労務管理において、従業員の実際の労働時間と、企業が記録している勤怠記録の乖離には細心の注意が必要です。 労働安全衛生法の改正によって、企業では従業員の労働時間の適正管理が義務付けられました。労働時間をただ記録するだけでなく、「客観的な記録」として管理し、保存することが求められています。それにともなって、PCのログイン・ログオフの記録の取得や、ICカードでの出退勤記録、勤怠管理システムの導入などを行った企業も多いでしょう。
しかし、従業員の実労働時間と勤怠記録に乖離が見られる状況は、今もなお存在しています。今回は、従業員の勤怠記録と実労働時間の乖離が起きてしまう理由や、PCログを活用した対処法、さらにはその違法性や注意点について詳しく解説します。
目次

労務リスクへの対策は出来ていますか?
「労務管理」の現場では、「労務リスク管理の省力化」が当たり前となりつつあります。
1.実労働時間の乖離が起きるのはなぜ?
実労働時間の乖離とは、従業員の実労働時間と、タイムカードや日報などで記録している勤務時間に差があることを指します。なぜ、勤怠記録と実労働時間の乖離が起きるのか、その原因について見ていきましょう。
1-1.タイムカードの不正打刻
他人にタイムレコーダーを打刻してもらったり、実際の労働時間と違う時間を日報に書き込んだりといった不正があれば、実労働時間との乖離が起きます。
残業による時間外手当を得るため、欠勤や遅刻などによる給与控除を避けるためなどで行われますが、中には意図的でなく誤りで、実際とは違う時間を記録してしまうことがあるかもしれません。たとえ不正や誤りであっても、こういった記録は労働時間の客観的な記録となりうるため、乖離が発生しないよう注意する必要があります。
1-2.社内文化
サービス残業を美徳とするような文化があれば、勤怠記録と実労働時間の乖離が生じます。
残業時間の上限規制を厳守するように指導されていても、業務量が多く残業せざるをえないという場合には、タイムカードを操作するなどして、従業員が隠れ残業やサービス残業(ステルス残業)を行ってしまうことがあるでしょう。
サービス残業については、下記の記事もご覧ください。
1-3.実態調査をしていない
厚生労働省は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を発表しています。その中で推奨されているのが実態調査です。
勤怠記録と実労働時間の乖離がある場合、企業(使用者)は、従業員(労働者)のヒアリングや入退室記録、警備システムのログイン履歴といった客観的な記録を使って、労働時間の補正を行わなければなりません。なぜ乖離が起きているのかを知らなければ対処もできず、乖離が起き続けることになります。
労働時間の把握については、下記の記事もご覧ください。
2.勤怠記録と労働時間の乖離は違法?
勤怠記録と実労働時間に乖離があっても、必ずしも法令違反になるわけではありません。法令違反となるのは、下記のようなケースです。
<実労働時間と勤怠記録に乖離があって法令違反になるケース>
・賃金不払残業が発生している
・労働時間の適正な把握を怠っている
・従業員の適正な自己申告を阻害する措置を行っている
※労働基準法第37条、労働安全衛生法第66条の8の3、労働安全衛生規則第52条の7の3より
企業が把握していなくても、従業員がタイムカードの打刻よりも長時間勤務していた場合、それが法定労働時間を超えていれば時間外手当が発生します。
賃金不払残業と見られれば、労働基準監督署の監督指導や、罰則が科される可能性があるでしょう。
また、労働時間の適正な把握は労働安全衛生法で義務付けられているため、実労働時間と勤怠記録に著しい乖離があれば、違反とされる可能性もあります。
「◯時間以上は残業の申請禁止」「残業の有無にかかわらず定時でタイムカードを打刻」などと企業が指導することも、もちろん法令違反となります。これらのリスクを避けるためにも、客観的な記録による労働時間管理の徹底が不可欠です。
3.勤怠記録と実労働時間の乖離が起きないようにするには?
勤怠記録と実労働時間の乖離は、法令違反になってしまう可能性があるだけでなく、従業員の健康管理や業務の振り分け、適正な人事評価などにも関わってきます。必ずしも意図的ではない可能性もあるため、防ぐには乖離が起きないような仕組みの整備も必要でしょう。
ここでは、勤怠記録と実労働時間の乖離が起きないための方法をご紹介します。
3-1.時間外労働の事前申告制を設ける
時間外労働の事前申告制は、早出や残業、休日出勤などの際に、事前にマネージャーの許可を得るというものです。事前に許可のある残業しか認められないため、勤怠記録と実労働時間の乖離が起きづらくなるでしょう。
緊急で許可を待たずに残業が必要になった場合でも、チャットやメールなどで証拠を残しておくことをおすすめします。
3-2.就業時間の定義を明確にする
労働時間を適正に把握するためには、何をもって労働時間とするかを定める必要があります。労働基準法での労働時間とは、就業規則や労働契約に関係なく、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。
オフィスへの出社・退社なのか、PCのオン・オフなのか、タイムカードの打刻時間とするのかなど、どういった状況が指揮命令下に置かれている状況を指すのか基準を定め、従業員と共有しておきましょう。
3-3.PCログを活用する
実労働時間の記録のために、PCログを利用することも、労働時間を適正に把握することにつながります。実際の稼働状況が把握できるため、タイムカードの打刻や自己申告の日報に頼らなくても、実労働時間が把握できます。
また、乖離が発生してしまった場合も、PCログを確認することで実態調査ができるだけでなく、日々の勤怠管理における客観的な裏付けとしても活用できます。PCログを勤怠管理の精度を大幅に高めることが可能です。
PCログの取得については、下記の記事もご覧ください。
4.労働時間管理にPCログを利用するメリットと注意点
PCログを取得することで、従業員の実労働時間が正確に把握できるメリットがあります。しかし、PCログを利用することで、注意しなければならない面もあるでしょう。
ここでは、労働時間管理にPCログを利用するメリットと注意点をご紹介します。
4-1.PCログを利用するメリット
PCログの利用は、実際に稼働している時間や作業内容を把握できるため、サービス残業や隠れ残業(ステルス残業)を防ぐ上で非常に有効です。「時間内に仕事が終えられなかった」「残業申請を行うのが面倒」といった理由で、隠れて残業を行うケースは意外と多いものです。タイムカードの不正打刻を防ぐことはもちろん、タイムカードを打刻し忘れた、誤って異なる時間を報告してしまったなどといったミスを防ぐことにもつながります。
特に、テレワーク環境下では、従業員の勤務状況が見えにくいため、PCログによる可視化は業務管理の透明性を高める上で大きなメリットとなります。PCログは、「見えにくい」テレワーク環境での業務実態を把握する上で不可欠なツールとなり得ます。
4-2.PCログを利用する注意点
PCログだけで勤怠管理を行うことは難しいです。必ずしも業務でPCを使うとは限りませんし、「出社後すぐに会議に出席したため、PCを起動するのが遅くなった」「終業後PCをシャットダウンせずに同僚と雑談をした」などという場合もあるでしょう。。PCを使用しない業務時間や、休憩時間などを正確に把握するためには、PCログはタイムカードや日報、勤怠管理システムなどと組み合わせて利用することをおすすめします。
個別のPCからPCログを取得する場合は担当者の手間が増えますし、ツールを利用する場合は、その分のコストがかかります。ツールによっては、タイムカードの記録とPCログを突き合わせる手間がかかるかもしれません。
また、PCログを取得することで、従業員が「監視されている」とストレスを感じる可能性がある点にも注意が必要です。取得するログの範囲や、なぜ取得するのか(従業員の健康管理や適正な労働時間管理のためなど)を明確に伝え、従業員に納得してもらうようにしてください。
PCログを利用して勤怠記録と実労働時間の乖離を防ごう
勤怠記録と実労働時間の乖離は、さまざまな理由で起こります。企業が従業員に残業時間を少なく申請させることはいけないことですが、中には従業員が隠れ残業やサービス残業を行っているケースもあるでしょう。
従業員の労働時間の把握は法律で義務付けられていますが、そうでなくても、従業員の健康管理や業務量の把握、適正な振り分けのために欠かせません。PCログも利用して、実労働時間と客観的な記録の乖離を防ぎ、企業のコンプライアンス遵守と従業員のエンゲージメント向上に繋げましょう。
「MITERAS仕事可視化」は、PCログから従業員の稼働状況を見える化でき、実労働時間の把握に役立てられます。従業員の労働時間管理にお悩みの場合は、ぜひお問い合わせください。
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監修:MITERAS部
「ホワイトなはたらき方を実現」する労務管理ツール【MITERAS仕事可視化】の担当者によるコラムです。MITERAS仕事可視化は、社員のPC利用の有無、アプリ使用状況などを可視化。勤怠データとPC稼働ログの突合で、法令遵守・はたらき方の見直しを推進できます。当コラムでは、理想の働き方改革実現のポイントから、日常業務の効率化のご提案まで、人事労務のためのお役立ち情報をご紹介します。