なぜ今、採用CX(候補者体験)が重要なのか
候補者体験という概念が注目を集めている背景には、労働市場の変化や採用環境の変化があります。まずは候補者体験の定義と、なぜ今重要視されているのかを理解しましょう。
「候補者体験」の定義と採用における重要性
候補者体験を英訳すると「Candidate Experience」であり、「採用CX」と同義です。
定義としては、応募から内定・入社までの一連の採用プロセスにおいて、候補者が企業と接するすべてのタッチポイント(求人情報、応募フォーム、選考連絡、面接、内定通知など)で得る体験のことを指します。
求職者が企業を認知してから応募、選考、内定、入社までの過程において合否に関わらずポジティブな体験を提供することであり、入社意欲を高めるために重要な要素として注目されています。
通常、候補者体験(採用CX)が良ければ、“選考途中の辞退の抑止”、“内定承諾率の上昇”が期待でき採用成果の創出が見込めるでしょう。一方で、反対に候補者体験が悪い場合、“途中離脱による優秀な人材の取りこぼし”、“企業ブランドイメージの低下”など、採用成果だけでなく、企業価値の低下が懸念されるのです。
「候補者体験」が注目される背景
「候補者体験」が注目される背景には主に採用市場や社会環境の変化が挙げられます。
前述したように良質な体験を提供することで、候補者にポジティブな印象を与え、内定承諾率の向上が期待されます。そのため、今日のように採用競争が激しい状況においてその取り組みが必要となっているといえるでしょう。
- 労働人口の減少による人材獲得競争の激化
少子高齢化や生産年齢人口の減少に伴い、社会全体において人材不足が深刻化しています。これにより企業が候補者を選考する「買い手市場」から候補者が企業を選ぶ「売り手市場」へのシフトが顕著となっています。
このような労働人口の減少により、企業間の人材獲得競争(採用競争)が激化しており、優秀な人材は複数企業からの内定を得る可能性が高いといえるでしょう。候補者に魅力的な体験を提供することで「この会社に入社したい」と思わせる採用CXへの取り組みが注目されるのです。 - 人材の流動化と終身雇用の崩壊
従来の終身雇用の文化が崩壊しつつある今、転職が一般的なこととなり、人材の流動化が高まっているといえます。候補者は、自身のキャリアを長期で見据え、企業文化や働き方・姿勢など、慎重な見極めを行います。
自社の価値と候補者が求める価値が合致することを伝えるために、選考プロセス全体を通して、組織・業務の魅力や飾らない雰囲気を
提供することが必要です。 - 採用情報の透明化とSNSの発展
企業人事において、いまやSNSの活用は不可欠なものになりつつあります。インターネット社会において、候補者は手軽に企業の採用に関する情報を収集できるだけでなく、口コミやレビューサイトを通して拡散することができます。
ポジティブな体験を得た候補者が、その経験を積極的にSNSで発信することで企業ブランディングに貢献する一方で、ネガティブな体験は企業イメージの低下や母集団の減少につながるリスクが伴います。このように企業の評判・活動状況が見える化し選考体験の透明性が高い現代では、採用CXが採用の成果に直結することからも注目されているのです。
候補者体験が採用成果に与える3つの影響
候補者体験は、採用活動にどのような影響を与えるのでしょうか。具体的な3つの影響を解説します。
選考辞退率と内定承諾率への影響
候補者体験が良いと選考辞退率が下がり、内定承諾率が上がるため、候補者体験の良し悪しはとても重要です。
選考プロセスでの対応が遅い、面接官の態度が悪いなど、候補者体験が悪いと、候補者は「この企業の選考は辞退しよう」と感じて選考を辞退してしまいます。逆に、スピーディーな対応、丁寧なコミュニケーション、候補者を尊重する姿勢など、候補者体験が良いと、候補者の志望度が高まり、内定承諾率が向上するでしょう。
特に、優秀な候補者ほど複数の企業から内定を得ている可能性が高いため、候補者体験の良し悪しが最終的な意思決定に影響します。候補者体験を向上させることで、採用活動の効率が上がり、採用目標を達成しやすくなるでしょう。
企業ブランドとクチコミへの影響
候補者体験は、企業ブランドの評判に直結し、クチコミを通じて今後の採用活動にも影響を与えます。
今の時代、候補者は選考プロセスで得た体験を転職サイトのクチコミ、SNS、友人・知人との会話などで共有することが可能です。
候補者体験が良ければ、「受けてよかった」、「対応が丁寧だった」といったポジティブなクチコミが広がり、企業ブランドが向上します。逆に、候補者体験が悪いと、「面接官の態度が悪かった」、「連絡が遅い」といったネガティブなクチコミが広がり、企業の評判が低下するリスクがあるのです。
企業ブランドの評判は、今後の採用活動における応募数や候補者の質にも影響するため、長期的な視点で候補者体験を重視する必要があるでしょう。
また、候補者体験(Candidate Experience)と顧客体験(Customer Experience)に連動性があることも見逃せません。
採用プロセスでの対応が雑だと、候補者は「この企業は顧客対応も同じように雑なのではないか」と懸念を抱く可能性があります。逆に、丁寧で迅速な採用体験を提供できれば、「顧客に対しても誠実に向き合う企業だ」という信頼感を醸成できます。
候補者は潜在的な顧客にもなり得るため、一貫性を持った魅力的な体験の提供が企業ブランド全体の価値向上に寄与するでしょう。
リピーター獲得と将来の採用力への影響
候補者体験が良いと、不採用でも将来再応募してくれる可能性があり、企業の長期的な採用力が向上します。
不採用になった候補者でも、選考プロセスで良い体験を得ていれば、「次の機会があればまた応募したい」と感じてもらえます。数年後、候補者がスキルや経験を積んで再び転職市場に出たときに、再度応募してくれる可能性があるでしょう(リピーター)。
リピーターは、企業のことをすでに理解しているため、ミスマッチが少なく、採用後の定着率も高い傾向があります。候補者体験を重視することで、将来の採用候補者のプールが広がり、長期的な採用力が向上するでしょう。
候補者体験を可視化する|離脱ポイントを特定する方法
候補者体験を改善するためには、まず現状を正確に把握する必要があります。離脱ポイントを特定するための3つの方法を紹介します。
採用プロセスの棚卸しとタッチポイントの洗い出し
候補者が企業と接するすべてのタッチポイントを洗い出し、各接点での候補者体験を把握しましょう。
タッチポイントとは、候補者が企業と接する接点のことです。たとえば、求人情報、応募フォーム、応募受付メール、選考案内メール、面接、選考結果通知、内定通知、入社前フォローなどがあります。
各タッチポイントで、候補者がどのような体験をしているかを具体的にリストアップします。たとえば、「応募フォームが長くて途中で離脱した」「面接日程の連絡が1週間以上かかった」「面接官が一方的に質問するだけだった」などです。タッチポイントを可視化することで、どこで候補者体験が悪化しているかを特定しやすくなります。
各段階での候補者の歩留まり率を測定する
応募から内定承諾までの各段階での歩留まり率を数値化し、ボトルネックを特定しましょう。
採用プロセスを「応募→書類選考→一次面接→二次面接→内定→承諾」といったステップに分解し、各段階での候補者の歩留まり状況を数値化します。歩留まり率とは、各フェーズに進んだ人数の割合のことを指し、高い方が良い指標です。
【歩留まり率の測定例】
| 選考段階 | 人数 | 計算式 | 歩留まり率 |
|---|---|---|---|
| 応募 | 120人 | - | - |
| 書類選考通過 | 40人 | 40人÷120人×100 | 33% |
| 一次面接参加 | 25人 | 25人÷40人×100 | 62% |
歩留まり率が特に低いステップが採用のボトルネックとなります。このように各段階の歩留まり率を「見える化」することで、感覚ではなくデータで課題を把握し、改善策を打てるようになります。
※関連記事: 歩留まりとは?採用における意味や歩留まり率の計算方法、低下要因について解説
候補者アンケート・ヒアリングで辞退理由の収集と分析を行う
選考終了後に候補者アンケートやヒアリングを実施し、候補者の率直な意見を収集しましょう。
具体的には、選考プロセスへの満足度や改善点を聞くとよいです。アンケート項目例としては、「選考プロセス全体の満足度」「各タッチポイント(応募、面接、連絡など)への満足度」「改善してほしい点」「他社と比較して良かった点・悪かった点」などが挙げられます。
候補者の率直な意見を収集することで、企業側が気づいていない課題を発見可能です。特に、選考を辞退した候補者や内定を辞退した候補者へのヒアリングは、改善のヒントが多く含まれています。
【フェーズ別】候補者体験を向上させる施策
候補者体験の改善は、応募から入社までの各フェーズで適切な施策を実施することが重要です。フェーズごとの具体的な施策を5つ紹介します。
認知・応募フェーズ|魅力的な情報発信と応募のしやすさ
認知・応募フェーズでは、候補者が企業に興味を持ち、応募しやすい環境を整えることが重要です。
求人情報は、仕事内容、求めるスキル、待遇、働き方などを具体的かつ分かりやすく記載し、候補者が入社後のイメージを持てるようにしましょう。応募フォームは、入力項目を最小限にし、スマートフォンからでも簡単に応募できるようにすることが大切です。長すぎるフォームは離脱の原因になります。
採用サイトやSNSで、社員インタビュー、職場の雰囲気、働き方などをリアルに発信し、候補者が企業の魅力を感じられるようにしましょう。応募後すぐに自動返信メールを送り、「応募を受け付けました」という安心感を与えることも効果的です。
選考フェーズ|スピーディーな対応とコミュニケーション
選考フェーズでは、候補者を待たせず、丁寧なコミュニケーションを心がけることが重要です。
書類選考の結果は1週間以内、面接後の結果は3日以内に連絡するなど、スピーディーな対応を心がけます。待たされる時間が長いほど、候補者の志望度は下がりやすくなるでしょう。選考の進捗状況を定期的に伝え、「現在選考中です」「来週中に結果をお伝えします」など、候補者を不安にさせないコミュニケーションを取ることが大切です。
面接日程の調整は、候補者の希望を最大限考慮し、柔軟に対応しましょう。企業の都合だけで日程を決めると、候補者は「自分を尊重してくれていない」と感じてしまいます。選考のスケジュールや流れを事前に明示し、候補者が見通しを持てるようにすることも重要です。
面接フェーズ|候補者が安心できる環境づくり
面接フェーズでは、候補者がリラックスし、本来の力を発揮できる環境を整えることが重要です。
面接前に、面接の流れや所要時間、面接官の役職などを事前に伝え、候補者が準備できるようにしましょう。間髪を入れずにいきなり、質問攻めにすると、候補者は委縮してしまうため、開始時にはアイスブレイクや雑談を挟み、候補者の緊張をほぐすことが効果的です。
また、面接は一方的な質問ではなく、双方向のコミュニケーションを心がけましょう。候補者からの逆質問にも丁寧に答え、自社への理解を深めてもらうことが大切です。終了時には次のステップや結果連絡の時期を明確に伝え、候補者が安心して待てる状況を作る姿勢が重要となります。
【候補者体験向上の3原則】
- 候補者への情報提供: 面接の流れや所要時間、面接官の役職や評価ポイントを先に伝える
- 双方向性の担保: 必ず候補者側からの質問時間を十分に確保し、質問にも丁寧に答える
- ネクストアクションの明確化: 面接終了時に、次のステップや結果連絡の時期を具体的に伝え、不安を解消する
内定フェーズ|志望度を高めるフォローと情報提供
内定フェーズでは、候補者の志望度を高め、入社の意思決定を後押しするフォローが重要です。
内定通知は、電話で直接伝えた後、メールや書面で正式に送りましょう。内定の喜びを伝え、候補者を歓迎する姿勢を示すことが大切です。内定後、候補者が入社を決めるために必要な情報(待遇、働き方、キャリアパス、配属先など)を丁寧に説明しましょう。
内定者面談や職場見学を実施し、候補者が入社後のイメージを具体的に持てるようにすることが効果的です。内定から入社までの期間、定期的に連絡を取り、候補者の不安や疑問に答えましょう。放置すると、候補者は「この企業に入社して、本当に良いのだろうか」と迷い、内定辞退のリスクが高まります。
入社フェーズ|オンボーディングで良い体験を継続する
入社フェーズでは、オンボーディングプログラムを通じて、候補者体験を入社後も継続させることが重要です。
候補者体験は入社で終わりではなく、入社後のオンボーディング(受け入れプロセス)まで含めて考えることが重要です。入社初日に、歓迎の雰囲気を演出し、新入社員が「この会社に入ってよかった」と感じられるようにしましょう。
入社後1週間、1か月、3か月といった節目で定期的に面談を実施し、新入社員の不安や悩みを聞き、フォローすることが大切です。良いオンボーディング体験により、新入社員の定着率が向上し、早期離職を防げます。
その他|不採用者に対する採用CXの改善
不採用となった候補者に対する対応は、採用された候補者以上に慎重性が求められます。不採用者をないがしろにせず、ポジティブな体験を提供することは、企業ブランドの毀損を防ぎ、将来のリピーターや潜在顧客を維持するために重要です。
不採用の通知は迅速かつ丁寧に行い、候補者から希望があれば個別フィードバックを提供することも効果的です。「〇〇のスキルを伸ばせば次の機会があります」といった建設的なアドバイスは、企業への好印象を残せます。
また、不採用通知において、年齢、性別、国籍などに関連する理由を伝えることは法律違反となる可能性があるため、ハラスメントや差別と受け取られる表現を避け、法的配慮を徹底しましょう。不採用者への丁寧な対応が、長期的な企業価値の向上につながるでしょう。
候補者体験を継続的に改善・推進する方法
候補者体験の改善は一度実施して終わりではなく、継続的に取り組むことが重要です。組織全体で推進するための3つの方法を紹介します。
面接官・採用担当者への採用CX教育と意識づけ
候補者体験の向上は人事だけでなく、面接官や現場社員など、組織全体で取り組む必要があります。
面接官向けのトレーニングを実施し、候補者体験の重要性や、候補者を尊重する面接の進め方を教育しましょう。現場社員にも候補者体験の重要性を伝え、候補者との接点がある場合(職場見学、リファラル採用など)は、候補者に良い印象を与えるよう協力を依頼することが大切です。
また、面接時のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を排除するための対策も重要です。性別、年齢、学歴、外見などによる先入観を持たず、候補者の能力や適性を公平に評価できるよう、面接官への教育を徹底しましょう。ハラスメントと捉えられかねないNG質問例の事前共有も不可欠です。
さらには、候補者体験を向上させた事例や成果を社内で共有し、組織全体で候補者体験を意識する文化を醸成しましょう。このように、組織全体が候補者体験を重視することで、一貫性のある候補者体験を提供できます。
※関連記事: 面接官によるタブーな質問12選!心がけるポイントやコツを解説!
定期モニタリングで改善点を特定する
候補者体験の改善施策を実施したあとは、選考辞退率、内定承諾率、候補者アンケートの満足度などのKPIをモニタリングします。改善前と改善後のデータを比較し、施策の効果を検証しましょう。効果が出ていない施策は、原因を分析して改善するか、中止することも検討します。
定期的(四半期ごとなど)に候補者アンケートを実施し、新たな課題が発生していないかを確認することが重要です。採用市場や候補者の価値観は変化するため、定期的に候補者体験を見直し、アップデートし続けましょう。
採用コンサルティングで体系的な改善を実現する
候補者体験の改善を体系的に進めたい場合は、「採用コンサルティング」の活用が有効です。
候補者体験の改善は、タッチポイントの洗い出し、課題の特定、施策の立案、実行、効果測定といった一連のプロセスが必要であり、自社だけで進めるのは難しい場合があります。採用コンサルティングを活用することで、候補者体験の現状分析から改善施策の設計、実行支援、効果測定までを体系的にサポートしてもらえます。
外部の専門家の視点により、自社では気づかなかった課題や改善のヒントを得ることが可能です。採用コンサルティングを通じて、候補者体験の改善を組織的に推進し、採用成果を高められるでしょう。
候補者体験の改善に取り組むなら「伴走支援型採用コンサルティング」がおすすめ
候補者体験(採用CX)は、求職者が企業を認知してから入社までのすべてのタッチポイントで得る体験のことであり、選考辞退率や内定承諾率、企業ブランド、将来の採用力に大きな影響を与えます。まずは現状を可視化し、改善すべきポイントを特定しましょう。
その後、認知・応募、選考、面接、内定、入社の各フェーズで適切な施策を実施します。面接官への教育、定期モニタリング、採用コンサルティングの活用により、継続的な改善を推進することで、候補者体験が向上し、採用成果が高まるでしょう。
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