勤務間インターバル制度とは、「終業時刻から次の始業時刻までの間に、一定時間以上の休息時間を確保しなければならない」とするルールのことです。一般的に「9時間以上」または「11時間以上」のインターバルを設けることが議論されています。 この制度の主な目的は以下の4点にあります。 現在、勤務時間インターバル制度は、労働基準法で義務化されている制度ではありません。 現行の法律では、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」の第2条に、事業主の努力義務として規定されています。 労働時間等設定改善法 第2条(出典:https://laws.e-gov.go.jp/law/404AC0000000090) 国は助成金制度などを通じて導入を促していますが、厚生労働省の調査(出典:令和6年就労条件総合調査)によれば、制度を導入している企業の割合は5.7%に留まっており、全体的な低迷が日本の大きな課題となっています。 インターバル制度の導入有無にかかわらず、休息時間不足は企業に以下の深刻なリスクをもたらします。 日本が勤務時間インターバル制度の義務化を検討している背景には、国際的な労働環境の基準があります。特に、EUでは、1993年に制定されたEU労働時間指令に基づき、原則として「24時間ごとに最低11時間の連続した休息」が義務付けられています。 このEUの基準は、多くの先進国における労働時間規制のモデルとなっています。日本においても、国際競争力の維持や、働き方改革をさらに推進する観点から、この11時間という基準を念頭に置き、現行の「努力義務」から「義務」へ引き上げる議論が加速しています。 厚生労働省の「労働政策審議会」などでは、義務化の是非や具体的な制度設計について活発な議論が行われています。主な論点となっているのは以下の点です。 これらの議論は、単なる労働環境の改善に留まらず、日本社会全体における「過労死を生まない社会」の実現に向けた重大な転換点と位置づけられています。 インターバル制度が努力義務から義務に移行した場合、最も大きな影響は罰則規定の導入です。 義務化された場合の罰則については、今後の法改正の議論で定められる予定です。参考として、労働基準法における時間外労働の上限規制違反には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法第119条)。 【独自見解】罰則は厳格に適用される可能性が高い 本改正は単に義務を課すだけでなく、従業員の生命と健康を守るという強い社会的要請に基づくものです。そのため、もし義務化が実現した場合、企業がインターバル時間を形骸化させたり、適切な記録を残さなかったりした際の罰則は、厳格に適用される可能性が高いと言えます。企業は「努力義務だから」という従来の意識を完全に捨て、法遵守の最重要課題として捉える必要があります。 勤務時間インターバル制度を遵守するための最大の課題は、「終業時刻の正確な特定」です。休息時間のスタート地点が曖昧であれば、制度の運用自体が機能しなくなってしまうからです。 多くの企業が導入している勤怠管理システムやタイムカードは、従業員の自己申告に基づく「打刻時間」を記録するものが一般的です。しかし、この打刻時間と実際の労働実態には、大きな乖離が生じがちです。 打刻時間だけを基準にインターバル時間を判断すると、実際には休息時間が9時間未満であるにもかかわらず「遵守している」と誤認し、従業員をリスクに晒し続けることになります。 勤務時間インターバル制度の運用において、最も重要なのは「従業員がいつ業務を終了したか」という終業時刻の客観性です。 PCログは、従業員が実際に業務に従事していた時間を客観的に記録するデータです。このPCログを活用することで、以下のことが可能になります。本記事の結論:勤務時間インターバル義務化に備え、企業がいますぐ取るべき対策
勤務時間インターバル制度の基礎知識
1-1. 制度の定義と目的:企業が確保すべき「休息時間」とは
1-2. 現状の法的な位置づけと日本の低導入率
1-3. 休息時間不足がもたらす企業リスク:法的責任と健康経営への影響
勤務時間インターバル義務化検討の背景と動向
2-1. 義務化検討の背景:EU指令など国際的な流れ
2-2. 義務化を巡る厚生労働省の検討会における議論の現状
2-3. 義務化された場合に想定されるルールと「罰則規定」導入の可能性
義務化対応への課題とは?
3-1. 勤怠管理システムだけでは不十分な「打刻時間」と「実態」の乖離
3-2. 客観的なデータに基づくインターバル把握の必要性
PCログで「実態」を把握する「MITERAS仕事可視化」
客観的な労働時間把握の必要性が高まるなか、「MITERAS仕事可視化」は、勤務時間インターバル制度の確実な運用を可能にする強力なソリューションです。「MITERAS仕事可視化」の強み
- 客観的な終業時間の測定: PCログから業務の実態を把握し、打刻時刻とPC作業終了時刻の乖離を可視化。隠れた業務も客観的データを取得できるため、インターバル時間を正確に測定できます。
- 仕組みで長時間労働を抑止: 勤務終了時にポップアップを表示することで自主的に業務を終了できます。過重労働を未然に防ぐ仕組みとして有効です。
義務化対応を単なる手間ではなく、全社的な業務改善のチャンスと捉えるためにも、まずは客観データによる現状把握から着手することをおすすめします。
義務化を見据えた企業が今すぐ実行すべき4つステップ
インターバル制度の義務化は待ったなしの状況です。企業は以下のロードマップに従い、段階的に対策を進める必要があります。
4-1. ステップ1:現状のギャップ分析と目標インターバル時間の設定
対策の第一歩は「知る」ことです。まず、客観データを活用して、従業員ごとのインターバル時間の充足状況を詳細に分析します。
分析項目:
- 全従業員のうち、インターバル時間が9時間未満/11時間未満の従業員の割合。
- 特にインターバル不足が発生している部署、役職、業務内容。
- 不足インターバル時間が慢性化している特定個人や業務の特定。
この分析結果に基づき、法改正の動向を先取りし、「最低9時間、可能であれば11時間」といった具体的な目標インターバル時間を設定します。
4-2. ステップ2:就業規則の整備と従業員への「義務化」の周知
ギャップ分析が終わったら、制度を正式に社内に導入する準備を整えます。
- 就業規則への明記: 「終業から始業までの間に〇時間以上の休息時間を確保する」旨を就業規則に明確に記載します。また、インターバルを確保するための具体的なルール(例:深夜帯のメールやチャットの禁止規定)も盛り込みます。
- 全従業員への周知: 制度の目的とルール、そして法改正による義務化と罰則リスクについて、研修や説明会を通じて周知徹底します。特に管理職に対しては、部下のインターバル時間を遵守させるための権限と責任を明確に与えることが重要
4-3. ステップ3:業務フロー・シフトの抜本的見直し
インターバル不足が慢性化している根本原因である「業務量」と「業務の偏り」を解消します。
- シフトの見直し: 業務負荷が高い部署については、シフト制を導入し、夜間・早朝作業が発生しないような人員配置を検討します。
- 業務の平準化と属人化解消: 特定の個人に業務が集中しないよう、マニュアル化や多能工化を進めます。インターバル不足が特定の属人的なスキルに起因する場合、その解消が最優先課題となります。
- 業務量そのものの削減: 定型業務のRPAによる自動化や、外注化・アウトソーシングを検討し、従業員一人あたりの業務量自体を減らす抜本的な対策を実行します。
4-4. ステップ4:PDCAサイクルによる継続的な改善と例外ルールの運用
制度導入はゴールではなく、スタートです。客観データに基づき、PDCAサイクルを回し続けることが不可欠です。
- 効果測定とフィードバック: PCログなどの客観データでインターバル時間の充足率を定期的に測定します。改善が見られない部署や個人に対しては、個別面談や業務プロセスの再設計など、追加の対策を講じます。
- 例外規定の運用: 突発的なシステム障害や大規模な災害など、やむを得ない事由でインターバルを確保できないケースに備え、例外規定を設けます。ただし、この例外規定は濫用を厳しく禁止し、例外適用時にはその理由、期間、事後措置を詳細に記録し、管理体制を徹底する必要があります。