コールセンターの応答率に関する基礎知識
まずはコールセンターの応答率について、意味や計算方法、理想の値、他のKPIとの関連性を解説していきます。
1-1. 応答率は顧客満足度に直結するKPI
1-1. 応答率は顧客満足度に直結するKPI
コールセンターにおける応答率とは、入電数に対してオペレーターが対応したコール数の割合を指します。分かりやすくいえば、応答率はコールセンターへの「つながりやすさ」を表す指標です。
低い応答率のコールセンターは電話がつながりにくく、お客様を待たせる時間が長くなります。電話をかけても後ほどかけ直すよう自動音声が流れると、困りごとをすぐに解決できず、お客様に不満が溜まってしまうでしょう。
一方、高い応答率のコールセンターはすぐに電話がつながるので、お客様は待つ必要がありません。
お客様が迅速に問題を解決できることは、ブランドへの信頼感や再利用意欲に直結します。しかし、電話が繋がりにくいという経験は、お客様のサービス離脱を促すだけでなく、企業イメージ全体に悪影響を及ぼす可能性があります。特に現代のように情報が瞬時に共有される時代では、ネガティブな顧客体験はSNSなどを通じてあっという間に広まり、企業の評判を大きく損ねる注意が必要です。
困りごとの解決など目的を持って電話をかけるお客様は、「電話のつながりやすさ」を当然のように期待しています。応答できなければお客様のニーズを満たせず、電話をかけるのをあきらめてしまい、結果的に顧客満足度の低下につながってしまうのです。
つまり、応答率は顧客満足度に直結する重要なKPIといえます。コールセンターの応答率が低いとお客様に不満が生じてサービスを離脱するリスクがあるので、早急に改善する必要があるでしょう。
1-2. 応答率の計算の仕方
1-2. 応答率の計算の仕方
応答率の計算式は、次のとおりです。
応答率(%)=応答件数÷入電件数×100
たとえば、1ヶ月の入電件数が1,000件で、応答件数が800件であれば、月単位の応答率は下記のとおり80%となります。
80%=800件÷1,000件×100
応答率は1日の時間帯によって変動があるだけでなく、週単位、月単位、年単位でも変わってきますので、それぞれ算出して傾向を見ることが大切です。
この傾向を分析することで、特定の曜日や時間帯に非常に多くの入電がある、あるいはオペレーターの稼働率が一時的に低下しているなどの具体的な問題点を特定する手助けとなります。
これにより、より適正な人員配置やシフト調整が可能になり、効率的な運営につなげることができます。
1-3. 理想の応答率は90%
1-3. 理想の応答率は90%
コールセンターの業種によって異なりますが、理想の応答率は90%といわれており、実際に多くのコールセンターで90%を目標として掲げています。
応答率が90%のコールセンターでは、お客様は待たされるストレスをほとんど感じることがなく、顧客満足度の向上が期待できます。応答率が90%に達すると、入電数が比較的多いとされる「午前中〜昼」の時間帯以外では、100%に近い割合で対応できていると考えられるからです。
応答率90%を目指すには、人員確保や体制整備が不可欠であるため、容易に達成できるKPIとは決していえません。企業は目標達成に向け、オペレーターの確保や教育、管理体制の構築など、多くの努力が必要となるでしょう。
これには、継続的な研修によるスキルアップ支援や、モチベーションを維持するための公正な評価制度の導入なども含まれます。
1-4. 他のKPI(SL、ASA)との関係性
1-4. 他のKPI(SL、ASA)との関係性
応答率、サービスレベル(SL)、平均応答速度(ASA)の計算式 | |
---|---|
応答率 | 応答件数 ÷ 入電件数 × 100 |
サービスレベル(SL) | 設定時間内の応答件数 ÷ 入電件数 × 100 |
平均応答速度(ASA) | 応答までの時間の合計 ÷ 入電件数 |
コールセンターの「つながりやすさ」を向上させるために、応答率と合わせて考えたい指標が、サービスレベル(SL)と平均応答速度(ASA)です。
コールセンターにおけるサービスレベル(SL)とは、一定の時間内でオペレーターが対応できた割合です。
たとえばサービスレベルの目標を「着信から20秒以内で80%」と設定したとしましょう。これは、「応答率」に「応答までの時間制限」を設けたKPIです。
入電件数が1,000件で応対件数が800件の「応答率」は80%ですが、応答を開始するまでに20秒以上かかっていれば、「サービスレベル」は80%以下となってしまいます。つまり、「着信から20秒以内で80%」というKPIは達成できていない状態です。
これは、電話が「つながった」としても、お客様が待機時間に不満を感じる可能性があることを示しています。サービスレベルを高く保つことは、お客様のストレスを軽減し、よりポジティブな通話体験を提供する上で欠かせません。
次に平均応答速度(ASA)とは、お客様が電話をかけてオペレーターにつながるまでにかかった時間の平均を示す指標です。平均応答速度が長ければ、お客様を待たせる時間が長くなります。
たとえば、入電件数が1,000件、応答までにかかった時間の合計が20,000秒なら、平均応答速度は20秒です。
このASAが長くなる主な原因の一つに、オペレーターの稼働率と待機時間のバランスが崩れていることが挙げられます。オペレーターが通話中や後処理で占有されている時間が長いと、次の通話を受けられず、結果としてASAが上昇します。
お客様をどれくらい待たせているか正解に把握するには、応答率だけでなく、サービスレベル(SL)や平均応答速度(ASA)の目標も設定し、管理するとよいでしょう。
これらの指標を複合的に分析することで、コールセンターの運営におけるボトルネックを特定し、より効果的な改善策を行うことができます。
コールセンターにおける応答率ごとの課題
次に、理想の応答率を90%と設定した場合の、コールセンターにおける応答率ごとの課題について解説します。
課題(1)【100%】無駄は生じていないか
課題(1)【100%】無駄は生じていないか
応答率が100%のコールセンターは、すべての入電に対応できている状態です。お客様を待たせることがないため、顧客満足度は高いといえるでしょう。
しかし、お客様のニーズは満たせていたとしても、コールセンター内で問題が生じていることは考えられます。応答率100%を維持しているコールセンターでは、オペレーターが稼働せず待機している状況になって可能性があるからです。
これは、リソースが過剰に配置されていて、不必要な人件費が発生していることを意味します。この状態は、短期的にはお客様にとって良いかもしれませんが、長期的には企業の運営コストを押し上げ、ひいてはサービス価格に反映されかねません。
稼働していないオペレーターを抱え続けるのは、無駄なコストを発生させているといえます。そのため、入電数をあらかじめ予測し、減少するタイミングでオペレーターの数を減らすなど、人員配置の最適化を検討する必要があるでしょう。
これは、単にオペレーターの数を減らすだけでなく、閑散期のスキルアップ研修や、通話以外の業務の占有率を高めるなど、多角的な視点での適正化が求められます。
課題(2)【90~80%】顧客満足度が低下しはじめていないか
課題(2)【90~80%】顧客満足度が低下しはじめていないか
応答率が90〜80%未満のコールセンターでは、入電数が多い時間帯で取りこぼしが生じるようになります。つまり、電話が話し中でつながらないなど「放棄呼(ほうきこ)」が増加した状態です。
応答率が80%に近づくと、時間帯を変えてもオペレーターと話せず「何度かけても保留時間が長過ぎて待ちきれない」状況が起こりやすくなります。その結果、顧客満足度が低下しはじめるのです。また、オペレーター側は次から次へと対応に追われ、業務負荷が重くなる傾向にあります。
低い応答率を放置すると顧客満足度が低下するだけでなく、新規案件を獲得する機会の損失にもつながりかねません。企業は早急に原因を突き止め、改善策を講じる必要があるでしょう。
課題(3)【80%以下】クレームが生じ始めていないか
課題(3)【80%以下】クレームが生じ始めていないか
応答率が80%を切ってしまうと、ほとんどの時間帯で電話が鳴りやまない状態となります。お客様の待ち時間はさらに長くなり、「電話がつながらない」とクレームが増えてしまうでしょう。
応答率が80%以下のコールセンターでは、お客様からの不満が強くなるだけでなく、オペレーターのストレスも大きくなります。通常業務だけでなくクレーム対応する機会が増え、精神的な疲労が重なる点が課題です。
抱えきれないほどの業務量やストレスが生じると、離職や休職につながって応答率はさらに低下する、という悪循環に陥るリスクがあるでしょう。
そのままでは企業としての信頼性が低下してしまいますので、人員増加や業務改善に取り組むことが急務です。
コールセンターの応答率が低下する原因
次に、コールセンターの応答率が低下する主な原因について解説します。これらの原因を正確に把握することが、効果的な対策を行うための第一歩となります。
原因(1)オペレーターの人手不足
原因(1)オペレーターの人手不足
そもそもオペレーターの数が不足していると、応答率が低下してしまいます。入電数が増加しているにもかかわらず必要な人員を確保できなければ、放棄呼の数が増えてしまうので当然です。
特に、特定の時間帯にコールが集中する場合、その時間帯の稼働率が急激に上昇し、適切な人員が確保されていないと、待機時間が大幅に延びてしまいます。
さらに、オペレーターが稼働していても休憩中などで離席しており対応できなければ、応答率は低下します。また、「応答内容の記録」といった後処理に追われている場合も、電話を取ることができません。
このように「オペレーター不足」とひと口にいってもさまざまな原因がありますので、オペレーターの管理方法やワークフロー、業務効率に問題がないか等、人員増加に踏み切る前に見極めておくことが重要です。
原因(2)オペレーターのスキルにバラつきがある
原因(2)オペレーターのスキルにバラつきがある
オペレーターによるスキルのバラつきも、コールセンターの応答率が低下する原因となり得ます。経験の浅いオペレーターがアサインされると、1件にかける対応時間が長くなり、他のコールを取れなくなるからです。
新人オペレーターは、お客様からの質問に対する回答を検索する時間や、適切な対応手順を確認する時間が長くなる傾向があります。これにより、結果的に通話時間が延び、全体の稼働率は上がっても、処理できるコール数が減少してしまいます。
ベテランのオペレーターのみを配置できれば改善されますが、現実的には難しいものです。そこで、新人オペレーターが必要なスキルや知識を身につけられるよう、研修の実施が重要になってきます。
これにはロールプレイングやOJT(On-the-Job Training)の強化、そしてナレッジベースの活用促進などが含まれます。
また、入電数がピークとなる時間帯に新人のみが配置されないよう、シフトも適切に管理する必要があります。人員配置を最適化すれば、たとえオペレーターのスキルにバラつきがあったとしても、応答率の著しい低下を防止することができるでしょう。
原因(3)対応できる問い合わせ数が少ない
原因(3)対応できる問い合わせ数が少ない
対応できる問い合わせ数が減少すると、当然ながら応答率も低下します。その原因として、「平均処理時間(AHT)」が長い点があげられます。
「平均処理時間(AHT)」とは、オペレーターが1件あたりにかける平均対応時間です。AHTが長くなると、オペレーターが稼働時間内に対応できる件数が減少し、応答率が悪化してしまうのです。
AHTが長くなる原因には、「お客様からの質問への回答をオペレーターが見つけられない」「丁寧に話し過ぎるあまり内容が分かりにくい」「入力業務など後処理に時間を要する」などがあります。
特に、情報検索に時間がかかる場合は、ナレッジマネジメントシステムの不備が考えられます。
できる限りAHTを短くし、効率的に対応できるよう業務整備やオペレーターへの教育が重要になってくるといえるでしょう。
これは、スクリプトの最適化、FAQの充実、後処理業務の自動化、そしてオペレーターの通話スキル向上研修など、多岐にわたるアプローチを行うことで実現可能です。
AHTについて詳細を知りたい方は下記のコラムも併せてご参照ください
※参考コラム:「AHTとは?データで分かる効率的なコールセンター改善策を4つ紹介」
原因(4)入電数の急激な増加
原因(4)入電数の急激な増加
テレビ広告やキャンペーン、SNSで話題になり入電数が急激に増加した場合、既存体制では対応できず応答率の低下につながります。また、急なトラブルでサービスが使用できなくなるなど、緊急時も入電件数が急増し対応しきれなくなるでしょう。
このようなケースでは、あらかじめ配置したオペレーターのキャパシティを超え、結果的に応答率が著しくダウンしてしまいます。そこで、広告などの影響で入電数の増加が予測できる場合には、増加率を予測してオペレーター数を増員しておくなどの準備が必要です。
緊急事態で入電数が急増してしまい、オペレーターの増員が難しい場合には、ホームページやSNSを使って状況を説明するなどの別の対策を事前に検討しておきましょう。
コールセンターの応答率を上げる方法
では次に、コールセンターの応答率を上げる方法について3点ほど挙げて解説します。
方法(1)オペレーターの人員を増加する
方法(1)オペレーターの人員を増加する
十分な数のオペレーターを配置できれば、応答率は向上します。応答率はコールセンターの「つながりやすさ」を示しますので、オペレーターの数が足りていれば取りこぼしがなくなるでしょう。
しかし、ただ人員を増加すればいいというわけではありません。コールセンターで応答品質や顧客満足度を向上させるには、応答率がすべてではないからです。
顧客の要望に応える会話力、商品やサービスの知識、後処理にかかるスピードなど、さまざまな能力がオペレーターには求められます。つまり、「適切なスキルを持ち、意欲の高いオペレーター」の数を増やすことが重要なのです。
そのためには、採用プロセスの見直しや、質の高い研修プログラムの提供が不可欠です。
方法(2)FAQを作成する
方法(2)FAQを作成する
コールセンターの応答率を改善するには、FAQの作成が有効です。
FAQにはコールセンターに寄せられる「よくある質問」がまとめて記載されています。ホームページ上にFAQを公開しておけば、顧客が疑問を自己解決でき、コールセンターへの入電件数を抑えられる効果があります。
入電件数が減少すると、オペレーターに余裕ができて対応できる件数が増えるため、応答率も向上するでしょう。
FAQは24時間365日利用可能なチャネルであり、顧客の利便性向上にも大きく貢献します。
方法(3)チャットボットを導入する
方法(3)チャットボットを導入する
ホームページやECサイトにチャットボットを導入するのも、応答率の改善に役立ちます。
顧客が疑問点をチャットボットにテキスト入力すると、AIが自動回答したり必要なサイトを提示したりして、自己解決を促します。
チャットボットのメリットは、24時間対応できる点です。コールセンターに電話がつながらない時間帯も機能しますので、入電数の減少だけでなく、顧客満足度の向上にもつながります。
チャットボットは、特に営業時間外やオペレーターの占有率が高くなる時間帯において、非常に有効なツールとなります。
コールセンターにおける応答率の改善ポイント
続いて、コールセンターにおける応答率の改善ポイントについて、2点を挙げて解説します。
ポイント(1)ナレッジを有効に活用する
ポイント(1)ナレッジを有効に活用する
先ほどもFAQの作成についてお伝えしましたが、コールセンターでナレッジを有効活用すると、応答率の改善につながります。
ナレッジとはこれまで社内に蓄積された知識やノウハウのことで、他のメンバーやお客様と共有できる環境を築くことが重要です。コールセンターでは、ナレッジをFAQやチャットボットにまとめると、お客様に自己解決を促すことになり、問い合わせ件数を削減することができます。
問い合わせ件数が減ると、対応後の事後処理やエスカレーションの時間をかけずに済み、業務効率化や応答率の向上につながるでしょう。さらに、社内研修で活用するとオペレーターのスキルアップにも役立ちます。
また、新人が早期に知識を習得し、通話時間を短縮できるようになることで、全体の待機時間も削減されます。
以上のようにナレッジを活用することは、ナレッジマネジメントと呼ばれています。
ナレッジマネジメントにご興味をお持ちの場合、下記の記事に詳しくまとめていますので、ぜひご覧ください。
※参考コラム:「ナレッジマネジメントの意味や手法、注意点について解説」
ポイント(2)コールセンター代行サービスを利用する
ポイント(2)コールセンター代行サービスを利用する
コールセンターの代行サービスを活用することも、応答率の改善には効果的です。オペレーター業務に関するノウハウや知識を持った専門家に業務を依頼できるため、応答率だけでなく顧客満足度の向上も期待できます。
これにより、自社でゼロから人材を育成するコストと時間を削減しつつ、質の高いサービスを迅速に提供することが可能になります。
コールセンターは離職率が高い傾向にあり、優秀な人材の確保は容易ではありません。コールセンター代行サービスを利用すれば、人員増強に加え優秀なオペレーターの配置が可能になりますので、検討してみても良いかもしれません。
代行サービスは、急な入電数増加時にも柔軟に対応できるため、突発的な稼働率の変動にも適正に対応し、待機時間を最小限に抑えることができます。
高い応対品質が実現できますので、企業担当者は商品管理や改善業務などのコア業務に集中できるでしょう。
コールセンターの応答率アップならパーソルビジネスプロセスデザインへ
コールセンターの応答率アップには、人員強化だけでなくナレッジマネジメントが不可欠といえます。日々の問い合わせから蓄積した内容をまとめ、FAQやチャットボットに活用することでお客様の自己解決率が上昇し、入電件数が減少するからです。
パーソルビジネスプロセスデザインは、「カスタマーセンター・サポートセンター」の代行サービスをご提供しています。
近年、米国を中心に重要視されている「KCS(ナレッジセンターサービス)」という手法を用いているのが特徴で、効果的にナレッジマネジメントをサポートいたします。
「KCS(ナレッジセンターサービス)」という手法の詳細については、下記のコラムをご覧くださいませ。
※参考コラム:「KCSとは?KCS運用でコールセンターがどう変わるかを徹底解説!」
パーソルビジネスプロセスデザインの「カスタマーセンター・サポートセンター」の詳細につきましては、「関連サービス」をご確認いただき、ご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。