なぜストレスチェックが義務化されたのか?
ストレスチェック制度の義務化は、2000年代から急増していた精神疾患による労災認定件数や自殺者数の高止まりを受けて実現されました。2015年12月に労働安全衛生法の改正により、従業員50人以上の事業場でストレスチェックの実施が義務化されています。
義務化の背景には、現代の職場環境における新たなストレス要因の出現があります。長時間労働の常態化、職場のコミュニケーション不足、はたらき方の多様化などが従来とは異なるメンタルヘルスリスクを生み出していました。従来の対症療法的なアプローチでは限界があり、予防的なメンタルヘルス対策が急務となったためです。
注目すべき点として、2025年5月に改正労働安全衛生法が公布され、従業員50人未満の事業場においてもストレスチェックの義務化が決定されています。最長で2028年5月までに義務化される見込みであり、中小企業においても今後ストレスチェック実施体制の整備が不可欠になるでしょう。
※参考:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要
※参考:平成 27年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況
ストレスチェックを外部委託する意義や効果
近年、メンタルヘルス対策への関心が高まる中、ストレスチェック制度の重要性がますます注目されています。しかし、社内での実施には多くの課題があり、効果的な運用に悩む企業も少なくありません。そこで、外部委託という選択肢が注目を集めています。
外部委託は単なる業務の代行にとどまらず、企業にとって以下のような戦略的なメリットをもたらします。
- 社内の手間とコストの大幅削減
- 専門機関による法令順守と品質の保証
- 第三者による心理的安全性の確保
このようなメリットを正しく理解することで、外部委託を選ぶかどうかの判断材料がより明確になるでしょう。それでは、それぞれの詳細を解説していきます。
社内の手間とコストの大幅削減
まず最大のメリットとして、社内の負担軽減が挙げられます。
ストレスチェックの社内実施には、実施者の選定、衛生委員会での審議、システム導入、継続的な運用体制の構築など膨大な準備が必要となります。さらに、人事担当者が専門知識を習得し、年1回の実施を継続するには相当な工数とコストがかかる状況にあります。
一方、外部委託により、これらの複雑な実務から解放され、本来の人事業務に集中できる環境が整います。その結果、限られた人的リソースをより戦略的な人事施策に振り向けることが可能になります。
専門機関による法令遵守と品質の保証
次に、法的リスクの軽減も重要なポイントです。
ストレスチェック制度には厳格な法的要件があり、不適切な実施は労働基準監督署からの指導対象となるリスクがあります。
これに対して、専門機関では産業医や臨床心理士などの有資格者が科学的根拠に基づいて評価を行い、個人情報管理も徹底しています。その結果、法令遵守とコンプライアンス体制の確保により、企業の信頼性向上にもつながります。
第三者による心理的安全性の確保
さらに、従業員の回答精度向上も見逃せないメリットです。
社内実施では従業員が「人事評価に影響するのではないか」「上司に結果が知られるのではないか」と不安を感じ、正直な回答が得られない傾向にあります。
一方、外部の専門機関が中立的な立場で実施することで、従業員は安心して本音で回答でき、制度本来の目的である「気づき」と「予防」が実現されます。また、客観的な分析により職場環境の真の課題も見えてくるため、より効果的な改善策の検討が可能になります。
このように外部委託には多くのメリットがあることから、効果的なメンタルヘルス対策を実現したい企業にとって有力な選択肢となっています。
ストレスチェックを委託する際の流れ
ストレスチェックを外部委託する流れは、おおよそ次の通りです。
- 業者選定と契約前準備
- 実施計画の策定
- 従業員への周知・検査の実施
- 結果通知・高ストレス者面談の促進
- 集団分析と報告
- 職場環境の改善と行政報告
それでは、実際に具体的な流れを見ていきましょう。計画的なアプローチと段階的な実施が成功の鍵となります。
1. 業者選定と契約前準備
まず初めに、複数業者からの見積もり取得と比較検討を行い、自社の要件に最も適した業者を選定します。
この際、単純な価格比較だけでなく、サービス内容や実施体制、セキュリティ対策なども総合的に評価することが重要です。
その後、契約条件の確認と社内承認手続きを経て、正式契約を締結します。契約書では実施範囲、責任の所在、個人情報の取り扱い、トラブル時の対応などを詳細に規定することが必要です。
2. 実施計画の策定
続いて、実施時期、対象者、実施方法などの詳細計画を業者と協力して策定します。
特に、業務繁忙期を避けた適切なタイミングの設定と、従業員への負担を最小限に抑えた実施方法の検討が重要になります。
同時に、社内スケジュールとの調整を行い、円滑な実施に向けた準備を整えることも必要です。関係部署との連携体制を構築し、実施期間中のサポート体制も確立しておきます。
3. 従業員への周知・検査の実施
次の段階では、従業員への目的説明と協力要請を行い、実施方法の案内を徹底します。
ストレスチェック制度の意義と個人情報保護の取り組みを丁寧に説明し、従業員の理解と協力を得ることが高い受検率につながります。
そして、設定された期間内での受検促進と、受検率向上のためのフォローアップを継続的に実施します。管理職による声かけや、受検期限のリマインドなど、組織的な取り組みが成功の鍵となります。
4. 結果通知・高ストレス者面談の促進
検査完了後は、個人結果の通知と高ストレス者への面談の推奨を適切に実施します。
結果の見方や活用方法についても分かりやすく説明し、従業員自身のセルフケア意識の向上を促すことが重要です。
また、プライバシーに配慮した結果配布と、必要に応じた個別フォローアップを行います。高ストレス者への面接指導は本人の同意が前提となるため、強制的ではない適切なアプローチが求められます。
5. 集団分析と報告
個人結果の処理と並行して、職場ごとの集団分析結果を受領し、組織全体のストレス状況や傾向、課題を把握します。
集団分析は、個人が特定されない形で職場のストレス状況を「見える化」し、職場環境改善や働き方改革といった組織的な改善策に役立てることができます。
ただし、分析対象の集団が10人未満の場合、個人が特定されるおそれがあるため、全員の同意がない限り結果提供は認められていません。これは労働安全衛生法に基づくルールであり、特に部署規模が小さい企業では留意が必要です。
この場合、部署を横断して集団を10人以上にまとめる、もしくは個人結果の活用を重視するなど、プライバシー保護と制度の目的を両立させる工夫が求められます。実施前に委託業者や実施事務従事者と十分に協議し、適切な分析単位を設定しましょう。
集団分析の結果は、管理職へのフィードバックや、具体的な職場環境改善策の検討・実行に活かすことで、ストレスチェック制度の効果を高め、働きやすい職場づくりにつながります。
6. 職場環境の改善と行政報告
最終段階では、分析結果に基づく職場環境改善策の検討と実施を行います。
労働時間の適正化、コミュニケーション促進、業務配分の見直しなど、具体的な改善策を組織的に推進することが重要です。
同時に、労働基準監督署への実施結果報告を期限内に完了し、次年度実施に向けた準備を開始します。継続的な改善サイクルを構築し、中長期的なメンタルヘルス向上を目指します。
ストレスチェックの委託サービスの対応範囲
ストレスチェック制度では、専門機関に委託できる業務と、企業が自ら行う必要がある業務が法律で定められています。
以下の業務は、専門機関や外部業者に委託することが可能です。専門機関のノウハウを活用することで、効率的かつ質の高い実施が期待できます。
◆ 委託できる業務
- 質問票の設計・配布
- Webシステムの提供
- 回答データの収集・分析
- 個人結果の作成・通知
- 集団分析レポートの作成
- 高ストレス者の判定
- 面接指導の調整
一方で、以下の業務は労働安全衛生法により、企業が自ら行わなければなりません。
◆ 委託できない業務(企業が実施しなければならない業務)
- 実施者(医師・保健師等)の選任
- ストレスチェック実施方針の決定
- 面接指導の実施(医師による)
- 高ストレス者への面接指導勧奨の実施
- 面接指導結果を踏まえた就業上の措置に関する最終判断
委託業者からの情報提供や助言は受けられますが、最終的な判断と責任は企業側が負うことをしっかり理解しておくことが重要です。
参考:労働安全衛生法
ストレスチェックの委託業者を選ぶ際に見るべきポイント
適切な委託業者の選定は、制度の成功を左右する重要な判断です。
価格だけでなく、複数の観点から総合的に評価し、自社の要件に最も適した業者を選択しましょう。
ポイント(1)法令遵守状況と実施体制
まず基本となるのが、労働安全衛生法に基づく適切な実施体制が整備されているかという点です。
実施者の資格要件、守秘義務の徹底、法定報告への対応など、法的要件を満たした運営体制になっているかが重要な判断基準となります。
また、業者の実績や認定資格、業界団体への加盟状況なども参考指標になります。長期間にわたって安定したサービス提供が可能な信頼性の高い業者を選択することが重要です。
ポイント(2)プライバシー保護と匿名性
次に重要なのが、個人情報の適切な管理体制と結果の匿名性確保です。
ストレスチェックで取り扱う情報は極めてセンシティブな個人情報であり、漏洩や不正利用のリスクを最小限に抑える必要があります。
そのため、データの暗号化、アクセス制限、保存期間の管理など、セキュリティ対策の具体的な内容を詳細に確認しましょう。プライバシーマーク取得やISO27001認証など、第三者機関による認証の有無も重要な評価ポイントです。
ポイント(3)結果分析とフィードバック体制
さらに、個人結果の通知方法と集団分析の質も重要な評価ポイントとなります。
単純な結果通知だけでなく、従業員が理解しやすい形での結果表示、詳細な分析レポート、改善提案の具体性など、結果を有効活用できるサービス内容かどうかを確認する必要があります。
集団分析においては、職場の特性を踏まえた分析手法や、具体的な改善策の提案力も重要な要素です。データの可視化技術や分析の深度についても事前に確認しておきましょう。
ポイント(4)サポート体制と専門職との連携
最後に、専門職との協力体制とサポート範囲を確認することが重要です。
産業医による面接指導の調整、保健師によるフォローアップ、外部専門機関との連携など、包括的なサポート体制の有無をチェックしましょう。
また、実施期間中のサポート体制、トラブル時の対応体制、継続的な改善提案なども重要な評価項目です。単発的なサービス提供ではなく、中長期的なパートナーとして協力できる業者を選択することが、制度の継続的な改善につながります。
ストレスチェックを委託する際の費用
費用面についても事前に把握しておくことが重要です。
ストレスチェック委託の費用は、実施規模、サービス内容、オプションの有無により大きく変動します。機能や提供範囲によりバラつきがあるため、安価に見えるプランでも、結果的に必要なサービスが含まれておらず、追加費用がかさむケースは少なくありません。
失敗を避けるためには、目先の単価だけでなく、年間を通じて必要となるサービス全体を見通した「総所有コスト」で評価することが不可欠です。
初期費用
基本料金・初期費用として20,000〜55,000円程度が一般的な相場です。
Web形式で一法人につき約20,000〜50,000円前後が標準的な価格帯ですが、企業規模が大きい場合や専用システム導入が必要な場合、10万円以上となるケースもあります。
初期費用には質問票のカスタマイズ、システム設定、実施計画の策定などが含まれることが多く、業者によってサービス範囲に違いがあります。
実施費用
ストレスチェックは主に「Web上での実施」「マークシートによる実施」の2パターンの実施方法があります。それぞれの費用については以下の通りです。
Web実施の場合
一人当たり250~660円が相場で、平均的には300~600円程度となっています。
委託業者や質問の項目数によっては、250~400円程度の価格帯も見られ、実施人数が多いほど一人あたりの単価が下がる傾向にあります
マークシート実施の場合
一人あたり450~1,320円が相場で、一般的には450~1,000円のレンジが目安となります。
シートの印刷や郵送、到着後のデータ入力などにかかる費用が発生するため、Webによる実施よりも割高になることが多いでしょう。
オプション費用
基本的にオプションサービスに該当する「集団分析の実施」「報告書作成」については、一拠点または一回あたり10,000〜50,000円が相場です。
分析の粒度や報告書の記載内容によって価格帯が分かれていることが多いため、カスタマイズの程度に応じて費用が変動します。また、高ストレス者の面談費用として、医師による面談は10,000〜50,000円/件、保健師や心理職による面談は10,000円前後/件が一般的です。
面談の実施方法や時間、専門職の資格により費用が異なるため、事前の確認が必要です。
ストレスチェック委託で失敗しないための注意点
前項では業者選定のポイントを解説しましたが、実際に業務委託を行う上でにおいて失敗しないための以下の注意点についても押さえておきましょう。
- 契約書の内容と責任範囲を明確化する
- 社内への周知と理解促進を徹底する
- 緊急時の対応手順を確立しておく
- 結果活用できる環境を整える
- 実施スケジュールと社内体制を調整する
事前準備と実施体制の整備が成功の鍵となります。
注意点(1)契約書の内容と責任範囲を明確化する
まず重要なのが、実施範囲、費用、責任の所在、トラブル時の対応などを詳細に取り決めて書面で確認することです。
曖昧な契約内容は後々のトラブルの原因となるため、想定される状況を具体的に考慮した契約書の作成が必要です。
特に個人情報の取り扱いと緊急時の対応については、具体的な手順まで明記する必要があります。データ漏洩やシステム障害などの緊急事態における対応フローを事前に確立し、責任の所在を明確にしておきましょう。
注意点(2)社内への周知と理解促進を徹底する
次に、従業員への目的説明と協力要請を丁寧に行い、実施意義を正しく伝えて受検率向上を図る必要があります。
ストレスチェック制度に対する誤解や不安を解消し、従業員の理解と協力を得ることが制度成功の前提条件になります。
同時に、管理職への事前説明と協力体制の構築も重要な準備項目です。管理職が制度の意義を理解し、部下への適切な声かけができる体制を整備することで、組織全体での取り組みが可能になります。
注意点(3)緊急時の対応手順を確立しておく
さらに、高ストレス者が判明した場合の対応フローや、メンタルヘルス不調者への緊急対応体制を事前に整備しておく必要があります。
緊急事態が発生してから対応を検討するのでは手遅れになる可能性があり、事前の準備が重要です。
そのため、産業医との連携方法と外部専門機関への紹介ルートも準備することが重要です。24時間対応可能な相談窓口の設置や、緊急時の連絡体制の構築なども検討すべき項目です。
注意点(4)結果活用できる環境を整える
また、集団分析結果を職場環境改善に活かすための検討体制と、具体的な改善計画策定の準備を行う必要があります。
結果を受け取るだけでなく、継続的な改善につなげる仕組みの構築が制度の真の効果を発揮するために不可欠です。
そのためには、経営層の理解と改善に向けたリソース確保も重要な準備項目となります。分析結果に基づく改善策の実行には、人的・財政的なリソースの投入が必要になるため、事前の合意形成が重要です。
注意点(5)実施スケジュールと社内体制を調整する
最後に、業務繁忙期を避けた適切な実施時期の設定と、社内担当者の役割分担を事前に決めておくことが必要です。
実施時期の選択は受検率に大きく影響するため、業務スケジュールとの調整を慎重に行うことが重要です。
また、関係部署との連携体制を構築し、円滑な実施に向けた準備を整えることも重要です。人事部門だけでなく、総務、情報システム、各事業部門との協力体制を構築し、組織的な取り組みとして推進しましょう。
ストレスチェックを委託するならパーソルビジネスプロセスデザイン
ストレスチェックの外部委託は、法令遵守と効果的なメンタルヘルス対策を両立するための重要な選択肢です。制度の背景を理解し、適切な業者選定と計画的な実施により、社内の負担を軽減しながら質の高いストレスチェックを実現できます。
委託業者の選定においては、価格だけでなく法令遵守体制、セキュリティ対策、サービス品質を総合的に評価することが重要です。また、結果を活用した継続的な職場環境改善の体制整備も、制度の真の効果を発揮するために不可欠な要素です。
なお、パーソルビジネスプロセスデザインでは、ストレスチェック制度の導入から実施後の集団分析・改善提案まで、豊富な実績と専門知識に基づいた包括的な支援を提供しています。
また、高ストレス者への面接指導対応、制度運用に関する事務負担の軽減、SmartHRなどのクラウドサービスとの連携による業務効率化にも対応しており、安心してストレスチェックを継続できる体制を整えています。
ストレスチェック制度を単なる法令対応にとどめず、従業員一人ひとりが心身ともに健康にはたらける環境づくりにつなげるためにも、信頼できるパートナーの活用をご検討ください。
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