすくなります。そのため、申請書の記載漏れや誤りが多い箇所を特定し、該当部分の表現や構造を改善することが大切です。
さらに、マニュアルの内容が古かったり説明不足であったりすると、従業員の理解不足につながるため、実態に即した内容に更新する必要があります。最新のフォーマットやルールを全社員に周知することで、古い書式の使用を防ぎ、差し戻しを減らすことが可能です。
申請者向けの問い合わせ窓口やサポート体制の設置
マニュアルだけでは解決できない疑問やケースに対応するために、申請者が気軽に質問できる窓口を設けることもおすすめです。ワークフローが複雑な場合、都度確認できる環境があることで、差し戻しを未然に防止できます。
ただし、問い合わせ対応には業務負担がかかるため、担当者の配置や対応範囲を明確に定めておきましょう。また、差し戻し理由を問い合わせた際に即座に対応できる体制を整えることで、修正や再申請の遅延を防止できます。
さらに、システム内のチャット機能やコメント欄を活用して、承認者が差し戻し理由を明確に伝えられるようにする仕組みを導入すれば、誤解や再差し戻しのリスクを大幅に減らせます。
アウトソーシングの活用
差し戻し対応を自社だけで完全に解決するのは難しく、業務負担も大きくなりがちです。そのため、申請業務を専門会社にアウトソーシングする方法もおすすめです。
申請業務の一部または全部を外部に委託することで、申請や確認ミスのリスクを軽減するほか、業務の標準化と効率化が進み、属人化による差し戻しを抑制できます。
専門業者は税法や制度改正への対応も迅速なため、ルール変更に伴う誤申請も起こりにくくなります。差し戻しが発生しやすいノンコア業務を委託することで、社員はコア業務に専念できる環境を整えられるでしょう。
さらに、アウトソーシング会社のチェック体制によってミスの検出精度が向上し、差し戻し件数を大幅に削減できます。急な欠員や繁忙期にも柔軟に対応できるため、安定したワークフロー運用が実現します。
自社だけでは限界がある?差し戻しを含む経理業務の難しさ
経理業務は、正確性とスピードの両立が求められる一方で、属人化や制度改正、繁忙期の対応などさまざまな課題を抱えています。
- 属人化や担当者の負担増により完全防止は難しい
- 法改正やルール変更への対応が追いつかない
- 業務量の変動(繁忙期・欠員)が原因で柔軟に対応できない
ここでは、経理業務における代表的な課題と、その背景を解説します。
属人化や担当者の負担増により完全防止は難しい
経理業務では、「この業務はAさんしかわからない」といった属人化が深刻なリスクをもたらします。マニュアルが整備されていなかったり、Excelによる独自管理が続いたりすることが、業務内容がブラックボックス化し、差し戻しや業務停滞に陥る原因です。
担当者が退職や休職をした場合、代替要員が育っておらず業務が滞るリスクも高まります。
こうした環境では差し戻しが増加し、担当者の心理的負担も大きくなり、結果として離職リスクが高まってしまうのです。
経理に関する課題をより詳しく知りたい方は、経理業務の主な課題や改善方法も確認しておきましょう。
法改正やルール変更への対応が追いつかない
経理業務は、税法や社会保険、会社法など、頻繁に変化する制度への対応が欠かせません。たとえば、インボイス制度や電子帳簿保存法の改正など、法改正が行われた直後から正確な対応が求められます。
経理担当者が知識不足のまま業務を進めると、仕訳や処理方法の誤りによって差し戻しが発生するリスクがあります。法改正ごとに担当者が知識をアップデートしなければならず、OJT頼みの教育体制では対応が追いつかないケースも少なくありません。
業務量の変動(繁忙期・欠員)が原因で柔軟に対応できない
経理業務は月末月初や決算期など、特定の時期に業務が集中しやすい特徴があります。
特に入出金管理、請求書処理、年末調整などが重なる年次業務期には業務負担が急増します。欠員や急な休職が発生すると、属人化した体制では業務の引き継ぎが難しく、差し戻しや処理遅延が起きるケースも珍しくありません。
また、経理は常に業務量が多く、業務が落ち着く時期が少ないため、柔軟な対応が困難です。その結果、修正作業や再確認に余計な時間と人件費がかかり、業務効率を圧迫する要因となります。
申請業務ごと委託するという選択肢もおすすめ
経理や人事といったノンコア業務をBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)に委託することも、有効な解決策の一つです。BPOを活用することで、社内リソースを本来注力すべきコア業務に集中させることができます。
また、業務設計や改善提案を含めた標準化・効率化の推進、人材不足の解消、コスト削減にもつながります。さらに、属人化やブラックボックス化を解消し、第三者によるチェック体制を導入することで、誤りや不正の防止にも効果的です。
パーソルビジネスプロセスデザインの調査結果 によると、中堅企業の約9割がBPO導入により経営効率が向上したと回答しており、今後も利用を継続・拡大したいと考える企業が多い傾向にあります。
差し戻しの多発や業務の煩雑化に悩む企業にとって、BPOの活用は大きな改善策となるでしょう。
経理業務のアウトソーシングについてより詳しく知りたい方は、 経理アウトソーシングとは何か、外注のメリット・デメリット まで確認しておきましょう。
また、差し戻しを最小化するために、ノンコア業務を外注するならBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用もおすすめです。BPOを導入することで、業務の品質を維持しながら効率的な体制を構築できるでしょう。
経理の業務改善まるわかりBOOK
BPOを導入する際のポイント・注意点
BPOを導入する際は、単に業務を外部委託するだけではなく、依頼範囲や体制、連携方法を明確にすることが重要です。
- 委託範囲を明確化する
- セキュリティ・コンプライアンス対応を確認する
- 社内フローとの連携方法を考慮する
ここでは、導入前に押さえておくべき3つのポイントを解説します。
委託範囲を明確化する
BPOや経理代行で対応できる業務範囲は会社ごとに異なります。記帳業務、請求書処理、給与計算、決算書作成など、必要な部分だけを部分委託できるのが特徴です。
会社によっては、決まったプランから選ぶ形式のほか、要望に応じて柔軟に業務内容をカスタマイズできる場合もあります。ただし、税務申告や税務相談などは税理士の独占業務であるため、依頼先が税理士法人であるかを必ず確認しましょう。
自社でどこまでを委託し、どの業務を社内で継続するかを整理しておくことで、スムーズな導入が可能になります。
セキュリティ・コンプライアンス対応を確認する
経理業務では、取引情報や売上金額などの機密情報を扱うため、セキュリティ体制の確認は不可欠です。情報漏えいリスクを防ぐために、守秘義務契約の締結はもちろん、プライバシーマークやISMS認証などのセキュリティ規格を取得しているか確認しましょう。
また、依頼先の情報管理体制や、万一トラブルが発生した場合の対応方針についても事前に打ち合わせておくことが重要です。信頼できる実績を持ち、継続率の高い業者を選定することで、安心して長期的に業務を委託できます。
社内フローとの連携方法を考慮する
BPO導入時は、社内で利用している会計ソフトや給与計算システムの活用が可能かを確認することが不可欠です。また、経理代行に依頼した場合、書類提出から処理完了までのタイムラグが発生する可能性があるため、二重提出や処理遅延を防ぐためのルールを明確に定めておく必要があります。
現場担当者の声を反映し、どの業務を外部委託し、どの部分を社内で実施するかを整理することで、スムーズな運用が可能になります。ただし、外部委託が増えることで社内に経理ノウハウが蓄積されにくくなる懸念もあるため、将来的な組織設計を見据えた運用設計が重要です。
差し戻しを対策するならBPOがおすすめ!
経費精算や人事手続きなど、社内申請で差し戻しが頻発する背景には、記入ミスだけでなく、業務体制にも問題があります。そのため、差し戻しを防ぐには、現場レベルでの仕組み改善が欠かせません。
自社での対応が難しい場合は、経理・人事といったノンコア業務を外部に委託することで、申請・承認プロセスの標準化と業務効率化を同時に進められます。特に、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用は、属人化の解消や法改正への迅速対応、繁忙期のリソース確保といった課題をまとめて解決できる有効な手段です。
社内の差し戻しを減らし、業務の品質とスピードを両立させたい企業は、BPO導入を検討してみてはいかがでしょうか。