ストレスチェックの目的とは?メンタル不調を防ぐ「一次予防」
ストレスチェックの主な目的は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐ「一次予防」です。ストレスへの気づきを促し、職場環境の改善につなげることで、働きやすい職場をつくることを狙いとしています。まずは制度の概要と、この「一次予防」という核を押さえましょう。
ストレスチェックとは(制度の概要)
ストレスチェックとは、労働者のストレスの程度を調査票で把握し、その結果を本人に通知することで、ストレスへの気づきを促す検査です。労働安全衛生法に基づく検査として位置付けられ、対象となる事業場では年1回の実施が求められます。
なお、ストレスチェック制度には、検査結果の通知、高ストレス者への面接指導などの手続きが含まれます。また、集団分析の結果を職場環境の改善に生かすことも、制度の目的を実現するうえで重要です。。
主な目的は一次予防(メンタルヘルス不調の未然防止)
ストレスチェックは「メンタルヘルス不調者を発見するためだけの検査」と誤解されがちですが、これは正確ではありません。制度の主目的は、メンタルヘルス不調者を発見することではなく、不調に「ならないように」未然に防ぐ一次予防にあります。
メンタルヘルス不調が深刻化してから対応するのではなく、ストレスを感じる初期段階で気づき、早めに対応することが重要です。メンタルヘルス不調の発生リスクを低減することが、ストレスチェックの根幹にある考え方といえるでしょう。
この前提を共有できているかどうかが、後述する「形骸化」を防ぐ分かれ目になります。
厚生労働省が示す3つの狙い(気づき・職場環境改善・働きやすい職場づくり)
ストレスチェック制度では、メンタルヘルス不調の未然防止に向け、主に次の3点が重視されています。
- 労働者自身のストレスへの「気づき」の促進
- 検査結果の集団分析などを通じた「職場環境の改善」
- これらを通じた「働きやすい職場づくり」
この3つの狙いは、このあと解説する「従業員にとっての目的(気づき・セルフケア)」と「企業にとっての目的(職場環境改善)」を支える骨格になります。目的を語るうえでの出発点として押さえておきましょう。
一次予防・二次予防・三次予防における位置付け
ストレスチェックの目的をより深く理解するには、メンタルヘルス対策全体の中での位置付けを知ることが役立ちます。メンタルヘルス対策は「3段階の予防」で整理でき、ストレスチェックはその中で一次予防を構成する取り組みの一つに位置付けられます。
なお、ストレスチェック制度は一次予防を主目的としていますが、高ストレス者を面接指導につなげる仕組みには、二次予防に関わる側面もある点を押さえておきましょう。
| 予防段階 | 内容 | 主な取り組み |
|---|---|---|
| 一次予防 | 不調を未然に防ぐ(主目的) | ストレスチェック、職場環境改善、セルフケア教育 |
| 二次予防 | 不調の早期発見・早期対応 | 高ストレス者への面接指導、相談対応 |
| 三次予防 | 不調者の職場復帰支援 | 復職支援プログラム、再発防止 |
一次予防:未然防止(ストレスチェックの主目的)
一次予防とは、ストレスマネジメントの向上や職場環境の改善によって、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ取り組みです。ストレスチェックの主目的は、まさにこの一次予防にあります。
不調が起きてから対処するのではなく、その手前で職場全体のストレス要因を減らし、一人ひとりが自分のストレスに対処できる状態を目指します。ストレスチェックは、この未然防止の入り口として機能します。
二次予防:早期発見と適切な対応
二次予防は、不調の兆候を早期に発見し、相談対応や面接指導によって適切に対応する取り組みです。ストレスチェックで高ストレスと判定された人が、本人の希望に応じて医師の面接指導につながる流れは、この二次予防に関わる部分です。
ストレスチェックは主目的こそ一次予防ですが、高ストレス者を早期支援につなげるという点で、二次予防の入り口としての役割も併せ持っています。
高ストレスと判定された人への具体的な対応は「ストレスチェックでの高ストレス者への対応とは?判定基準や対応策を解説」で詳しく解説しています。
三次予防:職場復帰支援
三次予防は、メンタルヘルス不調になった労働者の職場復帰を支援する取り組みで、復職支援プログラムや再発防止策などが含まれます。
ストレスチェックの目的(一次予防=未然防止)は、この三次予防とは段階が異なります。3段階を区別して捉えることで、「ストレスチェックは何のための制度なのか」がより明確になります。
従業員にとっての目的(セルフケアの促進)
ここからは、ストレスチェックの目的を「従業員」と「企業」それぞれの視点で整理します。まず従業員にとっての目的は、自分のストレスへの気づきを起点に、必要な支援やセルフケアにつなげることです。
自分のストレスに「気づく」きっかけになる
従業員にとっての主な意義は、結果を通じて、自分のストレス状態を一定の基準に沿って確認できることです。日々の業務に追われていると、自分のストレスには意外と気づきにくいものです。
ストレスチェックは、自覚しにくいストレスに気づくきっかけとなります。この「気づき」が、深刻化する前の早期対処の出発点になります。
高ストレス者は医師の面接指導につながる
ストレスチェックの結果、高ストレスと判定され、本人が希望した場合には、医師による面接指導を受けることができます。面接指導では、必要に応じて就業上の措置(労働時間の短縮や配置転換など)につながることもあります。
ここでのポイントは、面接指導は本人の申出が起点になるという点です。従業員が必要な支援を円滑に利用できるようにするためにも、制度の目的と使い方を従業員に丁寧に伝えておくことが大切です。
セルフケアと早期対処を促す
結果に基づいて、従業員自身がセルフケアに取り組んだり、専門家への相談を検討したりすることで、不調が深刻化する前の早期対処につながります。セルフケアは、職場のメンタルヘルス対策の基本である「4つのケア」の一つに位置付けられています。
ストレスチェックを、セルフケア教育や情報提供と組み合わせることで、従業員一人ひとりのセルフケアに関する理解を深めることにつながるでしょう。
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企業にとっての目的(職場環境の改善と組織課題の把握)
結果を集団で分析し、職場環境の改善や組織力の向上につなげるところに、企業視点ならではの価値があります。
集団分析で職場のストレス要因を把握する
部署などの集団ごとに結果を分析する「集団分析」を行うことで、職場のストレス要因を把握し、改善策を検討するための参考情報を得られます。集団分析は、個人が特定されないよう、原則として一定以上の人数を確保した単位で行います。具体的には、10人以上の単位での実施を心掛けましょう。10人未満の集団を分析する場合は、個人が特定されるリスクを考慮し、分析単位の統合や本人同意の取扱いなどに配慮する必要があります。
なお、集団分析の結果の読み方や活用法は「ストレスチェックの集団分析とは|結果・判定図の見方・活用法を解説」で解説していますので、ぜひご参考ください。
※参考:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(PDF)
職場環境改善・生産性向上・離職防止につなげる
集団分析で把握した課題をもとに職場環境を改善することで、生産性や従業員の定着に関する課題の改善にも寄与する可能性があります。ストレスチェックの結果を、労働者自身のセルフケアや職場環境の改善に生かすことで、制度の目的をより実現しやすくなるでしょう。
逆に言えば、実施して結果を見るだけで終わってしまうと、目的は果たされません。実施後の分析・改善を行わない運用を防ぎ、改善のアクションまでつなげることが重要です。
健康経営・企業価値向上の基盤になる
従業員の健康を守る取り組みは、守りの施策にとどまりません。ストレスチェックを含むメンタルヘルス対策は、健康経営を推進する取り組みの一つです。継続的な取り組みは、企業に対する信頼にもつながる可能性があるといえます。
また、メンタルヘルス対策に真摯に取り組む姿勢は、求職者や取引先からの信頼にもつながるため、ストレスチェックの目的を経営目線で捉えると、その意義はさらに広がるでしょう。
ストレスチェック制度が義務化された背景と概要
ストレスチェックの目的をより立体的に理解するために、制度が義務化された背景と概要を整理します。法的根拠から、プライバシー保護の仕組み、そして50人未満への義務化拡大という最新動向までを押さえましょう。
なお、対象事業場の事業者に実施義務がある一方で、労働者本人に受検を強制する制度ではありません。
労働安全衛生法による義務化(2015年・50人以上・年1回)
ストレスチェック制度は、2014年の労働安全衛生法改正により創設され、2015年12月から、常時50人以上の労働者を使用する事業場で、年1回の実施が義務づけられました(労働安全衛生法第66条の10)。
制度創設の背景には、仕事による強いストレスや、メンタルヘルス不調への対策が社会的な課題となっていたことがあります。
具体的には、精神障害に関する労災認定件数が社会問題化したこと、同時期には、「過労死等防止対策推進法」の施行や「過労死等防止対策大綱」の策定など、労働者の心身の健康を守るための法整備も進められました。つまり、職場のストレスを定期的に可視化し、未然防止につなげることを目的に導入されたのです。
受検は任意・結果は本人の同意なく事業者は見られない
ストレスチェックには、制度設計上の重要な特徴があります。
労働者に受検の義務はなく、個人の検査結果は、本人の同意なく実施者から事業者へ提供することはできません。実施者には守秘義務が課され、プライバシーが厳格に保護されるのです。
制度の目的を実現するには、労働者が安心して受検できる環境を整えることが重要です。また、個人結果の取扱いと集団分析の仕組みを明確に説明する必要があります。だからこそ、後述する受検率向上や形骸化対策が重要といえるでしょう。
50人未満の事業場にも義務化が拡大(2028年4月1日に施行)
そして見逃せないのが、最新の法改正です。2025年5月、改正労働安全衛生法が公布され、これまで努力義務だった50人未満の事業場にも、ストレスチェックの実施が義務づけられました。
改正法では、施行日を『公布後3年以内に政令で定める日』としています。その後、2026年5月の労働政策審議会において、2028年4月1日施行の方針が示されました。
施行後は、制度上の実施頻度に沿って年1回の実施体制を整える必要があります。初回実施期限などの詳細は、今後の政令・省令・厚生労働省のQ&Aなどで確認することが重要です。なお、50人未満の事業場については、負担軽減の観点から労働基準監督署への結果報告は求めない方針ですが、方針が変更される可能性も考慮し、最新情報を検知しておきましょう。
対象拡大により、小規模事業場でもストレスチェックの実施体制を整える必要が生じます。そのため、小規模事業場は外部委託の活用や、利用可能な支援制度の有無を確認しながら、早めに準備を進めることが大切です。
受検対象となる労働者の範囲は、雇用契約期間や所定労働時間などによって判断されます。対象者の要件や実施の流れについては「ストレスチェックの義務化とは|実施の流れと注意点を解説」をご確認ください。
※制度内容は、厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」および「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(PDF)」などの一次情報をもとに確認してください。
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目的を達成するための実施・活用のポイント
ストレスチェックは「実施すること」自体が目的ではありません。一次予防という目的を「果たす」ためには、運用の工夫が欠かせません。ここでは、受検率・集団分析・メンタル対策全体との連動という3つのポイントを整理します。
受検率を高め、正確に実態を把握する
受検は任意ですが、受検率が低い場合、集団分析の結果が職場全体の傾向を十分に反映しにくくなります。制度の目的を実現するには、労働者が安心して受検できる環境を整えることが重要です。
そのためには、制度の目的とプライバシー保護の仕組みを丁寧に周知し、「個人の検査結果は本人の同意なく事業者へ提供されないこと」や「受検・申出等を理由とする不利益な取扱いが禁止されていること」を丁寧に説明する必要があります。回答しやすい時間や方法を用意するなど、心理的・物理的なハードルを下げる工夫も効果的です。
集団分析を職場環境改善に確実につなげる
重要なのが、集団分析の結果を放置せず、具体的な職場環境改善のアクションに結びつけることです。これは一次予防の目的を実現するうえで大切な要素です。
分析して課題が見えたら、課題に応じた改善策を実施し、その効果を検証して次の改善に生かす継続的な運用が重要です。「実施して終わり」にしないこの一歩が、制度の実効性をより高めるでしょう。
相談体制・教育などメンタル対策全体と連動させる
ストレスチェックは、それ単体で一次予防が完結する制度ではありません。相談体制の整備やセルフケア教育など、メンタルヘルス対策全体と連動させることで、制度を活用しやすくなります。職場のメンタルヘルス対策の基本である「4つのケア(セルフケア・ラインケア・産業保健スタッフによるケア・事業場外資源によるケア)」と組み合わせ、日常的な体制づくりの中にストレスチェックを位置付けましょう。
※関連記事:【大学教授監修】メンタルヘルス対策は何をすれば良いのか?「4つのケア」「3段階の予防」を詳しく解説
「意味がない」と言われる理由と目的を果たすための対策
ストレスチェックについて、「意味がない」「毎年実施しても何も変わらない」と感じる従業員がいる場合もあるでしょう。しかし、その背景には、制度の目的が十分に共有されていないことや、結果が職場環境の改善に活かされていないことなどが考えられます。
ここでは、その原因と対策を整理します。
「実施して終わり」では職場改善に活かされない
「意味がない」と感じられる主な原因の一つは、結果を集団分析や職場改善に活かさず、「実施するだけ」になっていることです。改善の内容や結果が共有されなければ、従業員が制度の効果を実感しにくくなります。
これを防ぐには、ストレスチェックの目的(職場改善・未然防止)に立ち返り、結果を改善のアクションにつなげる運用へと見直す必要があります。
受検率の低さ・形骸化の問題
受検率が低い、制度の目的が共有されていない、といった理由で形骸化すると、制度の目的を十分に実現しにくくなります。実態が正確に把握できなければ、適切な改善もできないからです。
形骸化を防ぐには、経営層から現場まで、「何のためにやるのか」という目的を共有しておくことが前提になります。
目的に立ち返った運用で実効性を高める
結論として、「何のためにやるのか」という目的を全社で共有し、結果を職場環境の改善につなげる運用に見直すことで、制度の実効性を高めやすくなります。
「意味がない」という声は、裏を返せば「目的に立ち返って運用を見直すべき」というサインです。目的を起点に運用を整えることが、形骸化を抜け出す近道になります。
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ストレスチェックの実施・活用を支援するパートナーの活用
ここまで見てきたように、ストレスチェックは、実施・集計だけでなく、集団分析、職場環境の改善、高ストレス者への面接指導など、専門的な対応が求められる領域です。これらを自社のリソースだけで担うのは、容易ではありません。
そこで、外部サービスや産業保健の専門家と連携することで、自社だけでは不足する専門性や運用リソースを補いやすくなります。たとえば、ストレスチェックの実施代行・実施プログラムの提供、産業医やEAP(従業員支援プログラム)による相談体制の整備、集団分析を踏まえた職場環境改善の支援など、サービスは多様です。
外部委託の進め方や費用の考え方は「ストレスチェックの外部委託|失敗しない業者選びと費用の考え方」、サービスの比較は「ストレスチェックサービス15選|失敗しない選び方と導入メリット」が参考になります。
特に2028年4月の50人未満への義務化拡大を控え、これから体制を整える小規模事業場において、自社での対応が難しい場合は、外部委託や利用可能な支援制度を検討する方法があります。「実施」だけでなく「活用」まで見据えて、自社に不足する業務や専門性を整理したうえで、必要に応じて外部の支援先を比較・検討することが重要でしょう。
なお、厚生労働省の労働安全衛生調査では、メンタルヘルス対策に取り組む事業所が一定割合にのぼる一方で、メンタルヘルス不調による長期休業・退職が生じた事業所も少なくないことが示されています。具体的には、何らかの対策を講じる事業者の割合は、63.2%(令和5年調査では63.8%)であり、取り組み内容を見ても「ストレスチェックの実施」が65.3%(同65.0%)と最も高い数値となっています。
また、過去1年間にメンタルヘルス不調を理由に連続して1か月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所は12.8%(同13.5%)となっており、特に従業員数が多い企業において高い傾向となっています。
※参考:厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要」
まとめ:ストレスチェックの目的を理解し、職場環境の改善につなげる
ストレスチェックの目的は、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ「一次予防」であり、従業員の気づきと職場環境の改善を通じて、働きやすい職場をつくることにあります。制度の目的を共有し、結果をセルフケアや職場環境の改善に活用することが、実効性を高めるうえで重要です。
最後に、本記事の要点を整理します。
- ストレスチェックの実施目的は一次予防:不調者の発見ではなく、メンタルヘルス不調の未然防止に当たる一次予防が主目的
- 3段階の予防における位置付け:ストレスチェックは一次予防の中核(二次・三次予防とは段階が異なる)
- 従業員にとっての目的:自分のストレスへの気づきとセルフケアを促し、必要に応じて医師の面接指導につなげる
- 企業にとっての目的:集団分析を、職場のストレス要因の把握や職場環境の改善に活かす
- 制度改正:2015年12月から常時50人以上の労働者を使用する事業場で義務化。2028年4月1日から50人未満の事業場にも対象が拡大
- 活用・形骸化対策:受検率向上と集団分析の改善活用で「意味がない」を防ぐ
制度を実施するだけで終わらせず、その目的を踏まえて運用することが重要です。この機会に、目的を起点とした運用の見直しを進めていきましょう。