「社会課題を解決するドローン」実現への道
「社会課題を解決するドローン」実現への道
ーー所属部署と、ご自身の役割について教えてください。
私の所属部署は、フィールドDXソリューション部です。2025年度から部署名が変わり、今の名称となりました。社会課題の解決や産業のDX化推進を業務の根幹に据えています。具体的には、ドローンをはじめとした先端技術を社会に実装するための支援を担っており、単なる技術検証にとどまらず、実証から事業化・運用までを視野に入れた活動を展開しています。ドローンに関しては、物流・測量・災害対応・教育分野など、幅広い領域での利活用が進んでいますが、私たちの目標は、あくまでこの技術を「社会に根付かせる」ことです。
私自身の役職はリーダーで、少人数のチームを束ねながら、複数のプロジェクトを同時並行で進めています。役割は大きく2つあり、1つはプロジェクトマネジメント、もう1つは現場での実務対応です。
学生時代から人の役に立つことを心がけており、それを直に感じられる仕事をしたいという思いが、今のキャリアの原点になりました。「社会課題を解決するツール」として注目され始めたドローンに興味を持ち、社内異動における公募制度である「キャリアチャレンジ」を利用して現在の部署に異動したのも、いわゆる技術への憧れではなく、社会課題に寄り添う業務を担えることが理由でした。
地域課題を共に言語化し、伴走型で解決策へと導く
地域課題を共に言語化し、伴走型で解決策へと導く
ーー最も得意とする領域は何ですか?
私が最も得意とするのは「ドローンの実証実験を成功に導くためのマネジメント」です。物流分野に特化し、日本各地で多数の実証に関わってきました。たとえば、長崎の離島間輸送、石川での医薬品輸送、広島での山間地物流、福岡での都市型物流、直近では新潟での地域連携型実証などです。それから、海外製のVTOL機を日本に導入して飛行させるといった先進的な取り組みにも関与しました。まだ国内での前例が少なく、技術的にも法規的にもハードルが高いのですが、挑戦を通じて得た知見は大きな財産になっています。
また、物流以外ではドローンを利用した鳥獣害対策や、ドローン人材を育てる教育・講習などにも携わっています。
また「自治体への伴走型支援」も得意な領域です。ドローン活用においては自治体の関与が欠かせません。しかも、地域によって抱える課題が異なり、人口減少や買い物困難者への対応、災害対策など多岐にわたります。そのため、全国どこにでも導入できる統一的なソリューションというものはなく、それぞれの地域事情を理解したうえで、共に最適な導入方法を考える必要があるのです。私自身、全国各地の自治体と数多く関わり、それぞれの背景を踏まえながらプロジェクトを進める経験を積んできましたが、特に「地域の課題を自治体とともに言語化し、現場に即した形で解決策を構築する」ことに強みを発揮できていると思います。
ーーその専門性を追求する醍醐味は何でしょうか?
「地域住民の生活を直接改善できること」に醍醐味を感じています。たとえば、離島での物流実証では、これまで船や車で何時間もかかっていた物資輸送が、ドローンによって数十分で可能になりました。その結果、高齢者や医療を必要とする方々の生活が大きく改善されます。こうした実感を地域の方から直接聞けることが、何よりも大きなやり甲斐につながっています。また、自治体によって予算規模や優先課題が異なるため、まるでパズルを解くように最適解を探ることも挑戦する価値を感じる部分です。
ーードローンの活用で気をつけていることはありますか?
ドローンは、航空法や電波法など複数の法規制に基づいて運用することが求められるので、法律にも熟知していることが必要です。そして、国土交通省の許可や承認を得るための申請業務がプロジェクトの成否を左右しますが、私は初期の頃から数多くの申請業務を経験しており、部内でもそのノウハウを共有してきました。
また、地域連携では病院や学校、漁業組合、狩猟団体など幅広いステークホルダーと協働する場面が多くあります。医薬品輸送なら病院関係者との調整が求められ、海産物輸送なら漁業組合との連携が必須です。さらに、小中学校で行う特別授業によって、次世代にドローンの可能性を伝える活動もしています。私は、地元の人々が、ドローンを「自分たちの技術」として受け入れて初めて実装が成功すると考えており、そうした地域との連携、社会受容性を高める働きも欠かせない要素です。
過疎地物流・災害対応・持続性――三大課題への挑戦
過疎地物流・災害対応・持続性――三大課題への挑戦
ーーどのようなお客様がどんな課題をお持ちでしょうか?
お客様は地方自治体や民間企業と幅広いです。自治体案件では地域課題解決、民間案件では物流効率化や新サービス創出が大半で、ご担当者の役職としては、自治体の課長・部長クラス、企業の事業責任者クラスの方々とお話しすることもあります。
そして、ドローン物流におけるお客様の課題は大きく分けて3つあります。第一に「過疎地の物流課題」。買い物困難者と呼ばれる方々に物資をいかに届けるか。第二に「災害対応」。緊急時に人材や道路が確保できない中で、物資や情報をどう届けるか。第三に「持続的な運用体制の構築」。一度実証実験をしても、その後の費用や人員確保が課題になります。これらを総合的に考えなければ、真の解決にはつながりません。
ーーそれらの課題に対してどのように向き合い、解決していますか?
技術を押し付けるのではなく、課題をお客様と共に言語化し、現場に合った形で実装することを重視しています。たとえば、漁業組合では「ドローンで何を運べば役に立つか?」を一緒に考え、狩猟団体では「どう飛ばせば害獣の駆除活動の助けになるか?」を話し合うことが大切です。こうして直接の契約相手以外の関係者とも現場で良好な関係を築き、合意形成を重ねることが課題解決の第一歩になります。
そのために心掛けているのが、相手の立場で考えることです。私たちが、ただ「便利だから使ってください」といっても受け入れられません。むしろ「地域の人々にとって本当に役立つのか」を徹底的に考え、会話を重ねます。こうした姿勢が信頼につながり、最終的な成果を生み出すのです。
ーーお客様に喜ばれたエピソードはありますか?
ドローンの社会実装にはさまざまなハードルがありますが、飛行させるだけ・実証実験を成功させるだけであれば、それほど難しいことではありません。資金や人員・時間といったリソースを十二分に投入することで実証実験は比較的容易に実施できます。法規制の問題も、難易度の高い取り組みでは許可承認の取得は難しくなりますが、実証をスケールダウンさせることで許可承認が取得しやすくなるのも事実です。しかし、本当にドローンの社会実装を考えるのであれば、それではいけないと思っています。私は本気で関係者と徹底的に向き合い、課題を解決するために実証の中でやるべきことを明確化して、実装を見据えたコスト削減と、限られたリソースでの実現を目指します。時にはお客様が諦めそうになる時も、最後まで粘り強く、意味のある実証実験を目指して推進します。こうした取り組みの姿勢で牽引できるからこそ、実証実験が成功した際にはお客様が非常に喜んでくれるとともに「髙木さんがいなければ成功しなかった」「髙木さんは陰のMVPです」といったお言葉をいただくことができました。これらの経験は、今でも私にとって非常に良い糧となっています。
また、小中学校で行った特別授業で印象的なことがありました。ドローンを使って模擬的に物資を運ぶ実演を行った際、子どもたちから「将来、この技術を使ってはたらいてみたい」といわれたのです。直接的な業務成果ではないのですが、地域の理解や次世代への啓蒙につながる活動が、実は社会実装の大きな基盤になっていると改めて実感しました。
人と地域をつなぐドローンの社会実装を目指して
人と地域をつなぐドローンの社会実装を目指して
ーーお客様の課題に対してどのような価値を提供したいと考えていますか?
技術そのものの導入ではなく、「地域社会の仕組みづくり」を支援する価値を提供したいです。そして、物流や災害対応にとどまらず、教育、地域産業の振興など、ドローンを切り口に幅広い領域で地域の持続可能性に寄与したいと考えています。その観点から目指しているのは、お客様にとって「課題解決の伴走者」として信頼される存在になることです。
ーー今後、どのようなことに挑戦していきたいですか。
ドローンを扱う今の仕事は、地方創生や地域活性化に貢献するという理想に近づくための重要なステップです。現状ではまだ成果は部分的で、社会全体に影響を与えるほどの規模には至っていませんが、確実に前進し核心に近づいている段階だと捉えています。
理想を実現するための挑戦は、大きく2つあり、1つめは「地方創生の実効性を高めること」です。ドローンによる輸送や防災の実証を成功させるだけでなく、それを継続的な仕組みに発展させ、地域の生活を変えるレベルまで実現したいと考えています。もう1つは「組織の次世代育成」です。これまで個人で培ったノウハウを標準化し、若い世代に引き継ぐことで、組織として持続的に力を発揮できる体制を築きたいと思っています。特に、単独で地方に出張して関係構築を進めるというような経験は多くある一方で、再現性が低く、次世代に引き継ぐことが難しい部分です。だからこそ、その知見を形式知に落とし込み、誰でも活用できる仕組みに整えることに注力しています。そして、最終的には「人と地域をつなぐドローンの社会実装」を実現することが、私の目標です。