AI新法(AI活用推進法)の概要
1-1.AI新法とは?目的と背景
AI新法は、AI技術の研究開発や活用を総合的かつ計画的に推進するために定められた法律です。背景として、AI技術が急速に発展し、これまで法規制の枠組みが明確でなかった領域に初めて一定のルールが設定される点が挙げられます。
企業活動や行政効率化、新産業の創出など、多くの可能性を生み出すAI技術ですが、不正利用や個人情報保護などの懸念もありました。そこで、適正な研究開発と活用を支援しながらリスクを防ぐ狙いで策定されたのがAI新法です。
法務担当者がこの背景を理解しておくことで、AI導入の際にどのような点に注意すべきかが見えてくるでしょう。
AI新法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)
1-2.AI新法の基本理念と定義
AI新法は、国や地方公共団体、企業、さらに国民それぞれの関係者が協力し合い、AI技術を推進しようという「基本理念」に基づいて設計されています。
また、「人工知能関連技術」の範囲を明確化し、研究開発や活用を行う際に必要なガイドラインを定めることも重要な要素です。
人工知能関連技術の定義
AI新法では、人間の認知や推論、判断能力を人工的な方法で模倣し、入力された情報を解析・出力する一連の技術やシステムを「人工知能関連技術」と定義しています。これは機械学習やディープラーニングといった技術だけに限らず、周辺領域のサービス開発も含まれるため、広範囲にわたります。企業が取り扱う業務システムやサービスが、この定義に該当する可能性があるので注意が必要です。
AI新法が目指す目標
AI新法は、国民生活の向上や経済成長のために、AI技術を研究開発・活用する体制を強化することを目指しています。具体的には、政府がAI戦略本部を中心に施策を展開するほか、地方公共団体や企業もそれぞれの役割を担って連携を図ります。
結果として、新たな産業創出や行政の効率化が進み、日本全体の競争力向上に寄与することを期待されています。
AI新法の具体的内容
2-1.国の責務と施策のポイント
国は、AI新法に基づいて総合的かつ計画的にAI技術の研究開発と活用を推進する役割を担っています。具体的には時勢に合わせた法律の見直しや、AI戦略本部の設置、国際連携に関する取り組みなどが含まれます。適正な技術活用や国際競争力の強化を目指しているため、企業にとっても海外進出やグローバル展開にプラスの影響が期待できるのです。
人工知能戦略本部の設置
AI新法では、研究開発や活用を総合的に管理するため、「人工知能戦略本部」を設置することが盛り込まれています。政策の立案や関係業界との連携を強くすることで、AI技術の活用を一気通貫で推進する体制を整備する狙いがあります。
これによって企業は最新の国策や助成制度の情報をいち早くキャッチし、ビジネス機会を広げられるでしょう。
国際協力と国際競争力向上の取り組み
AI新法では、国際協力のもとに研究開発を進める重要性も強調されています。AI技術が国際市場と密接に関わるため、海外の技術規範やルールにも適合できる体制が必要とされます。こうした領域で国が先導する形で協力体制が整えば、日本企業が海外へ AIサービスを展開する際に優位性を獲得できるメリットがあります。
2-2.地方公共団体と企業の役割
国だけでなく、地方公共団体や企業にも責務が定められています。地方公共団体は地域の特性を活かしたAI活用を進め、企業は積極的な新技術導入や研究開発への協力でAI分野の成長に貢献することが期待されています。
地方公共団体の責務と自主施策
地方公共団体は、国との役割分担のもと、自主的な施策を策定・実行する責務があります。例えば、地域の産業特性にAIを結びつけることで、地域振興や課題解決を目指すケースがあります。これを契機に、地方自治体との新しい連携モデルが生まれ、企業や大学との協力プロジェクトが進む可能性も高まるでしょう。
企業の責務
AI技術を実際の事業に活用する企業や団体(活用事業者)には、自社のビジネスに合った形でAIを導入するだけでなく、国や地方公共団体の施策に協力する役割も求められています。具体的には、開発段階からセキュリティ対策や透明性の確保を徹底するとともに、公的機関が行う調査研究に協力することなどが挙げられます。
こうした連携が進むことで、より安全で有益なAI活用が実現するでしょう。
また、この法律には罰則規定がありません。これは、法規制によりAI活用促進が滞ることを懸念しての措置と考えられますが、一方で行政指導に応じない場合は企業名の公表や補助金停止といったペナルティが課せられる可能性もありますので注意が必要です。
AIによるリスクに対する法令については、AI新法の施行前に既存のどの法律に抵触するかを2025年2月に公開された「中間とりまとめ」(AI 戦略会議・AI制度研究会)の中でまとめていますので、参考までに紹介します。
出典:AI 戦略会議・AI制度研究会「中間とりまとめ」(2025年2月4日)
AI新法が企業に与える影響
3-1.法務担当者が押さえるべきポイント
法務担当者は、AI新法を正しく理解し、リスクマネジメントや契約関連での留意点を把握しておく必要があります。AI技術が製品やサービスに組み込まれることで、これまで対象外だった法的リスクが新たに生じる可能性もあるからです。
コンプライアンス対応の重要性
AI新法によって定められた原則や責務を踏まえ、コンプライアンス体制を整備することが求められます。とくに個人情報や著作権など、AI技術が処理するデータの扱いには注意が必要です。
法律に抵触する可能性がある場合は、早期に課題を洗い出し、ルール作りや社内教育を行うと安心です。
透明性確保のための施策
AI決定プロセスのブラックボックス化を防ぐため、可能な範囲で判断根拠を開示したり、誤作動や偏見の発生リスクを低減するシステム設計などが重要です。
企業がAI新法の理念を踏まえて透明性を高めれば、社会的信頼の向上につながり、結果的にビジネスチャンスも広がります。
3-2.営業・マーケティング担当者が知るべきポイント
AI新法の施行により、営業・マーケティング部門が取り扱う顧客データやキャンペーン施策も大きく変化する可能性があります。適正なAI技術を活用することで業務を効率化・高度化し、新しい顧客体験を提供できるようになるでしょう。
AI活用による業務効率化と高度化
営業やマーケティング領域では、多数の顧客データや市場データをAIで分析し、精度の高いターゲティングやキャンペーン施策を実施することが期待できます。
AI新法によって政府もAI技術の活用を積極的に支援する流れが加速するため、企業が導入コストを下げたり、優遇措置を受けられる可能性もあります。
新産業創出の可能性
AI技術を使った新サービスやビジネスモデルが次々と生まれる余地があります。マーケティング担当者は、消費者のニーズをAIで予測し、結果を商品開発や販促施策に活かすなど、より高度なアプローチが可能です。
このような動きが新たな収益源の創出につながることも考えられます。
パーソルビジネスプロセスデザインの視点
パーソルビジネスプロセスデザインでは、法令を順守しながらも実践的なAIサービスの設計に取り組んでいます。
AI新法が求める透明性やセキュリティ配慮などについて、自社のサービスラインナップに落とし込み、企業が安心してAIを導入できるようサポートしている点が特徴です。
ここでは、具体的な事例や課題解決に向けた提案についてご紹介します。
4-1.法令を順守したサービス設計の事例
当社では複数のクライアント企業に対して、AI新法を踏まえたサービス設計や導入支援を行っております。たとえば、以下のようなケースで具体的な取り組みをご支援しています。
- 業務効率化チャットボットの導入事例
大手IT企業のコールセンターにおいてAIチャットボットを導入し、個人情報を取り扱う会話ログの保存・分析を行う際に、法的リスクを抑える仕組みを整備しました。具体的には、利用者の同意プロセスを明確化し、個人を特定可能な情報は自動的にマスクするシステムを採用しています。
これにより、ユーザーのプライバシーを保護しながら問い合わせ対応の効率を大幅に向上させることができました。
- 契約書レビュー支援AIツールの事例
法務部門向けとして、AIを活用した契約書レビューシステムの導入をサポートしました。契約書中の条項や個人情報保護に関する記載を自動検知し、AI新法との整合性や潜在的リスクを判別できるようにしたのがポイントです。
これにより、法務担当者が見落としやすい複雑な規定をAIが事前にキャッチし、コンプライアンス違反を未然に防ぐことにつながっています。
まとめ
AI活用は法務リスクを意識しながら進める時代になりました。AI新法はその始まりに過ぎません。
しかし裏を返せば、法を理解しクリーンに運用することで競争優位を築くチャンスも得られます。
私たちの「生成AI/AIエージェント導入・活用支援サービス」なら、AI導入の初期設計から法的リスク管理までトータルに支援いたします。
「自社業界での事例はあるか」など、ぜひお気軽にご相談ください。
>>生成AI/AIエージェント導入・活用コンサルティングサービス