会計監査とは
会計監査とは、会計の専門家が、企業が作成した財務諸表の内容をチェックすることです。独立した外部機関からチェックを受けることで、「その企業の決算書が正しいかどうか」を客観的に評価するのです。
では、会計監査の「目的」や「対象企業」など、概要について確認していきましょう。
1-1. 目的
1-1. 目的
会計監査の目的は、前述したように企業が作成した財務諸表など会計書類の内容が正しいかを判断することです。
会計書類というのは、金融機関や投資家、取引先などが経営状況を確認するときに使われる重要な書類です。決算書を見て「融資を行うかどうか」などの判断をしますので、虚偽やミスがあってはなりません。
しかし、財務諸表は企業側が作成しますので、記載内容のすべてが真実とは限らないものです。たとえば、有利な資金調達を行うために利益を多めに捻出したり、節税するために利益を少なめに圧縮したりするなど、意図的に操作してしまう可能性があるのです。
ですので、財務諸表の信頼性を高めるためにも、企業と利害関係のない独立した機関によって監査報告書をまとめてもらい、会計書類の正当性を証明してもらう必要があるわけです。
1-2. 監査報告書とは
1-2. 監査報告書とは
先ほど「企業と利害関係のない独立した機関によって監査報告書をまとめてもらう」と書きましたが、改めて『監査報告書』について説明しましょう。
監査報告書とは、会計書類の公正性について会計監査人が言及した報告書のことです。監査報告書には、「監査意見」と「根拠」「重要な検討事項」「経営者責任」「監査人の責任」「利害関係」などが記載されています。
このうち、「監査意見」の種類としては、以下の4つがあります。
・無限定適正意見……会計書類は正しいと判断
・限定付適正意見……不適切事項はあるが重要部分は適正と判断
・不適正意見……会計書類は正しくないと判断
・意見不表明……十分な証拠がなく意見を表明できないと判断
つまり、企業は会計監査で「無限定適正意見」を受けるために必要書類を揃えて正しい内容を記載していくことが大きなポイントになるのです。
1-3. 会計監査の法的義務が発生する対象企業
1-3. 会計監査の法的義務が発生する対象企業
会計監査はすべての企業に義務があるわけではありません。
会計監査の法的義務が発生する対象企業は「法律」によって異なるのですが、以下の表に法律ごとに分けてまとめてみました。
法律 | 対象 | 内容 |
---|---|---|
金融商品取引法 | 50人以上を対象に、有価証券の取得を勧誘し、総額1億円以上の資金調達を実施した会社 | 財務諸表の適正に関する監査と同時に、内部統制に関する監査も行われる |
会社法 | ・資本金が5億円以上、または負債の合計額が200億円以上の大会社 ・監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社 ・会計監査人を任意に設置した企業 | 公認会計士または監査法人が、監査を担う |
上記2つ以外 | 例) ・国立大学法人法による国立大学法人の監査 ・労働組合法による労働組合監査など | - |
以上のどの法律であっても、「企業が作成した会計書類が正しいかどうかを判断する」という共通の目的で、監査は実施されます。
なお、法律で定められていない場合でも、任意の会計監査を受けることは可能です。例として「企業買収の際に会計監査を実施する」などが挙げられます。
1-4. 会計監査を実施する時期
1-4. 会計監査を実施する時期
会計監査を実施する時期も、法律によって異なります。金融商品取引法の監査の場合、会計監査人は少なくとも2ヶ月に1回以上、企業を訪問するのが一般的です。他の法律の場合は、年に3〜4回程度の訪問となりますが、大企業になるほど訪問回数が増加する傾向にあります。
上場企業の場合、株主総会で企業の財務状況や経営成績を株主に報告するため、それまでに財務監査を受けて「適正」と判断される必要があります。また、監査が終わるまでには膨大な時間がかかる恐れがありますので、株主総会に間に合うよう早めに準備することが重要です。
1-5. 会計監査を受けなかった場合の罰則
1-5. 会計監査を受けなかった場合の罰則
監査が義務付けられているにもかかわらず会計監査人から監査を受けなかった場合には、罰則として会社法に基づいて100万円以下の罰金が科される恐れがあります。
会計監査を実施せずに放置していると社会的な信用が損なわれ、企業の評判が落ちてしまうリスクもありますので、対象企業は必ず監査を受けなければなりません。
会計監査の種類
会計監査には種類があります。大きくは3種類があり、下表のとおり「内部監査」「外部監査」「監査役監査」の3つで『三様監査』と呼ばれています。
種類 | 監査担当 | 目的 |
---|---|---|
内部監査 | 企業の従業員 | 各部門の会計や業務を調査 |
会計監査人監査 | 公認会計士または監査法人 | 投資家や債権者など利害関係者の保護 |
監査役監査 | 企業の監査役 | 経営者の監督 |
これらの『三様監査』は、それぞれ監査担当や目的が異なります。続いては、『三様監査』の概要についてそれぞれ解説していきましょう。
2-1. 内部監査
2-1. 内部監査
内部監査では、対象企業の従業員が内部監査人として自主的に会計や業務状況を調査します。
具体的には、部門ごとにあらかじめ決められたルールを守っているか、業務が正しく遂行されているか、などを確認します。
2-3. 監査役監査
2-3. 監査役監査
監査役監査では、企業内部の監査役が「経営者の業務内容」や「取締役会の内容」に不審な点がないかを監査します。
なお、監査役には“公認会計士”のような資格は要りませんが、会社役員や財務会計部門の責任者などを経験した人が選ばれる傾向にあります。
2-3. 監査役監査
2-3. 監査役監査
監査役監査では、企業内部の監査役が「経営者の業務内容」や「取締役会の内容」に不審な点がないかを監査します。
なお、監査役には“公認会計士”のような資格は要りませんが、会社役員や財務会計部門の責任者などを経験した人が選ばれる傾向にあります。
会計監査の一般的な流れ
企業のお金の流れは簡単ではありませんので、会計監査はいきなり実施しようと思っても難しく、計画的に進めていく必要があります。
ここでは、会計監査の一般的な流れを紹介します。
(1)予備調査
監査の依頼があると、監査人はまず「公認会計士としての責任が果たせるか」をチェックします。これはつまり、監査を受ける会社が「監査に協力できる体制があるか」「監査に対応可能な内部統制が構築されているか」などを調べる、ということです。
(2)監査計画の立案
監査が実施できそうであれば、次に“監査計画”を立てます。「管理組織のレベル」や「内部統制の整備状況」「取引の実体」などを分析して、監査が重点的に必要な箇所などを分類していきます。
(3)監査手続の開始
立案した監査計画に基づいて、具体的な“監査手続”を進めていきます。通常は数人のチームで編成され、大企業の場合には数百人のケースもあります。「売上」や「仕入」「固定資産」「人件費」などの勘定科目ごとに担当者が決められていきます。
(4)監査意見の形成
決められた各担当者が調べ終えたら、「監査調書」にして現場の責任者に報告します。現場責任者はそれらの報告をまとめ、全体としての正しさを検討していきます。そして最終結果を監査責任者に報告し、監査責任者が監査チームとしての意見を形成します。
(5)審査
監査チームの結論を、別の公認会計士が客観的な視点でチェックします。上場企業を監査する場合には必ずこの「審査」の担当者が置かれます。審査担当者は監査意見を客観的に判断していきます。
(6)監査報告書の提出
審査担当者の同意が得られたら、「監査報告書」が作成されます。「監査報告書」は、監査責任者が自筆でサインをし、監査した企業の取締役会宛に提出されます。
次の項では、この一連の流れでどのような書類や項目がチェックされるかを解説していきます。
会計監査のチェック項目
会社法における会計監査の主なチェック項目として、9点を挙げて解説していきます。
チェック項目(1)貸借対照表と損益計算書の金額
「貸借対照表」と「損益計算書」に計上した金額と、「総勘定元帳」の残高が一致しているかをチェックします。貸借対照表と損益計算書は、キャッシュフロー計算書と合わせて『財務三表』と呼ばれています。上場企業において、この『財務三表』の内容について監査を受けることは、義務になっています。
チェック項目(2)売掛金・買掛金の残高
売掛金・買掛金の残高や内容を取引先の残高証明書と照合し、一致しているかをチェックします。未回収のまま放置された売掛金がないかなどについても確認されます。
チェック項目(3)現金・預金・借入金の残高
現金・預金・借入金の残高が一致しているかをチェックします。方法としては、金融機関などから取得した残高証明書や現金出納帳と照合して行われます。
チェック項目(4)経理処理状態と帳簿組織・システム
会計監査では、経理担当者が正しく処理状況を把握しているかどうかを口頭で確認されますので、経理担当者は事前に内容を理解しておく必要があります。また、帳簿の体系を表す「帳簿組織」と会計ソフトでの“システム間の連携”についてもチェックします。
チェック項目(5)伝票
正しい内容を記載した伝票が発行されているか、企業で決められた伝票の承認フローが守られているか、などをチェックします。
チェック項目(6)勘定科目
財務諸表に記載された「勘定科目」に不明点がないかをチェックします。「勘定科目」とは、取引で発生するお金の流れに対して、「何に使われたのか」を示す見出しのことです。固定資産や仕入など、勘定科目の金額が正しく記載されているかを調査します。
チェック項目(7)引当金
「引当金」もチェックの対象です。引当金とは、将来発生する可能性のある損失や費用の支出に備えて「準備しておく見積金額」のことをいいます。賞与のための「賞与引当金」、退職のための「退職給付引当金」といった引当金が正しく計上されているかを確認します。引当金は過大計上されることがありますので、会計監査の重要なチェック項目といえます。
チェック項目(8)固定資産の計上や除却処理
土地・家屋・設備といった「固定資産」の計上や、その固定資産を使用可能期間にわたって分割して費用計上する「減価償却」の計算方法についてチェックします。また、固定資産を今後使用しないのであれば「除却処理」が必要になりますが、その除却処理が正確に計上されているかどうかも確認します。
チェック項目(9)実地棚卸
商品や原材料などの「棚卸資産」がある場合、決算期末の棚卸資産の残高を確認します。そして、残高を確認するために実際に現物を点検・計量する手続きを「実地棚卸」といいます。会計検査では監査人が現場に同行し、この「実地棚卸」の状況を視察します。
会計監査で準備すべき書類リスト
会計監査で準備すべき書類リスト
会計監査を受けるには、下記のとおり経理部門で多くの書類を準備する必要があります。日々の業務の中で用意できる書類もありますので、日頃から意識して準備するようにしましょう。
・請求書・領収書・現金伝票などの証憑
・銀行の取引明細書・預金通帳
・現金出納帳
・賃貸契約書・ローン契約書など
・貸借対照表・損益計算書
・仕訳票
・棚卸表
・会計データ
・売掛金リスト
・買掛金・仕入先リスト
・会社の組織図
・株主総会・取締役会の議事録
・株主名簿
・社内稟議書
実際の監査の前に、会計監査人から必要な書類リストが提供される場合もありますので、確認しながら漏れがないよう準備しておくべきです。
また、経理部門では普段から正確に会計業務に取り組み、必要書類やデータを適切に管理するなど、業務品質を向上させておく必要もあるでしょう。
会計監査を受ける際の注意点
会計監査を受ける際の注意点
会計監査において、重要となるのが会計監査人に対応する「監査対応」です。そこで、監査対応における2つの注意点を解説します。
注意点(1)資料の内容を把握しておく
注意点(1)資料の内容を把握しておく
会計監査前に、経営者だけでなく経理担当者も準備した資料内容を把握しておくことが重要です。
会計監査人は、調査の一環で資料内容に関する質問をしてくるケースがあります。質問に答えられるよう、財務諸表の数値や各資料をすべて理解しておきましょう。
回答内容が十分でなければ、追加資料の作成を要求されることもあります。ですから、事前対策として「よくある質問」と「回答」を用意しておくと良いでしょう。
注意点(2)特に重要視される項目を押さえておく
注意点(2)特に重要視される項目を押さえておく
会計監査では特に重視されるチェック項目があります。具体的には、以下の項目に重点が置かれていますので確実に押さえておきましょう。
・貸借対照表・損益計算書
・現預金・借入金の残高
・売掛金・買掛金の残高
・勘定科目
・前期比較の数値
ただし、期中または期末といったタイミングによっては、チェック項目が異なるケースもあります。
期中では、「請求書」「見積書」「議事録」「試算表」「仕訳表」などの提出が求められる傾向にあります。さらに、発注と請求業務の内部調査を実施するために、従業員へのヒアリングが行われるケースも見られます。
期末で主に調査されるのは、「決算書」です。決算書の調査には「勘定項目の金額」や「預金と残高証明書の照合」なども含まれます。ただし、企業規模や状況によって異なりますので、会計監査人の指示に応じるようにしましょう。
会計監査の準備にはアウトソーシングが効果的
ここまで説明してきた通り、会計監査の準備には大きな労力が必要になります。ですので、会計監査に備えて、経理業務をアウトソーシングするのもひとつの方法です。
アウトソーシングをすると専門家に経理業務を委託できますので、業務品質の向上が期待できます。日々の業務品質を高めておくことで、会計監査の準備もスムーズになるでしょう。
品質を保つために、普段から「第三者の目」を入れておくことも重要です。また、アウトソーシングの導入時に業務を洗い出せば、ブラックボックス化を防止することもできるでしょう。
ブラックボックス化を防ぐことは業務効率化にもつながりますので、従業員は「会計監査への対応」などといった“コア業務”に専念できるようになっていくはずです。
経理のアウトソーシングならパーソルビジネスプロセスデザインへ
本記事で説明してきましたが、上場している大企業の場合、法律によって会計監査の実施が義務付けられています。
しかし、会計監査には多くの書類や準備が必要で、「定型作業に追われて会計監査の準備に取りかかれない」と悩む企業担当の方も多くいらっしゃるでしょう。そうした場合にはアウトソーシングを活用することで、会計監査などコア業務に取り組む時間を作り出せるのです。
私たちパーソルビジネスプロセスデザインでは、経理業務のアウトソーシングといったBPOサービスを提供しています。BPO専業として50年の実績があり、多くの企業様に対してミスの起きないフロー構築を支援しています。
経理業務で何かお困りのことがありましたら、下記のページをご確認のうえ、お気軽にお問い合わせくださいませ。