現場に根ざした実行力あるAX・DXコンサルティングとは
ーーーまずは小坂さんのご経歴について教えてください。
小坂:前職ではHR領域の営業・事業戦略に従事し、在籍中に企業規模を3倍程度まで拡大した経験があります。この経験をもとに、次はクライアント企業に向けて同様の知見を活かしたいという思いから、パーソルビジネスプロセスデザインへ入社しました。入社の決め手となったのは、当社が持つテクノロジー面でのケイパビリティ、多くの専門家が在籍していること、そして何より「パーソル」という大きな基盤がある点です。このアセットを活かし、トップダウン型ではなくボトムアップ型のコンサルティングができると考え、現在もその考えのもとで業務に取り組んでいます。
ーーー具体的はどのようなお仕事をされているのですか?
小坂:データサイエンス部門のマネジャーを務めています。部門には「データコンサルティング」「ゼロ化コンサルティング」「アナリティクスラボ」の3グループがあり、それぞれの専門領域を統括しています。データサイエンス部は、データ収集から基盤統合・可視化、AIモデル開発・活用までをワンストップで支援し、使いこなせていないデータも専門家が伴走して成果に結びつけ、幅広い業務課題にアプローチできる部門です。私の役割は、AIやデータサイエンスを活用しながら、業務プロセスのAX(アナリティクス・トランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するための全体設計から実行支援までを担うことです。
特に、生成AIやデータサイエンス、テクノロジーを活用した業務改善・業務設計に精通しており、実務に根差したボトムアップ型のアプローチを重視しています。単なるツール導入にとどまらず、現場で活用される仕組みとして定着させ、最終的にはビジネスインパクトを生み出すまでを一貫して設計・実行できる点が強みです。
人口減少時代、労働生産性を高めるために企業がすべきこと
ーーーなぜ今、企業はAI やDXに注力しているのでしょうか?
小坂:DX市場は、2020年から2030年にかけて約4倍に成長すると言われています。その背景にある最大の課題は、やはり労働力不足です。パーソル総合研究所の予測によると2035年には、日本全体で1日あたり1,775万時間、384万人相当の労働力が不足すると予測されています。これは2023年時点よりも1.85倍も深刻な状況です。たとえ2035年までに就業者数が増加基調にあるとはいえ、需要に対して供給が追いつかず、労働人口の減少が企業経営に与えるインパクトは、極めて深刻なものだといえます。
一方で、賃金水準は上昇傾向にあります。春闘でのベースアップや物価上昇の影響などを受け、毎年のように人件費は増えています。つまり、企業は、人が足りないうえに、コストが上がっていくという課題を抱えています。この状況下で企業が持続的に利益を確保するためには、一人当たりの労働生産性を上げるしか選択肢はありません。現在、国際的に見ても日本は労働生産性が低い国だと言われており、構造改革の余地の大きい企業がたくさんあります。
このような背景から、AI やDXといったテクノロジーの導入が急速に進んでいるのです。人にしかできない仕事に人のリソースを集中させ、その他の業務はできるだけ仕組みやツールに任せることで、少ない人数でも成果が出せる組織づくりが急務です。だからこそ今まさに、ビジネスプロセスデザインの視点が求められているのだと考えています。
生成AIが当たり前になる時代に、仕事はどう変わるのか
ーーー労働人口の減少という課題に対し、生成AIにはどのような可能性がありますか?
小坂:生成AIの進化を考えると、一般の人々にも活用しやすくなっていくと思っています。専門的な知識がなくても、自然に使えるような形で私たちの生活や仕事の中に溶け込んでいく。そのような未来がすぐそこまで来ています。今後は、生成AI技術の活用を前提としたビジネスプロセスが当たり前になっていくのではないでしょうか。企業活動の中で、生成AIを使うことが前提条件になっていくような時代が数年後に来ると考えています。
——業務内容にも大きな変化がありそうですね。
——業務内容にも大きな変化がありそうですね。
小坂:はい。企業のあり方も大きく変わっていきます。たとえば、生成AIの導入によって業務の自動化や効率化が進み、従業員はもっと創造的な業務に集中できるようになります。また、生成AIによる高度なデータ分析が進むことで、意思決定がこれまで以上に迅速かつ的確になります。さらに顧客一人ひとりにパーソナライズされたサービス提供も可能になると思われます。
生成AIがエージェントとして自律的に動き、ユーザーを支援するようになる未来も想定しています。今後は特定業務に特化した生成AIが次々と登場し、それぞれの仕事を根本から革新していくのではないでしょうか。加えて、生成AIがさまざまな業務アプリケーションに統合されることで、私たちが意識しないレベルで生成AIと共にはたらく社会になるのではないかと考えています。技術的にはすでに多くの要素が整いつつあり、社会や企業の受け入れ体制も急速に進んでいますので、私は2〜3年以内の変化だと見ています。
ーーー生成AIを活用することによる課題はありますか?
小坂:まずは、データセキュリティの課題があります。生成AIの活用が広がることで、扱うデータの量や種類も増え、情報の取り扱いがより厳密に問われるようになります。また、技術の倫理も重要です。AIが下す判断や行動が社会に与える影響について、私たちはこれまで以上に深く考えていく必要があります。そして、従業員のスキルアップ。AIを活用するには、新たなスキルやリテラシーが不可欠であり、社員一人ひとりの成長も求められる時代になると考えられます。
ゼロ化で見えてくる、未来のはたらきかた
ーーー今後、はたらきかたはどのように変わっていくとお考えですか?
小坂:これからのはたらきかたの本質的な変化は「人が何に時間を使うのか」「どこで力を発揮するのか」という問い直しにあると思っています。テクノロジーが進化し、AIが一定の業務を担うようになればなるほど、人間が担うべき役割は、より人間らしい仕事に集中していくことになるはずです。
実際、現在の企業活動を見てみると、たとえば営業職の方々が実際に顧客と向き合っている時間は全体の3割ほど。残りの7割は資料作成や社内調整など、付帯的な業務に費やされています。こうした仕事を削減し、人間が本来やるべき仕事に集中できるようにする。これが、私たちが提唱している「ゼロ化」の考え方です。
ーーー「ゼロ化」とはAIの活用により人の工数をゼロにする考え方だと伺いました。
AIが人の仕事を奪うということではないのですか?
小坂:ゼロ化とは、広範囲にわたるプロセスDXを推進していくという考え方です。単に業務を効率化するという話ではありません。プロセス全体を再設計し、どこに人が必要で、どこがAIやツールで代替できるのかを見極めて、仕事の意味や価値そのものを問い直す取り組みです。そのために私たちは、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)やビジネスプロセスデザインという考え方をベースに、最新のテクノロジーや各種ツールを組み合わせ、伴走型のコンサルティングを行っています。
多様な専門性で支える、実行力ある業務改革
ーーー実際に企業に対してどのような支援をされているのですか?
小坂:まず業務全体の可視化を行い、AIやテクノロジーを「何の目的で、どの業務に、どのように適用するのか」を明確にします。あわせて、人材育成や環境整備も含めて設計し、実装・定着まで支援します。現場に入り込んだうえでの圧倒的な顧客理解をもとに、パーソナライズされた現実的なプランを提供します。
個社の課題を丁寧に分解し、「業務設計」「人材育成」「組織の合意形成」「定着フェーズでの支援」といった多面的なアプローチで支援していきます。単に「課題を聞いて、解決策を提示する」のではなく、「なぜその課題が起きているのか」「その背景には何があるのか」を探りながら、本質的な解決に導いていくように心がけています。
弊社にはAIの専門家、データサイエンティスト、UXデザイナー、業務設計者など、さまざまな専門人材が所属しています。そして、顧客の業務に変革を起こすことをゴールに、専門人材が連携してプロジェクトに取り組みます。プロジェクトの多くは、コンサルタントとエンジニアがペアで動き、上流の戦略からツールの選定・実装・アプリ開発・研修設計まで、一貫して伴走する形で進めています。トップダウン型ではなく、現場課題に即した実行力ある支援が強みです。
ーーーどのような企業からの依頼が多いのですか?
小坂:私たちのサービスは、通信、医療、人材、IT、金融、公共領域など幅広い業界のお客様が対象で、主にDX推進を担う部門からの相談が多くあります。個社によって課題はさまざまですが、「新しい技術をどのように業務に実装すればよいか」「ビジネスインパクトをどう生み出すか」といった内容が中心です。
ーーー具体的にはどのような課題をお持ちなのでしょうか?
小坂:多くの企業が「AIやDXに投資したが活用できていない」という課題を抱えています。よく伺うのは、「ツールは導入したものの、現場で誰も使っていない」「データはあるのに活かしきれていない」「導入効果をどう測定していいか分からない」といった声です。
特に今は、長年の経験を持つベテラン社員の退職が進み、属人的なナレッジが失われつつある時期でもあります。本質的なDXとは、属人的なナレッジや経験をデータ化し、仕組みに変えることです。知見の喪失が進む中、対応を急ぐべきタイミングに来ていると感じています。
“はたらく”の可能性を拓く、AI時代の実装型支援
ーーー個社ごとに違う複雑な課題をどのようにして解決に導いているのでしょうか?
小坂:私たちが最も大切にしているのは「顧客理解」です。これは単に業務フローやIT環境を知るという意味ではなく、その企業がなぜ今その取り組みに挑んでいるのか、どういう背景で誰が関わっているのか、現場のモチベーションやリテラシーはどの程度なのかといった側面まで含めて深く理解することを意味します。支援の前提として、どこまでお客様を理解できるかが極めて重要だと考えています。
おっしゃるように、個社ごとに業務も体制も千差万別です。そのため、私たちは「型」を押し付けるのではなく、「再現性のある変化の設計」を心がけています。たとえば、ある部署で成果が出た方法を、別部署でも応用できるよう汎用化し、スモールスタートから段階的に全社展開していく設計です。一つの部署の変化を全社の学びに変えていくという拡張性と横展開の工夫も、私たちが大切にしているところです。
ーーー課題解決に至った事例があれば教えてください。
小坂:たとえば大手製薬会社では、AIを導入したものの現場で活用が進まず、「どう使えばいいか分からない」という課題がありました。私たちはまず、活用対象や施策を明確にする戦略立案から着手。業務選定や基礎研修、プロンプト作成支援を行い、社内コミュニティやフォロー体制も構築しました。その結果、活用率はゼロに近い状態から約40%まで向上し、部門ごとに最適な活用スタイルが定着しました。
また、ある政令指定都市ではAI環境は整っているものの、ツールの選定や運用が進まないという相談がありました。私たちは業務分析からアプリ開発、体制構築まで一貫支援。ナレッジとデータをAIに落とし込んだ結果、1時間かかっていた作業が10分+レビューで完了し、業務時間の50%以上削減につながりました。
ーーーAX・DXコンサルティングを通して、どのような未来を築きたいとお考えですか?
小坂:私たちは、コンサルティングというより「変化づくりの伴走者」だと思っています。どの現場にもその企業独自の文脈があるので、課題の本質にたどり着き、現場に合わせて解決策をつくりあげ、現実の業務の中で効果が上がるまで、徹底して支援していきます。その姿勢が信頼につながり、結果として多くのお客様が継続的にプロジェクトを任せてくださっているのだと感じています。
生成AIと共にはたらく未来にどう向き合っていくべきかと考えたとき、私は、私たちのサービスが「はたらく人の“可能性”を拓く事業」へと進化していく必要があると思っています。人とテクノロジーの関係性を、無理なく最適にデザインし、そのデザインを業務にしっかりと実装し、効果を出す。そうすることで、「顧客の仕事を変える仕事」を、私たちの価値として提供していきたいと考えています。