AI・プロセス・人材育成を統合して組織成果の最適解を導き出す
AI・プロセス・人材育成を統合して組織成果の最適解を導き出す
企業にとってコンタクトセンターは、CX(顧客体験)の向上につながる重要な部署です。しかし、人材不足やノウハウの属人化などによってサービスの品質がばらつく悩みを抱えている組織も少なくありません。今回は、HDIオーディタやKCS Principleといった国際資格を持ち、ナレッジマネジメントと最新のAI技術を融合させながら、コンタクトセンターの運用改善から組織全体の目標達成までを一気通貫で支援しているスペシャリストにお話を伺いました。
ーー仕事の内容を教えてください
初鹿野:私の仕事をひと言でいうと「組織が掲げる目的や目標の達成を、多角的な視点から支援すること」です。具体的には、お客様が抱える経営課題や現場の悩みを丁寧にヒアリングし、AIなどの先進的なテクノロジー、効率的な運用プロセス、そしてスタッフの教育という3つの要素を最適に組み合わせて、組織が目指す姿へ辿り着けるよう伴走しています。単にツールを導入して終わりではなく、それが現場でどう機能し、最終的にどう組織の成果に結びつくかという「一気通貫したサポート」を行うことが信条です。
現在の部門に着任した頃にIBMのWatsonというAIシステムが世界的に注目を集め始めていました。そして、「ナレッジこそが重要だ」という認識が広まりつつあり、AIを活用することで新人の早期育成や全体の生産性向上、さらには顧客満足度の向上といった、コンタクトセンターが長年抱えてきた課題を解決できるのではないかという期待が非常に高まっていたのです。しかし、私はコンサルタントのアシスタントとして運用現場の泥臭い部分を支えてきた経験から、現場の重要性を肌で感じており、「システムがあっても運用が回らなければ意味がない」ということを痛感していました。それが、今の私の原点となっています。
現在所属している部署のミッションは、「AI活用を通じて組織の目的を達成しお客様が自走できる環境を作り上げること」です。その中で私の専門性は「豊富なナレッジがあるのに活用しきれていない」というジレンマや、「属人化によって人ごとにパフォーマンスにばらつきがある」といった組織課題を解決することにあり、お客様にとって単なる外部のアドバイザーではなく、応対品質や生産性・パフォーマンスといった現場のKPIに対する責任を共に負って信頼関係を築きながら、「運用のプロ」として深く関わっていくことを大切にしています。
ーーどのような課題を持ったお客様が多いですか?
初鹿野:現在、ご支援しているお客様の多くは、非常に高いコンプライアンス意識と正確性が求められる銀行や証券会社などの金融業界の方々です。組織の規模は、数名の精鋭チームから300名を超える大規模なコンタクトセンターまで非常に幅広く、それぞれのフェーズに応じた課題に向き合っています。
ご相談いただく課題の多くは、共通して3つのパターンに集約されます。1つ目は「人材育成とスキル乖離」で、ベテランの経験を若手に伝承できず、人材の採用が困難になるケースや人材育成が長期化する問題です。2つ目は「ナレッジの属人化」で、特定の人がいないと仕事が回らなくなるリスクや応対品質や対応、パフォ-マンスに偏りが出てしまう問題です。そして3つ目が、これらを解消した先にある「生産性の向上」です。
こうした課題に対する私の最大の強みは、「現場の運用知見」「論理的な仕組み作り(KCS)」「テクノロジー(AI)」という、通常は分断されている3つの要素を高い次元で掛け合わせられることです。ツールには詳しいとか、現理論には詳しいという人は多いと思いますが、それらが現場のオペレーターの一人ひとりの動きにどう影響し、組織全体のロジックとしてどう機能すべきかを統合的にデザインできるところが、私ならではの価値だと自負しています。
現場の納得感を大切にして伴走支援を行う
現場の納得感を大切にして伴走支援を行う
ーープロジェクトはどのように進めていますか?
初鹿野:私たちの支援ステップでは、まず現状を徹底的に可視化するため、インタビューに時間を割き、そこから「ありたい姿」を定義して、その達成度を測るための適切なKPIを設定します。そのうえで、現場のスタッフが「これなら自分の仕事が良くなる」と納得感を持って取り組めるよう、データに基づいた改善サイクルを一緒に回していくプロセスを重視しています。
具体的なプロジェクトの場面では、お客様から「まずはAIを導入したい」というご相談をいただくことが多いのですが、うまくいかないAIプロジェクトには、明確な予兆があります。それは「AIを導入すること自体がゴールになってしまっている」という状態です。ターゲットとする利用者が誰なのか、具体的にどの業務のどの瞬間で使うのかといった「活用シーン」が描けていないプロジェクトは、どんなに高機能なツールを入れても、最終的には現場で使われず、形骸化してしまいます。そのため、それらの点を明確にしてから取り組むことが重要なのです。
過去の100件以上のプロジェクトの経験から、失敗につながるような道筋が見えていますので、そうならないように導くことも、他にない強みだと思います。詳しく紐解いていくと、真の課題はAIを活用する以前の「蓄積されたナレッジの構造や内容」や「評価制度等の従業員管理」「組織の方針と戦略」に起因していることも少なくありません。その際に私は、安易にツールを勧めるのではなく、徹底したインタビューやアセスメントを通じて課題の真因を特定します。そして、その組織にとって本当に必要な「ナレッジの型」を再定義し、現場の方々が迷いなく使いこなせるようになるまで、具体的なトレーニングや運用のルール作りを共に行っていくのです。
ーーどのようなときに、仕事のやりがいを感じますか?
初鹿野:この仕事をしていて最もやりがいを感じるのは、「導入した仕組みが単なる『箱』ではなく、現場の『日常』として定着した」ときです。オペレーターの方々から「今まで探すのに苦労していた情報がすぐに見つかるようになった」「運用が劇的に楽になり、お客様との会話に集中できるようになった」といった生の声をいただいた瞬間の喜びは、何物にも代えられません。
特にAIが現場に真に根付いたと確信できるのは、「取り組みやデータに基づく会話が組織の共通言語になった」ときです。たとえば、「実際の対応で見つけやすくするためにナレッジをこのように修正しよう」といった具体的な議論が、管理者だけでなく現場レベルで自然に交わされるようになると、その組織の成熟度は格段に上がったといえます。
もちろん、そこまでの道のりは平坦ではなく、企業の厳しいセキュリティポリシーの壁や、生成AIのような進化の速い技術をどう安全に取り入れるかといった困難に常に直面しています。そのような場合には、早い段階で関係部署との合意形成を図り、情報の透明性を徹底して高めることで、お客様の不安を一つずつ解消していきます。技術的なスペックも重要ですが、何よりも強く意識しているのは「何のためにこの変革を行うのか」という本質的な目的を見失わないことです。
AIの知識が全くない状態からスペシャリストを目指す方にも、技術そのものを追いかける前に、まずは「目の前の課題を正しく定義し、解決したい目的を明確にする力」を磨くことをお勧めします。技術的な知識は後からいくらでも補完できますし、極端な話、AI自身に聞けば教えてくれますから。しかし、組織の「痛み」を感じ取り、その解決の道筋を描くことは、人間にしかできません。目的が曖昧なまま最新技術に飛びつくことこそが、最も陥りやすい失敗のパターンだといえるでしょう。
導入して終わらせず運用まで支える変革
導入して終わらせず運用まで支える変革
ーーお客様と向き合う際に心がけていることはありますか?
初鹿野:どんなに優れた仕組みであっても、その組織の文化や規模、習熟度、地域性などに合わなければ受け入れられません。そのため、私がお客様をご支援する上で常に心がけているのは、相手の話をしっかり聞いて、その組織の状況に合わせて一緒に考え、伴走していくことです。
また、テクノロジー導入後のアフターフォローも重要と考えています。テクノロジーを入れて終わりではなく、運用が始まってから出てくる細かな課題や、データの変化を一緒に追い続けることで、お客様から「そこまで見てくれるのか」という感謝の言葉をいただけることも、私たちの大きな誇りです。
ナレッジとAIを組み合わせた課題解決の中で、特に印象的だった事例としては、それまで個人の経験則に頼っていた複雑なテクニカルサポートにおいて、かつては1年かかっていた新人の研修期間を2か月に大幅に短縮し、かつベテランと同等の応対品質を短期間で実現できたケースがあります。これは単なるコスト削減ではなく、はたらく人々の心理的な負担を軽減し、組織全体の自信に繋がった素晴らしい変化でした。
ーー今後、どのようなことに挑戦していきたいですか?
初鹿野:現在も日進月歩でAIやAIを活用したテクノロジーは進化しており、セルフサービスもさらに進化していくことが予測されます。しかし、それでも人が対応する領域はなくならないと考えています。その中でナレッジ運用とAIをさらに密接に融合させることで、「人がより高度で、よりクリエイティブな仕事に集中できる環境」を世界中に広げていきたいと考えています。AIが普及するほど、その学習元となるデータの質、つまり人間が蓄積してきたナレッジの価値は相対的に高まっていきます。私たちはアウトソーサーとして様々な業種業界のお問合せ対応をしております。また、私たちがお問合せ対応を実施する際にはKCSという考え方を用いて対応しているからこそ、様々な業種業界のナレッジ資産を保有しております。この無形の資産をどう磨き上げ、AIというエンジンを使って価値に変えていくか。そこに私たちの存在意義があるといえるでしょう。
また、AI活用が当たり前のインフラになる時代が来ても、「運用のプロ」の価値は決して揺らぐことはありません。むしろ、その重要性は増していきます。定型的な回答や情報の検索はAIが圧倒的なスピードでこなしてくれますが、お客様の背後にある複雑な感情を汲み取ることや、個別の事情に配慮した柔軟な提案、そして何より、人と人との心の通ったコミュニケーションは、人間にしか成し得ない領域だからです。
私たちはAIを「人の代替」としてではなく、「人の可能性を拡張するパートナー」として位置づけています。これからも、そうした最新のテクノロジーと現場の熱意を繋ぐ架け橋となり、お客様の課題に対して本質的な解決策を届け続けていくつもりです。