リース会計基準とは?
リース会計基準とは、リース取引における会計処理方法を明確に定めた企業会計基準です。リース取引とは、貸手が資産の使用権を一定期間借手に貸し出し、借手がその対価として使用料を支払う取引を指します。
現行のリース会計基準では、リース取引を「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の2つに分類しています。
ファイナンスリースは、実質的に資産の使用権が借手に移転するため、借手は資産の計上が必要です。一方、オペレーティングリースでは、通常の賃貸借と同様の処理となり、費用としての計上にとどまります。
新リース会計基準とは?
新リース会計基準とは、2024年9月に公表された、国際財務報告基準(IFRS16)との整合性を図るために導入される新たな会計基準です。
この基準では、原則としてすべてのリース取引についてオンバランス処理を行うことが求められ、短期リースや少額リースのみ例外としてオフバランス処理が認められることとなります。
また、従来は費用として扱われていたオフィス賃貸なども、新基準のもとでは資産計上の対象となる可能性があります。
使用権資産とリース負債の計上が義務化され、企業の財務諸表への影響が大きくなる可能性にも注意が必要です。
新リース会計基準の適用時期
新リース会計基準は、2027年4月1日以降に開始する事業年度から適用が開始されます。
ただし、2025年4月1日以降に開始する事業年度からは、早期適用が認められており、準備が整った企業は前倒しで対応可能です。
新リース会計基準の適用企業
新リース会計基準の適用対象となるのは、主に上場企業やその子会社、関連会社などを含む金融商品取引法が適用される企業です。
また、会計監査人を設置している大会社や監査等委員会設置会社なども対象に含まれます。
一方で、中小企業については「中小企業会計指針」を採用している場合には、実務上の強制適用はされません。
新リース会計基準の対象取引
新リース会計基準の対象となる取引は、原資産を使用する権利を対価と交換に移転する契約全般です。契約書に「リース」と明記されていなくても、一定の要件を満たせばリース取引として扱われます。
具体的には、次の3点が判定要件です。
- 資産が特定されていること
- 経済的利益の大部分を享受する権利を持つこと
- 使用方法を指図する権利を有すること
対象となる可能性のある取引は主に次のとおりです。
- 動産:情報通信機器、車両、設備、家具など
- 不動産:オフィス、工場、社宅、駐車場、借地権など
- その他:チャーター機、ITインフラ、データセンター、SaaS契約、ソフトウェアライセンスなど
ただし、12ヶ月以下の短期リースや、300万円以下などの少額リースについては、例外的に費用処理が認められます。
新リース会計基準への改正の背景
新リース会計基準への改正が行われた背景には、国際的な会計基準とのズレを是正し、企業の財務情報の透明性を高める必要性がありました。
そもそも、日本のリース会計基準は1993年に制度化され、2007年には国際基準に近づける形で一度改正が行われています。しかし、2016年に国際財務報告基準(IFRS)のリース基準が改正されたことで、再び日本基準との乖離が明確になりました。
そのため、企業活動がグローバル化している現代では、日本においても企業の経営状態をよりグローバルスタンダードに近づけて表示することで国際的な整合性を担保することが必要です。
あわせて、投資家や金融機関などのステークホルダーに対して、企業の財務情報の透明性を向上させることも改正の背景として重要な要素となっています。
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新リース会計基準と現行基準との違い・変更点
新リース会計基準では、従来の区分処理が見直され、会計上のリース取扱いに大きな変更が加えられました。
- リース取引の区分廃止とオンバランス処理への統一
- 財務報告の影響と開示要件の強化
- リースの定義と識別方法の見直し
- 使用権資産の導入と計上方法の変更
- リース対象取引の拡大
新リース会計基準と現行基準との違いを正確に把握しておきましょう。
リース取引の区分廃止とオンバランス処理への統一
現行の会計基準では、リース取引を「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」に区分し、それぞれ異なる処理方法が採られていました。
ファイナンスリースについては資産および負債として貸借対照表に計上するオンバランス処理を行っていた一方で、オペレーティングリースは費用として処理するオフバランス方式が認められていました。
新基準ではこの区分が廃止され、リース契約に該当するかを判定した上で、すべてのリースが原則オンバランスでの処理が求められます。短期リースや少額リースについては例外的にオフバランス処理が可能です。
この変更により、借手は使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上する必要があります。
財務報告の影響と開示要件の強化
現行の会計基準では、オペレーティングリースは、資産計上されず、費用処理のみされており、貸借対照表への表示や注記の充実度も限定的でした。
また、貸借対照表では「使用権資産」および「リース負債」としてリース契約の内容が記載されます。
利益構成(営業利益やEBITDA)にも影響が生じるため、財務分析や業績評価の方法も見直しが必要です。
また、借手・貸手の双方に対しては、リースに関する注記の強化が求められています。会計方針の説明やリース料 の内訳といった詳細情報の注記が必要になりました。
リースの定義と識別方法の見直し
現行の会計基準では、『「リース取引」とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間(以下「リース期間」という。)にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料(以下「リース料」という。)を貸手に支払う取引をいう。』としてリースが定義されていました。
新基準では、『原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約または契約の一部分』と定義され、契約の名称にかかわらず、実質的に使用権の移転がある場合はリースとして認識されることになります。
また、「リースが含まれているか」の判断においては、次の3点が識別条件とされます。
- 資産が特定されていること
- 経済的利益の大部分を享受する権利を持つこと
- 使用方法を指図する権利を有すること
契約書に「リース」と明示されていない場合でも、リースとして会計処理が必要となる可能性があるほか、適用範囲が広がり、賃貸、レンタル、ライセンス契約なども対象になる可能性もあります。
使用権資産の導入と計上方法の変更
現行の会計基準では、ファイナンスリースのみ有形固定資産として計上が必要で、オペレーティングリースは費用処理のみで資産計上不要でした。
新基準では、新たに「使用権資産」を貸借対照表に計上することが求められます。これは、ファイナンスリースに限定されていた現行基準とは大きく異なる点です。
使用権資産は、リース物件を一定期間にわたって利用する権利に関する価値を反映したものであり、取得価額にはリース料の総額に加えて、契約締結時に発生する仲介手数料や運送費などの付随費用が含まれます。ただし、共益費などの費用は除外される、または現在価値に割り引いて計算、もしくはその両方が必要です。
関連記事|【リース期間どう見積もる?】 借り手側が押さえるべき変更点|パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社
リース対象取引の拡大
現行の会計基準では、リースは「リース取引」の定義に該当するものが対象でしたが、不動産賃貸やクラウドサービス契約などについては対象外とされるケースが多く見られました。
新基準では、契約の実態に基づいて「リースであるか」を判定するため、以下のような対象となる可能性のある取引の範囲が拡大します。
- 動産:情報通信機器、車両、設備、家具など
- 不動産:オフィス、工場、社宅、駐車場、借地権など
- その他:チャーター機、ITインフラ、データセンター、SaaS契約、ソフトウェアライセンスなど
この変更により、すべての企業で既存契約の再確認と分類の見直しが必要です。
新リース会計基準が経理業務へ与える影響
新リース会計基準は、企業の経理実務に多くの変化をもたらします。
- 経理実務における業務プロセスが増加・複雑化
- 新システムへの対応と改修コストが発生
- 財務数値への影響による経理部門の説明責任が増加
- 関係部門との連携強化が必要
- 移行準備に向けた事前対応が必要
新基準がもたらす具体的な影響を把握し、事前に対策を行いましょう。
経理実務における業務プロセスが増加・複雑化
新リース会計基準では、リース契約をすべてオンバランス処理とする必要があるため、資産と負債の認識、使用権資産の減価償却処理が負担になります。
リース期間や利率の設定、割引率の算出が求められるほか、リース負債や支払利息の仕訳を毎月分けて処理する必要があり、定期的な処理負荷も高まります。さらに、契約変更が発生した場合は再計算が必要です。
連結決算においては、子会社のリース取引も親会社が把握・調整する必要があり、グループ全体での一体的な管理体制が求められます。
関連記事|【新リース会計基準 何をすべき?】経営指標への影響と今からできる準備を解説|パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社
新システムへの対応と改修コストが発生
新リース会計基準への対応にあたり、既存の固定資産管理システムのバージョンアップやオプション機能の追加が必要になるケースがあります。現行のシステムでは新基準に適応できない場合もあるため、システムの全面的なリプレイスも視野に入れて検討が必要です。
会計処理や減損会計への対応には、システム間の連携が欠かせず、設計・テスト・データ移行といった工程には時間とコストがかかります。また、新しいリース契約情報を仕訳に至るまで一貫して管理するためのフロー設計も重要です。
改修が遅れると、制度の適用開始に間に合わないリスクがあるため、早期の準備と進捗管理が求められます。
財務数値への影響による経理部門の説明責任が増加
新リース会計基準では、使用権資産およびリース負債を貸借対照表に計上することにより、総資産と総負債が増加し、企業の財務構造が大きく変化する可能性があります。
また、支払利息が財務費用として分類されるため、販管費からは除外され、営業利益が増加するケースもあります。
上記観点から、経営指標であるROAや自己資本比率、負債比率などに影響が出るため、経理部門は経営陣や投資家に対して、財務数値の変化について説明を行う責任が生じるのです。
財務報告書では、新たに「使用権資産」「リース負債」「利息費用」といった注記情報の開示が求められるため、準備を行いましょう。リース契約が多数ある企業では影響が広がることから、経理部門にはより高い説明能力も必要です。
関係部門との連携強化が必要
新リース会計基準の導入に際しては、経理部門だけでの対応には限界があるため、総務・法務・財務・ITなど複数部門との調整が必要です。とくに、不動産などのリース契約情報は、正確な情報を経理へと連携する体制の構築が欠かせません。
また、グループ会社間でのリース情報の共有や処理の統一や、契約書の保管フローや管理方法の見直し、契約の判定基準のマニュアル化も必要です。
加えて、監査法人と事前にすり合わせを行い、ポジションペーパーの作成を通じて共通理解も不可欠です。
移行準備に向けた事前対応が必要
新リース会計基準の適用に向けて、リース契約内容の洗い出しと影響度の調査を早期に実施することが推奨されます。対象リースの特定や契約条件の確認、リース期間の見積もり、割引率の設定など、さまざまな対応が必要です。
また、グループ会社を含めた連結財務諸表での統一対応を図るため、方針の策定が必要となります。会計処理方針や業務フロー、システム構成に関するロードマップを策定し、社内の承認を得ましょう。
準備が進まない場合や、リース件数が多い企業には、外部の専門家によるサポートもおすすめです。外部コンサルやBPOサービスを活用することで、短期間で制度適用に対応できます。
新リース会計基準における会計処理の手順・流れ【3STEP】
新リース会計基準の会計処理は、以下の3つのステップで行えます。
1.リースの識別
借手の会計処理検討は、まず「リースの識別」から始まります。リースの定義を確認し、契約に含まれるリース部分と非リース部分を区分します。
2.主要な構成要素の検討及び簡便的な取扱いの適用有無
次に「主要な構成要素の検討及び簡便的な取扱いの適用有無」を確認します。
リースの識別後、リース契約対価を配分し、リース期間やリース料の検討を行いましょう。
期間が短い短期リースや、リース料の低い少額リースについては、簡便的な取扱いを適用するかどうかを判断し、適用する場合はオンバランス処理が不要となります。
3.リースの会計処理
簡便的な取扱いが適用されない場合は「リースの会計処理」に進み、使用権資産とリース負債を認識するオンバランス処理を行います。
また、条件の変更やリース負債の再測定が必要となる場合もあります。
以上の流れに従うことで、新基準に沿った適切な会計処理が可能となります。
関連記事|【数値例で解説】新リース会計基準の会計処理・仕訳科目はどう変わる?|パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社
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会計処理の煩雑化や経理部門のリソース不足に課題を抱える企業にとって、新リース会計基準への対応は重要です。
新基準ではリース契約のオンバランス処理が求められるため、経理実務が大幅に複雑化します。業務負荷により経営判断や財務報告の正確性に支障をきたす可能性もあるため、早期の準備が不可欠です。
新リース会計基準への対応体制を効率良く構築・定着させたい企業におすすめなのが、BPOの活用です。
会計業務のアウトソーシングによって、制度変更に伴う煩雑な対応を専門家に任せることで、社内の負担を軽減しつつ、正確性と法令対応を両立した経理体制を実現できます。
会計基準の改正対応に不安を感じている方や、経理リソースを強化したい方は、ぜひBPOの導入を検討してみてはいかがでしょうか。BPOやアウトソーシングサービスの導入について、ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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