「採用代行」とは
厚生労働省が実施した過去の調査にも示されているように、採用代行は明確な定義が確立されておらず、採用プロセス・戦略の設計、募集要件の策定、母集団形成の提案・応募の管理、候補者との日程調整、書類の発送・管理、面接指導、など幅広い業務を支援できる点が特徴です。
また、採用代行(RPO)を提供する企業の業種・業態もさまざまで、アウトソーシング専業事業者の他、人材派遣・人材紹介、人事コンサルティング、広告代理店などを提供する企業が事業の一環として行う場合もあります。
※参考:厚生労働省「労働者の募集・採用に関する実態調査報告書(平成18年実施)(委託先:(株)三菱UFJリサーチ&コンサルティング)」
採用代行と類似したサービスとして「人材紹介」や「採用コンサルティング」があります。
人材紹介は、“職業安定法に基づき、厚生労働大臣の許可を受けて不特定多数の企業や組織と転職希望者を結びつける事業”のことで、いわゆる「エージェント」を指します。依頼企業の希望するスキルや経歴を持った人材を見つけ、紹介することに特化している点が、採用代行との大きな違いです。
また、採用コンサルティングは、採用課題を解決するために最適な改善提案を実施し、成功に導くためのノウハウを提供するサービスと言えます。具体的な採用業務の代行、施策の実施代行については対象外となる場合が多く、あくまでも「提案」が中心となります。ただし、サービス提供企業によっては採用代行(RPO)の中に採用コンサルティング領域を内包している場合もあります。
採用代行に違法性はあるのか?
労働人口の不足や採用難など採用課題が浮き彫りになる中、業務効率化、リソース不足の解消などのメリットがある採用代行(RPO)の需要は拡大傾向にあると言えるでしょう。
実際に採用代行を導入するにあたり、採用代行に違法性はあるのかを理解しておく必要があります。重要になるのが「委託募集」です。ここでは、委託募集を軸に、採用代行に違法性があるのかについて解説します。
はじめに「委託募集」について確認
“採用代行は違法なのか?”を解説するうえで「委託募集」への理解が必要です。まずは、この委託募集について整理してみましょう。
委託募集については職業安定法第36条で定められています。簡潔に説明すると、労働者を募集する者(募集主)が自社の従業員ではない第三者(外部パートナー)に対価を支払い、労働者の募集を行わせることです。ここで言う“労働者の募集”についても同法第4条で示されています。
また、委託募集は第三者を介する募集方法になるため、適格性の観点から厚生労働大臣または労働者を募集する事業所を管轄する都道府県労働局長の許可を受けなくてはなりません(職業安定法第36条1項、同法第60条、同法施行規則第37条1項6号)。
※参考:厚生労働省「募集・求人業務取扱要領(3.委託募集)」
前項でご紹介したように採用代行は「自社の採用活動を外部パートナーへ委託すること」ですから、職業安定法上では「委託募集」に該当することとなります。ただし、外部委託する業務内容によっては委託募集に当たらない場合もあります。
採用代行業者へ依頼する業務が委託募集に該当するのか・該当しないのか、が違法性を問う論点となるためサービス導入前に事前に確認をしておくことが重要です。
委託募集に当たらない業務の一例
前述の通り、委託募集を行う際には厚生労働大臣や労働局長からの許可が必要となり、この許可を得ないまま委託募集を行うと職業安定法に抵触することになります。
ただし、委託側(募集主)が募集や候補者選考、採否判断を自社で行い、あくまでも採用活動に関する事務的なサポートを委託している場合は委託募集に当たりません。
具体的には、「ハローワークに対して求人票の提出する」、「求人広告の掲載・管理を行う」、「人材紹介会社へ紹介を依頼する」などの業務は募集委託ではないため、許可を得ていない場合でも違法性を問われることはないと言えるでしょう。他にも委託募集に当たらない業務例を一部ご紹介します。
- 母集団形成の提案(求人広告の選定・エージェントコントロールなど)
- 応募者、候補者情報の登録・管理(ATSの管理)
- 面接の日程調整や選考結果の連絡業務
- 内定者に対する入社関連書類の発送業務
- 採用試験問題の作成~実施
- 採用戦略や計画の立案、採用ターゲットの再定義などのコンサルティング
また、受託企業が“職業紹介事業”の許可を受けている場合や資本を同じにするグループ企業が一時的に対応する場合など例外規定に該当する際には委託募集に当たりません。
前述したように採用代行が委託募集に当たるかの判断は、業務実態で決まります。募集行為自体を外部パートナーへ依頼することや採用・不採用の判断まで外部へ任せることは募集委託となり、依頼企業・受託企業ともに許可を得る必要がありますので、この判断に迷う場合には行政機関等へ相談をするようにしましょう。
委託募集に当たる業務の依頼には“許可”が必要
「採用代行」の違法性は、前述した「委託募集」に当たるのか、またその許可を得ているのか、などが論点となります。
委託募集に当たる業務を委託する(受託する)場合には法律に基づき、厚生労働大臣や都道府県労働局長からの許可が必要な業務となります。委託企業(募集主)・受託企業がこれらの許可を得た上で採用代行が実施されていれば、違法性はありません。
また、許可を得ていない場合でも、委託募集に当たらない業務(採用事務やコンサルティングなど)を委託する場合には同様に違法ではないと言えるでしょう。
※参考:職業安定法第36条1項
委託募集に該当する業務は「募集」「選考」「採用活動」です。候補者の採否判断までを外部の第三者が行うため、適格性の観点からこのような業務を委託する場合には、委託企業と受託企業の双方が許可基準を満たし、届出を出していれば違法にはなりません。
「厚生労働大臣や都道府県労働局長が定める許可基準」として押さえておきたい条文は次の2つです。
第三十六条 労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして報酬を与えて労働者の募集に従事させようとするときは、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
※引用:職業安定法第36条1項
このような基準が設けられている理由としては「雇用の安全性を守るため」です。労働者が採用された際に不利益を被らないようにするには、委託側と受託側の双方が雇用における適格性を満たさなくてはなりません。
そのため、許可基準の内容は、職業安全法や労働関係法令などに大きな違反をしていないかを問われるなど、労働環境や雇用条件の安全性を求める内容が含まれています。また、申請書以外にも帳簿などの資料提出が求められこともあります。
採用業務を委託する際には、自社が依頼する業務内容が「委託募集」に該当するのかを確認した上で、許可を得る必要があるかを判断しましょう。また、受託側である採用代行業者においても委託募集に当たる業務を代行する場合には、許可が求められます。基準を満たしていないにもかかわらず、委託募集を行っている“違法業者”でないかを事前に確認しておきましょう。
委託募集の許可が必要・不要となる条件
採用代行で依頼する業務内容が「委託募集」に該当する場合には、許可を得る必要があることを示しました。一方で、許可を取得していなくても問題ない場合もあります。
「委託募集に当たらない業務例」でもご紹介しましたが、ここでは委託募集の許可が必要ない場合について詳しく解説していきます。また、許可を得る必要がある場合についても併せて解説します。
委託企業(募集主)の許可が不要となる例
採用代行は委託募集に該当するため募集・選考・採用活動に該当する場合には、許可を得る必要がありますが、自社で募集・選考を行い、採否判断まで対応する際には「委託募集に当たらない」と解釈でき、許可が不要となります。
例えば、採用試験問題の作成・実施の委託や面接官の研修支援などを受けた場合などが挙げられます。この場合「委託募集ではない」という判断になります。また、人材紹介会社や転職エージェント、ヘッドハンティング会社が、求職者を募って企業に斡旋(あっせん)する職業紹介も同様に委託募集には当たらないでしょう。
採用代行は、あくまでも採用にかかわる業務を第三者へ委託することになるため、委託する業務範囲や人材の雇用経路によって、委託側の許可が必要となるかどうかが変わるのです。ですから、採用関連の外部サービスを利用する際は、依頼する業務内容や範囲が「委託募集」に該当するのか・許可を得る必要があるのかを必ず確認しておきましょう。
委託募集の許可が必要となる場合とその条件
委託募集の許可基準については、厚生労働省の「募集・求人業務取扱要領(3.委託募集)」に記載されています。委託企業(募集主)と受託企業で要件は異なるため、委託を検討している際や受託企業側が基準を適切に満たしているかを判断する際に必ず確認しておくことが重要です。
まずは委託企業(募集主)の許可基準をまとめました。
【委託企業(募集主)に関する要件】
事業主の徳性 | 職業安定法をはじめ、労働関係法令に係る重要な違反をしていないこと |
---|---|
募集に係る労働条件 |
・労働条件が適切である ・法令に違反するものではない ・同地域における同業種の賃金水準に比較して著しく低い金額ではない ・募集に係る業務内容および労働条件が明示されている ・適用事業所は社会保険・労働保険に適切に加入している |
報酬 | 厚生労働大臣の認可を受けた報酬以外の財物を与えるものではない |
上記の許可基準を確認いただければ分かりますが、基本的な項目が多く、健全な企業運営を行っていれば満たすことができるものが多いでしょう。続いては、受託側である採用代行企業に設けられている許可基準を見ていきます。
【受託企業に関する要件】
事業主の徳性 | 職業安定法をはじめ、労働関係法令に係る重要な違反をしていないこと |
---|---|
業務遂行能力 | 精神の機能の障害により労働者の募集を行うに当たって必要な認知、 判断及び意思疎通を適当に行うことができない者でないこと |
採用に関する知識 | 労働関係法令及び募集内容、職種に関して十分な知識を有していること |
その他 | 募集を行おうとする期間が1年を超えないものであること |
受託企業の条件は、業務を行う者の「採用における判断力」を問う内容が多いといえます。これは、採用を行う立場である業者が「応募者を的確に判断できるか」を確かめるために設けられています。
このほか、報酬の認可基準にも条件が定められています。
【報酬の認可基準】
委託募集に当たる業務の委託を検討の際は、これらの基準を満たしており、許可を得ているかを確認することが重要です。改めて要件を押さえておきましょう。
※参考:厚生労働省「募集・求人業務取扱要領(3.委託募集)」
採用代行における委託募集時の申請方法
次に、「委託募集」をする際の申請方法について解説していきます。委託に必要な書類などにも触れていきますので、依頼の準備にお役立てください。
申請に必要な書類を用意する
まずは書類の用意です。
委託募集の申請には下記のとおり、都道府県労働局長へ提出する書類が必要ですので、準備をしていきましょう。
【委託募集の申請に必要な書類】
- 厚生労働省発行「委託募集許可等申請書(様式第3号)」
- 上記許可の内容を証明する帳簿や書類ストテキスト
委託募集には条件が設けられており、以下の条件に該当する場合は、都道府県労働局長の許可に加えて厚生労働大臣の許可が必要です。
- ひとつの都道府県から30人以上募集する場合
- 募集人数が100名以上になる場合
もし、この条件に該当する場合には許可が必要になるので、書類を準備していきましょう。
もし、この条件に該当する場合には許可が必要になるので、書類を準備していきましょう。
期限までに書類や資料を提出する
書類の準備ができたら提出していきますが、このときに注意しなくてはならないのが書類の提出期限です。
提出期限は下記の通り決められています。
【委託募集申請書類の提出期限】
都道府県労働局長 | 募集開始月の14日前まで |
---|---|
厚生労働大臣 | 募集開始月の21日前まで |
審査結果を確認する
書類提出後は、許可基準に基づいて審査が行われていきます。審査結果は、許可・不許可・条件付き許可の3つの判断のいずれかになりますので、そのつもりで待ちましょう。
ちなみに、委託許可申請は受託側が委託側に代わって行うことが認められています。手続きに慣れていない場合や業務効率を重視する場合などは、許可申請も一緒に進められる業者へ任せるとよいでしょう。
採用代行を導入する際のポイント
続いて、採用代行業者へ依頼する際に押さえておくとよいポイントについて解説していきます。
依頼を検討している場合には、これらのポイントを意識しながら進めていきましょう。
ポイント(1)分担する業務の明確化
担当者はおわかりかと思いますが、採用活動は繁雑な業務が多いものです。そんな業務内容のなかで、委託する範囲と自社が担当する範囲は明確にしておくことがポイントになります。
委託する範囲と自社担当範囲がわからない状態で業務を依頼してしまうと、自社と委託業者で業務が「重複」してしまったり、逆に両社が着手しない「漏れ」が発生してしまったりする可能性があります。
これらは採用業務に混乱をもたらす要因になるため、不明瞭な状態で委託するのは避けましょう。
ポイント(2)代行業者と情報を共有する体制づくり
採用活動において必要となる情報としては、「応募者の情報」や「採用業務のノウハウ」などがあります。これらを代行業者と共有できる体制づくりも重要といえます。打ち合わせの際には、情報や進捗をやり取りするためのツールを確認しておきましょう。
また、採用管理システム(ATS)など、自社で利用しているシステムを使うことができれば環境整備には時間やコストが掛からないため、事前にどういったツールで情報を共有できるのか確認しておきましょう。
定例会議やミーティングで情報共有を行っている企業は、情報共有のタイミングについても確認しておくとスムーズに業務を移行できるはずです。
採用代行を依頼する際は、ただ業務を委託するだけではなく、情報を共有しやすい体制作りなど広い視点で考えていくようにしましょう。
ポイント(3)得意領域やスキルを見極める
対象となるユーザー像を「ペルソナ」と呼びますが、採用においてもペルソナ、つまり「自社が望む人材像」を明確に描くことが重要です。自社と採用代行業者で、このペルソナをしっかり共有できているかというのもポイントになります。
また、そもそも求める人材が市場にいない可能性を考える必要があるため、採用市場の動向や変化を読み解く能力が高く、リサーチを得意とするのかを見極める必要があるでしょう。
採用代行の導入の際は、実績を確認し、リサーチ力や得意とする業種・業態などを把握しておきましょう。また、事前に設計した採用ペルソナを代行業者と共有し、フィードバックを受けると良いでしょう。
法令を遵守し、採用代行を導入しましょう
採用代行を依頼する際には、業務内容が「委託募集」に該当するのか、該当する場合には厚生労働大臣や労働局長からの許可を得ているのかをしっかり確認しておきましょう。
採用競争が激化する中、採用代行を活用することで煩雑な採用業務の効率化を促進できます。また採用事務などノンコア業務を外部へ委託することで、採用戦略の見直し、候補者との関係構築などコア業務に費やす時間の創出もできるでしょう。
パーソルビジネスプロセスデザインでは、採用活動で発生する業務を代行する「採用代行(RPO)サービス」をご提供しています。
採用業務のオペレーション支援に加え、市場調査サービス、面接官トレーニング、採用コンサルティングなど、蓄積された採用データや豊富な経験を活かした採用ノウハウ支援まで広範なサポート体制を整えていますので、採用に関するお困りごとをお持ちの際は、お気軽にお問い合わせください。