労働時間と休憩時間の法的定義を再確認
1-1. 「労働時間」とは?
労働基準法には「労働時間」の明確な定義は明示されていません。しかし、裁判例や行政解釈では、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指すとされています。これは、就業規則や労働契約の内容にかかわらず、客観的に判断されるべきものです。
この「指揮命令下にある」という状態は、単に上司から直接的な指示があった場合だけではありません。以下のような状況も「指揮命令下にある」と評価され、労働時間とみなされる可能性があります。
- 明示の指示:使用者が直接的に業務を命じた時間。
- 黙示の指示:明示的な指示がなくても、状況から見て従業員が業務を行うことを余儀なくされたり、業務を行うことを使用者が認識しながら黙認・是正しない場合。例えば、業務量が多すぎて定時内に終わらないようなケースも含まれます。
- 業務上不可欠な行為:業務遂行のために必要不可欠な準備行為(着替え、清掃、朝礼など)や、業務終了後の後片付けに要する時間も、使用者の指揮命令下にあれば労働時間となります。
1-2. 「休憩時間」とは?
労働基準法第34条では、労働者の心身の疲労回復を目的とした休憩時間について、以下の3つの原則を定めています。
- 途中付与の原則:休憩時間は、労働時間の「途中」に与えなければなりません。
- 一斉付与の原則:原則として、事業場の全従業員に「一斉に」与える必要があります。(ただし、労使協定を締結すれば適用除外も可能)
- 自由利用の原則:休憩時間中は、従業員が労働から完全に解放され、その時間を「自由に利用」できることが保障されなければなりません。
この「自由利用の原則」は、休憩中の業務を判断する上で最も重要なポイントです。休憩時間中に外出を禁止したり、上司が同席して業務の打ち合わせを行ったりすることは、この原則に反し、休憩時間とは認められない可能性が高いのです。
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「休憩時間中なのに、なぜ仕事をしてしまうのか?」その背景には、いくつかの要因が潜んでいます。
- 業務量の過多:最も根本的な原因の一つです。所定労働時間内では到底終わらないほどの業務量が与えられている場合、従業員は休憩を削ってでも仕事を片付けなければならないという意識が働きます。
- 強い責任感や意欲:顧客からの緊急連絡に対応したい、締め切りに間に合わせたい、といった強い責任感から、自ら進んで休憩を返上する従業員も少なくありません。
- 管理側の黙認:従業員が休憩中に業務を行っていることを上司が認識しながらも注意・是正しない場合、「やっても良い」と暗黙のうちに判断されてしまい、常態化します。
- リモートワーク環境:周囲の目がなくなり、休憩時間と業務時間の区別が曖昧になりやすい環境も一因です。PCを常に開いている状態だと、「少しだけ」と業務に取り掛かるハードルが下がります。
休憩中の「自主的な業務」はなぜ労働時間になるのか?
結論から言えば、従業員が「自主的に」業務を行ったとしても、それが実質的に使用者の指揮命令下にあったと判断されれば、労働時間として扱われます。この判断基準は、「手待ち時間」と「黙示の指示」の2つに大別できます。
3-1. 行政解釈に見る「指揮命令下」の判断基準
抽象的な「指揮命令下」という概念は、実際の行政指導においてどのように判断されるのでしょうか。
厚生労働省が策定した労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインでは、労働時間について「使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」と明記しています。
これは、「休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではない」と報告されていても、実際には使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間は労働時間として扱わなければならないという考え方を示しています。
このガイドラインからもわかるように、たとえ「休憩」と名付けていても、実態として労働からの解放が保障されていなければ、労働時間と判断される可能性が高いのです。
3-2. 「手待ち時間」に該当するケース
従業員が実際に作業に従事していなくても、使用者の指示があれば即座に業務を開始できる状態で待機している時間は「手待ち時間」とみなされ、労働時間として扱われます。
- 電話・来客対応の当番
- 緊急時の待機
- 顧客対応のための待機
3-3. 「黙示の指示」と判断されるケース
従業員が休憩中に自ら進んで業務を行ったとしても、それが会社の業務体制や管理者の認識から「黙認」されていたり、「事実上強制されていた」と評価されれば、使用者の「黙示の指示」があったものとして労働時間とみなされます。
- 放置された過重な業務
- 管理職の黙認
- 休憩中のミーティング
企業が直面する3つの重大リスク
休憩中の「自主的な業務」が労働時間とみなされた場合、企業は以下のような重大なリスクを負うことになります。
未払い残業代の発生
休憩中の業務が労働時間と判断されれば、その時間に対して賃金を支払う義務が生じます。もし、その結果として労働時間が法定労働時間を超える場合、割増賃金(残業代)も支払わなければなりません。未払い残業代が発生した場合、過去に遡って請求される可能性があり、多額の支払い義務や、未払い額と同額の付加金の支払いを命じられるリスクもあります。
労働基準法違反による罰則
労働基準法第34条に違反し、適切な休憩時間を与えなかった場合、企業は「6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金」という罰則を受ける可能性があります。従業員が自主的に休憩を返上していても、企業には休憩を与える義務があるため、この義務を果たさなければ法違反となります。
安全配慮義務違反
企業には、従業員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があります。休憩時間が十分に取れない状態が続くと、心身の疲労が蓄積し、過労による健康障害や労働災害のリスクが高まります。安全配慮義務違反が認められた場合、企業は損害賠償責任を問われ、企業の信頼性にも大きな影響を与えかねません。
企業が取るべき具体的な対策
これらのリスクを回避し、従業員が適切に休憩を取得できるよう、企業は積極的に対策を講じる必要があります。
就業規則・社内規定の明確化と周知
休憩時間の定義、付与方法、休憩中の行動に関するルール(原則として業務を行わないことなど)を就業規則や社内規定で明確に定め、従業員に周知徹底しましょう。
管理職への教育と意識改革
管理職が「自主的な業務」を黙認したり、業務を強制したりすることが、企業リスクにつながることを理解させるための教育を徹底しましょう。
業務量の適正化
休憩時間中に業務を行わざるを得ない状況は、多くの場合、業務量の過多や人員不足が根本原因です。従業員が休憩を十分に取得できるよう、業務量の見直しや効率化、適切な人員配置を行うことが不可欠です。
ツールを活用した休憩状況の可視化
勤怠打刻だけでは、休憩中にPCを操作していたという実態までは見えません。「勤怠システムで打刻はしていても、実は休憩中に仕事をしている」という実態は、ツールがなければ見逃されがちです。
ツールを活用することで、従業員のPCログから休憩中のPC利用状況を把握し、休憩が十分に取れていない従業員を早期に発見できます。その上で、適切な声かけや業務調整が可能になります。
安心して休憩できる環境作りが大切
休憩中の「自主的な業務」は、従業員の意欲の表れとして一見好意的に受け止められがちですが、法的には「労働時間」とみなされ、企業に大きなリスクをもたらす可能性があります。未払い残業代の発生、労働基準法違反による罰則、そして安全配慮義務違反による損害賠償など、その影響は広範囲に及びます。
企業は、勤怠打刻だけでなく、PCログなどの客観的なデータで従業員の勤務実態を把握することが重要です。「MITERAS仕事可視化」のようなツールを活用することで、正確な勤務実態を把握し、法的なリスクを低減できます。
従業員が心身ともに健康で、高いパフォーマンスを発揮できる環境を整備することは、企業の持続的な成長にもつながります。適切な労務管理を通じて、従業員が安心して働ける職場づくりを目指しましょう。
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