なぜテレワークで残業が増える?見落としがちな3つの原因
テレワークにおける残業増加は、単に「仕事量が増えた」というだけでなく、従来のオフィスワークでは顕在化しにくかった、あるいは意識されにくかった複合的な要因が絡み合って発生しています。ここでは、特に見落とされがちな3つの原因に焦点を当てて解説します。
1. 仕事とプライベートの境界線が曖昧になる「見えない長時間労働」
自宅が職場となることで、仕事とプライベートの物理的な区切りが失われ、無意識のうちに長時間労働に繋がります。
「いつでも働ける」環境が「いつでも働かなくては」に変わるプレッシャー
テレワークの最大のメリットの一つである通勤時間の削減は、皮肉にも長時間労働を助長する一因となることがあります。自宅が職場となることで、以下のような状況が常態化し、無意識のうちにプレッシャーとなります。
- 就業時間外でもすぐにPCを開けてしまう
- 夜遅くまで届くメールやチャットに対応してしまう
- 「いつでも対応できる状態」が「いつでも対応しなくてはならない」という暗黙のプレッシャーになる
結果として、休憩時間が十分に取れなかったり、終業時刻後も業務を続けてしまったりするケースが多発します。
「隠れ残業」の発生
日本労働組合総連合会の調査でも、「テレワークで、残業代支払い対象の時間外・休日労働をしても申告しないことがあった」という意見が、65.1%もあるとのデータがあります。
- 申告しづらい雰囲気がある
- 時間管理がされていない
- 適切な評価を受けたいというプレッシャー
これらの理由からサービス残業につながることもあり、企業側が従業員の実際の労働時間を正確に把握することが困難になります。この「見えない長時間労働」は、従業員の心身の健康に悪影響を及ぼし、企業にとっては適切な残業代の未払いや労災リスクといった大きな課題を引き起こします。
2. コミュニケーションの非効率化と情報共有の滞り
オフィスにいれば気軽にできた「ちょっとした質問」や「雑談」が難しくなることで、業務の効率が低下し、結果的に残業が増加します。
テキストベースコミュニケーションの限界
テレワークでは、メールやチャットなどのテキストベースでのコミュニケーションが中心になります。しかし、テキストだけでは相手の表情や声のトーンといった非言語情報が伝わりにくく、以下のような問題が生じやすくなります。
- 意図が正確に伝わらなかったり、誤解が生じたりする
- 何度も確認のやり取りが発生し、業務に余計な時間がかかる
- 「報連相(報告・連絡・相談)」の増加自体が、かえって業務負担となる
情報共有の遅延と連携不足
オフィスでは自然と耳に入る周囲の会話や、偶発的な情報共有の機会がテレワークでは失われます。これによって、以下のような課題が発生します。
- 業務に必要な情報がスムーズに共有されにくい
- 特定の従業員に業務負荷が集中する
- 他のメンバーの状況が見えにくいため、遠慮して質問できない
チーム連携に支障をきたし、業務効率の低下や生産性の停滞につながることがあります。
3. 業務可視化と適切なマネジメントの導入
従業員の働く姿が直接見えないテレワーク環境では、管理職が個々の従業員の労働状況や業務進捗を正確に把握することが難しくなり、残業増加を見過ごしたり、不適切な評価につながったりする原因となります。
業務プロセスの見えにくさ
オフィス勤務では、管理職は従業員の作業態度や集中度を視覚的に把握できましたが、テレワークではそれが困難です。そのため、以下のような問題が生じやすくなります。
- 従業員がサボっているのではないかという不安から過度に監視しようとする
- 逆に集中しすぎて休憩を忘れ長時間労働に陥っていても気づけない
人事評価の困難と成果主義の弊害
テレワークにおいて、特に成果が見えにくい業務やプロセスを伴う業務では、その評価が難しくなります。
- プロセスよりも成果に偏った評価が下されるリスク
- 従業員が過度なプレッシャーを感じ、成果を出すために「隠れ残業」をする可能性
適切な評価がなされないことで、従業員のモチベーション低下や不満、エンゲージメントの低下にもつながりかねません。
テレワークでの残業を減らすための具体的な対策
テレワークにおける残業増加の課題を解決するためには、企業と従業員双方が意識を変え、具体的な対策を講じることが不可欠です。ここでは、上記で挙げた3つの原因に対応する形で、実践的な対策を解説します。
1. 労働時間と休憩のルールを明確化し、徹底する
「見えない長時間労働」を防ぐためには、労働時間に関する明確なルール設定と、それを徹底する仕組みが重要です。
- 就業規則への明記と残業の事前申請制の徹底
テレワークにおける労働時間、休憩、残業に関するルールを就業規則に明確に記載し、周知徹底することが重要です。特に、残業は原則として事前申請・承認制とし、「特別な理由がなければ残業しない」という企業の明確な方針を示しましょう。 - オンオフの切り替えを促す環境づくり
終業時刻になったらPCをシャットダウンすることを推奨したり、業務時間外のシステムアクセスを原則禁止したりするルールを設けることが有効です。また、昼休憩はもちろん、業務中の小休憩も積極的に取るよう促しましょう。 - 客観的な勤怠管理の徹底
勤怠管理システムなどのITツールを活用し、正確な打刻時間の把握やPCのログ取得を行うことで、労働実態を可視化し、「隠れ残業」を防止します。
2. コミュニケーションを活性化し、情報共有を円滑にする
コミュニケーション不足による業務の非効率化を防ぐためには、意識的なコミュニケーション設計とツールの活用が鍵となります。
- 効果的なコミュニケーションルールの設定
Web会議では可能な限りビデオをオンにする、緊急性の高い連絡は電話やチャットで、といった具体的なルールを設けましょう。 - 雑談を促す機会の創出
バーチャル休憩室を設けたり、オンラインでのランチ会やチームビルディングイベントを定期的に開催したりすることが、チームの一体感や心理的安全性の醸成に繋がります。 - 適切なコミュニケーション・情報共有ツールの導入と活用
チャットツール、ビデオ会議システム、プロジェクト管理ツールなどを業務内容に合わせて選定し、その使い方を従業員に徹底します。特に、情報が蓄積できる情報共有ツールを導入することで、ノウハウの共有や検索性を高め、業務効率化に繋がります。
3. 業務可視化と適切なマネジメントの導入
労働実態の「不可視化」によるマネジメントの課題を克服し、従業員が適切な業務量で最大の成果を出せる環境を整えることが重要です。
- 業務量の可視化と調整
各従業員の業務内容や業務量を可視化するツールを導入し、定期的に確認する仕組みを構築します。この対策は、特定の従業員に業務が偏っていないかを早期に発見し、適切な業務分担を促すことにつながります。 - 明確な目標設定と適切な評価制度
成果だけでなく、業務プロセスも適切に評価できるような人事評価制度を見直すことが求められます。管理職は、目標設定の段階で従業員と十分にコミュニケーションを取り、業務量と目標達成のバランスが取れているかを確認することが重要です。 - 管理職のリモートマネジメントスキル向上
管理職に対し、部下のモチベーション維持や進捗管理、適切なフィードバックの方法など、リモートマネジメントに特化した研修を実施することは非常に効果的です。
テレワークでも残業の把握を適切に行おう
テレワークは働き方の多様性を広げた一方で、残業時間が増えやすいという新たな課題ももたらしました。問題の背景には、「仕事とプライベートの境界線の曖昧化」「コミュニケーションの非効率化」「業務可視化の課題」といった要因が複雑に絡み合っています。
これらの課題を解決し、テレワークを真に有効な働き方として定着させるためには、企業が主体的に以下の対策を講じることが不可欠です。
- 明確なルール策定と徹底
労働時間や休憩に関するルールを明確にし、勤怠管理システムなどを活用して客観的に労働時間を把握する。 - コミュニケーションの活性化
ツールを効果的に活用し、雑談の機会を意図的に創出することで、情報共有とチーム連携を強化する。 - 業務可視化とマネジメントの改善
業務量や進捗を可視化し、適切な業務分担や評価につなげる。
従業員の心身の健康を守り、企業の持続的な成長を実現するためには、テレワーク環境下での残業問題を真摯に受け止め、業務可視化ツールなどを用いて残業抑止の対策を講じることが大切です。
MIETRAS仕事可視化はPCログデータを元に客観的な労働時間の把握や、業務内容の可視化が可能のため、テレワークの管理のお困りの方はぜひお問い合わせ下さい。