採用課題とは|企業が直面する採用の問題
そもそも採用課題とは何を指すのか、なぜ多くの企業が採用課題に直面しているのでしょうか。まずは採用課題の定義と背景について整理していきます。
採用課題の定義と採用活動への影響
一般的な採用課題としては以下が挙げられます。
- 応募者(求める人材)が集まらない
- 選考途中の辞退者が多い(歩留まりが低下する)
- 内定を出しても辞退者が後を絶たない
- 新入社員がすぐに離職してしまう
このように採用活動のプロセスにおいて発生するあらゆる課題のことを指します。採用課題を放置すると、採用目標が達成できず、必要な人材が確保できないため、事業の成長が停滞してしまいます。
具体的には、既存社員の業務負担が増え、疲弊して離職するという悪循環が起き、組織全体の生産性が低下します。また、採用活動が長期化することで、求人広告費、人材紹介手数料、採用担当者の人件費など、採用コストが増大してしまうでしょう。
採用課題が深刻化している背景
採用課題の深刻化には大きく3つの背景が関係しています。具体的には、以下の通りです。
- 労働人口の減少
少子高齢化の進行による影響で国内の生産年齢人口(15~64歳)の減少し、労働力が不足しています。これにより、採用市場は従来の「買い手市場」から求職者優位の「売り手市場」へと変化しており、「募集をかけても人が集まらない」など、採用競争の激化を課題とする企業が増加しているといえるでしょう。 - 求職者の価値観や働き方が多様化
仕事への向き合い方の変化も採用課題が深刻化の要因です。給与や企業規模、諸条件面だけで就職先を決めるのではなく、リモートワークやフレックスタイムの導入、副業制度の有無など「働きやすさ」や「ワークライフバランス」を重視する傾向が高まっています。
また、正規雇用だけでなく、派遣や委託、フリーランス、スポットワークなど求職者の“はたらく”選択肢が多様化することで、企業担当者は幅広い採用チャネルへの知見が求められるのです。 - 採用手法の多様化
求職者の価値観が多様化に伴い、採用手法においても多様化が進行しています。求人広告の出稿、職業紹介事業への依頼など、従来の採用手法に加え、自社採用サイトの魅力化、ダイレクトソーシング(スカウト)、リファラル採用・アルムナイ採用、SNS採用など、採用手法の幅が広がっている状況です。
担当者には数ある選択肢から、自社が求める採用ペルソナへアプローチができる手法を見極める能力が求められています。
これらの背景により、従来の採用手法では成果が出にくくなり、採用課題が複雑化しているのです。
【採用プロセス別】よくある課題一覧
採用課題は、採用プロセスのどの段階で発生しているかによって、内容が異なります。4つの段階それぞれでよくある採用課題を確認しましょう。
「母集団形成」における採用課題
母集団形成では、応募者数の不足、求める人材からの応募がない、応募対応のリソース不足などの課題が発生しやすくなります。
そもそも応募者数が少ないと求人広告を出しても反響が薄く、母集団が形成できません。また、求める人材からの応募がないことも課題となります。合わせて、応募数が一定数あっても、スキルや経験が求める基準に合わない候補者が多いケースも対策が必要です。
応募が多すぎて対応しきれないという課題も存在します。応募数が多くても、人事のリソースが不足していることで、スクリーニングや連絡が追いつかない状況です。さらには、自社の魅力が伝わっていないという課題も発生する可能性があります。これは、求人情報や採用サイトで、自社の魅力や働き方が十分に伝えられていないケースです。
「選考」における採用課題
選考段階では、面接辞退、選考通過率の低さ、選考プロセスの長さなどの課題が発生しやすくなります。
面接日程を調整しても、当日キャンセルや無断欠席が発生する状況では、何らかの対策が必要です。選考通過率が低いという課題について、面接を実施しても求める基準を満たす候補者が少なく、次の選考に進める人数が少ないケースも課題といえます。
また、選考プロセスが長いという課題も存在します。選考回数が多く、結果連絡に時間がかかるため、候補者が他社に流れてしまう状況です。合わせて、面接官のスキルがバラバラという課題についても対策が求められます。これは、面接官ごとに評価基準が異なり、優秀な候補者を見逃したり、ミスマッチな採用をしたりするケースです。
「内定・入社」における採用課題
内定・入社段階では、内定辞退、入社前の不安による直前の辞退などの課題が発生しやすくなります。
内定を出しても他社を選択されて辞退されるケースが続くと、採用目標の達成が難しくなります。特に優秀な候補者ほど複数の企業から内定を得ている可能性が高く、この段階で何かしらの課題を抱えていると、最終的な意思決定の段階で自社が選ばれない状況に陥りがちです。
入社前の不安を解消できていないという課題も深刻です。内定から入社までの期間、候補者とのコミュニケーションが不足していると、候補者は「本当にこの会社でいいのか」という迷いを抱えたままになります。この不安が解消されないまま放置されると、入社直前になって突然辞退するケースも発生するでしょう。
※関連記事: 内定者研修は違法?研修の内容は何をするのか、給料は払うのか、詳しく解説
「入社後」における採用課題
入社後では、早期離職、採用ミスマッチ、定着・活躍につながらないなどの課題が発生しやすくなります。
入社後、期待と現実のギャップや、オンボーディングの不足により、数か月〜1年以内に離職してしまう状況が続くと、定着率が上がりません。また、せっかく採用できても、採用した人材が期待通りのパフォーマンスを発揮できず、ミスマッチが発生しているケースも存在します。
合わせて、定着や活躍につながらないという課題も存在します。採用はできたものの、組織に馴染めなかったり、成長機会が提供されなかったりして、長期的な活躍につながらない状況です。
採用課題の可視化に役立つ3つの方法
採用課題を解決するためには、まず自社が抱える課題を正しく特定することが重要です。データに基づいて課題を特定する3つの方法を紹介します。
採用プロセスの歩留まり率を算出する
応募から内定承諾までの各段階での歩留まり率を算出し、どの段階で候補者が離脱しているかを数値で把握しましょう。
【歩留まり率の測定例】
| 選考段階 | 人数 | 計算式 | 歩留まり率 |
|---|---|---|---|
| 応募 | 100人 | - | - |
| 書類選考通過 | 30人 | 30人÷100人×100 | 30% |
| 一次面接実施 | 20人 | 20人÷30人×100 | 67% |
| 二次面接実施 | 10人 | 10人÷20人×100 | 50% |
| 内定 | 5人 | 5人÷10人×100 | 50% |
| 承諾 | 3人 | 3人÷5人×100 |
60% |
通過率が低い段階がボトルネックであり、そこに課題があります。たとえば、一次面接の通過率が低い場合は、書類選考の基準が甘いか、面接官の評価基準に問題がある可能性があるでしょう。歩留まり率を可視化することで、感覚ではなくデータに基づいた課題特定が可能です。
※関連記事: 歩留まりとは?採用における意味や歩留まり率の計算方法、低下要因について解説
候補者や退職者へのヒアリングを実施する
選考を辞退した候補者、内定を辞退した候補者、入社後早期に退職した社員にヒアリングを実施し、できる限り辞退・離職の理由を把握しましょう。
ヒアリング項目例は以下の通りです。
- 選考プロセスへの満足度
- 辞退・離職の理由
- 他社と比較して良かった点・悪かった点
- 改善してほしい点
候補者や退職者の率直な意見を収集することで、企業側が気づいていない課題を発見できます。特に、「選考の連絡が遅い」「面接官の態度が悪い」「入社後のギャップが大きい」など、具体的なフィードバックが得られると改善につながります。
競合他社や市場データと比較する
同業他社や同規模企業の採用状況、業界の平均データと自社を比較し、自社の立ち位置を把握しましょう。
競合他社の求人票を確認し、給与、福利厚生、働き方、求める人物像などを比較します。業界の平均的な歩留まり率、内定承諾率、離職率などのデータと自社のデータを比較し、自社がどの程度の水準にあるかを把握しましょう。
採用市場調査レポートや人材紹介会社が公表しているデータを活用することも効果的です。比較により、「自社だけが苦戦しているのか」「市場全体が厳しいのか」が明確になり、適切な対策を立てられます。
優先度の高い採用課題の見つけ方
複数の採用課題がある場合、すべてを同時に解決するのは困難です。効果的に改善を進めるために、優先順位をつける3つの方法を紹介します。
採用目標達成への影響度で優先順位をつける
すべての採用課題を同時に解決するのは現実的ではないため、採用目標達成への影響度が大きい課題から優先的に取り組みましょう。
たとえば、「応募数が少ない」という課題は、母集団が形成できないため、採用目標達成への影響度が非常に大きくなります。一方、「選考通過率が低い」という課題は、応募数が十分であれば、選考基準を見直すことで対応できます。
各課題が採用目標達成にどの程度影響を与えているかを評価し、影響度の大きい課題から優先的に取り組むことが重要です。
改善の実現可能性とリソースを考慮する
影響度が大きくても、改善が難しい課題は後回しにし、実現可能性が高い課題から取り組みましょう。
なぜなら、影響度が大きくても、改善に多大なコストや時間がかかる課題は、すぐに取り組むのが難しい場合があるからです。たとえば、「知名度が低い」という課題は、採用ブランディングに長期的な取り組みが必要であり、短期間で改善するのは困難です。
一方、「選考の連絡が遅い」という課題は、社内のオペレーションを見直すことで比較的短期間で改善できます。改善の実現可能性(難易度、コスト、期間)と自社のリソース(人員、予算、時間)を考慮し、実現可能性が高い課題から取り組むことが効果的です。
短期・中長期の視点で優先順位を検討する
短期で成果が出る課題・対策と中長期で取り組むべき課題・対策を分けて、バランスよく優先順位をつけましょう。
短期(3か月以内)で成果が出る課題・対策の例は以下の通りです。
- 選考スピードの改善
- 応募対応の迅速化
- 採用サイトのリニューアル
中長期(6か月〜1年)で取り組むべき課題・対策の例は以下の通りです。
- 採用ブランディング
- 採用サイトのリニューアル
リファラル採用の仕組み構築短期の課題だけに注力すると、根本的な問題が解決されず、同じ課題が繰り返し発生します。逆に、中長期の課題だけに注力すると、目の前の採用目標が達成できません。短期と中長期の課題をバランスよく優先順位づけし、並行して取り組むことが重要です。
【採用課題別】有効なアプローチ策
採用課題の優先順位が決まったら、具体的な解決策を実行しましょう。よくある4つの採用課題別に、有効なアプローチ策を紹介します。
「応募が集まらない」→「採用ターゲット・チャネルを見直す」
- 採用ターゲットの見直し
- 多様な採用チャネルの活用
- 自社の魅力発信
- 人材要件の緩和
まずは採用ターゲットを見直します。求める人物像を明確にし、ターゲットに合った採用手法や求人メッセージを設計しましょう。
多様な採用チャネルを活用することも有効です。求人媒体だけでなく、リファラル採用、ダイレクトリクルーティング、SNS採用など、複数のチャネルを組み合わせることが効果的です。
自社の魅力を発信することにも力を入れます。採用サイトやSNSで、働き方、社員インタビュー、企業文化などをリアルに発信し、求職者の興味を引きましょう。求人情報を充実させます。仕事内容、求めるスキル、待遇、キャリアパスなどを具体的に記載し、求職者が入社後のイメージを持てるようにすることが重要です。
人材要件を緩和することで応募のハードルを下げ、母集団の拡大を図ることも検討しましょう。リモートワークやフレックス勤務制度の導入により、地理的制約や時間的制約のある優秀な人材にもアプローチできます。また、必須スキルや経歴の要件を見直し、「必須」と「歓迎」を明確に分けることで、ポテンシャル採用の幅を広げられます。
ただし、要件を緩和した分、選考での見極める力がより高いものが求められるため、面接官のスキル向上や評価基準の明確化が不可欠です。
「採用ミスマッチの発生」→「採用要件の明確化」
- 採用要件の明確化
- スクリーニング精度の向上・適性検査の活用
- 面接の内容を見直す
まずは採用要件を明確化します。「必須要件」と「歓迎要件」を明確に分け、必須要件は最小限に絞ることで、採用ターゲットの幅を広げつつ、ミスマッチを減らせるでしょう。
また、スクリーニング精度を向上させます。書類選考の基準を明確にし、応募書類だけでなく、適性検査やスキルテストを活用して、求める人材を見極めましょう。
面接では相互理解を深めます。面接は一方的な質問ではなく、候補者との対話を通じて、価値観や志向性を確認することが大切です。リアルな情報を提供しましょう。職場見学やカジュアル面談を実施し、候補者が入社後の就業イメージを具体的に持てるようにすることが効果的です。
「選考辞退・内定辞退が多い」→「選考スピード・採用CXの改善」
- 選考スピードの向上
- 候補者とのコミュニケーション強化(採用CXの改善)
- 志望度の醸成
選考スピードについては、書類選考の結果は1週間以内、面接後の結果は3日以内に連絡するなど、スピーディーな対応を心がけましょう。
また、候補者とのコミュニケーションを密にします(採用CXの改善)。選考の進捗状況を定期的に伝え、候補者を不安にさせないことが重要です。
面接では志望度を高めるよう努めます。面接は評価するだけでなく、自社の魅力を伝え、候補者の志望度を高める場として設計しましょう。内定者フォローを徹底します。内定から入社までの期間、定期的に連絡を取り、候補者の不安や疑問に答えることが効果的です。
※関連記事: 採用CX(候補者体験)とは|選考辞退を防ぎ内定承諾率を高める設計と改善方法
「人材が定着しない」→「オンボーディングと定着支援を強化」
「人材が定着しない」→「オンボーディングと定着支援を強化」
- オンボーディングの強化
- 評価制度の明確化
- 定期的なフォロー
オンボーディングプログラムを体系化します。入社後1週間、1か月、3か月といった節目で、業務研修、定期面談、メンター制度などを実施しましょう。
評価基準を明確にします。「どうすれば評価されるか」を新入社員が理解できるよう、評価基準を明文化し、定期的にフィードバックを行うことが大切です。
「この会社でどのように成長できるか」を具体的に示し、長期的なモチベーションを維持することも重要です。定期的な1on1を通じて業務の悩みやキャリアの不安を早期に把握したうえで、フォローしましょう。
※関連記事: オンボーディングの支援施策や実施するメリット・成功させるためのポイントを解説!
採用課題の解決に向け推進する方法
採用課題の解決は一度の施策で終わりではなく、継続的に取り組むことが重要です。組織的に推進するための3つの方法を紹介します。
採用課題の改善をPDCAサイクルで回す
採用課題の改善施策を実施した後、定期的に効果を測定し、PDCAサイクルを回して継続的に改善しましょう。
- Plan(計画):特定した採用課題に対して、優先順位をつけ、具体的な改善施策を立案します。
- Do(実行):立案した施策を実行します。たとえば、選考スピードの向上、採用サイトのリニューアル、面接官トレーニングの実施などです。
- Check(評価):施策実施後、歩留まり率、応募数、内定承諾率などのKPIをモニタリングし、効果を評価します。
- Action(改善):効果が出ていない施策は原因を分析して改善するか、中止します。効果が出ている施策は継続・強化しましょう。
経営層や現場を巻き込んで取り組む
採用課題の解決は人事だけでなく、経営層や現場社員を巻き込み組織全体で取り組みましょう。
経営層を巻き込むためには、採用課題が事業成長に与える影響を説明し、採用予算やリソースの確保、採用方針の見直しについて合意を得る必要があります。現場社員を巻き込むためには、面接官トレーニングを実施し、候補者を尊重する面接の進め方を教育するとよいです。リファラル採用を推進し、社員に候補者の紹介を依頼することも効果的です。
採用課題の改善事例や成果を社内で共有し、組織全体で採用を重視する文化を醸成しましょう。組織全体が採用課題の解決に協力することで、一貫性のある採用活動が実現し、採用成果が向上します。
外部リソースの活用を検討する
採用課題の解決を加速させるために、外部リソースの活用を検討しましょう。
例えば、採用代行サービス(RPO)を導入することで、自社の採用プロセスの一部または全部を外部へ委託し、社内リソースの負担軽減や業務効率化の促進が見込めます。また、人事BPOを利用することで、給与計算や労務管理など、採用以外の人事業務から手離れすることができ、本来の採用活動(コア業務)に集中できる環境を構築できるでしょう。
外部リソースの活用が難しい場合は、採用管理システム(ATS)の導入も効果的です。候補者管理を徹底するで、アプローチを最適化し、内定承諾率の向上が期待できます。ATS導入による「応募者情報の一元管理」、「選考状況の可視化」、「候補者とのコミュニケーションの効率化」を実現しましょう。
なお、これらの外部リソースを活用しながらも、根底にある採用戦略の再設計・見直しが最も重要です。単なるオペレーションの改善だけでなく、自社の採用課題を根本から解決するための戦略的なアプローチが必要です。
※関連記事: 採用代行(RPO)サービスおすすめ18選|失敗しない選び方を徹底解説
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採用課題の解決を図るには「採用コンサルティングサービス」がおすすめ
採用課題は、応募者数の不足から内定辞退、早期離職まで、採用プロセスの各段階で発生します。まずは採用プロセスの歩留まり率を算出し、候補者や退職者へのヒアリングを実施し、競合他社や市場データと比較することで、自社の採用課題を正しく特定しましょう。
課題を認識したうえで、採用目標達成への影響度、改善の実現可能性、短期・中長期の視点で優先順位をつけます。採用ターゲットの見直し、採用要件の明確化、選考スピードの改善、オンボーディングの強化といった課題別の解決策を実行し、PDCAサイクルを回して継続的に改善することで、採用成果は向上するでしょう。
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