労働時間管理ツールと従来の勤怠管理システムは同義として扱われがちですが、本質は単なる出退勤の記録にとどまりません。従業員が実際に働いた時間を客観的かつ緻密に可視化し、企業の法令遵守と生産性向上を支援するためのシステムです。 使用者には、割増賃金の支払い、36協定の遵守、健康確保措置などの前提として、労働時間を適正に把握する責務があります。厚生労働省のガイドラインでは、労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録し、原則として使用者による現認、またはタイムカード、ICカード、パソコン使用時間などの客観的記録を基礎に確認する方法が示されています。自己申告制も直ちに違法ではありませんが、客観記録との著しい乖離がある場合は実態調査と補正が必要です。ツールは記録・突合・アラートを支援しますが、導入しただけで法令遵守が保証されるわけではありません。 出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」 2023年4月1日から、中小企業にも月60時間を超える法定時間外労働の割増賃金率50%以上が適用されています。また、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間で、特別条項を設ける場合にも年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満、2~6か月平均80時間以内などの条件があります。法改正への対応範囲やアップデート方法は製品ごとに異なるため、「自動で瞬時に対応できる」と一律に判断せず、標準対応の範囲、追加費用、自社で必要な設定変更を確認してください。 テレワーク、フレックスタイム制、シフト勤務など働く場所や時間が分散する企業では、職種に合った打刻方法と、必要に応じたPCログ・入退室記録との突合が有効です。ただし、すべての労働時間管理ツールがGPSやPCログに対応するわけではありません。GPS、画面キャプチャ、アプリ利用ログなどを取得する場合は、利用目的、対象者、閲覧権限、保存期間を定め、従業員へ説明したうえで必要最小限に運用してください。 労働時間管理ツールを導入することで、これまで労務担当者が抱えていた多くの業務上のボトルネックが解消されます。ここでは、得られる具体的な5つのメリットを整理します。 タイムカードなどのアナログな手段では、毎月の締め日に打刻内容をExcelなどに手作業で転記し、深夜労働や時間外労働の計算を個別に行う必要がありました。ツールを導入すれば、打刻と同時に労働時間がリアルタイムで自動集計されるため、転記や再計算に要していた膨大な時間が削減され、労務担当者はコア業務に集中できるようになります。 36協定に基づく時間外労働の上限規制を遵守するためには、月末の締め作業を待つのではなく、月中の段階で過重労働の兆候を察知しなければなりません。システム上で労働時間をリアルタイムに監視し、基準を超えそうな従業員やその上長に対して自動で警告(残業アラート)を発することで、労務リスクを未然に回避することができます。 紙のタイムカードや自己申告での勤務管理では、本人以外の打刻(代理打刻)や、退勤打刻の後にサービス残業を行うといった不正・改ざんの温床になりがちです。ICカードやPCログの取得、生体認証などの客観的な記録を用いることで、勤務実態に即した正確な記録を担保し、信頼性の高いデータを残すことができます。 手動によるデータ移行や転記作業は、入力間違いや計算ミスなどのヒューマンエラーを引き起こしやすく、最終的な給与支払い額の過不足につながる危険があります。労働時間管理ツールと外部の給与計算システムをAPI等で連携させることで、ワンクリックで正確なデータ転送が可能となり、事務処理の信頼性を飛躍的に高められます。 労働時間管理ツールに蓄積された正確な稼働データは、組織の現状を映すダッシュボードとなります。部署ごとの残業傾向や有休消化率などを視覚的なレポートとして抽出できるため、経営層に対して説得力のある説明や、労働環境改善に向けた戦略的な提案を行うことが可能になります。 多くの恩恵をもたらす労働時間管理ツールですが、導入にあたってはいくつかのデメリットや注意すべきポイントも存在します。導入後のミスマッチを防ぐために、あらかじめリスクを理解しておくことが重要です。 タイムカードのようなアナログ運用は初期費用が抑えられますが、クラウド型の労働時間管理ツールは、導入時の初期費用やアカウント数に応じた月額の利用コスト(従量課金)が発生します。自社の従業員数や利用したい機能をあらかじめ想定し、費用対効果(ROI)をしっかりと試算しておく必要があります。 新しいシステムを導入する際、打刻方法や申請フローの変更に対して、現場の従業員や承認権限を持つ管理職が戸惑うケースは少なくありません。マニュアルの作成や説明会の開催といった教育コストをかけ、新しい運用ルールを組織全体へ周知徹底するための手間を要します。 企業によっては、独自のシフト制度や複雑な変形労働時間制、手当の算出ルールなどを設けている場合があります。ツールの仕様が柔軟に対応できない場合、結局一部の業務を手動で補完することになり、かえって運用が煩雑化するリスクがあるため、導入前の機能検証が欠かせません。 PCログの取得や位置情報の取得、頻繁な打刻チェックなどを行うことで、従業員が「過剰に監視されている」と感じ、信頼関係が損なわれる場合があります。導入の目的は監視ではなく、健康管理や業務の公平性担保にあることを丁寧に説明し、心理的抵抗を和らげる配慮が必要です。 市場には多数のツールが存在するため、自社の要件に合致するものを選ぶ必要があります。ここでは、製品比較の際に注目すべき4つのポイントを紹介します。 オフィスワーク、外回り、工場勤務など、職種によって最適な打刻方法は異なります。PCからのWeb打刻、交通系ICカード、スマートフォンによるGPS打刻、不正を防ぐための顔や指静脈による生体認証など、現場の従業員がストレスなく正確に打刻できる手段が揃っているかを確認しましょう。 フレックスタイム制や裁量労働制、1か月単位の変形労働時間制など、従業員ごとに異なる雇用契約を同一システム内で柔軟に適用・管理できるかが重要です。また、出社とテレワークが混在するハイブリッドワークにおいても、勤務場所の違いが明確に記録できるかがポイントです。 法改正や36協定に基づく上限時間を自動的に判定し、超過の危険を促すアラート機能の有無は、過重労働を防止するうえで重要です。また、法改正時にベンダー側でシステムをアップデートする製品でも、標準対応の範囲、反映時期、追加費用、自社側で必要な設定変更を確認しましょう。 自己申告の打刻時間と実際の稼働状況にズレがないかを確かめるため、PCの起動・シャットダウンログを取得し、打刻データと突き合わせられる機能があると安心です。これにより「隠れ残業」を視覚的に検出し、より客観性の高い労働時間管理が実現します。 勤怠管理、PCログによる勤務実態の可視化が可能な労働時間管理ツールの代表的な10製品を紹介します。なお、掲載順は優劣や市場順位を示すものではありません。 MITERAS仕事可視化は、PCログと勤怠データを突合し、申告時間とPC利用時間の乖離、休憩未取得、深夜・長時間勤務などを把握できる労務管理ツールです。プランに応じて、アプリケーション利用状況、ウィンドウタイトル、マウス・キーボードの稼働状況も取得できます。隠れ残業やテレワーク時の勤務実態を客観的に確認し、長時間労働の予防につなげたい企業に適しています。 F-Chair+は、テレワーク時の勤務時間、PC画面、勤務場所を可視化できる勤務マネジメントツールです。本人が「着席中」としている時間にPC画面を記録し、画面をぼかす設定にも対応しています。中抜けを含む勤務状況や働き過ぎを把握したい企業に向きます。画面・位置情報を扱うため、取得目的、対象者、閲覧権限、保存期間を明文化し、従業員へ説明することが重要です。 CrowdLog PC管理は、公式には「クラウドログPC管理」と表記される、株式会社クラウドワークス提供のPCログ活用ツールです。PCの起動・無操作状態、ログオン/ログオフ、アプリ・ウィンドウ別の操作ログを取得し、勤怠との突合、勤務間インターバル不足の検知、強制シャットダウン、画面キャプチャに対応します。隠れ残業や申告との差異を把握したい企業に適していますが、PCログをそのまま労働時間と断定せず、実態確認に活用する運用が必要です。 ジョブカン勤怠管理は、出勤管理、シフト管理、休暇・申請管理、工数管理から必要な機能を選んで導入できるクラウド勤怠管理システムです。変形労働、フレックスタイム、裁量労働など多様な勤務形態に対応し、ICカード、GPS、パソコン、スマートフォンなど複数の打刻方法を利用できます。必要な機能を組み合わせやすいため、店舗・拠点ごとに勤務形態が異なる企業や、勤怠管理を段階的に整備したい企業に向いています。 KING OF TIMEは、多様な打刻方法と勤怠管理、人事労務、給与計算、データ分析などを一体で運用できるクラウドサービスです。パソコンやスマートフォン、ICカード、生体認証、PCログオン・ログオフなど幅広い打刻・記録方法に対応しています。複数拠点や多様な雇用形態をまとめて管理したい企業は、自社の勤務制度や例外処理を再現できるかを無料体験やデモで確認するとよいでしょう。 マネーフォワード クラウド勤怠は、Web、スマートフォン、ICカードによる打刻、申請・承認、シフト、有給休暇、残業上限管理に対応する勤怠管理システムです。確定した勤怠データをマネーフォワード クラウド給与へ連携できるため、バックオフィス業務の一元化を進めたい企業に向いています。企業規模や要件によって提供サービスが異なるため、自社が対象となる製品と必要機能を確認してください。 SmartHRは、従業員・承認者・管理者向けの打刻、申請・承認、勤怠確定、アラート、有給休暇管理などを提供する勤怠管理機能を展開しています。SmartHRの従業員データベースと連携し、従業員情報や組織情報を勤怠管理へ反映できるほか、給与計算機能への勤怠データ連携にも対応します。人事・労務データをSmartHRに集約している企業に適しています。 楽楽勤怠は、打刻、申請・承認、休暇、シフト、残業アラートなどを備えたクラウド勤怠管理システムです。専任担当による導入支援を特徴としており、既存の勤怠ルールを整理しながら設定を進めたい企業や、紙・Excelによる管理から移行したい企業に向いています。利用予定の打刻方法、勤務体系、承認経路を整理したうえで導入相談を行うと、適合性を判断しやすくなります。 出典:楽楽勤怠 公式サイト HRMOS勤怠は、打刻、日次勤怠承認、CSV入出力、勤怠アラート、残業レポートなどを提供するクラウド勤怠管理システムです。有給休暇管理・届出申請、シフト管理などの機能も選択でき、シンプルな操作性で勤怠管理を始めたい中小企業や成長企業に向いています。必要な機能、データ保存条件、サポート範囲を確認して運用に合う構成を選びましょう。 スマレジ・タイムカードは、店舗や小規模事業者にも導入しやすいクラウド勤怠管理サービスです。勤怠管理に加え、選択するプランによってシフト管理、給与計算、年末調整、労務アラート、人時売上高の可視化などを利用できます。小売・飲食など店舗運営との親和性が高く、必要な機能と従業員規模に応じてプランを比較したい企業に向いています。 ツールの導入効果を最大限に引き出すためには、段階を踏んで慎重に社内プロセスを進める必要があります。混乱を避け、運用を定着させるための5つのステップを解説します。 まずは現行の勤怠管理プロセスの課題(集計の手間、エラーの多さなど)を洗い出します。さらに、自社の就業規則や雇用契約、特殊なシフトルールなどの「就業ルール」を整理し、システムでどのように再現すべきかを明確にします。 自社のルールに合うツールを選定したら、まずは無料トライアルやデモ画面を活用します。管理画面の使いやすさはもちろん、一般従業員が利用する打刻画面がシンプルで使いやすいかを実務目線で検証します。 ツールを決定したら、全社に向けて導入の目的をアナウンスします。この際、「監視」ではなく「働きすぎの防止」や「業務効率化」が目的であることを強調します。また、基本的な打刻・申請方法をまとめたマニュアルを準備します。 いきなり全社に展開するのではなく、特定の部署やチームで先行してテスト運用(パイロット導入)を実施します。現場からのフィードバックを吸い上げ、運用のルールを微調整したり、よくある質問集を充実させたりします。 テスト運用の結果を反映し、全社に向けて本格運用を開始します。導入後は定期的にデータを分析し、残業が偏っている部署へのフォローアップや、有休の取得促進、さらにはツールの運用に滞りがないかを継続して評価・改善していきます。労働時間管理ツールとは?勤怠管理との違いについて
比較項目
労働時間管理ツール
勤怠管理システム
主な目的
実労働時間の客観的把握、長時間労働・未申告残業の予防
出退勤、休暇、シフト、申請承認、給与連携の効率化
中心データ
打刻、PCログ、入退室記録、残業申請、アラート
出退勤打刻、休暇、シフト、申請・承認
得意な課題
申告と実態の乖離、テレワークの勤務実態、過重労働の兆候
月次集計、給与計算連携、打刻漏れ、休暇管理
選定時の注意
取得目的、保存期間、閲覧権限、従業員への説明
複雑な勤務体系、締めルール、既存給与ソフトとの連携
労働基準法に基づく「労働時間の適正な把握」の義務化
法改正(月60時間超残業の割増賃金・勤務間インターバル等)への迅速な対応
テレワークやフレックス制など多様化する働き方への適応
労働時間管理ツールを導入する5つのメリット
集計作業の自動化による労務担当者の業務負担軽減
リアルタイムな労働時間把握による長時間労働・36協定違反の防止
不正打刻や申告漏れの防止と客観的記録の担保
給与計算システム等とのデータ連携による転記ミスの撲滅
経営層への迅速なレポーティングと働き方改革の推進
労働時間管理ツールのデメリットと導入時の注意点
初期費用・月額利用料などのコスト発生
従業員・管理職への運用ルールの周知と教育コスト
自社の就業規則や雇用形態と機能が合わないリスク
「監視されている」という心理的抵抗感への配慮
自社に最適な労働時間管理ツールを選ぶ4つの比較ポイント
現場に適した多様な打刻方法に対応しているか(Web・IC・GPS・生体認証など)
変形労働・裁量労働・テレワークなど柔軟な勤務体系に対応できるか
残業アラートや法改正への自動アップデート機能が備わっているか
PCログなど勤務実態を客観的に可視化・連携できるか
【2026年10月版】おすすめの労働時間管理ツール10選
MITERAS仕事可視化
1. MITERAS仕事可視化|見えない勤務実態を正確に把握
F-Chair+
CrowdLog PC管理
ジョブカン勤怠管理
KING OF TIME
マネーフォワード クラウド勤怠
SmartHR
楽楽勤怠
HRMOS勤怠
スマレジ・タイムカード
労働時間管理ツールを社内に定着させるための導入ステップ
STEP1:現状の課題整理と自社の就業ルールの棚卸し
STEP2:無料トライアルを活用した操作性・機能の検証
STEP3:導入目的の社内周知とマニュアル作成
STEP4:一部部署でのテスト運用とフィードバックの反映
STEP5:全社展開とデータ分析による継続的な改善
参考資料・出典一覧
- 更新日:2026.10.26
- 公開日:2026.10.26
【2026年最新】労働時間管理ツールのおすすめ10選!メリットデメリットも解説
- 人事労務,働き方,PCログ,テレワーク,生産性
本記事の要点:労働時間管理ツールは、勤怠の集計だけでなく、PCログなどの客観的記録を用いて勤務実態を可視化し、長時間労働や未申告残業の予防を支援するツール。
多様化する働き方に対応しながら適正な労務管理を行うには、労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、実態に沿って記録できる仕組みが必要です。本記事では、労働時間管理ツールの選び方、導入上の注意点、おすすめ10製品を解説します。
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