KCSを動画で解説
こちらの動画では、KCSの基本概念、導入前後のセンター運営の違い、導入によって得られるメリットをコンパクトに解説しています。
・KCSとは
・KCSの特長
・導入しているコールセンターと導入していないコールセンターの比較
・導入のメリットや効果
動画で全体像をつかんでいただいたうえで、本記事では「なぜKCSが必要なのか」「ナレッジとFAQは何が違うのか」「現場に定着させるには何が必要か」といった実務観点を、次章以降で掘り下げていきます。
KCSとは?ナレッジセンターサービスの意味
KCSとは「Knowledge-Centered Service(ナレッジセンターサービス)」の略称で、問い合わせ対応の中でナレッジを「捉える・構造化する・再利用する・改善する」というサイクルを回し、組織の問題解決力を高めるナレッジマネジメント手法です。
従来のナレッジ管理には「作成後に更新されないまま時間が経過し、製品や業務の変化に追いつけなくなることがある」という構造的な限界がありました。KCSはこの課題に対して、業務フロー自体にナレッジ運用を組み込むことで、使われるほど品質が高まる仕組みを実現します。
2026年には、AIや自動化技術との統合を前提とした「Knowledge-Centered Success(ナレッジセンタード・サクセス)」への進化が提唱されており、現在ではサービス部門に留まらず「企業全体の成功を支えるフレームワーク」として位置づけられつつあります。
KCSは、コンタクトセンター発祥でありながら、知識労働を伴うさまざまな業務領域に応用可能な運用モデルへと発展してきた手法だといえます。
※参考:Consortium for Service Innovation「Knowledge-Centered Success Training and Certification」
※参考:HDI-Japan「KCS(ナレッジ・センター・サービス)解説」
KCSはツールではなくナレッジ運用の考え方
KCSはソフトウェアやツールではなく、ナレッジ運用の考え方(方法論)です。導入検討時に特に誤解されやすいポイントなので、最初に押さえておく必要があります。
「ツール導入=KCS化」と誤解されるのは、市販のFAQシステムやITSMツールの多くが「ナレッジ管理機能」を標準搭載しているためです。しかし、これらの機能を有効化しただけではKCS運用にはなりません。
高機能なナレッジベースを導入しても、「誰が」「いつ」「どのように」ナレッジを作成・更新するかという運用プロセスが業務フローに組み込まれない限り、情報はすぐに陳腐化して現場で使われなくなってしまいます。実際、「せっかくシステムを入れたのにFAQが更新されない」というご相談は少なくありません。
KCSが提供するのは、業務フローの中にナレッジの検索・作成・再利用・改善を組み込む仕組みです。ツールはあくまで運用を支える器であり、運用設計そのものがKCSの本体だとご理解ください。
KCSと従来型ナレッジマネジメントの違い
KCSと従来型ナレッジマネジメントの違い
KCSと従来型のナレッジマネジメントとでは、運用思想そのものが異なります。両者の違いを整理すると次のとおりです。
| 比較項目 | 従来型ナレッジマネジメント | KCS |
|---|---|---|
| ナレッジ作成 | 専任担当者が事前に想定して作成 | 現場担当者が問い合わせ対応の中で作成 |
| 更新タイミング | 定期棚卸し・年次一斉更新が中心 | 利用時に随時修正・追記 |
| 情報の鮮度 | 現場の変化に追いつきにくい | 利用時に更新されるため、鮮度を維持しやすい |
| 活用方法 | 参照(一方向) | 検索・再利用・改善(循環型) |
| 主な課題 | 更新負荷、形骸化、利用率低下 | 定着、品質管理、評価設計 |
| 適する業務 | 変更が少ない固定業務 | 変化・複雑化しやすい問い合わせ業務 |
この違いを一言で表すと、「ジャスト・イン・ケース型」対「ジャスト・イン・タイム型」という発想の差です。
従来型は「念のため(Just-in-case)」あらゆる想定質問を事前にマニュアル化しようとしますが、想定外の問い合わせが日常的に発生するため、事前準備は陳腐化していきます。これに対してKCSは「必要な時に必要なだけ(Just-in-time)」ナレッジを生み出す発想です。
問い合わせを受けたその瞬間に検索し、存在しなければ対応過程で作成する。顧客が実際に求めた情報が需要駆動で蓄積されるため、無駄なく現場で役立つナレッジベースが構築されていきます。
KCSが必要になってきた背景
時代とともにコールセンターが社会に浸透していくなかで、サポート業界では次のような課題が見受けられるようになっていきました。
- ビジネスモデルの複雑化に伴い、発生する問題も複雑さを増している
- サービスに対する顧客ニーズが高まり、問題解決率を向上させる必要がある
- コールセンターやヘルプデスクに割り当てられる予算が減少している
- 求められる業務範囲が拡大していながらも、トレーニングに十分な時間を確保しにくい
例えば、ある製造業のヘルプデスクでは、製品ラインナップの拡大に教育時間が追いつかず、新人が独り立ちするまでの期間が年々長期化する傾向がありました。個人の記憶や暗黙知に頼る限り、この構造は変わりにくいと考えられます。
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こうした課題が散見されるようになり、「ナレッジマネジメントのレベルを高めなければいけない」という機運が高まっていったのです。
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具体的には、ナレッジを「ただの記録」として見るのではなく、「有用なコンテンツ」に昇華させるような仕組みや考え方が必要になりました。それが、KCSが必要になってきた背景のひとつといえます。
KCSは10年の歳月を経て生み出された
前述した背景があるなか、米国の非営利団体であるConsortium for Service Innovation(サービスイノベーションコンソーシアム)が10年に及ぶ調査と実践を通じて発表したのが、「KCS(ナレッジセンターサービス)」でした。
「サービスイノベーションコンソーシアム」という団体には、Cisco・HP・Microsoft・Oracle・Sun・Symantecなど多くの先進的なIT企業が参画しており、「サポートセンターのナレッジをより有効に問題解決につなげるにはどうすれば良いか」について各企業で議論されてきた“結晶”が形になったといえます。
この“結晶”ともいえる手法が米国において多くの企業に取り入れられると、コールセンターやヘルプデスクのオペレーターからマネジメント層に至るまで幅広く利用され、投資対効果が確認されていきました。
KCSの手法について概略をお伝えすると、「ナレッジを捉え、構造化し、再利用し、改善する」という一連の動きです。問題解決のために何かを追加するのではなく、“問題を解決する方法そのもの”に近い考え方といえるでしょう。
具体的な手法については本記事の後半で解説していきます。
KCSにおけるナレッジとは
KCSで扱う「ナレッジ」は、通常の対応記録やFAQとは異なる概念です。
KCSにおけるナレッジとは、単なる通話履歴や網羅的な説明文ではなく、実務で再利用できる形に構造化されたソリューション(解決策)を指します。情報を蓄えることが目的ではなく、次に同じ問題に直面した担当者が即座に活用できる形にすることが目的です。
問い合わせ対応で得た知見をナレッジとして蓄積する
時系列で書かれた対応ログは、その担当者以外にとって検索性・再利用性が低くなりやすいため、KCSでは対応中に得た情報を次の要素に分解して蓄積します。
| 問題(Issue) | 顧客が何に困っているのか。顧客自身の表現で捉える |
|---|---|
| 環境(Environment) | 製品名、モデル、OSバージョンなどの客観的事実 |
| 解決策(Resolution) | 具体的な解決手順や回答内容 |
このように事象単位(ソリューション)で切り出すことで、検索性が飛躍的に高まり、他のメンバーが即座に再利用できる形になります。ナレッジは「書き残す」ものではなく「使える状態に整える」ものだと捉え直してください。
KCSではナレッジを再利用しながら改善する
KCSの重要な原則の一つに、「Reuse is review(再利用はレビューである)」という考え方があります。
これは、ナレッジを一度作成して「完成」とせず、利用するたびに検証・改善する運用ルールです。誤りや不足、より簡単な代替手順を見つけた利用者は、その場で修正するか、修正権限を持つ担当者へ「フラグ立て」を行います。これを「Flag it or fix it(フラグを立てるか、修正するか)」と呼びます。
一般的に、ナレッジの最大80%は、ほとんど、または一度も再利用されません。一方、問い合わせの約80%は、ナレッジベースの約20%の記事で解決される傾向があります。
そのためKCSでは、ナレッジベース全体を一律に見直すのではなく、実際に再利用された記事を利用時に確認・改善します。これにより、需要の高いナレッジへ改善の機会が自然に集まり、効率的に品質を高められます。
ただし、どのナレッジが将来利用されるかは事前に予測できません。問い合わせへの対応で得た知見はまず蓄積し、その後の再利用を通じて改善していくことが重要です。
KCSを活用することで期待できる効果
KCSという手法に対する“期待効果”としては、次のようなものが挙げられます。
効果(1)一次解決率(FCR)の向上と応対品質の平準化
検索によって常に最新かつ検証済みの解決策を引き出せるため、誰が対応しても正しい回答を提供できるようになります。これにより、顧客を保留で待たせたり、後日折り返したりするケースが減少し、一次解決率(FCR)が劇的に向上します。
効果(2)エスカレーションの削減と業務効率化
従来であればSV(スーパーバイザー)や上位部門へエスカレーションしていた複雑な案件でも、ナレッジベースに過去の解決策が蓄積されていれば、一次受けのオペレーター自身で解決可能となります。これにより、センター全体の生産性が向上します。
効果(3)教育工数の削減と定着率の改善
新人のオペレーターであっても、巨大なナレッジベースという「信頼できる知識の基盤」があることで、暗記に頼る必要がなくなり、実稼働までのトレーニング期間を大幅に圧縮できます。また、業務上の不安やストレスが軽減されるため、従業員満足度(ES)の向上と離職率の低下に寄与します。
効果(4)ROI(費用対効果)の向上
重複する調査作業の排除、エスカレーション工数の削減、教育コストの低減により、最終的な運営コストが抑制され、高い投資対効果(ROI)をもたらします。
このように多くの期待が集まるKCSですが、本来の狙いとゴールはシンプルで、「見つけやすく使いやすいコンテンツを作り出すこと」です。つまり、コンテンツこそが最も重要となるのです。
実際、KCSでは「コールログ」と呼ばれる対応記録を「ただの記録」として扱うのではなく、「コンテンツ」や「ソリューション」と呼んでいます。
KCSのコアになるものとは何か
KCSモデルの中心にあるのは、前述したとおりナレッジでありコンテンツです。
KCSの手法の中でコンテンツを捉え、構造化し、再利用していくことが重要になります。そのため、KCSの手法としてのゴールは、「見つけやすく使いやすいナレッジ記述」を作成し、コンテンツとして発展させていくことです。
その一連の流れをKCSでは「ダブルループプロセス」と呼びますが、その「ダブルループプロセス」というのは、SOLVE(解決)ループとEVOLVE(発展)ループの2つのループを指します。
※参考: Consortium for Service Innovation「The Solve Loop」
2つのループについての説明は、下記の通りです。
- SOLVE(解決)ループ……「個人レベルでの問題解決」におけるワークフローです
- EVOLVE(発展)ループ……「組織レベルでの品質向上プロセス」を示しています
個人レベルと組織レベルの2つのプロセスを経て、ナレッジをコンテンツへと発展させていくのがダブルループプロセスです。
KCSの「SOLVE」ループ
プロセス(1) 「Capture」で問題を捉える
「SOLVE」ループの1つ目のプロセスは「Capture」で、日本語では「ナレッジを捉える」と訳されます。ここでは、電話対応の中で「問題」を捉えていきます。
具体的には、お客さまが話される内容の中から、「お客さまの見方」で「お客さまの表現」で問題を捉えていきます。新規にゼロから作り出すのではなく、対応処理の中でコンテンツを捉えることがKCSの基本となります。
プロセス(2) 「Structure」でナレッジを組み立てる
2つ目のプロセスは、「Structure」で、日本語では「構造化する」と訳されます。ここではナレッジを組み立てていきます。ナレッジのもととなる従来のインシデントは、いわゆる「コール記録」でした。
例えば、次のような形です。
「顧客からUSB外付けHDDの接続時のトラブルについてコールあり。リブートしても外付けHDDを認識しないとのこと。バッファロー社のHDDを使用しているらしいが当社を通じて購入したものではない。内蔵HDDの動作には問題がないことを確認済み。これから会議なので明日の午前中に電話が欲しいとの要望。外付けHDDについて田中さんに確認済み。Win10で使用するには最新のドライバーをバッファロー社のサイトからダウンロードする必要があるとのこと」
これが、KCSでいう「ソリューション」になると、次のような記述をします。
| 問題 | バッファローUSB外付けHDDのセットアップで認識しない |
|---|---|
| 環境 | バッファロー USB外付けHDD Drive Station HD-LC3 OS:Windows 10 home |
| 解決策 | バッファロー社公式サイトよりHDD最新ドライバーをダウンロード http://buffalo.jp/download/driver/xxxxxx |
ソリューションのポイントとしては、前後の状況や顧客視点を必ず入れることです。例えば「問題」では、お客さまが何を困っているのかを書きます。「環境」では、製品・モデル・バージョンなどの事実を書きます。そして「解決策」では、どうやって問題を解決するかを書きます。
記録するソリューションは、必ずしも文章である必要はありません。ただし、必要な言葉や単語を網羅していることが重要です。簡略化することで「状況」は「ソリューション」になり、ナレッジとしての検索性が高まり、使いやすくなります。
プロセス(3) 「Reuse」でソリューションを肉付けする
3つ目のプロセスは「Reuse」で、日本語では「再利用する」と訳されます。ここでは、検索をしてナレッジを作り出していきます。
検索という行為は、ナレッジベースの初期のソリューションを作り出す仕組みになります。つまり、ソリューションが見つかっていない段階でも、問題だけを記録しておきます。そのナレッジベースを使いながら、担当者は解決策を追記します。
この問題記録と解決記録のプロセスが繰り返されることが、問題解決の基礎として「ナレッジベースを使う習慣化につながる」と考えられています。そうしてナレッジを使いながら、新しい情報や足りなかった情報が次々に加筆され、ソリューションが肉付けされていきます。
プロセス(4) 「Improve」で品質を高めていく
4つ目のプロセスは「Improve」で、日本語では「改善する」と訳されます。ここでは、ナレッジを利用しながら、正確性や検索性を高めていきます。
先ほどの3つ目のプロセスでは、検索して情報を追記する、ということでしたが、この4つ目のプロセスでは、さらに「見つけやすくするために修正する」「不正確・不明確なソリューションを発見したらフラグを立てるか修正する」というように、“ブラッシュアップ”するプロセスです。
一般的に、ナレッジの最大80%は、ほとんど、または一度も再利用されません。一方、問い合わせの約80%は、ナレッジベースの約20%の記事で解決される傾向があります。
そのため、すべての記事を一律に見直すのではなく、実際に再利用された記事を利用時に確認・改善することが効果的です。利用頻度の高いナレッジほど改善の機会が増え、実際の問い合わせに即した内容へ更新されていきます。
「SOLVE」ループでのポイントは、「今までこうだったから、こうすべきだ」と固定観念を持たず、柔軟な発想でナレッジに向き合うことです。そして、自分ひとりでソリューションを探すだけではなく、メンバーに聞いたりディスカッションしたりする場を設けて「ナレッジの集約」を図っていくことです。
もし解決に至らない場合でも、「解決できませんでした」で終わることなく、何か代替案を提供できるよう知恵を絞ることを心がけていきましょう。
KCSの「EVOLVE」ループ
プロセス(1) 「Content Health」でインフラを整える
コンテンツの状態を意識しながら組織的にも定着させていくためには、具体的には、「ツール」が役立ちます。例えばログを入力することで、それがソリューションに簡単に変換できるようなツールなどを導入し、ソリューションを強化していきます。
また、サポートサイトやナレッジ用のデータサーバーなど、システム的な観点からもKCSを進めていけるようなインフラをしっかり検討しましょう。
プロセス(2) 「Process Integration」で徐々にコンテンツの利用を拡大する
利用拡大を図っていくためには、まずコンテンツスタンダードともいうべき「基準」を作る必要があります。どのようなコンテンツが必要なのか、そしてどのような品質の基準にすべきか、ということで「良いソリューションの例」を明示していきます。
また、どのような人を対象とし、誰が利用するソリューションなのかを分類する必要があります。また、記述表現の基準も設定する必要があります。
基準や対象者をしっかりと設定したうえで、次にコンテンツの利用拡大を図っていきます。小規模に使いはじめてから徐々に大きなグループで使用していくことが利用拡大のポイントです。
例えば2次窓口だけで利用していたソリューションが一定の利用回数を超えたら1次窓口にも開放し、さらに利用されるようであれば一般向けに書き直してお客さま向けにWeb上で公開する、というような流れです。
さらに、定期的にソリューションのブラッシュアップも図る必要がありますが、既存のナレッジベースからランダムにソリューションを抽出して品質の採点をする、などの活動も効果的です。作成者に対して定期的にフィードバックすることで、活性化がさらに促されます。
プロセス(3) 「Performance Assessment」で実績を評価する
例えば、ここまでのプロセスに関して理解し実践できているかどうかを『KCS習熟度モデル』として体系立てて、「KCSⅠ」「KCSⅡ」「KCSコーチ」「ナレッジチャンピオン」といったようなポジションを付与します。これは実際の職制とは異なり、ナレッジ専用のポジションです。
多くの人に利用される「良いソリューション」を作った人には、価値を高めたことを称えて報奨を与えたり、ポジションを上げていったりすることで活動を認めていきます。
こうしたモデルはKCSに限らず該当することですが、「なぜそれをやるのか」「やることでどうなるのか」を明確に浸透させることで、その仕事の目的が明確になりモチベーション要因になります。
プロセス(4) 「Leadership&Communication」で個人とチームの成功を支援する
ソリューションがチームにとって価値があることを理解し、環境を整え、個人とチームの成功を支援していくのです。
KCSを実装するには強いリーダーシップが必要です。そのためには、企業や組織のゴールにKCSがどう関連するかを明確に理解し、関係者にも共有する必要があります。そのうえでどう変わらなければならないかを明示して示していきます。
企業や組織の目的達成のため「何をすべきか」に集中することが重要だといえるでしょう。
KCS運用を定着させる5つのポイント
KCSは概念として優れていますが、「明日から現場でナレッジを更新してください」と号令をかけるだけでは定着しません。
現場の担当者は「日々の応対業務」と「ナレッジ運用」を別作業として捉えるため、ツール導入や研修実施だけでは壁を越えられません。KCSを機能させるためには、業務フロー・ルール・役割・評価という4つの観点で運用設計を徹底する必要があります。
以下、実務で欠かせない5つのポイントを解説します。
ポイント(1) 問い合わせ対応時にナレッジを検索するフローを設計する
KCSを機能させる第一歩は、「対応中に必ずナレッジを検索する」という行動を、標準的な業務フローに組み込むことです。
オペレーターの記憶や暗黙知に頼って自己解決してしまうと、組織のナレッジが利用・改善される機会が失われやすくなります。ベテランほど「自分で調べたほうが早い」となりがちですが、それではナレッジの循環は始まりません。
KCSでは「Search early, search often(早く検索し、頻繁に検索する)」を原則とし、対応開始時・調査時・回答前・クローズ時など、どのタイミングで検索・参照・更新を行うかを業務手順として明文化します。「検索してください」という抽象的な指示ではなく、フロー図やルールに落とし込むことが大切です。
ポイント(2) ナレッジ作成ルール・コンテンツスタンダードを整備する
現場全員がナレッジを作成・修正できる状態にすると、「情報のばらつき」と「品質の低下」が発生します。これを防ぐのが「コンテンツスタンダード(記述標準)」です。
書式や粒度が担当者ごとにばらばらだと検索性が下がり、結果的にナレッジベースへの信頼が失われます。信頼が失われれば、検索されにくくなります。
コンテンツスタンダードでは、以下のような要素を明確に定義します。
| 記述項目 | 問題/環境/原因/解決策/注意点/公開範囲など |
|---|---|
| 表現ルール | 顧客表現を優先/簡潔なキーワードベース/文体統一 |
| 対象読者と公開範囲 | 内部向け/顧客向け |
| 品質基準 | レビュー観点・NGパターン |
重要なのは、「美しい文章」ではなく「検索されるキーワードが網羅された簡潔な記述」を徹底させることです。文章の巧拙を評価軸にすると現場の心理的ハードルが上がり、ナレッジ作成が滞りやすくなります。
ポイント(3) ナレッジ作成・修正の役割を明確にする
「誰でも自由に編集できる」状態は一見柔軟に見えますが、実際には品質と責任の所在が曖昧になり、運用が破綻しやすくなります。
KCSでは、スキルとコンテンツスタンダードへの習熟度に応じて段階的に権限を付与する「KCSライセンスモデル」を採用します。代表的なロールは次のとおりです。
| KCS候補者(Candidate) | 直接編集する権限はないが、検索・利用とフラグ立てを担う |
|---|---|
| KCS寄稿者(Contributor) | 作成・修正を直接行う権限を持つ一人前のメンバー |
| KCS公開者(Publisher) | 外部(顧客向けFAQ等)への公開権限を持つ |
| KCSコーチ(Coach) | 候補者・寄稿者の指導と定着支援を担う |
| ナレッジドメインエキスパート(KDE) | ナレッジベース全体の健全性を監視する専門家 |
権限と教育をセットで設計することで、品質を担保しながら現場主導の改善を安全に進められます。ロールを明確化せず「全員を編集者」にしてしまうと、更新の重複や矛盾が頻発し、かえって信頼性が下がる点にご注意ください。
ポイント(4) KCS準拠を目指すにはツールだけでなく運用設計が必要
「ツールを入れたのに使われない」というご相談の多くは、ツールの機能不足ではなく運用設計の不足が原因です。
最新のITSMツールやFAQシステムには、ナレッジ管理機能が標準搭載されています。しかし、現場のKPIが「処理時間短縮」だけに偏り、ナレッジの作成・改善行為が評価対象になっていないケースが多く見られます。この状態では、担当者にとってナレッジ作成は「追加の仕事」でしかなくなってしまいます。
ツール、運用設計、教育の三位一体で初めてKCSは機能します。KCS準拠を目指すには、ツール導入と並行して次の設計が大切です。
- 評価制度の見直し(ナレッジ貢献をKPIに組み込む)
- 品質管理プロセス(レビュー・フィードバックの仕組み化)
- 役割・権限の設計(前述のライセンスモデル)
- 教育とコーチングの継続実施
ポイント(5) 利用状況を分析し、改善につなげる
蓄積したナレッジは、利用状況を分析することで組織的な改善につながる資産に変わり得ます。ナレッジ運用は「作って終わり」ではなく、EVOLVEループを通じて継続的にPDCAを回すことで初めて成果を高めやすくなるためです。
分析すべき代表的な指標は次のとおりです。
- 検索語とヒット率(求められている情報と、応えられている情報のギャップ)
- 再利用回数(本当に使われているナレッジはどれか)
- 未解決問い合わせ(ナレッジが不足している領域)
- 公開FAQ化候補(顧客向けに展開すべきコンテンツ)
これらの分析結果は、ナレッジ改善にとどまらず、「そもそも問い合わせが発生しないよう製品・UIを改善する」といった上流工程の改善にも活用できます。
さらに近年重要性が高まっているのが、生成AIやチャットボットの参照データ基盤としての価値です。KCSにより整備された「構造化・検証済みの需要駆動型データ」は、AI回答のハルシネーション(もっともらしい誤答)を抑制し、エンタープライズ規模でAIを安全に運用するための重要な前提の一つとなります。
「AI活用を進めたいがナレッジ基盤が整っていない」というご担当者にとって、KCSはAI活用の土台整備そのものだとお考えください。
KCSに関するよくある質問
Q1. KCSとは何ですか?
KCSとは、問い合わせ対応の中で得たナレッジを「捉える・構造化する・再利用する・改善する」ことで、組織全体の問題解決力を高めるナレッジマネジメント手法です。ツールではなく運用モデルである点が特徴です。
Q2. KCSは何の略ですか?
KCSは「Knowledge-Centered Service」の略です。日本語では「ナレッジセンターサービス」と表記されることもあります。
Q3. KCSにおけるナレッジとは何ですか?
KCSにおけるナレッジとは、問い合わせ対応で得られた問題・環境・原因・解決策などの知見を、再利用しやすい形で整理したものです。
Q4. KCSとナレッジマネジメントの違いは何ですか?
KCSはナレッジマネジメントの一種ですが、一般的な手法が「専任者が事前にマニュアルを作成する」のに対し、KCSは現場担当者が問い合わせ対応の業務フローの中で作成・再利用・改善する点が最大の違いです。
Q5. KCSを導入するメリットは何ですか?
主なメリットは、応対品質の平準化、一次解決率(FCR)の向上、属人化の防止、エスカレーション削減、教育工数の削減などです。加えて、将来的な生成AI・チャットボット活用のためのデータ基盤としても活用できます。
Q6. KCS運用で重要なポイントは何ですか?
業務フローへの検索行為の組み込み、コンテンツスタンダードの整備、ライセンスモデルによる役割分担、品質基準の設定、利用状況の分析などの運用設計を継続することが重要です。
KCSのことならパーソルビジネスプロセスデザインへ
KCSの概念は明快ですが、実際のコンタクトセンターや社内ヘルプデスクに落とし込み、定着させるためには、現状分析・運用設計・段階的な教育という一連のプロセスが不可欠です。
KCSは「導入初期の設計」と「定着期の運用改善」で必要なノウハウが異なり、社内リソースだけで両フェーズを進めるのは負荷が大きくなります。特に評価制度の見直しやライセンスモデルの設計は、他社事例に基づく実務知見が成否に影響します。
パーソルビジネスプロセスデザインは、HDI公認ストラテジックパートナーとして、KCS運用を包括的に支援しています。以下のようなサポートメニューをご用意しています。
| HDI公認研修 (KCSファウンデーション/KCSプリンシプル) |
実務に直結するトレーニングにより、組織内へのKCS浸透と専門人材の育成を支援します |
|---|---|
| KCSアワード・SCC認定取得支援 | 国際標準に沿った認定取得に向けたアセスメントと伴走型コンサルティングを提供します |
| KCS運用支援・導入コンサルティング | 現状診断から運用設計、定着支援まで、貴社のフェーズに応じたサポートを提供します |
なお、当社は自社のサポートセンターで実際にKCS運用を行っており、前身である旧パーソルワークスデザイン株式会社(現・パーソルビジネスプロセスデザイン)において、2018年10月に国内初となるKCSアワードの認定を取得しました。机上の理論ではなく、実践に裏付けられた知見をご提供できる点が当社の強みの一つです。
- 「応対品質にばらつきがあり、一次解決率を上げたい」
- 「FAQを整備したのに社内で使われない」
- 「ITSMツールを導入したがナレッジが蓄積されない」
- 「生成AI活用に向けてナレッジ基盤を整えたい」
下記では、KCSについて改めて知りたい方に向けて、ホワイトペーパーをご用意しています。このホワイトペーパーでは、「ナレッジ管理としてKCSを導入するための基本的なポイントを理解すること」を目的として、KCSの運用導線、実践のポイント、メリットをまとめています。
KCSに触れたことがない方でも、本書一冊でKCSの基本を押さえることが可能ですので、KCSについて興味がある方は、ぜひご一読ください。