現代に必須な「メンタルヘルス」とは?
「メンタルヘルス」とはよく耳にする言葉ですが、具体的にはどのような状態を指す言葉なのでしょうか。
まずは、企業にとって必要なメンタルヘルス対策の定義や必要性について説明します。
メンタルヘルスの定義
メンタルヘルスとは、“心の健康”を指す言葉です。職場のメンタルヘルス対策は、従業員の心の健康を守るための施策であるといえるでしょう。
では、“心が健康な状態”とは、どのような状態を指すのでしょうか。世界保健機構(WHO)は、人間の健康な状態について次のように定義しています。
※引用:公益社団法人日本WHO協会「世界保健機関(WHO)憲章とは」
また、メンタルヘルス不調について、厚生労働省は以下のように定義しています。
※引用:厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」
WHOと厚生労働省の定義からは、健康な状態とは病気であるかどうかに関わらず、“生活の質が保たれた状態”であるといえるでしょう。
そして、メンタルヘルス不調とは、うつ病や適応障害といった精神疾患が発症した状態だけではなく、業務上のストレスや職場の人間関係上の悩みなど、幅広い問題を含むものであることが分かります。
つまり、職場のメンタルヘルスにおいては、精神疾患の発症を抑止するといった個人的な対策だけでは十分とはいえません。心の健康を保つため、職場環境や人間関係の改善などとあわせて組織的な対策を講じることが必要なのです。
メンタルヘルス対策の必要性
厚生労働省の労働安全衛生調査(令和5年)によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、63.8%(令和4年調査:63.4%)であり、ストレスチェックの実施、職場環境の評価及び改善、産業保健スタッフによるメンタルヘルス対策などに取り組んでいることが分かります。
※参考:厚生労働省『令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」』
2015年12月にストレスチェックの実施義務化がなされて以降、ストレスチェックを実施する事業所は増加しています。
しかし、同調査によれば、過去1年間にメンタルヘルス不調が原因で1カ月以上の休業・退職した労働者がいた事業所は13.5%であり、1000人以上の事業所においては、90%を超える水準となっています。このことからも、未だメンタルヘルス対策が十分な状態とは到底言えないでしょう。
従業員の休職や退職のリスクを抑制するためにも推奨されるメンタルヘルス対策ですが、なぜ企業が取り組む必要があるのでしょうか。以下、2つほど挙げてみましょう。
従業員の生産性を向上させるため
身体的な疲労だけでなく、“心の健康”が損なわれると、仕事のパフォーマンスに影響したり遅刻や欠勤が増えたりすることが起こりやすくなります。
その結果、業務の質が低下してしまい、企業経営の安定性に影響を及ぼすこともあるでしょう。
働きやすい環境を整えることは、メンタルヘルス不調を防止するだけではなく、従業員のモチベーションを高め、生産性を向上することにもつながります。
経営者は、日ごろから従業員の立場に立って環境改善を意識して取り組むことが必要でしょう。
損失回避・リスクマネジメントのため
メンタルヘルスが悪化すると、集中力や意欲が低下し、正確な判断が難しくなることがあります。
ケアレスミス程度で済めばよいのですが、時には重大なミスにつながってしまうかもしれません。そうなると、取引先・エンドユーザー(一般消費者)などに対しても迷惑をかけてしまうこととなり、企業にとっては大きな損失となる恐れがあります。
重大な事故・インシデントを未然に防ぐためにも、メンタルヘルス不調への対策が必要となります。
メンタルヘルスが悪化する要因とは
では、実際にはどのような要因がストレスとなり、メンタルヘルス不調が起こるのでしょうか。
業務による心理的負荷の増大
メンタルヘルス不調が起きる要因として、業務における心理的負荷の増大が挙げられます。
前項でご紹介した厚生労働省が実施した労働安全衛生調査では、個人調査も実施されており、「不安やストレス」「長時間労働」に関する項目が質問されています。
「仕事や職業生活に関するストレスの状況」の調査結果では、ストレスに感じる事柄として「仕事の失敗、責任の発生等(39.7%)」、「仕事の量(39.4%)」、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)(29.6%)」との回答が多くなっています。
このことから、業務量の拡大や大きな責任を求めらることにるプレッシャー、対人関係のストレス、など心理的負荷が強くのしかかっていることが要因となっていることが伺えます。
※参考:厚生労働省『令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」』
自由に判断できず、多忙だけど上司や同僚からのサポートが少ない
職場のメンタルヘルスが悪化する原因を説明した「仕事の要求度・コントールモデル」では、以下のような状態で最も高ストレス状態になるとされています。
- 業務量が多い
- 仕事の裁量権や自由度が低い
- 上司や同僚のサポートが少ない
管理職は、部下のサポートや業務量の調整のみならず「どこまで仕事を任せるのか」ということまで考えておく必要があるでしょう。
仕事外からの影響
仕事以外の要因とは次の3つです。
※参考:東京都「NIOSHの職業性ストレスモデル」
- 個人の性格特性や性別などの「個人的要因」
- 家族関係が悪い、親の介護負担が大きいなどの「仕事以外の要因」
- 同僚や家族のサポートの有無を指す「緩衝要因」
NIOSH職業性ストレスモデルからは、仕事上のストレスが軽度であっても、性格やプライベートの事情が影響して高ストレスとなる可能性があるといえるでしょう。
また、周囲のサポートがストレスを緩和させる要因となるため、“気軽に相談できる存在”が必要だといえます。
メンタルヘルス対策の基本対応
従業員の精神的健康を守るためには、具体的にどのような対策をとればよいのでしょうか。
基本の対応として行うべき4つのケアについて解説します。
セルフケア
個人が感じているストレスに対処し、軽減させることをセルフケアと呼びます。
従業員に対しては教育や研修の機会を設けて、正しい対処法を身に付けられるよう努める必要があります。また、ストレスチェックを行って、自分自身の精神状態を知り、ストレスに気づく機会を作るような施策も有効でしょう。
ラインによるケア
ラインによるケアは、職場の管理監督者が部下に対して行うメンタルヘルスケアを指す言葉です。
例えば、業務量や裁量の調整といった職場環境の改善や、従業員からの相談対応などが含まれます。日々、従業員に接する者として部下がメンタルヘルス不調に陥っていないかを観察し、気にかけることが重要です。
事業場内産業保健スタッフ等によるケア
事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは、産業医や衛生管理者、保健師などの専門スタッフによるケアのことを指します。
具体的には、セルフケアに関する研修の立案やメンタルヘルスに関する個人情報の取り扱い、社外の相談機関との橋渡しをするなどの専門的なケアです。
また、セルフケアやラインによるケアが円滑に行われるよう、従業員や管理監督者のサポートも行います。
事業場外資源によるケア
事業場外資源によるケアとは、外部の医療機関のように専門的なメンタルヘルスサービスを活用したケアをいいます。
上司との利害関係から社内での相談を望まない場合や、精神疾患を発症しており専門的治療が必要なケースでは、外部機関によるケアが必要となるでしょう。
企業が取り組むべきメンタルヘルス対策
企業がメンタルヘルスに取り組む際に重要なことは、「予防」という観点です。
悪化を予防し、リスクを最小限に抑えることが必要でしょう。具体的には次の3つの予防が必要といえます。
一次予防:不調にならないための予防
一次予防とは、メンタルヘルスの悪化を防ぐための予防です。
従業員が自分自身のストレスマネジメントを行ったり、管理監督者が職場環境を改善したりと、セルフケアとラインによるケアが中心となります。
一次予防の方法として、大きな役割を担うのがストレスチェック制度です。
労働安全衛生法では、従業員が50人以上の事業場において、ストレスチェックの実施が義務付けられています。
※参考:厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要」
ストレスチェックでは、従業員にストレスに関する質問紙に回答してもらい、高ストレスと判定されると産業医の面接指導を受けられます。管理監督者に対して職場環境の改善を求めることができますので、従業員のメンタルヘルスを守る対策といえるでしょう。
また、従業員や管理監督者に対して、ストレスマネジメントやメンタルヘルスに関する研修を行い、基礎知識を学んでもらい意識を高めることも一次予防には必要です。
二次予防:早期に発見し治療につなげる
二次予防とは、メンタルヘルス不調を早期に発見し治療につなげるための対策をいいます。
二次予防のためには、従業員が相談できる体制を整えておくことが不可欠です。例えば、従業員が自発的に相談しやすい窓口の設置や、希望すればストレスチェックが受けられるような仕組み作りが求められます。
また、不調を疑う部下がいれば、すぐに産業保健スタッフに相談できるよう、相談窓口を明確にしておくような組織作りも必要でしょう。
三次予防:不調により働けなくなった従業員のサポート
三次予防とは、メンタルヘルスの不調により働けなくなった従業員の復職支援や、その後のフォローを指します。
精神疾患を発症すると医療機関への紹介が必要となる場合がありますので、すぐに紹介できるよう連携体制を整えておく必要があるでしょう。
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