窓口の長蛇の列と職員の疲弊を解消。BPOと技術が導いた行政DXの正解
福岡市さまは、高齢者の社会参加を支援する「高齢者乗車券交付事業」の運営課題を解決するため、パーソルビジネスプロセスデザインをパートナーに選定し、BPOとDXを融合させた業務改革に着手しました。
年間約16万件にのぼる申請手続きは、かつて区役所窓口に長蛇の列を作り、市民への負担のみならず、担当職員の業務を圧迫する深刻な状況でした。単なる事務代行ではなく、AI-OCRやRPAを駆使したプロセスの再構築により、いかにして「市民サービスの向上」と「職員の働き方改革」を同時に成し遂げたのか。現場の最前線で改革を主導した、福祉局高齢社会部・高齢福祉課のお二人に、その激動の変革プロセスと確かな成果についてお話を伺いました。
年間16万件の申請が集中する繁忙期。限界を迎えていた従来の運営体制
- まずは組織体制と、皆様が担当されている業務内容について教えてください。
安川様:私たちは福岡市の高齢福祉課において、社会参加推進係として業務にあたっています。私は在課4年目で、係長として全体のマネジメントを担当しています。
熊上様:私は在課3年目になります。昨年度までは副担当として、今年度からは主担当として「高齢者乗車券交付事業」の運営に携わっています。この事業は、福岡市内に住む70歳以上の高齢者を対象に、社会参加のきっかけづくりとして交通費の一部を助成するものです。私たちの係では区役所とも連携を図りながら、私を含めた計3名の職員でこの事業を担当しています。
- わずか3名で運営されているとは驚きです。対象となる高齢者の人数や、具体的な業務ボリュームはどの程度なのでしょうか。
安川様:福岡市は全庁的にDXを推進しており、少人数でも最大のパフォーマンスを出せる体制づくりを目指しています。とはいえ、この事業の業務量は非常に多いのが実情です。
年間で約16万件の交付決定を行っており、その申請受付は毎年7月から開始されます。特に7月から12月までの間に、年間申請数の約8割から9割が集中します。この短期間に膨大な量の審査と交付決定を行わなければなりません。
熊上様:最も忙しいのは7月中旬の受付開始直後です。開始翌週あたりがピークとなり、郵便局から届く申請書の受領件数が1日1万件を超えることもあります。これらを処理しつつ、不備への対応や交付手続きを進める必要があるため、以前は自分たちで何とかしようと必死でした。パーソルビジネスプロセスデザイン(以下、パーソル)さんの支援がなければ、この繁忙期を乗り切ることは難しい規模感になっています。
- BPO導入以前、まだ外部委託をしていなかった頃はどのような体制で運営されていたのでしょうか。現場で抱えていた課題についてお聞かせください。
安川様:以前は、各区役所の窓口で対面による申請受付と交付を行っていました。毎年申請受付開始時期になると、対象となる高齢者の方々が一斉に区役所に押し寄せるような状況でした。
大きな会議室を借り切って対応していましたが、それでも待ち時間が2時間以上発生し、列が3階の会場から1階の階段まで伸びてしまうこともありました。真夏の暑い時期に、高齢者の方に長時間お待ちいただくのは体力的なリスクも大きいですし、ご不便をおかけしているという心苦しさがありました。
熊上様:職員側の負担も限界に近い状態でした。窓口業務に加え、裏側での事務処理も膨大にあります。当時は休息の確保もままならないほどの多忙さで、現場には常にピリピリとした空気が漂っていました。
また、物理的な疲労が蓄積すると、どうしてもチェック漏れなどのミスが起きやすくなります。市民の方の利便性を損ねているだけでなく、職員にとっても持続可能な働き方とは言えない状況が続いており、組織体制の安定化が急務でした。
コロナ禍を機に決断した「密を作らない」改革と、パーソルを選んだ理由
- 以前からアウトソーシングや業務改革の必要性は感じていたのでしょうか。また、導入に踏み切った決定的なきっかけを教えてください。
安川様:もちろん、「来庁しなくても手続きができるようにしたい」という思いはずっとありました。しかし、対象が70歳以上の高齢者の方々ということもあり、「対面の方が安心する」「書き方がわからない時にすぐ聞ける」といった市民の声も根強くありました。また、庁内でも「対面サービスこそが重要」という意見があり、オンライン化や郵送対応への完全移行には慎重にならざるを得ない側面があったのです。
熊上様:そうした中で、新型コロナウイルスの流行が決断の契機となりました。あれだけの数の高齢者が一箇所に集まる「密」な状態は、感染リスクの観点から絶対に避けなければなりません。そこで令和2年度に急遽、申請方法を郵送とオンライン中心に切り替え、外部委託を開始しました。
ただ、当初は「区役所でやっていた作業を、そのまま場所を変えて外部の人にやってもらう」という、いわば場所と人の置き換えに過ぎませんでした。これでは根本的な解決にはならず、結局はマンパワー頼みの運用が続いていました。
- その後、パートナーとしてパーソルを選定いただきました。どのような点が決め手となったのでしょうか。
安川様:単に人を集めて処理するのではなく、業務プロセスそのものを変革する提案をいただいた点が大きかったですね。
これからの高齢化社会を見据えると、対象者は増え続け、業務量は増加の一途をたどります。マンパワーに依存した体制では、いずれ破綻してしまうという危機感がありました。パーソルさんからは、コールセンターの綿密なマニュアル化や、入電分析に基づいた回線コントロール、さらにはAI-OCRやRPAといったデジタル技術を活用した業務効率化の提案をいただき、「これなら持続可能な事業運営ができる」と確信しました。
- 庁内には「対面サービスを維持すべき」という声もあったとのことですが、デジタル活用やBPOへの移行について、どのように合意形成を図ったのでしょうか。
安川様:確かに「高齢者はデジタルが苦手だから、サービス低下になるのではないか」という懸念の声はありました。しかし、ご提案いただいた内容は、デジタルを活用しつつも、電話対応などの人的サポートを充実させることで、サービスレベルを維持・向上させるものでした。また、区窓口でも申請サポートを行うことでより必要な方へ、必要なサポートの提供を実現させることができます。
「力技で乗り切るのではなく、分析と技術に基づいて効率化し、浮いたリソースで丁寧な対応を行う」という方向性を丁寧に説明し、理解を得ていきました。
福岡市 福祉局
高齢社会部 高齢福祉課 社会参加推進係長
安川
しおりさま
AI-OCRとRPAの導入。現場の負担を劇的に軽減したBPOスキーム
- 具体的な施策についてお伺いします。AI-OCRやRPAの導入は、現場にどのような変化をもたらしましたか。
熊上様:導入前は、すべての申請データを人の目で見てシステムへ手入力していました。これには膨大な時間がかかりますし、人間が入力する以上、どうしてもヒューマンエラーのリスクが残ります。
AI-OCRを導入したことで、手書きの申請書をデジタルデータとして読み込めるようになり、入力作業の工数が大幅に削減されました。もちろん、高齢者の方特有の筆跡などもあり、最初は読み取り精度に課題もありましたが、パーソルさんと共に1年かけてAIに学習させ、チューニングを行ったことで、実用的なレベルまで精度を高めることができました。
安川様:RPAについては、主に「電子交付」のプロセスで活用しています。以前は、オンライン申請をいただいても、最終的な交付作業は手作業や個別処理が必要で、結局アナログな手順が残っていました。
今回、パーソルさんと数ヶ月にわたって業務フローを協議し、RPAによる自動処理を組み込みました。その結果、職員が退庁した後や夜間にロボットが処理を進めてくれるようになり、翌朝には確認作業だけで済むようになりました。現在では2万件以上の方に電子交付を行っていますが、ほとんど追加のリソースをかけずに運用できています。
- 新しい技術を導入することに対して、運用上の不安やプレッシャーはありませんでしたか。
熊上様:正直なところ、最初は不安もありました。この事業は市民の注目度も高く、少しのミスが大きなクレームにつながる可能性があります。機械に任せて本当に大丈夫なのか、というプレッシャーは常にありました。
ですが、パーソルさんとは毎月の定例会で密に連携をとっており、「ここはリスクが高いので人の目で確認しましょう」「ここは自動化できるので任せてください」といった具体的な提案をいただけたので、安心して進めることができました。私たちだけで抱え込まず、一緒にリスクヘッジを考えられるパートナーがいることは非常に心強かったです。
福岡市 福祉局
高齢社会部 高齢福祉課 社会参加推進係
熊上
克久さま
不安からの解放。市民と職員にもたらされた変化
- BPO導入とデジタル化を経て、定量的な成果や市民の方からの反応はいかがでしょうか。
熊上様:定量的な効果としては、やはり処理スピードの向上です。申請件数は年々増加していますが、交付までのリードタイムは短縮されています。
また、市民の方からの反応も予想以上に肯定的です。オンライン申請を利用された方へのアンケートでは、「区役所に行かなくて済むので便利」「メールで乗車券の交付決定通知書が届くので紛失の心配がない」といった高い評価をいただいています。特に電子交付(メール受取)の選択率は、オンライン申請者の約7割に達しており、高齢者の方々にもデジタルの利便性が受け入れられていることを実感しました。
- 職員の皆様の働き方や、職場環境の変化についてはいかがですか。
安川様:以前の繁忙期は、職員同士が会話する余裕もなく、殺伐とした雰囲気になってしまうこともありました。今はそれが嘘のように解消されました。業務後のプライベートな時間を確保できるようになり、心身ともに健康的な状態で業務に向き合えています。
「明日はあれをやらなきゃいけない、終わるだろうか」というプレッシャーで眠れない夜を過ごすこともなくなりました。精神的な負担が減ったことで、職員間のコミュニケーションも活発になり、職場の雰囲気は非常に良くなりました。
熊上様:以前は、他部署からの応援をお願いして回らなければならず、それが心苦しかったのですが、今は自分たちのチームだけで完結できるようになりました。事務処理に追われる時間が減った分、本来やるべき事業の企画や、パーソルさんからご提案いただく「AI-OCRの識字率向上施策」や「高齢者向け申請サポート会」といった、より付加価値の高い取り組みについて協議・検討する「前向きな時間」を持てるようになっています。
- 最後に、同様の課題を抱える自治体や企業の担当者様へメッセージをお願いします。
安川様:「とりあえずやってみる」ことの大切さを伝えたいですね。過去に検討して難しかったことでも、今の技術を使えば実現できるケースは多々あります。私たちも最初はAI-OCRの精度を懸念していましたが、技術は日々進化しており、運用上の工夫でカバーできることも多いです。
昔のイメージにとらわれず、最新の技術や外部のノウハウを取り入れて再検討してみると、意外とスムーズに解決策が見つかるかもしれません。
熊上様:もしタイムマシンで過去の自分に会えるなら、「迷わずやれ、大丈夫だから」と背中を押してあげたいです(笑)。
導入前は不安でいっぱいでしたが、実際にやってみて得られた効果は計り知れません。何より、市民の方々により良いサービスを提供できているという実感が、今の私たちの自信につながっています。これからも現状に満足せず、パーソルさんと共に改善を続けていきたいです。
担当者コメント
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
BPO事業本部 BPO第2統括部
第3公共サービス部 九州公共運用課
マネージャー 河口 強
福岡市様の高齢者乗車券事業という、市民の皆さまの暮らしに寄り添う大切な取り組みに携わることができ、心より光栄に感じております。私たちは、お預かりした業務を確実に遂行するだけでなく、より良い行政サービスの実現に向けて並走し続ける“伴走パートナー”でありたいと考えています。
これまでの取り組みでは、AI
OCRやRPAといった技術の活用をはじめ、職員の皆さまと対話を重ねながら、持続可能な運営体制づくりを進めてまいりました。今後も、組織としての総合力を活かし、福岡市様のご期待にしっかりとお応えできるよう、改善と価値提供を継続してまいります。
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
BPO事業本部 BPO第2統括部
第3公共サービス部 九州公共運用課
ユニット長 新留 学
福岡市様の高齢者乗車券事業では、将来を見据えた行政DXの在り方について、福岡市様と継続的に認識を合わせながら取り組みを進めてきました。AI‑OCRやRPAの活用は、単なる効率化にとどまらず、業務プロセス全体をどのように進化させていくかという視点で設計し、段階的に実装しています。
現在もさらなる改善と拡張を見据えた取り組みが進行しており、DXを軸にした持続可能な運営モデルが着実に形になりつつあります。本事例は、他自治体にも応用可能な実践的DXのモデルとして有用であり、今後も福岡市様と協調しながら、その価値をさらに高めていきたいと考えています。
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
BPO事業本部 BPO第2統括部
第3公共サービス部 九州公共運用課
プロジェクトリーダー 池田 ゆかり
福岡市様の高齢者乗車券事業において、業務負荷の大幅な軽減と市民サービスの向上を実現できたことは、大きな成果と考えています。
今後は、この成功事例をさらに発展させ、より高度なデジタル化やプロセス改善を推進し、持続可能な運営体制の更なる強化に取り組んでまいります。チーム一丸となって、現場の課題解決と市民の利便性向上を両立させるプロジェクトを次のステージへ進めていきたい所存です。
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
BPO事業本部 BPO第2統括部
第3公共サービス部 九州公共運用課
プロジェクトリーダー 大町 優貴
当事業に携わる一員として、日々多くの市民の皆さまの申請を支える機会をいただけていることに、心より感謝申し上げます。
申請者数が年々増加するなか、助成制度の趣旨を守りつつ、最新技術の導入による業務効率化にチーム一丸で取り組んでいます。現状の成果に満足することなく、より良い市民サービスの提供と、福岡市様の事務負担軽減に向けて引き続き尽力してまいります。