特定保健指導のアウトカム評価とは?第4期における評価手法を解説

特定保健指導のアウトカム評価とは?第4期における評価手法を解説

特定保健指導の参加率や実施率は一定水準を保っているものの、「毎年同じ人が対象となり、根本的な改善につながっていない」という課題を抱える保険者は少なくありません。厚生労働省への報告業務に追われる中で、保健指導の質をどう向上させ、成果をどう可視化すべきかという悩みは深刻です。

2024年度より開始された第4期特定保健指導では、従来のプロセス評価に加えて「アウトカム評価」が導入されました。保健指導の評価軸を「実施量」から「成果」へと転換し、データに基づく質の向上を目指す制度改定です。

本記事では、アウトカム評価がもたらすメリットの具体的な内容から導入メリット、実践的な導入ステップまでを体系的に解説します。成果を可視化することで保健指導の投資対効果を明確にし、継続的な質向上を実現する方法をお伝えします。

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    特定保健指導の環境・内容の見直しを検討する方に向けて、お悩みの紐解きから解消のポイントまで詳しく解説!



    特定保健指導のアウトカム評価とは?【第4期改定の要点】

    2024年度から開始された第4期特定保健指導制度の最大の変更点は、対象者の行動変容や健康指標の改善といった「結果」に焦点を当てる評価手法であるアウトカム評価の導入です。

    時間や回数を重視した評価から、具体的な成果を測定する評価体系への転換により、保健指導の実効性向上を期待されています。なお変更点に関しては、関連コラム「特定保健指導、第4期の変更点」にて詳細を執筆しています。併せてご覧ください。

    厚生労働省が求める評価指標

    第4期では、従来のプロセス評価に加えて新しい評価体系が導入されました。厚生労働省によると、アウトカム評価には明確に二つの評価経路が存在します。

    一つ目は、主要達成目標である「腹囲2cm・体重2kg減」を達成した場合です。この「結果」を達成するだけで180ポイントが付与され、指導プロセス(介入量)を問わず完了となります。

    二つ目は、「腹囲1㎝・体重1㎏減」の達成や、食生活・運動習慣の改善といった「行動変容」が認められる場合です。仮に一つ目の主要目標が未達成だった場合であっても行動変容に応じてポイントが付与されます。そして従来のプロセス評価と合わせて180ポイントに到達することで指導完了とみなされるのです。

    この二種類の評価経路により、保険者や実施機関は対象者の状況に応じて柔軟な指導アプローチを選択できるようになりました。

    ※参考:厚生労働省 保険局「特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き(第4版)」

    実施率だけではない「成果評価」の視点

    単なる実施率向上ではなく、対象者の健康状態改善と行動変容の定着を重視した評価体系への転換が図られています。

    厚生労働省は成果指標として「腹囲2㎝・体重2㎏減達成割合」や「生活習慣の改善(行動変容)割合」、「次年度以降の階層化や体重等の変化」、「喫煙者の次年度禁煙割合」など多角的な評価を重要視しています。

    これらの指標により、保険者は従来把握が困難だった保健指導の具体的な効果を数値として測定できるようになります。また対象者にとっても、自身の改善状況が明確になることで、継続的な健康管理への意識向上が期待されるのです。

    ※参考:厚生労働省 保険局「特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き(第4版)」

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    なぜ、いまアウトカム評価が重要視されるのか?

    では、なぜこのアウトカム評価が重要視されているのでしょうか?

    その理由は、特定保健指導を取り巻く環境の変化と課題を背景に、従来の評価手法では対応しきれない問題が顕在化していることにあります。

    アウトカム評価の重要性を理解するために、まずは特定保健指導における現状の課題を整理し、新しい評価手法(アウトカム評価)がもたらす変化を詳しく見ていきましょう。

    従来の特定保健指導が抱える「成果が見えにくい」という限界

    従来の特定保健指導では具体的な成果指標が明確でなく、保健指導の効果測定が困難な状況が続いています。

    厚生労働省は「アウトカム評価の実績評価の時期は、指導完了後の一定期間経過後(例えば3カ月以上)」と定めていますが、実施機関や対象者にとって改善効果が見えにくいため、継続的な質の向上に向けた取り組みが進まない状況にありました。

    実際に厚生労働省が公表した令和5年度(2023年度)の特定保健指導の実施率は全体で27.6%と過去最高を更新したものの、国の目標値(45%以上)とは依然大きな乖離があります。なお、保険者種別に見ると実施率には大きなばらつきがあり、被用者保険である健保組合や共済組合と比較して、市町村国保などの実施率が伸び悩む構造的な課題が続いています。

    さらに、特定保健指導の意義や効果が対象者に十分理解されない現状もあります。

    厚生労働省は特定健診・特定保健指導について「生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善による生活習慣病の予防効果が多く期待できる方に対して、専門スタッフ(保健師、管理栄養士など)が生活習慣を見直すサポートをします」と説明していますが、実際には忙しい生活の中で指導を受ける時間的余裕がなく、行動変容への動機付けが不十分な状況が続いていると言えるでしょう

    ※参考:保健指導リソースガイド「2023年度 特定健診の実施率は59.9%、保健指導は27.6%過去最高を更新するが、目標値と依然大きく乖離【厚労省調査】」
    ※参考:厚生労働省「特定健診・特定保健指導について」

    アウトカム評価は保健指導に3つの変化をもたらす

    これまでの特定保健指導が抱えていた課題の他にアウトカム評価が導入に至った経緯として、そのメリットが挙げられます。

    従来の方法では成果が見えづらくなっていた保健指導に以下の3つの大きな変化をもたらすのです。

    • 保健事業の投資対効果(ROI)が明確になる
    • 成果データに基づき、継続的な行動変容を支援できる
    • 従業員の健康指標を「人的資本経営」の成果として活用できる

    これらの変化は相互に連携し、総合的な保険事業の実現と質の向上が期待されています。

    変化(1)保健事業の投資対効果(ROI)が明確になる

    アウトカム評価により、投資した費用に対する具体的な健康改善効果や医療費削減効果が数値で示され、保健事業の投資対効果が明確化されます。

    例えば、協会けんぽでは「特定健診・保健指導の医療費適正化効果の分析」や「特定保健指導対象者の一人当たり医療費と体重の変化の関連」を実施し、科学的根拠に基づく効果測定を行っています。

    これらの分析によれば、特定保健指導に参加したグループは、参加しなかったグループに比べて、その後のメタボ関連疾患における一人当たり医療費が低い傾向が見られました。ただし、この分析では、もともと健康意識の高い人が指導に参加しやすいといった影響は考慮されておらず、指導そのものの効果と断定するにはさらなる検証が必要となってしまいます。

    アウトカム評価によって、こうした投資対効果(ROI)の分析がより精緻になることが見込めるのです。

    ※参考:全国健康保険協会「健診後の保健指導・健康相談」

    変化(2)成果データに基づき、継続的な行動変容を支援できる

    成果データに基づく個別最適化された指導により、対象者の継続的な行動変容を効果的に支援できる体制が構築されます。

    第4期のアウトカム評価では、どのような指導アプローチが実際に体重減少や腹囲減少につながったかを定量的に把握できるため、成功事例の横展開や指導プログラムの改善が可能になります。、

    また、対象者にとっても自身の改善状況が数値として可視化されることで、継続的な取り組みへの動機が向上します。従来の時間ベースの評価では見えなかった「本当に効果のある指導」を特定し、それを基にした質の高い保健指導の提供が実現できるようになります。

    変化(3)従業員の健康指標を「人的資本経営」の成果として活用できる

    アウトカム評価により得られる健康データは、企業の人的資本投資の成果として活用できる可能性があります。

    経済産業省の「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」では「人的資本への投資が、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの同期化を図る観点からも重要な要素であるとの認識が広がっている」と明記されています。考え方を応用すれば、特定保健指導のアウトカム評価で得られる健康指標を、企業の従業員健康投資の効果を示す人的資本指標の1つとして位置づける視点も考えられるでしょう。

    すなわち、健康経営優良法人の認定や統合報告書での開示において、従業員の健康状態改善を定量的に示すデータとして活用できる時代が近づいていることを示します。

    ※参考:経済産業省「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」

    成果を可視化・改善する際の手順

    アウトカム評価を効果的に活用するためには、段階的なアプローチが重要です。

    評価指標の設計から改善サイクルの構築まで、体系的な取り組みにより持続可能な質向上を実現しましょう。

    手順(1)評価指標の設計とKPIの再定義

    始めに、従来の時間ベースの評価から成果重視の評価への転換が必要です。

    厚生労働省が示す「主な変更点は『ICTの活用』『アウトカム評価の導入』『特定保健指導の見える化』」に対応し、腹囲・体重減少、生活習慣改善、医療費適正化など多面的なKPIを設定し、データ収集可能な指標体系を構築することが第一歩となります。

    具体的には、以下の指標を組み合わせた評価体系の構築が推奨されます。

    • 主要達成目標:腹囲2cm・体重2kg減の達成率

    • 副次的目標:腹囲1cm・体重1kg減の達成率

    • 行動変容指標:食生活改善・運動習慣定着・禁煙達成の割合

    • 継続性指標:次年度以降の階層化変化・リバウンド率

    • 中長期指標:医療費変化・生活習慣病発症率の変化


    これらの指標を設定する際は、データ収集の実現可能性と測定の客観性を十分に検討することが重要です。

    手順(2)評価データの収集・分析フローの整備

    次に健診データ、保健指導記録、行動変容データを体系的に収集する仕組みが必要となります。

    「達成状況の見える化」を推進し、「実例の分析による効果」が期待でき、さらにICTを活用したデータ管理システムの導入により、リアルタイムでの効果測定と分析が可能となります。データ収集・分析フローの構築において重要なのは以下の要素です。

    • 健診データとの連携システムの構築
    • 保健指導実施機関との情報共有体制の確立
    • 個人情報保護に配慮したデータ管理システムの導入
    • 分析結果の可視化とレポーティング機能の整備
    • 経年変化を追跡できるデータベースの構築

    特に、複数の実施機関が関わる場合のデータ標準化や、対象者の追跡調査体制の構築が成功の鍵となります。

    手順(3)評価結果の活用と改善サイクルの構築

    最後に、評価結果を基にした保健指導手法の改善、成功事例の共有、継続的なPDCAサイクルの構築により、保健指導の質の向上と効果最大化を図る体制を整備していきましょう。

    厚生労働省は保険者に対し「データヘルス計画を策定し、それに基づく保健事業の実施等を求める」とし、「PDCAサイクルに沿った保健事業等について事例の収集を行い、報告書を取りまとめました」として、体系的な改善サイクルの重要性を示しています。

    特に第4期からは、アウトカム評価によって得られる「どのような指導が成果に繋がったか」という具体的なデータが、PDCAサイクルの「C(評価)」の精度を飛躍的に高めます。そのため、保険者は勘や経験に頼るのではなく、データに基づいた保健指導の質の改善(Action)を行うことが可能になるでしょう。

    ※参考:みずほ情報総研株式会社「令和元年度厚生労働省委託|PDCAサイクルに沿った保健事業等の取組事例の調査分析 報告書」
    ※参考:厚生労働省 保険局「データヘルス計画作成の手引き」

    特定保健指導におけるアウトカム達成事例

    第4期制度で導入されたアウトカム評価は、単なる実施率ではなく「成果」を重視する仕組みです。しかし、実際に成果を出すためには、対象者の生活背景やモチベーションに応じたきめ細やかな支援が不可欠です。

    当社(パーソルビジネスプロセスデザイン)では、個人の意欲や生活環境を踏まえて目標までの行動計画を明確にし、取り組み状況に合わせた最適なアドバイスをおこなうことでアウトカム達成を導いています。以下では、実際の指導事例から、アウトカム評価の効果とその実践プロセスについてご紹介します。

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    Aさん(40代 男性・積極的支援)

    目標設定と取り組み
    Aさんは「夏の予定を目指し、体を鍛える」という明確な目標のもと、-3kgの減量を目指して指導を開始。

    ・初月:1日3食摂ることの習慣化
    ・次月:野菜中心・脂質少なめの食生活を意識
    ・次々月:連休による生活や体重変化に伴うリスケジュール案を提案

    と、目標設定とスケジューリングを行いました。また、朝食のプロテイン摂取、昼食での定食、夕食時のカット野菜摂取の提案といった、具体的な食事改善プランを実行ハードルを下げ組み立てることで、着実な行動変容を促しました

    アウトカムの実績
    指導終了時には、体重が73.8kgから68.0kgへ(-5.8kg)腹囲が83.1cmから76.0cmへ(-7.1cm)の改善が見られ、当初の目標を上回る成果を上げています。行動変容が定着し、短期間で健康指標が改善された好例と言えます。

    また、連休などでスケジューリング(計画)から逸れてしまった際にも、リスケジュールのサポートと運動プロセスの追加を行うなど、柔軟かつオリジナルな指導を実施し、計画の見直しを適切に行うことで、最終的に目標を大幅に達成する結果となっています。

    Bさん(40代 男性・動機付け支援)

    目標設定と取り組み
    Bさんは、健診結果の悪化に危機感を抱き、かつ昔の服のサイズを取り戻すために-3.5kgの減量を目標としました。

    ・初月:体重腹囲測定の習慣化
    ・次月:運動の習慣化
    ・次々月:食事改善アドバイスとモニタリングサポートを実施

    上記の取り組みを段階的に行うことで、測定や運動が習慣化された状態を構築しました。

    また、危機感をモチベーションに、通勤時に1駅分(約2km)遠回りして歩数を増やすウォーキングや、デスクワーク時の数時間に1回の簡単な体操を提案し、個人の生活リズムに合わせた小さな取り組みを積み上げることで、持続可能な行動変容を実現しました。

    アウトカムの実績
    指導終了時には、体重が68.0kgから62.3kgへ(-5.7kg)腹囲が87.5cmから80.0cmへ(-7.5cm)と、目標を上回る改善を達成しました。

    また、お仕事の繁忙により減量活動が一時薄れた際にも、深夜帯の食事において太らない食事改善アドバイスを取り入れたことで、柔軟に指導計画を立て直し、持続的な健康管理を実現できた点が特筆されます。

    パーソルビジネスプロセスデザインの特定保健指導サービス

    ここまで解説してきましたが、第4期特定健診・特定保健指導制度で導入されたアウトカム評価は、従来の時間ベース評価から成果重視の評価への大きな転換点となっています。また、保健指導の投資対効果の明確化・データに基づいた質の向上が期待できるでしょう。

    保険者は、アウトカム評価の活用で具体的な健康改善効果を数値で把握することができ、対象者には明確な目標設定と動機付けを提供できます。

    成果を可視化・改善する3つのステップ(評価指標の設計、データ収集・分析フローの整備、改善サイクルの構築)を実施することで、持続可能な保健事業を実現し、対象者の健康改善効果を数値で把握するとともに、明確な目標設定・動機付け支援の提供を行いましょう。

    なお、前項の事例でご紹介したように、アウトカム評価で成果を出すためには、対象者一人ひとりに合わせた計画と継続的なサポートが欠かせません。パーソルビジネスプロセスデザインでは、2008年から特定保健指導をサポートしており、(累計約90,000人の指導実績)心理学的アプローチを取り入れた独自プログラムを提供しています。

    • 認知行動療法や動機付け面接を活用し、対象者の「変わりたい気持ち」を引き出す
    • 体重コントロールスキルの確立支援で、リバウンドを防ぎ、行動変容を定着
    • プログラム継続率97.2%(2024年度実績)、実施率向上に向けた施策提案も実施
    • 多様なオプション(血糖測定デバイス、コース選択制)で柔軟な対応が可能

    特定保健指導の実施率やアウトカム評価の向上に課題を感じている保険者様は、ぜひ当社の「特定保健指導サービス」をご覧ください。

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    累計約90,000人、継続率97.2%(2024年度実績)を誇る特定保健指導サービスについて、詳細をご確認ください。



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