「定着率」とは
「定着率」とは、企業や組織にどれだけ従業員が定着しているかを指す指標です。
数値が高ければ高いほど従業員の離職が少なく、働きやすい環境であると判断できます。逆に定着率が低い企業や組織は、離職者が多く働きにくい環境だともいえます。
このことから、定着率という数字は「企業や組織がどれだけ健全な運営ができているかを確認する指標」としても活用することができます。
また、定着率を測定するうえでは、年度の初月である4月から計算されることが多いでしょう。数値は年単位で表されることが多いですが、企業や組織ごとの使用目的にあわせて測定されていくのが一般的です。
よく似た言葉である「離職率」の意味
定着率と同じくらいよく使われる指標として、「離職率」があります。
これは従業員が企業や組織に入社してから、どれくらいの割合で退職したかを示す指標です。つまり、定着率とは逆の事実を示すため、離職率と定着率を合計すると100%になるというわけです。
一般的に、離職率は高ければ高いほど人材が流出しているわけですから「働きにくい」環境であり、逆に離職率が低い場合には、離職が少ないわけですから「働きやすい」環境であるといえます。
離職率が高い状態を放置しておくと、企業や組織の運営にとってマイナスになってしまうことは言うまでもありません。しかし、一概に離職率が0%または0%に近い数字が良い会社だと限らないようです。
最近では、IT業界等を中心に一定の離職率があっても、社員の流動率が高く業績が高い会社である可能性にも示されています。
※参考:独立行政法人経済産業研究所「雇用の流動性は企業業績を高めるのか:企業パネルデータを用いた検証」(PDF)
定着率や離職率には法的な定義がない?
そのため、さまざまな場所で活用されています。しかし、定着率や離職率には法的な定義はありません。そのため、国の調査などで公開されているデータもありますが、実際の状況と100%完全に一致しているとは言い切れません。
定着率や離職率の分析を行う際には、法的な定義がないためにデータが100%正しいものではないということを念頭に置いておく必要があります。これらの指標はあくまでも“目安”としておき、企業や組織を分析する際には他のデータも収集したうえで行っていくようにしましょう。
定着率向上で得られるメリット
では続いて、定着率を向上させることにより得られるメリットを4つ、解説していきましょう。
メリット(1)人材が流出しにくい組織体制
企業や組織に従業員が定着しやすいということは、優秀な人材が流出しにくい環境ともいえるでしょう。また、人材が流出しにくいということは、個々の従業員の業務習熟度も高くなるといえます。
優秀な人材が多く定着して、業務習熟度が全体的に高いということは、企業や組織の規模・業種にかかわらずスムーズな運営が可能になっていくはずです。
メリット(2)余計な採用コストや教育コストが掛からない
従業員がすぐに離職してしまう環境では、人材補充のための採用や、採用後の教育にかかるコストが高くなってしまいます。これらのコストが発生し続ければ、ほかの業務や業績にも悪影響を与えてしまいます。
定着率を高い状態で維持できれば、優秀で業務習熟度の高い人材がすでにいるわけですから、採用や教育に余計なコストをかける必要がありません。余計なコストがかからない分、リソースに余裕ができますので企業や組織の成長に注力することも可能です。
このことから、定着率向上は企業や組織の成長に欠かせない要素であるといえるでしょう。
メリット(3)業績の向上や従業員のモチベーション向上
定着率が向上して業務習熟度の高い人材が多くなれば、企業や組織の生産性も高まっていき、業績の向上も期待できるようになります。定着率の向上は、生産性の向上や業績の向上にも繋がってくるのです。
また、定着率向上により得られる効果は、企業や組織だけでなくそこで働く従業員自身にもよい効果をもたらします。従業員が働きやすい・離職したくないと感じられる職場ということは、働く意欲も高く持てるようになっていきます。
モチベーションの高い状態で仕事に臨めるようになれば、集中力も増し、より高い成果を上げることも可能だといえるでしょう。ですから、定着率向上に向けた取り組みは、企業や組織だけでなく従業員のためにもなるといえるのです。
メリット(4)採用力の向上
定着率の高い企業は、従業員による人材紹介である『リファラル採用※』が増える傾向にあるようです。
※リファラル採用……自社の社員から友人や知人などを紹介してもらう採用手法のこと
定着率の高い企業の場合、従業員が自社に対して高い帰属意識や高い理解力を持っているケースが往々にしてあります。自身の業務や企業・組織の特性をよく理解したうえで知人などに紹介してくれることになるため、自社にマッチした優秀な人材を確保しやすくなるのです。
自社の従業員が積極的に優秀な人材を紹介してくれるようになれば、採用力の向上にも繋がってきます。つまり、定着率の向上は、「優秀な人材を採用できる機会」を生み出してくれる効果も期待できるのです。
定着率と離職率の計算方法
定着率向上のメリットを説明してきましたが、続いては実際の計算に移っていきましょう。
定着率の算出には明確な定義はありませんが、以下のような計算式により算出することができます。
社員定着率(%) = ○年後の定着人数 ÷ ○年前の入社人数 ×100(%)
例えば、1年前の入社人数が100名で、その1年後に30名が退職した(定着人数=70名)場合の定着率は、「70(名)÷100(名)×100=70%」と求められます。
一般的に定着率は3年ごとに計算されますが、算出する目的によって対象とする期間は変化しますので、あくまで目安としておきましょう。
なお、離職率は以下の計算により求められます。
100(%) - 定着率
上記の例の場合、「100(%)ー定着率:70(%)=離職率:30(%)」となります。つまり、離職率を求めるには定着率を計算する必要がありますので、その点は注意が必要です。
日本企業の定着率の推移
表1は、令和4年、5年の常用労働者の動きををまとめたものです。
表1:令和5年と令和4年の常用労働者の動き
区分 | 1月1日現在の 常用労働者数 (千人) |
入職者数 (千人) |
離職者数 (千人) |
入職率 (%) |
離職率 (%) |
入職超過率 (ポイント) |
---|---|---|---|---|---|---|
令和5年 (2023) | ||||||
計 | 51,847.9 | 8,501.2 | 7,981.0 | 16.4 | 15.4 | 1.0 |
男 | 27,676.2 | 3,946.6 | 3,805.7 | 14.3 | 13.8 | 0.5 |
女 | 24,171.7 | 4,554.6 | 4,175.4 | 18.8 | 17.3 | 1.5 |
一般労働者 | 37,298.8 | 4,497.3 | 4,517.6 | 12.1 | 12.1 | 0.0 |
パートタイム労働者 | 14,549.1 | 4,003.9 | 3,463.5 | 27.5 | 23.8 | 3.7 |
令和4年 (2022) | ||||||
計 | 51,198.9 | 7,798.0 | 7,656.7 | 15.2 | 15.0 | 0.2 |
男 | 27,480.4 | 3,635.0 | 3,651.5 | 13.2 | 13.3 | -0.1 |
女 | 23,718.6 | 4,163.0 | 4,005.2 | 17.6 | 16.9 | 0.7 |
一般労働者 | 37,159.5 | 4,398.3 | 4,414.9 | 11.8 | 11.9 | -0.1 |
パートタイム労働者 | 14,039.4 | 3,399.7 | 3,241.8 | 24.2 | 23.1 | 1.1 |
前年差 | ||||||
計 | 649.0 | 703.2 | 324.3 | 1.2 | 0.4 | 0.8 |
男 | 195.8 | 311.6 | 154.2 | 1.1 | 0.5 | 0.6 |
女 | 453.1 | 391.6 | 170.2 | 1.2 | 0.4 | 0.8 |
一般労働者 | 139.3 | 99.0 | 102.7 | 0.3 | 0.2 | 0.1 |
パートタイム労働者 | 509.7 | 604.2 | 221.7 | 3.3 | 0.7 | 2.6 |
※出所:厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」(PDF)よりパーソルビジネスプロセスデザインにて作成
表1より、令和5年度の1年間における離職率が15.4%であることから定着率は84.6%であると分かります。また、前年の令和4年度は離職率:15.0%、定着率:85.0%です。
当該期間においては、定着率が微減の結果であり、1割強の労働者が離職していると読み取れます。なお、2020年以降の離職率は上昇傾向にあることから、働き方に変化がみられていることが推察されるでしょう。
では、次に産業別の入職率・離職率を確認してみます。
上図から、「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」の離職率の高さが目立ちます。なお、パートタイム労働者においても同様の傾向が見られることから、サービス業を中心に、人の入れ替えが多い業態であると言えるでしょう。
国内全体で見た場合の離職率・定着率は、入職と離職の多い業種の影響が大きいことが分かります。
※出典:厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」(PDF)
定着率向上に役立つ調査と自社での分析方法
定着率向上に役立つ調査と自社での分析方法
従業員の定着率を高めるためには、“なぜ従業員が離職するのか”の理由・原因をきちんと理解し、対策を講じることが重要です。
適切な対策を取るためには、退職理由の分析を行い、自社の状況把握に努めましょう。本項では、離職の理由とその分析方法について解説します。
離職理由の分析に役立つ厚生労働省の調査結果
定着率を高めるためには、「なぜ従業員が離職をするのか」を理解する必要があります。まずは、市場全体の離職理由を分析してみましょう。
表2では、前項で引用した厚生労働省の調査結果にて解説されている転職入職者が前職を辞めた理由をまとめました。
表2:転職入職者が前職を辞めた理由(令和5年・男女別)
区分 | 仕事内容に 興味を持てない |
能力/個性/ 資格が活かせない |
人間関係が 好ましくなかった |
会社の将来が 不安 |
給料が 少ない |
労働条件が 悪かった |
結婚 | 出産・育児 | 介護・看護 | その他の 理由 |
定年・ 契約期間満了 |
会社都合 | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男 (%) | 7.4 | 5.1 | 9.1 | 5.2 | 8.2 | 8.1 | 0.3 | 0.3 | 0.5 | 17.3 | 16.9 | 5.8 | 14.0 |
女 (%) | 5.0 | 5.4 | 13.0 | 4.6 | 7.1 | 11.1 | 1.6 | 1.6 | 1.2 | 25.1 | 9.8 | 5.3 | 6.9 |
※出所:厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」よりパーソルビジネスプロセスデザインにて作成
退職に至った理由はさまざまですが、特に多いのは、以下の内容です。
- 人間関係が好ましくなかった
- 労働条件が悪かった(労働時間、休日など)
- 給料が少ない
- その他(定年や契約期間の満了)
男女別等で若干の違いは見られますが、これらの理由は定着率向上のための課題と言えるでしょう。
自社の定着率向上のための分析
自社の従業員定着率を高めるには、市場全体で多い離職理由の把握・改善だけでなく、自社の離職率や離職理由の分析も必要になります。
退職者が出てしまう理由は、企業や組織ごとに異なります。
より的確な対策を取るには、「なぜ自社を辞める従業員がいるのか」を明確にし、その理由にあった対策を行わなくてはなりません。そして、その分析のためにはデータを集めていく必要があります。
【自社定着率向上対策に必要なデータ】
- 自社の定着率や離職率の推移
- 退職者が出てしまった理由
定着率向上に役立つ対策
定着率や離職率の分析が終わったら、対策を行っていきましょう。
離職者が出る原因は企業や組織ごとに異なるため、有効な対策は変わってきますが、以下のような対策が取られることが多いでしょう。
【定着率向上に役立つ対策例】
- 福利厚生の充実
- 人事・評価制度の見直し
- 働き方を含むワークライフバランスの導入
- 給与や評価制度の見直し
- 社内コミュニケーションの活発化
続いては、これらの対策について詳しく解説していきましょう。
福利厚生の充実
退職者から「待遇」などの面で不満が出ている場合には、福利厚生の充実に力を入れましょう。
具体的には、以下のような方法が有効といえます。
【従業員の定着率向上効果が期待できる福利厚生の一例】
- 住宅や育児の手当・制度の導入
- レジャーや健康関連のサービスの導入・充実
- 休暇に関する新しい制度や旧制度の利用条件の緩和
福利厚生を改善する際のポイントですが、「導入前に従業員の意見を参考にすること」が重要です。
極端な例ですが、子育てをする従業員が多い企業なのに、単身向けのレジャー休暇などを導入してもあまりよい反応は得られません。「レジャー休暇もいいけど、子育てのための休暇や手当のほうが欲しいのに」と感じる人が多いはずです。
従業員が求めている制度を的確に理解するためにも、アンケートなどを活用していくべきです。福利厚生による定着率向上対策を行う場合は、従業員の満足度に注目しながら対策をしていきましょう。
人事・評価制度の見直し
従業員が自身の評価やキャリアアップに対して不満を感じている場合は、人事・評価制度の見直しが効果的です。
その場合、対策として以下のような方法が挙げられます。
【定着率を向上させる見直し対策】
- 自分で希望の部署を申告・アピールできる制度の導入
- 社内でのキャリアパスが明確に見える評価制度の導入
- 従業員に対する評価の透明化
- 業務に関連のある資格試験の研修・費用などの補助
定着率を向上させるために人事や評価制度の見直しを行う場合のポイントとしては、「従業員に分かりやすい形で評価を確認できるか」という点があります。
人は自分が適切に評価されていると感じると、モチベーションの高い状態で仕事に打ち込めるものです。人事や評価制度の見直しは、業務に対するモチベーションを高めることで定着率を向上させる方法として効果的といえるでしょう。
しかし、企業や組織の業務内容や経営方針のなかには、これらの対策が取りにくいところもあるかもしれません。もし、制度の見直しが難しい場合には、従業員に問題点を聞き、改善できる点がないか調査や会議を行うところから始めていきましょう。
改善が非常に小さい・簡単な内容でも、企業や組織が従業員に寄り添おうとしている姿勢を見せることが大切です。
企業や組織が従業員を大事にしていると示すことも、定着率向上において重要なポイントといえます。
ワークライフバランス改善策の導入
定着率の向上には、ワークライフバランスの改善策を導入するのも有効です。
「ワークライフバランス」とは、説明するまでもなく仕事と生活の調和を意味する用語です。
近年、さまざまな働き方やライフスタイルが生まれています。その新しい流れに対応するためにも、下記のようなワークライフバランスの改善策を導入することも従業員定着率を高めるのに効果的です。
【ワークライフバランスの改善策】
- 時短勤務の導入
- フレックスタイム制の導入
- 在宅勤務を含むリモートワークの導入
- ワーケーションの導入
- 通勤手段の緩和
これらの改善策は、実際に多くの企業や組織ですでに導入されているものばかりです。
従業員から「育児や介護に力を入れたい」「仕事以外の活動に時間を使いたい」などの声がある場合には、ワークライフバランスの改善策で対応できないか考えてみましょう。
社内コミュニケーションの活発化
従業員同士のコミュニケーションや社内の雰囲気に対して不満があるといった意見が出た場合には、社内コミュニケーションを活性化させる取り組みが有効でしょう。
具体的には、以下のような方法が挙げられます。
【社内コミュニケーション活性化策】
- 座席を自由に選べるフリーアドレス制の導入
- 社内SNSによるコミュニケーション
- オンライン飲み会やランチ会の補助制度
企業により必要なコミュニケーションは異なりますので、従業員が求めている対策を取っていくことが大切です。
まとめ
定着率は、企業や組織で働き続ける人がどれだけいるかを知るのに役立つ指標のひとつであり、高ければ高いほど離職率が低く従業員が定着しているということがお分かりになったかと思います。
従業員に定着してもらうためには、福利厚生の充実や人事・評価制度の見直し、そしてワークライフバランスの導入など、様々な仕組みの改善が効果的であることも説明させていただきました。
ただ、そういった仕組みを整えたとしても、従業員のメンタルヘルス面などで問題を抱えてしまうケースもあるかと思います。そういった従業員へのサポートが重要になってくるのですが、対面での相談には抵抗を感じてしまう従業員の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、私たちパーソルビジネスプロセスデザインでは、企業の健康経営の取り組みにも役立ち、従業員に長く安心して働いてもらえるよう“アバター”によって気軽に心理師にアクセスできる環境を提供する『KATAruru(かたるる)』というサービスをご用意しています。
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