リファラル採用は違法なの?基本的な法的位置づけ
リファラル採用自体は違法行為ではありませんが、以下の法律に抵触するリスクを内包しています。
職業安定法
- 個人情報保護法
- 雇用機会均等法
特に注意すべきは職業安定法です。無許可の有料職業紹介事業に該当すると判断された場合、法律違反となります。また、個人情報保護法においては候補者の同意なき情報利用が問題となり、労働基準法では報酬の不適切な税務処理が課題となるでしょう。さらに、雇用機会均等法においては、差別的な紹介依頼が法的問題を引き起こす恐れがあります。
しかし、適切な制度設計により、すべての法的リスクは回避することが可能です。各法律の要件を正確に理解し、コンプライアンスを重視した運用体制を構築することが重要です。
リファラル採用が違法となる具体的なケース
多くの企業がリファラル採用で陥りがちな法律上の落とし穴について、違法行為とみなされるケースを解説します。一見、問題ないように思える制度設計でも、実は複数の法律に抵触するリスクを抱えていることも少なくありません。
以下の6つのケースは、特に注意が必要な代表例となります。
ケース(1)紹介報酬を第三者に支払う
従業員以外の外部の第三者に対して紹介を依頼し、報酬を支払う行為は、有料職業紹介事業に該当する可能性が非常に高くなります。例えば、退職者や取引先関係者、友人などへの紹介依頼も同様のリスクを伴います。
職業安定法第30条では、有料職業紹介事業を営む場合、厚生労働大臣の許可が必要です。この許可なくして第三者への紹介報酬の支払いを行うことは、違法行為に該当し、罰則の対象となるため注意しなければなりません。また、同法第34条では無許可の職業紹介に対する罰則規定が定められており、違反すると6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される場合があります。
そのため、紹介報酬を支払う対象者は現在の従業員のみに限定することが、職業安定法違反のリスクを回避するうえで有効な方法となります。従業員紹介は法律上、紹介事業の許可が不要な範囲とされているため、明確な線引きを設けることが重要です。
※参考:職業安定法第三十四条(準用)
ケース(2)候補者本人の同意なく情報提供されている
候補者の同意を得ずに個人情報を収集・利用することは、個人情報保護法違反に該当します。個人情報保護法第15条では、個人情報の取得にあたり、利用目的を明確にし、本人の同意を得ることが義務付けられているのです。
また、同法第18条では、取得した個人情報は、あらかじめ明示した利用目的の範囲内で適切に取り扱うことが求められています。さらに、個人情報の利用に関する本人の同意は撤回可能であるため、同意撤回の手続きを整備し対応することが必要となります。
そのため、紹介前には必ず候補者本人から明確な同意を取得し、利用目的を具体的に説明したうえで、個人情報を適切に管理しなければなりません。書面やメールなどの形で同意記録を残し、透明性の高い情報管理体制を維持することが重要です。
※参考: 個人情報保護法第十五条
※参考: 個人情報保護法第十八条(定義)
ケース(3)紹介報酬(インセンティブ)が高額すぎる
年収の30%を超えるような高額報酬や市場相場を大幅に上回る金額設定は、職業安定法に違反するリスクが高まります。
具体的には、職業安定法第30条において「有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。」と明記されており、紹介者に対し高額な報酬を支払うことで同法に抵触する可能性があるのです。
また、特に職業安定法第32条では、有料職業紹介事業における報酬の上限や適正な設定が厚生労働省および厚生労働大臣の定める基準に従うよう求められており、過度に高額な報酬は営利目的の職業紹介事業と判断される可能性があります。
そのため、人材紹介会社の報酬相場である年収の30〜40%を上回らない水準に設定することが一つの目安となります。金額だけでなく、報酬の位置づけや支払い条件も慎重に設計する必要があるでしょう。
※参考: 職業安定法第三十二条の三(手数料)
ケース(4)紹介者が選考・採否判断に直接関与している
紹介者が面接官として選考や採否の判断に関与することは、公平性を損なうことから違法行為となる可能性があります。
これは利益相反の観点で不適切とみなされるだけでなく、採用プロセスにおける公平性・透明性を損なうためです。
特に、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保などに関する法律(雇用機会均等法)が求める公平な採用選考の原則に反する恐れがある点、紹介者が選考に関与することが「事業性」を帯び、厚生労働大臣の許可が必要な有料職業紹介事業とみなされる恐れがある点に注意しましょう。
客観的で公正な選考プロセスを維持することが、法的リスク回避の重要なポイントとなります。
※参考: 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(雇用機会均等法)
※参考: 職業安定法「第三章 職業安定機関及び地方公共団体以外の者の行う職業紹介」
ケース(5)報酬が採用・不採用にかかわらず支払われる
採用結果に関係なく紹介行為のみに対して報酬を支払うことは、職業紹介事業の性格が強くなり違法リスクが著しく高まります。
報酬は採用確定を条件として支払うことが原則であり、紹介のみで報酬を支払う制度設計は職業安定法違反の可能性があるため避けるべきです。
成果連動型の報酬体系を採用し、適切な支払い条件を設定することが重要となります。
ケース(6)リファラル専用SNSや外部サービスで紹介している
外部のリファラル専用プラットフォームやSNSを利用し、組織的かつ継続的に紹介活動を行うことは、職業安定法第30条の規定により、有料職業紹介事業に該当する可能性が高くなるのです。
無許可での職業紹介事業は違法行為とされているため、外部サービスを利用した継続的な紹介活動は違法リスクが増大してしまいます。
従業員の自発的な紹介の範囲を超えないよう、社内での適切な運用体制を構築し、外部プラットフォームの利用は控えることが望ましいでしょう。
リファラル採用を適切に運用するためのルール設計方法
リファラル採用を成功させるには、法的リスクを完全に排除した制度設計が不可欠です。各種法律に準拠しながら効果的な人材獲得を実現するため、以下の5つのポイントに沿ってルールを設計していきましょう。
制度の目的と運用範囲を明確にする
- 紹介行為の「営利性」を排除する
- 個人情報の取り扱いに関するガイドラインを整備
- 報酬制度は労基法に則って設計・運用する
- ガバナンスと透明性を担保する仕組みを設ける
それぞれの具体的な内容について、詳しく見ていきます。
制度の目的と運用範囲を明確にする
リファラル採用の目的を採用力強化や企業文化の向上など明確に定義し、営利目的の職業紹介事業ではないことを明示する必要があります。
対象となる職種、ポジション、紹介者の範囲を具体的に設定し、制度の適用範囲を明確化することで法的リスクを回避できます。曖昧な運用ではなく、明文化されたルールに基づく適切な運用が重要となります。
運用範囲の明確化により、従業員にとっても理解しやすい制度となります。
紹介行為の「営利性」を排除する
職業安定法違反を避けるため、紹介行為が営利目的ではないことを明確にする必要があります。
報酬を謝礼や感謝の表現として位置づけ、紹介を本来業務や評価対象にしてはいけません。継続的・反復的な紹介活動を避け、あくまでも善意による紹介であることを担保することが重要です。また、前述したように高額報酬の設定も営利性が疑われるため、適切な水準に抑制することが必要となります。
謝礼としての性格を明確にした制度設計が求められます。
個人情報の取り扱いに関するガイドラインを整備
候補者の個人情報取得時の同意取得方法、利用目的の明示、保管・廃棄ルールを明文化する必要があります。
社内での情報共有範囲を限定し、適切なアクセス制限と暗号化対策を実施することが重要です。個人情報保護法に完全準拠したガイドラインを策定し、従業員への教育を徹底する必要があります。
データセキュリティと個人情報保護の両面から万全の体制を構築することが求められます。
※参考: 個人情報保護法
報酬制度は労基法に則って設計・運用する
紹介報酬を給与所得として適切に税務処理し、源泉徴収や年末調整を実施する必要があります。
返還条項がある場合は労働基準法の賃金全額払い原則に違反しないよう設計することが重要です。社会保険料への影響も考慮し、従業員への丁寧な説明と理解促進を行うことが必要となります。
税務処理の透明性と適法性を確保した制度設計が重要です。
リファラル採用制度の詳細な運用方法については、以下の記事も併せてご参照ください。
※関連コラム: リファラル採用における報酬制度とは?注意点や成功のポイントを詳しく解説
ガバナンスと透明性を担保する仕組みを設ける
制度運用の監督体制を構築し、定期的な効果測定と法的リスクの評価を実施する必要があります。
報酬支払い実績の公開や制度変更時の十分な説明期間確保により透明性を保つことが重要です。なお、法改正があった際に自社のみで最新の情報をキャッチアップし、制度を維持することが困難な場合には、外部の専門家による定期的なリーガルチェックが効果的です。潜在化しているリスクを常に排除しつつ制度維持に努めましょう。
継続的なモニタリングと改善活動が制度成功の鍵となります。
違法なリファラル採用とならないためのチェックリスト
リファラル採用の法的リスクを確実に回避するためには、体系的なチェック体制の構築が不可欠です。制度導入時だけでなく、運用開始後も定期的にチェックを実施し、法的コンプライアンスを継続的に維持することが重要となります。
職業安定法対策チェックリスト
職業安定法違反は最も深刻な法的リスクとなるため、以下の項目を必ず確認してください。
- 有料職業紹介事業の許可を得ているか確認しているか
- 営利目的の職業紹介に該当しない制度設計になっているか
- 紹介の範囲・条件を明確に定めているか
- 紹介報酬の支払い方法・金額が適切に管理されているか
特に報酬額の設定と営利性の判断は微妙な線引きが求められるため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に検討することが重要です。定期的な見直しにより適法性を維持しましょう。
個人情報保護法対策チェックリスト
個人情報の取り扱いは企業の信頼性に直結する重要な要素です。以下の項目を徹底的にチェックしてください。
- 候補者の個人情報取得時に本人同意を得ているか
- 利用目的を明示し、目的外利用をしていないか
- 個人情報の保管・管理体制が整備されているか
- 第三者提供時の手続き(同意取得や契約締結)を実施しているか
- 保管期間を過ぎた個人情報を適切に廃棄しているか
同意取得の記録は書面またはメールで必ず残し、データの暗号化やアクセス制限など技術的安全管理措置も併せて実施することが求められます。
※参考: 個人情報保護法第二十三条(安全管理措置)
労働基準法対策チェックリスト
リファラル報酬の取り扱いは税務処理や労務管理に大きく影響するため、以下の項目を確実に実施してください。
- 紹介報酬の支払いが賃金の全額払いの原則を遵守しているか
- 給与控除に関する法令を守っているか
- 紹介報酬の税務処理が適切に行われているか
報酬を給与所得として処理する場合は源泉徴収義務が発生し、年末調整の対象にもなります。返還条項を設ける場合は労働基準法第24条の賃金全額払い原則に抵触しないよう、法的要件を満たした契約書の作成が必要となります。
※参考: 労働基準法第二十四条(賃金の支払)
雇用機会均等法対策チェックリスト
公平で透明な採用プロセスの維持は、企業の社会的責任を果たす上で欠かせません。以下の項目を定期的に確認してください。
- 性別・年齢・国籍などで不当な差別が行われていないか
- 社内の採用基準が公平・透明に運用されているか
- 差別的言動を防止するための社内研修を実施しているか
- 苦情・相談窓口を設けているか
リファラル採用においても一般採用と同等の公平性が求められます。紹介依頼時に性別や年齢などの限定的な条件を設けることは避け、能力と適性を重視した採用基準を徹底することが重要です。
リファラル採用を安定運用するためのポイント
制度を導入しただけでは、リファラル採用の成功は保証されません。法的リスクの回避と効果的な人材獲得を両立させるためには、継続的な運用管理と改善活動が不可欠となります。
リファラル採用には採用コスト削減や定着率向上などのメリットがある一方で、多様性の低下や人間関係トラブルなどのデメリットも存在します。
そのため、制度を成功させ長期的に定着させるためには、メリットとデメリットを理解したうえで適切な運用方法を取り入れることが重要です。
詳しくは、以下の記事でリファラル採用の導入メリット・デメリットや定着に向けた運用方法、注意点を解説しています。
※関連コラム: リファラル採用の導入メリット・デメリットとは?定着に向けた運用方法や注意点を解説
ポイント(1)適切な記録・証拠の保管
制度運用に関するすべての記録を適切に保管し、法的リスク発生時に備えることが重要です。
具体的には、候補者の同意書、報酬支払い記録、選考プロセスの記録など重要書類を整理して管理する必要があります。万が一行政指導や調査が入った場合でも、必要な資料をすぐに提出できる体制を整えておくことで、企業の信頼性を守ることができます。
近年はデジタル化の進展により、クラウドストレージを活用した記録保管も一般的になっています。ただし、適切なバックアップ体制の構築も忘れてはなりません。
ポイント(2)公正な選考プロセスの徹底
紹介者が選考に関与してしまうと、どうしても客観性に疑問が生じてしまいます。また、利益相反や公平性のリスクが生じる恐れがあるでしょう。そのため、紹介者を選考プロセスから完全に除外し、公平な採用判断を行う体制を構築することが欠かせません。
差別的な採用基準を排除し、透明性の高い選考プロセスを維持することも同様に重要です。複数の面接官による評価や標準化された選考基準を適用することで、誰もが納得できる公正性を担保できるでしょう。
このような客観性と透明性を重視した選考体制こそが、企業の信頼性向上につながります。
ポイント(3)社内コミュニケーションの促進
制度が適切に機能するためには、従業員の理解と協力が不可欠です。制度内容や法的注意点について適当な情報連携と周知を実施し、全社的な理解を深めましょう。
特に個人情報保護やコンプライアンスの重要性については、単なる説明にとどまらず、具体例を交えて説明することが効果的です。また、質問や疑問に対する迅速な対応体制を整備し、従業員の不安や誤解を解消することも大切です。
一方で、リファラル採用に参加する従業員側のメリット(社内ネットワーク拡大、会社への貢献実感、謝礼の受け取りなど)も積極的に伝えることで、制度への理解と参加意欲を高めることができます。
ポイント(4)外部の専門家への相談体制の整備
法的な問題は、企業内部だけでは判断が難しい場合が多々あります。そこで、弁護士や社会保険労務士などの専門家と継続的な相談関係を構築し、制度設計段階から法的アドバイスを受けることをお勧めします。
また、法律は常に変化しているため、定期的なリーガルチェックと法改正への対応により適法性を維持する必要があります。問題が発生してから慌てて専門家を探すのではなく、平時から専門家ネットワークを構築しておくことが賢明でしょう。
このような専門家との連携により、より安全で効果的な制度運用を実現できます。
ポイント(5)リスク発生時の対応ルール整備
どれだけ注意深く制度を設計しても、リスクをゼロにすることは困難です。そのため、行政指導や法的問題が発生した場合の対応マニュアルを事前に整備し、迅速かつ適切な対応ができる体制を整えておくことが重要です。
制度の緊急停止判断基準や責任の明確化、従業員や候補者への影響を最小限に抑える対策についても、あらかじめ検討しておく必要があります。さらに、損害保険の活用も含めたリスクマネジメント体制を構築することで、万全の備えができるでしょう。
結局のところ、事前の準備がリスク発生時の影響を大きく左右します。
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リファラル採用は適切に運用すれば非常に効果的な採用手法ですが、複数の法的リスクを内包していることを理解する必要があります。職業安定法、個人情報保護法、労働基準法、雇用機会均等法のすべてに配慮した制度設計が成功の鍵となります。
重要なのは営利性の排除、適切な報酬設定、透明性の確保、そして継続的なモニタリング体制の構築です。法的リスクを恐れるのではなく、適切な知識と準備により安全で効果的なリファラル採用制度を構築することで、優秀な人材の獲得と採用コストの削減を同時に実現できるでしょう。
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