採用難とは|企業が直面している現状とリスク
そもそも採用難とはどのような状態を指すのか、そしてなぜ多くの企業が直面しているのでしょうか。まずは採用難の定義と背景、企業にもたらすリスクを理解しましょう。
採用難の定義と深刻化する背景
採用難とは、企業が事業運営に必要な人材を、計画通りに採用できない状態を指します。この問題は、日本の労働人口の減少と、求職者優位の売り手市場により深刻化している状況です。
実際、国内の生産年齢人口(15~64歳)は減少の一途をたどっています。厚生労働省の調査によると2040年には生産年齢人口が総人口の55%にまで減少すると見込まれており、人材確保はますます困難になると予測されています。
また、求職者が企業を選ぶ「売り手市場」が続いていることから、企業間の採用競争が激化しています。特に中小企業は、大手企業に比べて知名度や待遇面で不利な立場にあり、採用難がより深刻化しているのが現状です。
※参考: 厚生労働省「我が国の人口について」
採用難が企業にもたらすリスク
採用難は以下のようなリスクをもたらします。
- 事業の停滞・成長機会の喪失
- 既存社員への負担増と離職の悪循環
- 採用コストの増大
事業の停滞・成長機会の喪失については、必要な人材が確保できないと、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大ができず、成長機会を逃してしまうでしょう。また、人手不足を要因として既存社員への負担が増えると、従業員が疲弊して離職するという悪循環が起きます。さらに人手不足となってしまうのです。
採用コストの増大については、採用活動の長期化により、求人広告費、人材紹介手数料、採用担当者の人件費など、採用コストが膨らみます。
このように、採用難を放置すると、企業の持続的成長が難しくなります。早急な対策が必要です。
採用難に陥る根本的な原因を理解する
労働市場の構造的変化|労働人口の減少と求人倍率の上昇
少子高齢化により労働人口が減少し、有効求人倍率が上昇することで、企業が人材を確保しづらい構造的な問題が生じています。
実際、日本の生産年齢人口(15〜64歳)は1995年をピークに減少し続けており、2025年5月1日現在で7352万2千人となっています。
求職者一人に対する求人数を示す有効求人倍率(季節調整値)は、2025年8月時点で1.20倍となっており、求職者優位の市場が続いています。
※出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和7年8月分)について」より引用
特に、医療技術者、介護サービス職業従事者、輸送・機械運転従事者、建設・採掘従事者などの職種では、有効求人倍率が2倍を超えている状況です。職業ごとで開きはあるものの、採用競争が厳しい現状であるといえるでしょう。
しかしながら、この構造的な問題は短期間では解決できないため、企業は労働市場の変化を前提とした採用戦略の抜本的な見直しが必要です。
※参考: 令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少|総務省
※参考: 総務省統計局「人口推計(2025年(令和7年)5月確定値、2025年(令和7年)10月概算値) (2025年10月20日公表)」
※参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和7年8月分)について-参考統計表」
求職者の価値観の変化|働き方や企業選びの多様化
働き方改革の推進により、リモートワーク、フレックスタイム、副業など、働き方の選択肢が増えました。
求職者は、給与や安定性だけでなく「どんな働き方ができるか」、「どんな価値を生み出せるか」、「どう成長できるか」など、多様な側面から企業を評価するように変化しています。そのため、従来の採用活動だけでは採用が難しくなっているのが現状です。
実際、終身雇用の前提が崩れ、転職が珍しくない選択になったことで、求職者は複数の企業を比較検討し、自分に合った企業を選ぶ傾向が強まっています。企業は一律の待遇や働き方ではなく、求職者の多様な価値観に応じた魅力を提示する必要があるでしょう。
採用競争の激化|就職活動の早期化・長期化への対応
就職活動の早期化と長期化により、企業は採用計画の見直しと柔軟な対応が求められています。
早期化の背景として、就職活動に取り組む時期の前倒しが進んでいることが挙げられます。大学1年生を対象とした早期インターンを実施する企業もみられ、中途採用においても“ワンデイ採用”など「即採用」の傾向が強まっているのです。
もう一方の長期化の背景としては、候補者が複数社を比較検討し、内定後も辞退リスクが高い状況が続いていることが挙げられます。辞退防止のフォロー体制に注力しなければならず、採用担当者の負担も増加している現状です。
実務においては、採用計画を長期で検討・再設計する必要があります。選考スピードの改善、内定後のきめ細やかなフォロー体制の設計が必須となっており、これらに対応できない企業は採用競争で不利になってしまうといえるでしょう。
自社の採用力の課題|市場競争力と採用プロセスの問題
労働市場の変化や求職者のニーズの多様化を背景に採用難に陥ると思われがちですが、実際には自社の採用力に改善の余地が残されていることが大半です。
市場競争力の課題は以下の通りです。
知名度が低い
給与や福利厚生が競合他社に劣る
企業の魅力が求職者に伝わっていない
採用プロセスの課題は以下の通りです。
- 求める人物像が曖昧で採用基準がブレる
- 選考プロセスが長く辞退されやすい
- 面接官のスキルが不足している
上記は一例ですが、自社の採用力の課題を正しく把握し、改善することで、採用難を打開できる可能性があります。
【採用難の深刻さ】自社の状況を客観的に把握する方法
採用難を打開するためには、まず自社の状況を客観的に把握することが重要です。データに基づいて現状を分析する3つの方法を紹介します。
採用市場データと自社の状況を比較する
自社が採用したい職種の採用市場データ(有効求人倍率、平均年収など)と現状を比較し、自社の採用難が市場全体の厳しさによるものか、自社の競争力によるものかを客観的に判断しましょう。
具体的には、以下のようなデータを活用します。
- 競争力の確認
求人サイトや人材紹介会社が公表する職業別平均給与データと、自社の給与水準を比較、待遇面での競争力を評価 - 採用競合やベンチマーク企業との比較
自社の応募数、面接実施率、内定承諾率などの重要指数(KPI)を業界平均やベンチマーク企業と比較
データで比較することで、「市場全体が厳しいのか」「自社だけが苦戦しているのか」が明確になり、適切な対策を立てられます。
採用プロセスのボトルネックを可視化する
応募から内定までの各段階の歩留まりを数値化し、どこで候補者が離脱しているかを特定しましょう。採用プロセスを「応募→書類選考→一次面接→二次面接→内定→承諾」といった段階に分け、各段階の通過率を算出します。
たとえば、
といった具合です。
各プロセスで算出した数値のなかで、通過率が低い段階がボトルネックであり、そこに改善の余地があります。一次面接の通過率が低い場合は、面接官のスキルや評価基準に課題があるため、面接官研修を実施するなどが対策として挙がりまるでしょう。
このようにボトルネックを可視化することで、感覚ではなくデータに基づいた改善が可能です。
※関連記事: 採用の歩留まりを改善する方法14選!採用プロセスごとの具体策を解説
競合他社との比較で自社の立ち位置を知る
同業他社や同規模企業の採用活動を調査し、自社の採用力が市場でどの位置にあるかを把握するための分析です。
- 待遇・条件面の比較:競合他社の求人票を確認し、給与、福利厚生、はたらき方、求める人物像などを比較する
- 採用ブランディングの分析:競合他社が採用サイトやSNSでどのような情報発信を行っているか、どのような部分で魅力を訴求しているかを確認・調査を実施
- 市場評価の把握:人材紹介会社・第三者機関へのヒアリングを通じ、競合の採用状況や求職者からの評価を把握する
競合との比較により、「自社が選ばれない理由」「改善すべきポイント」が明確になり、市場優位性を担保するための差別化戦略を立てられます。
採用難を打開するための5つの戦略
自社の採用難の原因と現状が把握できたら、次は具体的な打開策を実行しましょう。効果的な5つの戦略を紹介します。
戦略(1)採用ターゲットと要件を再定義する
採用活動の精度向上のためにも採用ターゲットは広げすぎず、自社に本当に必要な人材像を明確にし、現実的な要件に再定義しましょう。
「優秀な人材」という曖昧な基準ではなく、「どんなスキル・経験・価値観を持つ人材が必要か」を具体的に言語化します。現場の社員にヒアリングし、実際に活躍している人材の共通点を分析することで、求める人物像を採用ペルソナとして設定しましょう。
また、「必須要件」と「歓迎要件」を明確に分け、必須要件は最小限に絞ることで、採用ターゲットの幅を広げられます。採用要件を再定義することで、応募者の母集団が増え、採用の成功確率が高まるでしょう。
戦略(2)多様な採用チャネルで母集団を拡大する
従来の求人媒体だけでは優秀な人材にリーチできない可能性があるため、多様な採用チャネルを組み合わせましょう。潜在層へのアプローチの効率化を図ることで母集団形成の強化が図れます。
- リファラル採用(社員紹介):企業文化に合った人材を採用しやすく、定着率も高い手法
- ダイレクトリクルーティング:企業側から候補者にアプローチする攻めの採用手法で、即戦力人材の確保に有効
- SNS採用:X(旧Twitter)やLinkedInなどで自社の情報を発信し、潜在的な候補者との接点をつくる
多様なチャネルを活用することで、従来の方法では出会えなかった、市場に埋もれている優秀な人材とも接点を持てるようになります。
戦略(3)採用ブランディングで自社の魅力を伝える
求職者に「選ばれる企業」になるために採用サイトやSNSを通じて、自社のビジョン、はたらき方、成長機会などの魅力を戦略的に発信しましょう。
求職者は複数の企業を比較検討しているため、自社の魅力が伝わらなければ応募してもらえません。「どんなビジョンを持っているか」「どんな働き方ができるか」「どんな成長機会があるか」など、求職者が知りたい情報を採用サイトやSNSで発信しましょう。
社員インタビューや職場の雰囲気がわかる動画など、リアルな情報を提供することで、求職者は入社後のイメージを持ちやすくなります。採用ブランディングにより、自社の価値観に共感する人材からの応募が増え、ミスマッチが減ります。
戦略(4)選考プロセスを見直し辞退率を下げる
競争の激しい採用市場において、選考プロセスを短縮し、候補者とのコミュニケーションを密にすることは選考途中の事態を防ぐうえで重要となります。
選考プロセスが長いと、候補者は他社の選考を進めてしまい、辞退される可能性が高まります。選考回数を減らし、可能な限り短期間で結果を出すことが重要です。書類選考の結果は1週間以内、面接後の結果は3日以内に連絡するなど、スピーディーな対応を心がけましょう。
選考は一方的な評価ではなく、企業と候補者が相互理解を深める場として設計し、候補者の志望度を高める工夫をすることが大切です。選考途中でも、候補者に進捗状況を定期的に伝えることで、「待たされている」という不安を解消できます。
※関連記事:採用CX(候補者体験)とは|選考辞退を防ぎ内定承諾率を高める設計と改善方法
戦略(5)定着施策で離職を防ぎ採用コストを削減する
採用活動に掛かるコストは決して安くはありません。高いコストをかけて採用した人材が早期離職してしまうと掛けたコスト、時間など無駄なものになることも往々にしてあります。入社後のオンボーディングや評価制度の整備により、定着率を向上させ、採用コストを削減しましょう。
具体的な施策は以下の通りです。
- オンボーディングプログラムを体系化:入社後3か月〜1年間で、業務研修、定期面談、メンター制度などを実施
- 評価基準の明確化:「どうすれば評価されるか」を従業員が理解できるようにし、定期的なフィードバックも合わせて行う
結果として定着率が向上すれば、採用活動の頻度とそれに伴うコストが削減され、結果として企業の持続的成長に貢献します。
※関連記事: 採用コスト削減の完全ガイド|コスト上昇の要因と対策を徹底解説
採用難改善の取り組みでよくある失敗と回避策
採用難の改善に取り組む際、多くの企業が非効率なアプローチに陥り、成果を出せずに終わってしまうケースが考えられます。ここではよくある4つの失敗パターンと、その具体的な回避策を順番に解説します。
「応募数を増やせば解決」という思考の落とし穴
応募数を増やすことだけに注力すると、質の低い応募が増え、選考業務が膨大になり、結果的に採用に至らないという悪循環に陥ります。
求人広告の露出を増やしたり、採用予算を投入したりして応募数を増やしても、自社に合わない候補者ばかりが集まれば意味がありません。書類選考や面接にかかる時間が膨大になり、採用担当者の負担が増えるだけです。
応募数の量よりも質を重視し、自社に合った候補者を惹きつける採用メッセージや採用ブランディングに注力しましょう。ターゲットを明確にし、そのターゲットに刺さる情報発信を行うことで、応募の質が向上します。
過剰な要件設定による母集団縮小
理想を追求しすぎて、過剰な要件を設定すると、応募者の母集団が極端に小さくなり、採用が進まなくなります。
「経験5年以上」「TOEIC800点以上」「マネジメント経験必須」など、複数の高い要件を設定するとことで該当者がいない、というケースも少なくありません。特に中小企業では、そのような人材は大手企業に流れてしまうため、採用要件として定めることは現実的とは言えないでしょう。
「必須要件」と「歓迎要件」を明確に分け、必須要件は最小限に絞りましょう。入社後の育成で補える部分は歓迎要件にし、ポテンシャルや価値観の一致を重視した採用基準に切り替えることが効果的です。
面接官の属人化と評価ブレ
面接官によって評価基準が異なると、優秀な人材を見逃したり、採用ミスマッチが発生するリスクが高まります。
面接官の経験やスキルにバラつきがあると、同じ候補者でも評価が大きく分かれる場合も往々にしてあります。「直感で判断する」「自分の好みで評価する」など、属人的な判断が行われると、採用の質が安定しなくなるため対策が必要でしょう。
評価基準を明文化し、評価シートを作成して、全面接官が同じ基準で評価できるようにしましょう。面接官トレーニングを実施し、構造化面接の手法やバイアスを排除した評価方法を習得させることが重要です。
内定者へのフォロー不足による内定辞退
内定を出した後のフォローが不足すると、候補者が他社に流れてしまい、せっかくの内定が無駄になります。内定を出したら終わりではなく、入社までの間に候補者の不安を解消し、志望度を高めるフォローが必要です。
内定出しを行ったからといって内定者へのフォローを怠ると、「別で内定をもらったB社の方がよさそう」、「本当にこの会社でいいのか不安になってきた…」と迷い、他社への流出や別企業の選考への参加、内定辞退となる可能性が高まるのです。
内定後すぐに入社までのスケジュールや必要な手続きを丁寧に説明し、定期的に連絡を取りましょう。社員との食事会や職場見学の機会を設け、入社前に会社や仲間への愛着を高めることが効果的です。
採用市場調査で戦略的な採用活動を実現する
採用難を根本的に解決するためには、データに基づいた戦略的なアプローチが不可欠です。ここでは、採用市場調査を活用した改善方法を解説します。
採用市場調査とは何か
採用市場調査とは、業界・職種別の求人倍率、給与水準、求職者の動向などのデータを収集・分析し、自社の採用戦略に活用する調査手法です。自社の採用活動のデータ(応募数、選考通過率、内定承諾率など)と市場データを比較し、自社の立ち位置を客観的に把握します。
比較したデータに基づいて、採用ターゲット、給与水準、採用チャネル、採用メッセージなどを最適化します。感覚ではなく、データドリブンで採用戦略を立てることで、採用活動の成果を高められるでしょう。
採用市場調査が採用難解決に有効な理由
採用市場調査は、以下の点で採用難解決に強力な効果を発揮します。
- 問題の明確化
「市場全体が厳しいのか」「自社だけが苦戦しているのか」が明確になり、適切な対策の焦点を定められます。 - 競争力の把握
競合他社の採用状況や給与水準を把握することで、自社の採用競争力を客観的に評価し、具体的な改善ポイントが明確になります。 - 効率的な戦略設計
求職者の志向性や行動パターンを理解することで、効果的な採用チャネルやメッセージを設計できます。結果、採用予算を適切に配分し、ROI(投資対効果)を最大化できます。
採用市場調査を活用した改善サイクルの回し方
採用市場調査を定期的に実施し、PDCAサイクルを回しながら、継続的に採用活動を改善し質の向上を図りましょう。
| ステップ | 内容 | 詳細 |
|---|---|---|
| Plan(計画) | 調査データに基づく戦略策定 | 採用市場調査で得たデータをもとに、採用ターゲット、チャネル、給与水準などの戦略を策定 |
| Do(実行) | 戦略に基づいた施策の実行 | 策定した戦略に基づいて、求人広告の出稿、ダイレクトリクルーティング、イベント参加などを実行 |
| Check(評価) | KPIのモニタリングと効果測定 | 応募数、選考通過率、内定承諾率などの重要指標(KPI)をモニタリングし、採用活動の成果を評価 |
| Action(改善) | 分析と継続・強化 | 成果が出ていない施策は原因を分析して改善し、成果が出ている施策は継続・強化 |
採用難の解決には市場理解を深めましょう
採用難は、労働人口の減少や求職者の価値観の変化といった構造的な問題と、自社の採用力の課題という内部要因が複雑に絡み合って生じています。まずは採用市場データと自社の状況を比較し、採用プロセスのボトルネックを可視化し、競合他社との比較で立ち位置を把握することで、客観的な現状認識が可能です。
その上で、採用ターゲットの再定義、多様な採用チャネルの活用、採用ブランディング、選考プロセスの見直し、定着施策の強化という5つの戦略を実行しましょう。さらには、採用市場調査を活用してPDCAサイクルを回すことで、継続的な改善が実現します。
パーソルビジネスプロセスデザインが提供する「採用市場調査サービス」は、業界・職種別の詳細なデータ分析から、競合分析、採用戦略の立案まで、採用難解決を総合的にサポートするサービスです。データに基づいた戦略的な採用活動で採用難を打開したい方は、ぜひご検討ください。